これは生徒さんが発した言葉です。
「この弾き方で、こんなに音が鳴るとは」
大人の生徒さんです。
小学1年生の終わり頃に引き継ぎ、現在社会人3年目。
下に弟さんがいて、同じ時に引き継ぎました。
2人とも無理矢理な弾き方をしていて、本人たちはいい加減に弾いているわけではなく、お母様に小さい頃から無理に難しい曲を弾かされてきたことにより、硬直した手になってしまっていました。
この手を直すのは大変だと思ったのと、先に進まなければ許されない状況でもあり、手を直すことはしませんでした。
2人とも男の子なので、ピアノを長く続けることもないだろうと思っていたのもあり、そのままにしました。今でしたらそのようなことはしないのですが・・
中学受験があり、塾通いも忙しかったので、手のことは完璧にノータッチでした。
大学生になり、やっと時間にゆとりが出来たので、言えること、出来そうなことはやろうと思い、少しずつ弾き方を直し始めました。
社会人になったらピアノは辞めるだろうと思っていたので、大学4年生の時に革命のエチュードにチャレンジしました。
予想に反して、社会人になってもピアノは続け、就職した1年目はちょうどコロナ禍でほとんどオンラインで仕事をするだけでしたが、2年目は残業の日々でピアノどころではなくなりました。ニーヤオートマタでつないだ1年でした。
それでもレッスンは辞めず、3年目になりまた余裕が出来たので、クラシックの曲に戻りました。
今年最初のレッスンで、鍵盤をただ下ろすことをしてみました。そのあと自分で片方の手で腕を下から支えて弾く練習をし、支えを取ってもそれを再現できるようにとやりました。
そうしましたら、「この弾き方でこんなに音が鳴るなんて」と。
良い耳をしています。
鳴る、というのは大きい音が出せるという意味ではなく、弱い音なのに音の広がり方がこれまでと違う、という意味です。
耳の良い生徒さんは皆、驚いたような顔でその場で感覚を忘れないように何度も弾いて確かめます。
この方法でこんなに変わるとは私も思っていなかったので、自分でも驚いています。
音ははっきりしているけれど、全く音楽が流れない生徒さんは、基本的に全ての音をアタックして鳴らしているので、そのような生徒さんにも鍵盤をただ下ろすことをしてもらうと改善できます。
腕の重さとか、深く弾くとかは実感できない人が少なくありません。しかし、鍵盤をただ下ろすだけというのは、ほとんどの人が分かります。
それでも、ただ下ろすことが分からない人はいます。
手の甲と手首の高さが真っ直ぐにならない人は、これがわかりにくいようです。腕の長さも関係している気がします。
25年位前に、イタリアに1年間留学していた楽器店の先生がいらしたのですが、その先生が1年間ずっとスケールをやらされていたと言っていました。鍵盤の下ろし方を習っていたと。
そのお話を聞いた時は意味を把握できておりませんでしたが、今はそういうことかと理解できます。
何も教えなくとも、鍵盤を下ろしている生徒さんというのはいるものです。
音が綺麗な生徒さんは大体そうなっています。
年齢は関係ありません。
鍵盤を下ろすなんてそんなこと常識でしょ、と思われている方もいらっしゃると思います。
鍵盤を下まで下ろして、は昔からよく言われている言葉です。
鍵盤は軽く触れようが叩こうが突こうが下に下がります。
どう下ろすかまで教えなければ、有害となってしまう可能性のある言葉です。