1979年生まれの若手歴史学者が書き、昨年話題になった本。
遅ればせながら読みましたが、知的刺激を大いに得ることができ、非常に面白い。
ここで「中国化」とは、今云われている「グローバル化」と同義。
経済的には、身分制や世襲制を廃した徹底的な自由、自己責任の競争社会。
政治的には、権力の独占と普遍的な理念に基づく統治。
それに対置される「江戸時代」的な社会とは。
農村モデルの静態的コミュニティを基盤にした、流動性の低さ。
権力の分散と相互牽制による分権的政治体制。
今年大河ドラマでやっている平氏政権、後醍醐天皇の建武の新政、明治維新など、日本の歴史においても「中国化」勢力が勃興することはあったが、その都度「反中国化」勢力が対抗して長続きしない。
特に長い長い江戸時代は、その後の日本社会の在り様を規定し、「中国化」の波が寄せる度に「再江戸化」の反動が巻き起こる。
現代においても、小泉ブームの勃興とそれへの反発、そして今また橋下ブームとまたまたそれに対する反発、と「中国化」「再江戸化」のせめぎ合いはエスカレートしている。
こういった史観は非常にイメージしやすく、すっきりと腹に落ちてきます。
個人的に興味深かったのは、双方の社会におけるセーフティネットの在り方の相違について。
「中国化」社会では、地域に関係の無い父系氏一族の繋がりがセーフティネットの役割を果たす。
一方で「江戸時代」社会ではご存じのとおり、地域・職域の中間共同体が福祉の役割を担う。
朝鮮併合時の創氏改名とは、同化政策というよりも「イエ」を単位とする日本的統治構造への組み入れという意義が強かったという話は目から鱗でありました。
本格的にグローバル化、「中国化」が進む世界において、「再江戸化」勢力が根強く存在する日本社会はどのような道を歩むべきか。
終章に著者の考えが述べられますが、このあたりはイマイチ歯切れがよくない。
著者が「中国化」支持派であることは明らかなようには思えるのですが…
それでも「江戸時代」的な心地よさを捨てきれないところは、同じ日本人として気持ちはよくわかります。
語り口があまりにバッサリと鮮やかなので、本当にここに書かれていることを鵜呑みにしてよいのか、逡巡するところもありますが、それは豊富に紹介されている引用文献に自らあたって自分の頭で考えてみよ、ということなのでしょう。
とにかく読み物として抜群に面白い。
著者は映画好きのようで、映画の引用も多く見られます。
そのあたりも個人的には共感と好感を抱いたところ。