満願 | |
米澤 穂信 | |
新潮社 |
米澤穂信の小説を読むのは初めてだったが、どうやらその筋ではかなり力を認められ、ファンも多い作家さんのようだ。
確かにそれも理解できる力量を感じた。
ここでいう力量とは構成力のことである。
自分の嫌いな伊坂幸太郎のような小手先の構成力ではなく、もっと骨太のものを感じる。
ただ、構成力が素晴らしい分、やや採点が厳しくなるというか、人物造型やサスペンスの描き方にもう一歩の物足りなさを覚える作品もあった。
以下、作品ごとの短評。
『夜警』
実は一番好み。
ベテラン警官と新人警官のキャラクタライゼーションに真実味があり、それが小説内での言動やもたらされる帰結と溶け合っている。
単に自分が職業小説好きだからかもしれんが。
『死人宿』
自殺者が多く出ることで有名な旅館を舞台に…とだけ聞けば陳腐だが、仲居になった元カノと主人公の価値観のすれ違いぶりの描き方がリアルで、悪くない。
ミステリとしてはやや浅い。
『柘榴』
好きな人は好きだろうが、自分にはイマイチ。
オチの方向性は早い段階で分かってしまった。
父親の人物像にもっと迫ってほしかった。
謎めかして書くには艶かしさが足りない。
女性読者へのウケはどうなんだろうね?
『万灯』
これも職業小説的。
というか映画的。
バングラデシュの資源開発に執念を燃やす商社マンが主役。
いきなり舞台が世界に広がり、アクション性も盛り込まれる。
気に入った。
『関守』
都市伝説を取材するライターが死亡事故の続出する峠のドライブインを訪れる。
一番一般ウケしそうだが、個人的にはイマイチ。
これも早い段階でオチが分かったし、オチに向かって逆算して書いている感がありあり。
形式として新しくない。
『満願』
かつて世話になった下宿先の美しい奥方が起こした殺人の弁護を引き受けた弁護士の回想。
ちょっと青春小説っぽい趣も。
どことなく聞いたことのあるような設定だが、オチには意外性あり。
が、意外性を補強するだけのリアリティには描き込みがやや足りないかな。
総じて読み応えはありました。