ブエノスアイレスに消えた (ハヤカワ・ポケット・ミステリ) | |
Gustavo Malajovich,宮崎 真紀 | |
早川書房 |
アルゼンチンの作家による、アルゼンチンを舞台にしたミステリ小説。
というだけで新鮮味があるが、衰えたるかつての世界先進国の首都であるブエノスアイレスの空気感が、小説に重厚な味わいを加えている。
そして、アルゼンチンって自然豊かな農業国でもあるんだよね。
その側面も、終盤に小説に広がりをもたらしている。
ミステリとしての出来も上々。
何より、時間の経過の描き方が巧い。
主人公の娘が失踪し、直後の混乱と喧騒が、まずひと塊りとして展開される。
その後の10年近い時の流れがあり、事件を取り巻く人々は変わっていく。
時間の経過に翻弄される、主人公自身の感情。
そしてそこに、別の一家の暗黒の歴史が覆いかぶさり、その大きな時の流れに事件は包摂されてゆく。
展開は悉く予想の上をゆき、散りばめられていた伏線がつながっていく高揚感。
唯一、偶然の鉢合わせが繰り返されるところにはややご都合主義を感じるものの、構成力もなかなかのもの。