![]() | 三の隣は五号室 |
長嶋 有 | |
中央公論新社 |
久々の長嶋有。
長嶋有は、たしか自分と同い歳なんだけど、やっぱりある程度長い時間を生きてくると、こういう小説を書いたり読んだりすることが心地よくなってくるんだよな、きっと。
主役は、郊外の古アパートの、奇妙な間取りの一室。
この間取りは、実際に著者が暮らしたことのある部屋をモデルにしているという。
1966年に建てられ2016年に取り壊されるまでの半世紀、計13組の住民たちがこの部屋で暮らした生活の断片を紡いでいく。
13組の住民たちの素性は様々だ。
単身者(学生、OL、単身赴任者から、裏稼業の逃亡者まで)が多いが、中には夫婦や家族もいる。
この部屋で生を受けたり、息を引き取った者もいる。
最後の方にはイラン人留学生まで出てくる。
だが、物語の主役は彼らではない。
彼らがこの部屋の変な間取りに戸惑いながらも、その生活環境と折り合っていく様。
部屋の一部に手を入れ、それが後の住民の生活にも影響を与えていく様。
物語はあくまで部屋を軸に展開される。
だから、時系列には進まず、時代を行ったり来たりする。
半世紀もの時間があれば、街の様子も、人々の生活習慣も、少しずつ変わっていく。
住民も入れ替わる。
が、アパートの一室だけはずっとそこにある。
そしてだんだんと老いていって、最期を迎える。
なんとフラットで、ニュートラルな眼差しなんだろう。
人の世の忙しなさに疲れたときに、読むべき小説。