中国の論理 - 歴史から解き明かす (中公新書) | |
岡本 隆司 | |
中央公論新社 |
世が「嫌中」一色となる中、中国研究者である著者は、自身も中国・中国人が好きか嫌いかと問われれば「嫌い」と答えると言う。
その一方で、こんなにおもしろくて興味をかき立てられる国はないとも言う。
そして、そのおもしろさの源泉を歴史からのアプローチで紐解いていく。
中国的な史書のあり方は「紀伝体」、人物本位で書いた歴史。
客観的事実ではなく、個人個人の事績でドグマを説明しようとする。
その根底には儒教的な思想がある。
そして、上下分離の社会構造。
かつての貴族制は、唐宋以降、科挙を土台にした官僚制へと変わる。
いずれにしても、「士」と「庶」の厳然たる峻別が社会構造を規定する。
さらに、独特の空間認識。
「天下」とは天子が治める範囲を指し、「華」と「夷」から成る。
19世紀に西洋列強の進出によって試練の時を迎え、20世紀の「革命」の時代を経て、21世紀の今、政治大国・経済大国として存在感を高めている中国。
だが、その根底を枠づける社会構造、論理枠組の本質は変わっていないという。
たとえば、人民の間の経済格差がとてつもなく大きいことは、士・庶隔絶の上下乖離構造を引きずっている。
また、理想やイデオロギーを考証・叙述の前提・目的としてしまう論理枠組みは、歴史認識の問題として顕在化する。
そして、南シナ海・尖閣・チベット…中国が数多く抱える領土問題は「華・夷」秩序の反映である。
こうして見ると、複雑怪奇で理解不能に思える彼の国も、その実、単純なのだなと思えてくる。