リーダーの基準 見えない経営の「あたりまえ 」 | |
清水 勝彦 | |
日経BP社 |
組織におけるリーダーの役割を掘り下げていく。
キーワードは「あたりまえ」。
わかっていて当然、言うまでもないようなことでも、実は人によって「あたりまえ」のレベルが異なっている。
「あたりまえ」だと思っているから思考停止に陥る。
そして、本当の「あたりまえ」を見落としてしまっているかもしれない。
豊富な引用を元に、ハッと思わされる事例が次から次へと展開され、読み物として面白い。
話題は多岐にわたるが、実は同じことを違う側面から語っているところが多く、相互に関連し合っている。
ポイントをまとめてみよう。
まず、合理性・正論では人を動かすことはできない。
言葉ではなく、その背景にある気持ち・感情・高揚感、言い換えれば「ビジョン」「価値観」が共有されなければ人は動かない。
そして、目的や価値観が受け手に理解されなければコミュニケーションは本当の意味で成立しない。
表層的なコミュニケーションにとどまり、正論と正論がぶつかりあって対話が成立していないのではないか?
組織のメンバーがお互いに関心を持ち、自分の弱さを曝け出し、反対意見を言っても聞いてもらえるという信頼感を抱いていなければ、よい組織にはなれない。
一般論に頼ったり、専門家の意見に任せたり、周囲に合わせたりしていれば楽。
だが、楽をした瞬間に潜在力は失われる。
一般論に逃げずに、自らをよく知ること、メンバーが何を思っているのか、兆しに気づく観察力がリーダーには求められる。
人が成長するのは、成功の味を経験すること、「面白い」「はまった」という経験を通じて。
そのような経験をするチャンスを与え、「失敗しても諦めない自信」をメンバーに育むことこそリーダーがやるべきこと。
リーダー自信に「やりたい」という気持ちが根本になければならない。
責任体制や報酬体系などの制度の整備を、「やりたい」気持ちがないことの体のいい隠れ蓑にしてしまってはいないか?
先日、日本を代表する総合商社の副社長を務めた人物の講演を聴く機会があったのだが、この本で語られている内容と重なるところも多かった。
本書の中で宮崎駿の口癖が紹介されている。
「大事なことって、だいたい面倒くさい」
ビジョンや価値観をメンバーに響くまで伝え続け、価値観の異なるメンバーとも対話を通じてその違いを克服し、メンバーをよく観察し、成功を味わえるようなチャンスを与える。
一般論・正論に頼らずに地道な取り組みをやり続ける。
確かに「面倒くさい」。
が、リーダーとはそういうものなのだろう。