そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

『世界の一流企業は「ゲーム理論」で決めている』 デビッド・マクアダムス

2018-09-23 23:37:57 | Books
世界の一流企業は「ゲーム理論」で決めている――ビジネスパーソンのための戦略思考の教科書
デビッド・マクアダムス
ダイヤモンド社


Kindle版にて読了。

ビジネス戦略、公共政策、外交政策、スポーツ、家庭生活…ゲーム理論は、様々な領域においてパワフルかつポジティブな変容を促す力となる。
そのことについての喜ばしい気づきを広げること本書執筆の最大の狙いである、と著者は言う。
参戦しているゲームで勝つだけではなく、ゲームチェンジを仕掛け、戦略をとりまく生態系を変革し、自身の、そして私たち全体の人生をよりよく変えていく、そうしたポジティブな効果を最大化するべく、ゲーム理論を活かす能力と武器を身につけてほしい、と。
そして、関係する相手の真のモチベーションを理解するゲーム認識力があれば、隠れたプレイヤー、隠れた選択肢、隠れた連鎖関係を先読みできないせいで陥る落とし穴や、演じなくていいはずの失態も回避することができる、と。

一口に「ゲーム理論」といっても様々だが、ここでは代表的な「囚人のジレンマ」に焦点が当てられる。
囚人のジレンマの回避策として、次のような「ツール」が解説される。

・規制
規制を導入し、プレイヤーの利得を変えること。
規制なしのときとは異なる判断をするインセンティブをプレイヤーに与える。
罰則や報酬など。


・カルテル化
カルテルといえば市場競争の観点からは排除すべきものだが、あるプレイヤー同士が協力関係を結ぶことによって集団が安定し、その安定に価値がある場合、または、共同行為によって得られる利益が、それによって生じる損害を上回る場合などには、社会福祉の面からいって望ましいケースもある。
例えば、電力会社の地域独占などは、これに該当するか。


・報復
核兵器による「相互確証破壊」を考えると解りやすい。
が、「攻撃されれば核兵器で報復する」という相互確証破壊における双方の脅しの効力と信憑性は、
(1)「正気である 」という前提:双方とも核攻撃を受けるのは避けたいに違いない
(2)「報復する力がある」という前提:双方とも先制攻撃を受けたあとに敵を破壊することが可能であるに違いない
(3)「報復するインセンティブがある 」という前提:双方とも先制攻撃を受けたら敵を破壊する意志があるに違いない
という3つの前提に支えられており、一般に思われているよりも脆いものだと。


・約束
相手方に、評判を失いたくないというインセンティブがあるということがわかっているのならば、相手が裏切ることはないという信頼関係が構築される。
なお、片方のプレーヤーにのみ、裏切らないというコミットに信憑性があれば信頼関係は構築できる。
片方がいつも誠実であるとわかっていれば 、相手は約束が守られると信じ、取引をしてくれる。


・関係性
継続的な繰り返しの関係性があれば、裏切らない、評判を維持することへのインセンティブが生じる。
どんな取引関係であっても、「この顧客、またはこのサプライヤ ーと、今後もビジネスをしなければならないと信じている」ことが、互いを結びつける糊となる。

ここで、有効な戦略として、しっぺ返しの戦略(しっぺ返し”Tit For Tat" の頭文字をとって、TFT戦略と呼ばれる)が紹介される。
TFT戦略は、2つの単純なルールで構成される。
(1)ラウンド1では協力を選ぶ。
(2)ラウンド2からは応報する。つまり、相手のプレイヤーが前ラウンドでやったことをそのままやり返す。
第1のポイントは「すぐさま信頼すること」。ラウンド1で必ず協力するというのがそれに当たる。
長期的に得られる益のほうが、一度裏切られて短期的に負う痛みを上回っている限り、相手を好意的に解釈してやる ——少なくとも1回は ——のが賢明。
第2のポイントは「すぐさま罰すること」。相手が裏切りを選んできたら、次のラウンドで必ず裏切りを選び返す。
「こんなふうに必ず罰するぞ」と脅すことで、相手には協力するインセンティブができる。
最後の第3のポイントは 「すぐさま許すこと」。相手がたった1回でも協力に戻ったら、それ以上の「つぐない 」を求めず、こちらも協力に戻る。
反対の「根に持つ」戦略は、協力関係の回復と立て直しの可能性を閉ざすことになることから、むしろ自分の足を引っ張る結果となる。
相手によい行動のインセンティブをもたせるためには、相手が先に裏切ったことで享受した得をほんの少し上回る痛みを与えられれば、それで充分。
相手に「裏切り者は決して得をしない」と教えつつ、相手がその教訓を学んだら許しを与えるのである、と。


事例も豊富に紹介され、読んでいて、なるほどと思わされるが、これをビジネスなどの実践に生かすとなるとなかなか難しい気がする。
重要なのは、自身の利得を最大化することに固執するのではなく、全体最適を実現して皆共倒れするのを未然に防ぐ、という視点だろう。
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