それまでの明日 | |
原 りょう | |
早川書房 |
ハードボイルドというジャンルには個人的にあまり思い入れはない。
若い頃に逢坂剛の小説を読んだり、映画ではレイモンド・チャンドラー原作でフィリップ・マーロウが主人公の『ロング・グッドバイ』を観たくらい。
著者は、そのチャンドラーの信奉者で、探偵・沢崎を主人公にした長編5作目だが、前作からはなんと14年ぶりの新作とのこと。
その空白の14年の間に、時代はすっかり変わってしまい、この2010年代の日本を舞台にどのようにハードボイルド探偵小説を成立させるのか、非常に興味があった。
今どき珍しい重厚感は読み応え十分だったが、その分アナクロな世間との乖離感は否めない。
煙草と電話、著者も主人公も固執する、その2つのアイテムが生み出す違和感が凄まじい。
残念ながら、ハードボイルド探偵小説も、あと10年経ったら完全に絶滅種だろう。
著者は先の筋書きを決めずに、キャラクタの言動に任せて筆を進める手法をとっているそうだが、その迷走が生む臨場感が1つの魅力。
潰れたラーメン屋を捜索する場面など手に汗握る。
その割に御都合主義っぽいところも散見されるのがちょっと残念だが。