ヒロヒコの "My Treasure Box"

宅録、DAW、ギター、プログレ、ビートルズ、映画音楽など趣味の四方山話

エラリー・クイーンの国名シリーズ新訳

2013年04月24日 | ミステリー小説
 かの有名なエラリー・クイーンの国名シリーズ、文庫での新版が刊行されている。最初に目にしたのが、「エジプト十字架の謎」(創元推理文庫)で3年ほど前のこと。それは従来どおりの井上勇氏翻訳ものだが、新版ということで字体が大きくなった。私にとってこの字の大きさが目下とても重要なのである。この作品は以前紹介したあかね書房発行の少年少女世界推理文学全集の一冊として小学生の頃読み、エラリー・クイーンの名を初めて知った思い出深い小説である。

 国名シリーズは、第1作の「ローマ帽子の謎」がクイーンのデビュー作となり、その後次々と刊行された。手元の東京創元社解説目録によると、「1 ローマ帽子の謎 2 フランス白粉の謎 3 オランダ靴の謎 4 ギリシャ棺の謎 5 エジプト十字架の謎 6 アメリカ銃の謎 7 シャム双子の謎 8 チャイナ橙の謎 9 スペイン岬の謎 10 ニッポン樫鳥の謎」の10冊がタイトルされている。(ただしニッポン樫鳥…は日本独自の題名で、本来は国名シリーズではない。)確か、中学生の頃全てを読んだはずなのだが記憶が定かでない。もしかしたら、フランス白粉…は未読かもしれない。そんな状況でも、4の「ギリシャ棺の謎」がとても面白かったことは覚えている。かなり長い作品ではあったのだが、犯人の名前も記憶にあるくらい印象深い。そして現在、「ローマ帽子の謎」が新訳版で出版されている。そこで、今回話題にしたいのは、この新訳版についてである。

 最近、ミステリーの古典的名作が新たに翻訳されている。実はこのクイーンの国名シリーズも、角川文庫より昨年(24年)10月から新訳版が刊行されている。その皮切りが「ローマ帽子の秘密」である。原題をThe Roman Hat Mysteryというのだが、こちらはmysteryの訳を「秘密」としている。そして今流行?のコミック的な登場人物のイラストを表紙に載せており、エラリーの顔が描かれている本作品は店頭では今までの国名シリーズのイメージとはかなり違って見えるのではないかと思う。

 後書きで飯城勇三氏が、「今回の翻訳は私が知る限りでは最高の訳文である」と断言している。その理由は、クイーンは毎回「読者への挑戦」という趣向を設けているのだが、前版より読者が犯人を当てるための材料がわかりやすく記載されている、つまりよりフェアになったということのようだ。確かに例として引用されている部分の従来の訳は直訳的でわかりづらく、犯人捜しに生かすのはなかなか難しいと思われるのだが、新訳では我々日本人にもその辺がわかるように(と言ってもよほど注意深く読んでなければならないが)工夫されているのである。このシリーズは「刊行開始」と帯に表記されているので、おそらく今後他の作品も新訳で出版されるのだろう。現在はフランス白粉…を経て「オランダ靴の秘密」まで刊行されている。

 そして、ほぼ同じ時期に創元推理文庫からもこの国名シリーズの新訳(中村有希・訳)が出版されたのである。カバーのデザインは一新され、鍵のイラストが入っているなどミステリーの趣がありなかなか良い。ローマ帽子とフランス白粉が出て、今年第3作のオランダが刊行予定とアナウンスされている。

 両者の翻訳上の違いとしてまず気がつくのは、クイーン警視と息子エラリーの会話において、創元版は従来どおりエラリーは丁寧な話し方だが、角川版は今風に言うとタメ口言葉である。後者を最初読んだ時にはかなり違和感を感じたが、親子の会話なら実際そうなるだろうと思いながら読むと馴染んでしまった。(日本語の方が多彩な表現を示すという一例だ。英語は日本語ほど丁寧表現が多くはないし、男言葉と女言葉の表現があるのも同様。当然訳者の判断で翻訳も大きく変わることだろう。)

 最近文庫本を買う時に、活字が大きく印刷されているかどうかが一つの判断材料となっている私だが、今手元にあるディクスン・カーの名作「火刑法廷」ハヤカワ文庫版は他の出版社のものよりも7~8ミリ縦長の作りとなっていて、それだけでも読みやすさを感じる。そしてこれも新訳版である。カーの怪奇趣味もまた好きなのであるが、やはり創元推理文庫から新訳がいくつか出ている。それはまた別の機会に。

 結局クイーンは角川版と創元推理版とどちらが良いのか。実は創元版はこれからじっくり楽しむところなのである。悪しからず。


コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。