上砂理佳のうぐいす日記

3月31日(月)から4月6日(日)まで銀座中央ギャラリーの「10×10版画展」に銅版画小品を出品します★

表現と心

2008-05-18 | アート・音楽・映画・本・舞台・ドラマ
↑サーモンのキッシュとチーズ&ジャムのパイ。
冷凍パイシートで作ってみました。イケます!^^

★★★★★
WFSの大先輩にあたる新書館の「ダンスマガジン」を、かれこれ創刊2号から読んでいますが、評論やインタビューは、WFSより相当深いです。「舞踊哲学」「芸術論」と言っていい。舞台レポも作品解説も詳しく写真も美しい。これ程充実した舞踊誌は海外にも無いんじゃないかと思う。
随分前の号ですが、牧阿佐美バレエ団の芸術監督、牧阿佐美さんと舞踊評論家の三浦雅士さんの対談がありました。
最近はバレエブームで、子供を教室に通わせるお母さんが増えたけど、「何か違う」と感じる事が多いとか。

「お母さん方は、自分の子供が発表会で上手に踊れなかったとか、ヨソの子に比べて上達が遅い、とか。そんなことばかりを気にしてらっしゃいます。
 バレエというと“回ったり跳んだりはねたり”そこばかり見がち。でも大事な事はそこではないんです。
 例えばトゥシューズでも、新しいものを次々と親に買ってもらえる子もいれば、一足を大事に大事にクタクタになるまで履き続ける子もいます。
 新しいシューズを買ってもらって当然だと思う子は、古いシューズをを履き続ける子の気持ちは解らない。自分の不平不満ばかり言って、気に入らない事があるとすぐ泣き出します。
 古いシューズで我慢し続ける子は、“人の心の痛み”みたいなものが、ある程度わかるようになるんです。“心の育ち方”が違ってくるんですね」
「それは、舞台人として必要なことなんですね」
「そうです。たとえばバレエにとって、音楽は重要な要素ですが、高校生ぐらいになるとピアノの生演奏で練習するようになる。ところが、その演奏を単なる“カウント”としてしか捉えてない子がいる。“あ、今、間違えたな”とか。
 練習の際の演奏でも、そこはプロとプロ。ピアノとダンサーの呼吸のかけ合いなんです。ピアニストの気持ちと自分の心を重ねなくては、本番の舞台でも何も伝えることは出来ない」
「それは、舞台で若いダンサーを見ていてお解りになりますか」
「もう、ひと目で解ります。舞台に立つ人・中央に立つ人は、心が最も重要なんです。バイオリンやピアノでもそうですが…バイオリンは“名器”なら、ある程度までは音が出ますよね。
 でも、舞踊となるともうごまかしがきかない。バレエは身体が楽器ですから。心が腐ってると身体も腐ってくるんです。そんな人は、人の心を打つような踊りは出来ません」

…だいたいこんな内容でしたが、強く印象に残ったので、今も時々読み返しています。
牧阿佐美バレエ団は日本のトップバレエ団の一つで、東京バレエ団に移籍した上野水香さんや、映画でも御馴染みの草刈民代さん…等々、昔から有能なバレリーナを輩出しています。

人の心の痛みが解らない・気付かない人に、「人を感動させる演技」は出来ない。
平気で踏みにじる人は、今後どんな芸術を生み出すのか。生み出せるのだろうか。
私は最初、大ちゃんのスケートを見て「ああ、素敵だな~」という感慨だけで、そのバックグラウンドまでは知らなかった。どちらかというと、「倉敷のおぼっちゃん」なのかな?と思っていた。大きな旧家の一人息子で「次々と新しいシューズを買ってもらえる」方なのかな、と。
その後色々と解ってくるにつれて、そのイメージは覆された。
そして、「多分この人は“他人の心の痛み”をも、敏感に感じ取る人なのだろう」と思うようになった。
ラフマニノフのあの哀しい琴線に触れるような表現などは、「ここで回って~ここで跳んで~」タイプの人では、到底達する事が出来ない。
自分の内部で、繊細な感情の層が幾重にも折り重なっているような人でないと、絶対にああいうスケートは滑れない。そう思うのだった。

他人の痛みに敏感ということは、自分自身の痛みにも敏感なので、それは「弱さ」にもつながりやすい。鈍感なぐらいの人の方が、勝負事には向いているのかもしれない。
でも、「いつも良く跳んで良く回るけど、何も感動するものが無い」人と、「出来不出来の波はあるが、人の心を打つ“何か”を持っている」人ならば、当然私は後者の方を好む。
美術でも同じだ。
「テクニックだけ」の人、と「この人、なんか下手なんだけど、すごい!すごいなあ!?」という人と(勿論、テクニックが凄くてなおかつ感動する絵も多々ある)。
「表現するものには、“その人そのもの”が出る」
と良く言われるけれど、スケートの熱心なファンは敏感だ。
心が腐ってるか腐ってないか、それが如実に解るとしたら、「表現」の仕事とは、なんと恐ろしいことか。

08-09シーズン、選手たちの新しい演技を見るとき、私は今まで以上に敏感に「何か」を感じ取るのだろうと思います。
★★★★★
少し、加筆しました。
コメント (14)
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