最高裁判所裁判官の暴走を許さない

最高裁判所裁判官の国民審査は、衆議院選挙の時の「ついでに」ならないようにしましょう。辞めさせるのは国民の権利です。

司法書士の手続きにミスでも訴えたのは依頼人ではないので賠償責任なし

2020-03-16 17:35:33 | 日記
平成31(受)6  損害賠償請求事件
令和2年3月6日  最高裁判所第二小法廷  判決  破棄差戻  東京高等裁判所
不動産の所有権移転登記の申請の委任を受けた司法書士に当該申請の委任者以外の者との関係において注意義務違反があるとした原審の判断に違法があるとされた事例

裁判所の事実認定から見ていきます。
その所有名義人であるAを売主,合同会社オンライフを買主とする売買契約・・・第一契約
オンライフを売主,被上告人を買主とする売買契約・・・第二契約
株式会社アルデプロを買主とする売買契約・・・第三契約
オンライフから中間省略登記の方法によるアルデプロへの所有権移転登記の申請が同時にされたが,前件申請について申請の権限を有しない者による申請であることが判明した後,後件申請は取り下げられた。


転売がすぐになされたので、登記に無駄なコストがかかるから中間を飛ばして最終の買主に名義を移しましょうとしたところ、オンライフが申請の権限を持っていなかったので申請を引っ込めたようです。その原因は司法書士がちゃんと調べていれば問題は起きなかったはずだとして、アルデプロが司法書士を訴えたようです。

イ Bは,弁護士であるCが設けた法律事務所の事務員である。
ウ 本件不動産の登記簿上の所有名義人は,平成27年8月当時,外国籍のAであり,Dは,Aの代理人を装っていた者である。

嫌な臭いがしますね。弁護士事務所に何年も勤務していると、実務的な知識を身に着けるのはいいのですが、実質的に書類を作ったり交渉をやってしまう事務所が少なからずあります。

(2)ア Aからオンライフに対し売り渡した上で(第1売買契約),オンライフから被上告人に対し代金6億5000万円で売り渡し(第2売買契約),更に被上告人からアルデプロに対し代金6億8100万円で売り渡すものとし(第3売買契約),これらに係る契約書の調印及び代金決済を同年9月10日に行うことを合意した。不動産仲介業を営む株式会社アーガスは,被上告人から依頼を受け,報酬等を3100万円として第2売買契約の仲介をすることとなった。
イ オンライフ,被上告人及びアルデプロは,第2売買契約及び第3売買契約に係る所有権の移転については中間省略登記の方法によりオンライフからアルデプロに対する所有権移転登記(後件登記)を行う旨を合意した。なお,前件申請については,C弁護士がその委任を受けるものとされており,
ウ 上告人は,その後,オンライフ及びアルデプロから報酬を約13万円として後件申請の委任を受けた。上告人は,上記委任を受けた際には,前件申請がその申請人となるべき者による申請であるか否かについての調査等をする具体的指示を受けなかった。
(3)ア アルデプロの担当者,上告人,被上告人の代表者,アーガスの代表者,B,Aと称する者及びDは,平成27年9月7日午後2時,本件法律事務所において,前件申請及び後件申請に用いるべき書面の確認等が予定されている会合(以下「本件会合」という。)に出席した。上告人は,アルデプロから依頼を受けて本件会合に出席したものであり,C弁護士は本件会合に出席していなかった。
イ 本件法律事務所において別件印鑑証明書及び本件印鑑証明書のコピーを取ったところ,そのいずれにおいても「複製」の文字を確認することができなかった。そのため,Dが上記代金決済の日までに新たな印鑑証明書を持参するなどと述べ,他の出席者らはこれに対し異議を述べなかった。
ウ A名義のC弁護士に対する前件申請の委任状であってAが公証人の面前でこれに署名押印し公証人において旅券及び印鑑証明
書の提出により人違いでないことを証明させた旨の公証人の認証が付されたもの,C弁護士において本件法律事務所の会議室でAと面談したこと及びAが前件申請の権限を有する登記名義人であると認めた理由等を明らかにした旨の書面等を示され,これらの書面相互の整合性を形式的に点検するなどの確認をしたが,特段の指摘をしなかった。
エ Bは,平成27年9月8日,東京法務局渋谷出張所において,本件不動産について不正登記防止申出がないことを確認した。
(4) 契約書の調印等を行い,前件申請及び後件申請に用いるべき書面を確認した。上記書面の中には本件印鑑証明書が含まれていたが,同日,被上告人及びアルデプロは,この点を改めて指摘することなく,第2売買契約及び第3売買契約について代金決済をした。
(5) 上告人は,その後,上記出張所から,本件印鑑証明書が偽造であることが判明したこと等の説明を受け,平成27年10月16日,後件申請を取り下げた。前件申請は,同年11月17日付けで,申請の権限を有しない者による申請であるとして却下された。


地面師?にやられちゃった?弁護士は会話の中では見抜けなかったようです。

3 原審は,上記事実関係等の下において,次のとおり判断して,被上告人の請求を,上告人に対し3億2400万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容した。
司法書士はそういった手続ききちんと注意してみるプロとしての義務があるんだから、印鑑証明偽造を見抜きなさいよという判断だったようです。

最高裁はこれに待ったをかけました。
(1) 司法書士法は,登記等に関する手続の適正かつ円滑な実施に資することにより国民の権利の保護に寄与することを目的として(1条),登記等に関する手続の代理を業とする者として司法書士に登記等に関する業務を原則として独占させるとともに(3条1項,73条1項),司法書士に対し,当該業務に関する法令及び実務に精通して,公正かつ誠実に業務を行わなければならないものとし(2条),登記等に関する手続の専門家として公益的な責務を負わせている。・・・当該登記申請がその申請人となるべき者以外の者による申請であること等を疑うべき相当な事由が存在する場合には,上記事由についての注意喚起を始めとする適切な措置をとるべき義務を負うことがあるものと解される。
ちゃんと調べて、これはおかしいですよと指摘するか辞任して取引を止める義務があると言っています。その上で、

委任者の不動産取引に関する知識や経験の程度,当該登記申請に係る取引への他の資格者代理人や不動産仲介業者等の関与の有無及び態様,上記事由に係る疑いの程度,これらの者の上記事由に関する認識の程度や言動等の諸般の事情を総合考慮して判断するのが相当である。
これまでの会合でのやりとりやら書類にコピーの跡が見られなかったことから、司法書士が判断するのは難しいのでは?と疑問を投げかけています。

(2) これを本件についてみると,前記事実関係等によれば,被上告人は,上告人と委任契約は締結しておらず,
この点は決定的ですね。

不動産仲介業者であるアーガスの代表者やアルデプロの担当者と共に本件会合に出席し,これらの者と共に印鑑証明書の問題点等を確認していたものであるし,印鑑証明書の食違いは上告人が自ら指摘したこともうかがわれる。
下級審の事実認定がおかしくないですか?と言ってます。

全員一致でしたが、裁判官草野耕一から補足意見がでました。
「職業的専門家」とは長年の研さんによって習得した専門的知見を有償で提供することによって生計を営んでいる者のことであり,「依頼者」とは職業的専門家と契約を締結して同人から専門的知見を提供する旨の約束を取り付けた者のことである。
言わんとすることは分からないでもないですが、「職業的専門家」とは長年の研さんによって習得したは不味いです。長年やっても駄目な人はいます。職業人として有料で仕事をする以上、最低限の基準はあるもので経験の有無の問題ではないと思います。これでは何年未満の業務経験は許されることになります。

職業的専門家が同人からの知見の提供を求めている者に遭遇した場合において,たとえその者が依頼者でなくとも当該職業的専門家は知見の提供をしなければならないという義務が肯定されるとすれば,知見を求める人々の側においてはわざわざ報酬を支払って依頼者となろうとする必要性が消失し,その結果として,職業的専門家の側においては安定した生活基盤の形成が困難となってしまうからである。
これは大いに納得です。タダで教えていたら商売あがったりです。

職業的専門家が依頼者以外の者に対して知見の提供を怠ったことを理由として法的責任を負うことは否定されてしかるべきである。
その通りです。契約の当事者でなければ賠償請求はないですよね。この場合は、仲介した会社を訴えるのであれば筋が通ります。
それでも以下の三点は例外として考えるべきだと言っています。
① 法的には依頼者でないにもかかわらず職業的専門家から知見の提供を受け得ると真摯に期待している者がいること。
② その者がそのような期待を抱くことに正当事由が認められること。
③ その者に対して職業的専門家が知見を提供することに対して真の依頼者(もしいれば)が明示的又は黙示的に同意を与えていること。


原判決の認定したところによれば本件会合に先立ってBは被上告人の代表者に対して自称Aの本人性を確認するために買主及び買主側司法書士に対して自称Aと面談する事前の機会を設ける旨発言している。これらの事実と本件会合に出席した司法書士は上告人だけであったことを併せて考えると,被上告人は,本件会合に出席した上告人が登記実務の専門家としての知見を用いて自称Aの本人性に関する助言を真の依頼者であるアルデプロはもとより被上告人に対しても行ってくれるものと真摯に期待し,そのことに対しては真の依頼者であるアルデプロも明示又は黙示の同意を与えていた可能性を否定し得ない。
おかしいと思うのであれば、教えてやってもいいんじゃない?でも、賠償義務につなげるようなものじゃないけどね、といったところでしょうか。でも、司法書士は見抜けなかったのですよね。だったら判決文に書くような話ではなく、説諭でいいんじゃないのと思いますけど。

裁判長裁判官 三浦 守 当然
裁判官 菅野博之 当然
裁判官 草野耕一 当然
裁判官 岡村和美 当然

訴えるなら中間の業者を訴えるべきでしたね。監査役の中に弁護士もいるようですが、何も言わなかったのでしょうか。