令和2(受)1442 投稿記事削除請求事件
令和4年6月24日 最高裁判所第二小法廷 判決 破棄自判 東京高等裁判所
ある者のプライバシーに属する事実を摘示するツイートがされた場合にその者がツイッターの運営者に対して上記ツイートの削除を求めることができるとされた事例
時事通信の報道です。
過去の逮捕歴投稿、削除命令 ツイッター社逆転敗訴―「長期閲覧想定せず」・最高裁
原告の男性は2012年、建造物侵入容疑で逮捕され、略式命令を受けて罰金を納付した。実名報道され、ツイッターの投稿に記事が転載されるなどしたが、その後も検索すれば閲覧できる状態にあり、人格権の侵害を訴え削除を求めた。
産経の報道です
ツイッターへの削除命令 グーグル基準より緩和
公益性とプライバシーのどちらに軸足を置くべきか-。交流サイト(SNS)のツイッターで投稿された過去の逮捕歴の削除を巡り、最高裁が24日、削除を命じる判決を言い渡した。速報性や拡散性が高いツイッターの特徴を考慮して、インターネット検索大手「グーグル」を巡る最高裁判断よりも、削除に対するハードルを下げた形だ。専門家は「同種の投稿削除への追い風になる」と分析する。
グーグルを巡る平成29年の最高裁判断では、グーグルは「ネット上の重要な情報流通の基盤」とした上で、事実の性質や内容▽事実の伝達範囲と具体的被害の程度▽当事者の社会的地位や影響力-などを考慮して、公表されない利益(プライバシー)が公表する理由(公益性)より「優越することが明らか」な場合に削除できるとした。
これに対し、今回の最高裁判決では、グーグルの基準で示された「優越することが明らかな場合」ではなく、「優越する場合」に削除できると表現した。「明らか」という表現を使わなかったことで、グーグルよりも要件は緩まったといえる。
概要を見ていきます。
(2)上告人が逮捕された事実は、逮捕当日に報道され、その記事が複数の報道機関のウェブサイトに掲載された。
同日、ツイッター上の氏名不詳者らのアカウントにおいて、本件各ツイートがされた。本件各ツイートは、いずれも上記の報道記事の一部を転載して本件事実を摘示するものであり、そのうちの一つを除き、その転載された報道記事のウェブページへのリンクが設定されたものであった。なお、報道機関のウェブサイトにおいて、本件各ツイートに転載された報道記事はいずれも既に削除されている。
Facebookでは引用元記事が消されても、当時のトップ画面の一部がそのまま残りますが、Twitterでもどうなんですかね。
(3)上告人は、上記の逮捕の時点では会社員であったが、現在は、その父が営む事業の手伝いをするなどして生活している。また、上告人は、上記逮捕の数年後に婚姻したが、配偶者に対して本件事実を伝えていない。
あちゃーですね。これによると、
前科は戸籍謄本にも住民票にも記載されません。罰金以上の前科に限り、本籍がおかれた市区町村の犯罪人名簿に記録されますが、一般の方は閲覧できませんし、前科について問い合わせても教えてくれません。
検察庁のデータベースには、科料や拘留を含め全ての前科が本人が死亡するまで保存されていますが、これも一般の方は閲覧できませんし、問い合わせても教えてくれません。
また、裁判所や警察、検察庁が本人の勤務先に前科について報告することもありません。そのため、実名報道されたり本人が言わない限り、前科が事件に関係のない一般の方に知られることないでしょう。
罰金刑までならまだしも、それ以上となると記録がかなり残るようです。つまり罰金刑とそれ以上では大きな扱いの差があるようです。
(4)ツイッターは、世界中で極めて多数の人々が利用しており、膨大な数のツイートが投稿されている。ツイッターには、利用者の入力した条件に合致するツイートを検索する機能が備えられており、利用者が上告人の氏名を条件としてツイートを検索すると、検索結果として本件各ツイートが表示される。
確か会員に限らず不特定多数が見られます。が、よほどしつこく探さないと数年前の記事なんかは出てきませんね。
最高裁は
(1)個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益は、法的保護の対象となるというべきであり、このような人格的価値を侵害された者は、人格権に基づき、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができるものと解される(最高裁平成13年(オ)第851号、同年(受)第837号同14年9月24日第三小法廷判決・裁判集民事207号243頁、最高裁平成28年(許)第45号同29年1月31日第三小法廷決定・民集71巻1号63頁参照)。
みだりにやったら駄目よってことですね。じゃあみだりというのはどの範囲かが問題になります。
本件事実の性質及び内容、本件各ツイートによって本件事実が伝達される範囲と上告人が被る具体的被害の程度、上告人の社会的地位や影響力、本件各ツイートの目的や意義、本件各ツイートがされた時の社会的状況とその後の変化など、上告人の本件事実を公表されない法的利益と本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので、その結果、上告人の本件事実を公表されない法的利益が本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に優越する場合には、本件各ツイートの削除を求めることができるものと解するのが相当である。
逮捕歴有とはいえ、罰金刑ですからね。再犯が何度もあったというなら、晒し者でも仕方ないかと思いますが。
(2)本件事実は、他人にみだりに知られたくない上告人のプライバシーに属する事実である。他方で、本件事実は、不特定多数の者が利用する場所において行われた軽微とはいえない犯罪事実に関するものとして、本件各ツイートがされた時点においては、公共の利害に関する事実であったといえる。しかし、上告人の逮捕から原審の口頭弁論終結時まで約8年が経過し、上告人が受けた刑の言渡しはその効力を失っており(刑法34条の2第1項後段)、本件各ツイートに転載された報道記事も既に削除されていることなどからすれば、本件事実の公共の利害との関わりの程度は小さくなってきている。
そしてここからが重要です。
膨大な数に上るツイートの中で本件各ツイートが特に注目を集めているといった事情はうかがわれないものの、上告人の氏名を条件としてツイートを検索すると検索結果として本件各ツイートが表示されるのであるから、本件事実を知らない上告人と面識のある者に本件事実が伝達される可能性が小さいとはいえない。加えて、上告人は、その父が営む事
業の手伝いをするなどして生活している者であり、公的立場にある者ではない。
①探せば出てくる
②面識のない人にも知られる可能性がある
③公的な立場ではない
この3条件がそろわないと消してもらえないことになります。
裁判官草野耕一の補足意見
(1)上告人の本件事実を公表されない法的利益
一市民として社会に復帰することを期待されており、前科等に関する事実の公表によって、新しく形成している社会生活の平穏を害され、その更生を妨げられることのない利益を有している(最高裁平成元年(オ)第1649号同6年2月8日第三小法廷判決・民集48巻2号149頁参照)。・・・家族や知人が本件各ツイートをいつ見るかもしれないと危惧し続けることによって平穏な暮らしを妨げられている上告人の不利益がツイッターの検索機能が弱いという理由によって甘受し得る程度のものに減少するとは考え難い。
(2)本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由
犯罪者が政治家等の公的立場にある者である場合は格別(本件はそのような事案ではない。)、犯罪者の氏名等は、原則として、犯罪事件の社会的意義に影響を与える情報ではない。よって、犯罪者の特定を可能とするこのような情報を、保全されるべき報道内容から排除しても報道の保全価値が損なわれることはほとんどないといってよいであろう。
ア 刑の執行が完了し、刑の言渡しの効力もなくなっている状況下において、実名報道の制裁的機能がもたらす効用をプライバシー侵害の可否をはかるうえでの比較衡量の対象となる社会的利益として評価する余地は全くないか、あるとしても僅少である。
イ 実名報道がもたらす第二の効用は、犯罪者の実名を公表することによって、当該犯罪者が他者に対して更なる害悪を及ぼす可能性を減少させ得る点に求めることができる。しかしながら、この効用は個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益が法的保護の対象となるとする価値判断と原則的に相容れない側面を有している。なぜならば、人が社会の中で有効に自己実現を図っていくためには自己に関する情報の対外的流出をコントロールし得ることが不可欠であり、この点こそがプライバシーが保護されるべき利益であることの中核的理由の一つと考えられるからである。
ウ 第三に、実名報道がなされることにより犯罪者やその家族が受けるであろう精神的ないしは経済的苦しみを想像することに快楽を見出す人の存在を指摘せねばならない。
ウは2ちゃんねらーの事ですかね。
第二小法廷判決 全員一致です。
裁判長裁判官 草野耕一
裁判官 菅野博之
裁判官 三浦 守
裁判官 岡村和美
妥当だと思います。これが、殺人であるとか強制性交であれば、永久に乗せたままでいいと思います。
令和4年6月24日 最高裁判所第二小法廷 判決 破棄自判 東京高等裁判所
ある者のプライバシーに属する事実を摘示するツイートがされた場合にその者がツイッターの運営者に対して上記ツイートの削除を求めることができるとされた事例
時事通信の報道です。
過去の逮捕歴投稿、削除命令 ツイッター社逆転敗訴―「長期閲覧想定せず」・最高裁
原告の男性は2012年、建造物侵入容疑で逮捕され、略式命令を受けて罰金を納付した。実名報道され、ツイッターの投稿に記事が転載されるなどしたが、その後も検索すれば閲覧できる状態にあり、人格権の侵害を訴え削除を求めた。
産経の報道です
ツイッターへの削除命令 グーグル基準より緩和
公益性とプライバシーのどちらに軸足を置くべきか-。交流サイト(SNS)のツイッターで投稿された過去の逮捕歴の削除を巡り、最高裁が24日、削除を命じる判決を言い渡した。速報性や拡散性が高いツイッターの特徴を考慮して、インターネット検索大手「グーグル」を巡る最高裁判断よりも、削除に対するハードルを下げた形だ。専門家は「同種の投稿削除への追い風になる」と分析する。
グーグルを巡る平成29年の最高裁判断では、グーグルは「ネット上の重要な情報流通の基盤」とした上で、事実の性質や内容▽事実の伝達範囲と具体的被害の程度▽当事者の社会的地位や影響力-などを考慮して、公表されない利益(プライバシー)が公表する理由(公益性)より「優越することが明らか」な場合に削除できるとした。
これに対し、今回の最高裁判決では、グーグルの基準で示された「優越することが明らかな場合」ではなく、「優越する場合」に削除できると表現した。「明らか」という表現を使わなかったことで、グーグルよりも要件は緩まったといえる。
概要を見ていきます。
(2)上告人が逮捕された事実は、逮捕当日に報道され、その記事が複数の報道機関のウェブサイトに掲載された。
同日、ツイッター上の氏名不詳者らのアカウントにおいて、本件各ツイートがされた。本件各ツイートは、いずれも上記の報道記事の一部を転載して本件事実を摘示するものであり、そのうちの一つを除き、その転載された報道記事のウェブページへのリンクが設定されたものであった。なお、報道機関のウェブサイトにおいて、本件各ツイートに転載された報道記事はいずれも既に削除されている。
Facebookでは引用元記事が消されても、当時のトップ画面の一部がそのまま残りますが、Twitterでもどうなんですかね。
(3)上告人は、上記の逮捕の時点では会社員であったが、現在は、その父が営む事業の手伝いをするなどして生活している。また、上告人は、上記逮捕の数年後に婚姻したが、配偶者に対して本件事実を伝えていない。
あちゃーですね。これによると、
前科は戸籍謄本にも住民票にも記載されません。罰金以上の前科に限り、本籍がおかれた市区町村の犯罪人名簿に記録されますが、一般の方は閲覧できませんし、前科について問い合わせても教えてくれません。
検察庁のデータベースには、科料や拘留を含め全ての前科が本人が死亡するまで保存されていますが、これも一般の方は閲覧できませんし、問い合わせても教えてくれません。
また、裁判所や警察、検察庁が本人の勤務先に前科について報告することもありません。そのため、実名報道されたり本人が言わない限り、前科が事件に関係のない一般の方に知られることないでしょう。
罰金刑までならまだしも、それ以上となると記録がかなり残るようです。つまり罰金刑とそれ以上では大きな扱いの差があるようです。
(4)ツイッターは、世界中で極めて多数の人々が利用しており、膨大な数のツイートが投稿されている。ツイッターには、利用者の入力した条件に合致するツイートを検索する機能が備えられており、利用者が上告人の氏名を条件としてツイートを検索すると、検索結果として本件各ツイートが表示される。
確か会員に限らず不特定多数が見られます。が、よほどしつこく探さないと数年前の記事なんかは出てきませんね。
最高裁は
(1)個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益は、法的保護の対象となるというべきであり、このような人格的価値を侵害された者は、人格権に基づき、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができるものと解される(最高裁平成13年(オ)第851号、同年(受)第837号同14年9月24日第三小法廷判決・裁判集民事207号243頁、最高裁平成28年(許)第45号同29年1月31日第三小法廷決定・民集71巻1号63頁参照)。
みだりにやったら駄目よってことですね。じゃあみだりというのはどの範囲かが問題になります。
本件事実の性質及び内容、本件各ツイートによって本件事実が伝達される範囲と上告人が被る具体的被害の程度、上告人の社会的地位や影響力、本件各ツイートの目的や意義、本件各ツイートがされた時の社会的状況とその後の変化など、上告人の本件事実を公表されない法的利益と本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので、その結果、上告人の本件事実を公表されない法的利益が本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に優越する場合には、本件各ツイートの削除を求めることができるものと解するのが相当である。
逮捕歴有とはいえ、罰金刑ですからね。再犯が何度もあったというなら、晒し者でも仕方ないかと思いますが。
(2)本件事実は、他人にみだりに知られたくない上告人のプライバシーに属する事実である。他方で、本件事実は、不特定多数の者が利用する場所において行われた軽微とはいえない犯罪事実に関するものとして、本件各ツイートがされた時点においては、公共の利害に関する事実であったといえる。しかし、上告人の逮捕から原審の口頭弁論終結時まで約8年が経過し、上告人が受けた刑の言渡しはその効力を失っており(刑法34条の2第1項後段)、本件各ツイートに転載された報道記事も既に削除されていることなどからすれば、本件事実の公共の利害との関わりの程度は小さくなってきている。
そしてここからが重要です。
膨大な数に上るツイートの中で本件各ツイートが特に注目を集めているといった事情はうかがわれないものの、上告人の氏名を条件としてツイートを検索すると検索結果として本件各ツイートが表示されるのであるから、本件事実を知らない上告人と面識のある者に本件事実が伝達される可能性が小さいとはいえない。加えて、上告人は、その父が営む事
業の手伝いをするなどして生活している者であり、公的立場にある者ではない。
①探せば出てくる
②面識のない人にも知られる可能性がある
③公的な立場ではない
この3条件がそろわないと消してもらえないことになります。
裁判官草野耕一の補足意見
(1)上告人の本件事実を公表されない法的利益
一市民として社会に復帰することを期待されており、前科等に関する事実の公表によって、新しく形成している社会生活の平穏を害され、その更生を妨げられることのない利益を有している(最高裁平成元年(オ)第1649号同6年2月8日第三小法廷判決・民集48巻2号149頁参照)。・・・家族や知人が本件各ツイートをいつ見るかもしれないと危惧し続けることによって平穏な暮らしを妨げられている上告人の不利益がツイッターの検索機能が弱いという理由によって甘受し得る程度のものに減少するとは考え難い。
(2)本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由
犯罪者が政治家等の公的立場にある者である場合は格別(本件はそのような事案ではない。)、犯罪者の氏名等は、原則として、犯罪事件の社会的意義に影響を与える情報ではない。よって、犯罪者の特定を可能とするこのような情報を、保全されるべき報道内容から排除しても報道の保全価値が損なわれることはほとんどないといってよいであろう。
ア 刑の執行が完了し、刑の言渡しの効力もなくなっている状況下において、実名報道の制裁的機能がもたらす効用をプライバシー侵害の可否をはかるうえでの比較衡量の対象となる社会的利益として評価する余地は全くないか、あるとしても僅少である。
イ 実名報道がもたらす第二の効用は、犯罪者の実名を公表することによって、当該犯罪者が他者に対して更なる害悪を及ぼす可能性を減少させ得る点に求めることができる。しかしながら、この効用は個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益が法的保護の対象となるとする価値判断と原則的に相容れない側面を有している。なぜならば、人が社会の中で有効に自己実現を図っていくためには自己に関する情報の対外的流出をコントロールし得ることが不可欠であり、この点こそがプライバシーが保護されるべき利益であることの中核的理由の一つと考えられるからである。
ウ 第三に、実名報道がなされることにより犯罪者やその家族が受けるであろう精神的ないしは経済的苦しみを想像することに快楽を見出す人の存在を指摘せねばならない。
ウは2ちゃんねらーの事ですかね。
第二小法廷判決 全員一致です。
裁判長裁判官 草野耕一
裁判官 菅野博之
裁判官 三浦 守
裁判官 岡村和美
妥当だと思います。これが、殺人であるとか強制性交であれば、永久に乗せたままでいいと思います。
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