平成30(行ヒ)195 命令服従義務不存在確認請求事件
令和元年7月22日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄差戻 東京高等裁判所
差止めの訴えの訴訟要件である「行政庁によって一定の処分がされる蓋然性があること」を満たさない場合における,将来の不利益処分の予防を目的として当該処分の前提となる公的義務の不存在確認を求める無名抗告訴訟の適否
まずは産経の報道です。
集団的自衛権の行使を可能にした安全保障関連法は違憲だとして、陸上自衛官の男性が、防衛出動命令に基づく職務命令に従う義務がないことの確認を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第1小法廷(山口厚裁判長)は22日、訴えを「適法」とした2審東京高裁判決を破棄し、審理を高裁に差し戻した。
上告審では、訴えの適法性が争点となった。1審東京地裁判決は、男性が所属する陸自の部隊が出動命令を受ける可能性が低いとして、違憲性の審理に入らず訴えを却下。2審判決は「重大な損害を生ずる恐れがある場合」などの訴訟要件を満たし、適法な訴えだと判断。1審判決を取り消して審理を地裁に差し戻し、国側が上告していた。
2審は、職務命令に従わなかった場合に想定される懲戒処分などを防ぐため提訴できると判断したが、第1小法廷は、職務命令などの現実的な可能性について「要件を満たすものかどうかの点を検討することなく、訴えを適法と判断した」と指摘。「明らかな違法がある」と結論づけた。
安全保障関連法は、密接な関係にある他国への武力攻撃が発生し日本の存立が脅かされる事態を「存立危機事態」と定義。一定の要件を満たす場合、集団的自衛権の行使を認めている。
続いて朝日新聞の報道です
安全保障関連法による集団的自衛権の行使は違憲だとして、現職の陸上自衛官が「存立危機事態」になっても防衛出動命令に従う義務はないことの確認を国に求めた訴訟の上告審判決が22日、あった。最高裁第一小法廷(山口厚裁判長)は「訴えは適法」とした二審・東京高裁判決を「検討が不十分」として破棄し、審理を同高裁に差し戻した。
自衛官は訴訟の目的を「命令への不服従を理由とした懲戒処分を防ぐこと」と主張している。第一小法廷は、この訴えが適法であるには「処分される現実的な可能性」という要件が必要だと指摘。二審はこの点を検討していないため、さらに審理を尽くすよう求めた。
一審・東京地裁は「命令が出る事態に直面しておらず、訴えは不適法」として自衛官の訴えを却下した。二審判決は「防衛という重要な任務に背けば、免職を含む重大な処分が想定される」と述べ、一審判決を破棄したが、実際に命令が出る可能性までは言及していなかった。
野党が戦争法案と名付けて大騒ぎしていた2015年が嘘のように静かになっています。
では、訴えの内容を見ていきましょう。
1(1) 本件は,陸上自衛官である被上告人が,我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し,これにより我が国の存立が脅かされ,国民の生命,自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態に際して内閣総理大臣が自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる旨を規定する自衛隊法76条1項2号の規定は憲法に違反すると主張して,上告人を相手に,被上告人が同号の規定による防衛出動命令(以下「本件防衛出動命令」という。)に服従する義務がないことの確認を求める事案である。
凄いですね。戦闘が始まっても逃げ出す権利があることの確認でしょうか。その論拠は、
(2) 本件防衛出動命令は,組織としての自衛隊に対する命令であって,個々の自衛官に対して発せられるものではなく,これにより防衛出動をすることとなった部隊又は機関における職務上の監督責任者が,当該部隊等に所属する個々の自衛官に対して当該防衛出動に係る具体的な職務上の命令(以下「本件職務命令」という。)をすることとなる。したがって,本件訴えは,被上告人が本件職務命令に服従する義務がないことの確認を求めるものと解される。
組織に対しての命令なので、個人の自衛官に命令されたわけではないので服従する義務はないと。うーん、程度の差はあれ家が燃えているところに救助要請を受けた消防士が、行きたくないと断れるはずだと言っているようなもので、断ったからと言って首にするなよということでしょうか。裁判を受ける権利があるとはいえ、敵前逃亡を法的に認めろと。
最高裁では
本件訴えは,本件職務命令への不服従を理由とする懲戒処分の予防を目的として,本件職務命令に基づく公的義務の不存在確認を求める無名抗告訴訟であると解されるところ,このような将来の不利益処分の予防を目的として当該処分の前提となる公的義務の不存在確認を求める無名抗告訴訟は,当該処分に係る差止めの訴えと目的が同じであり,請求が認容されたときには行政庁が当該処分をすることが許されなくなるという点でも,差止めの訴えと異ならない。
(中略)
将来の不利益処分の予防を目的として当該処分の前提となる公的義務の不存在確認を求める無名抗告訴訟は,蓋然性の要件を満たさない場合には不適法というべきである。
すでに起こっていることについての差し止めではなく、これから起こるかどうかすらわからないことに対して訴えの資格はないよと門前払いした形になります。
裁判官全員一致の意見
裁判長裁判官 山口 厚
裁判官 池上政幸
裁判官 小池 裕
裁判官 木澤克之
裁判官 深山卓也
原告の訴えの趣旨を見事に法律論で交わしたなという感じです。
なお日本弁護士会は、この法律ができたときには大騒ぎしていましたが、この判決についてはだんまりです。あれだけ大騒ぎしたのに不思議なものですね。
しかし、自衛隊の中に本当にこんな敵前逃亡をしても首にするなよという訴えを起こす人がいるのですか。驚くばかりです。こういう人は自分の家族が目の前で殺されそうになっても、「まあ落ち着いて、話をしよう」というのでしょうか。そもそも自衛隊員は徴兵されたわけではなく志願ですよね。徴兵であってもこの訴えはあり得ないでしょう。
令和元年7月22日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄差戻 東京高等裁判所
差止めの訴えの訴訟要件である「行政庁によって一定の処分がされる蓋然性があること」を満たさない場合における,将来の不利益処分の予防を目的として当該処分の前提となる公的義務の不存在確認を求める無名抗告訴訟の適否
まずは産経の報道です。
集団的自衛権の行使を可能にした安全保障関連法は違憲だとして、陸上自衛官の男性が、防衛出動命令に基づく職務命令に従う義務がないことの確認を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第1小法廷(山口厚裁判長)は22日、訴えを「適法」とした2審東京高裁判決を破棄し、審理を高裁に差し戻した。
上告審では、訴えの適法性が争点となった。1審東京地裁判決は、男性が所属する陸自の部隊が出動命令を受ける可能性が低いとして、違憲性の審理に入らず訴えを却下。2審判決は「重大な損害を生ずる恐れがある場合」などの訴訟要件を満たし、適法な訴えだと判断。1審判決を取り消して審理を地裁に差し戻し、国側が上告していた。
2審は、職務命令に従わなかった場合に想定される懲戒処分などを防ぐため提訴できると判断したが、第1小法廷は、職務命令などの現実的な可能性について「要件を満たすものかどうかの点を検討することなく、訴えを適法と判断した」と指摘。「明らかな違法がある」と結論づけた。
安全保障関連法は、密接な関係にある他国への武力攻撃が発生し日本の存立が脅かされる事態を「存立危機事態」と定義。一定の要件を満たす場合、集団的自衛権の行使を認めている。
続いて朝日新聞の報道です
安全保障関連法による集団的自衛権の行使は違憲だとして、現職の陸上自衛官が「存立危機事態」になっても防衛出動命令に従う義務はないことの確認を国に求めた訴訟の上告審判決が22日、あった。最高裁第一小法廷(山口厚裁判長)は「訴えは適法」とした二審・東京高裁判決を「検討が不十分」として破棄し、審理を同高裁に差し戻した。
自衛官は訴訟の目的を「命令への不服従を理由とした懲戒処分を防ぐこと」と主張している。第一小法廷は、この訴えが適法であるには「処分される現実的な可能性」という要件が必要だと指摘。二審はこの点を検討していないため、さらに審理を尽くすよう求めた。
一審・東京地裁は「命令が出る事態に直面しておらず、訴えは不適法」として自衛官の訴えを却下した。二審判決は「防衛という重要な任務に背けば、免職を含む重大な処分が想定される」と述べ、一審判決を破棄したが、実際に命令が出る可能性までは言及していなかった。
野党が戦争法案と名付けて大騒ぎしていた2015年が嘘のように静かになっています。
では、訴えの内容を見ていきましょう。
1(1) 本件は,陸上自衛官である被上告人が,我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し,これにより我が国の存立が脅かされ,国民の生命,自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態に際して内閣総理大臣が自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる旨を規定する自衛隊法76条1項2号の規定は憲法に違反すると主張して,上告人を相手に,被上告人が同号の規定による防衛出動命令(以下「本件防衛出動命令」という。)に服従する義務がないことの確認を求める事案である。
凄いですね。戦闘が始まっても逃げ出す権利があることの確認でしょうか。その論拠は、
(2) 本件防衛出動命令は,組織としての自衛隊に対する命令であって,個々の自衛官に対して発せられるものではなく,これにより防衛出動をすることとなった部隊又は機関における職務上の監督責任者が,当該部隊等に所属する個々の自衛官に対して当該防衛出動に係る具体的な職務上の命令(以下「本件職務命令」という。)をすることとなる。したがって,本件訴えは,被上告人が本件職務命令に服従する義務がないことの確認を求めるものと解される。
組織に対しての命令なので、個人の自衛官に命令されたわけではないので服従する義務はないと。うーん、程度の差はあれ家が燃えているところに救助要請を受けた消防士が、行きたくないと断れるはずだと言っているようなもので、断ったからと言って首にするなよということでしょうか。裁判を受ける権利があるとはいえ、敵前逃亡を法的に認めろと。
最高裁では
本件訴えは,本件職務命令への不服従を理由とする懲戒処分の予防を目的として,本件職務命令に基づく公的義務の不存在確認を求める無名抗告訴訟であると解されるところ,このような将来の不利益処分の予防を目的として当該処分の前提となる公的義務の不存在確認を求める無名抗告訴訟は,当該処分に係る差止めの訴えと目的が同じであり,請求が認容されたときには行政庁が当該処分をすることが許されなくなるという点でも,差止めの訴えと異ならない。
(中略)
将来の不利益処分の予防を目的として当該処分の前提となる公的義務の不存在確認を求める無名抗告訴訟は,蓋然性の要件を満たさない場合には不適法というべきである。
すでに起こっていることについての差し止めではなく、これから起こるかどうかすらわからないことに対して訴えの資格はないよと門前払いした形になります。
裁判官全員一致の意見
裁判長裁判官 山口 厚
裁判官 池上政幸
裁判官 小池 裕
裁判官 木澤克之
裁判官 深山卓也
原告の訴えの趣旨を見事に法律論で交わしたなという感じです。
なお日本弁護士会は、この法律ができたときには大騒ぎしていましたが、この判決についてはだんまりです。あれだけ大騒ぎしたのに不思議なものですね。
しかし、自衛隊の中に本当にこんな敵前逃亡をしても首にするなよという訴えを起こす人がいるのですか。驚くばかりです。こういう人は自分の家族が目の前で殺されそうになっても、「まあ落ち着いて、話をしよう」というのでしょうか。そもそも自衛隊員は徴兵されたわけではなく志願ですよね。徴兵であってもこの訴えはあり得ないでしょう。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます