Blog of SAKATE

“燐光群”主宰・坂手洋二が150字ブログを始めました。

「がん末期のログブック 患者になったジャーナリストが書き込んだ500日」高橋ユリカ著

2014-12-02 | Weblog
「がん末期のログブック 患者になったジャーナリストが書き込んだ500日」高橋ユリカ著 (プリメド社)

ジャーナリストである著者が、がん治療・療養の様子をFacebookに投稿し続けた内容をまとめた二年間にわたる記録。リアルタイムの病床からの実況中継は「闘病」という言葉にまとめきれない。「闘う」ことが見合わないことを本人がいちばんよく知っている。彼女は35歳で初めて大腸がんになってから、ガンと向き合うのは三度目になる。
「あ、あれこれ書いているうちにウツな気文が治ってきましたあ!」「ガンってナウシカのオームみたいなイメージ、そう私はナウシカ」などと明るく自分を鼓舞する。自他共に認める食いしんぼ、食欲が栄養摂取を支える。時として85歳の母親に介護され、検査映像を息子に見せ「かつて、君がいた場所(子宮)が、ガンに占拠されているって許せないよね」と話す。
彼女にとっては「書くこと」が病床の自分自身を支える防波堤だった。最後は痛み止めの服用を制御し冷静さを保ちながら、iPadに指二本で記し続けた。
テニス、ヨガに勤しみ、体重の増減に一喜一憂。闘病の最中に街で買い物をすることの喜びを綴る。デザイナーとして国際的に成功した息子の活躍を見るためパリに行く夢も果たせなかったが、夫と息子は協力して彼女を京都旅行に連れて行く。
生活の場として描写される下北沢界隈は、私にとっても親しい場所だ。彼女は不毛な再開発に反対し、人間本位の街づくりを考える先鋒に立っていた。私も助言を求められ、共に考える仲間であった。
彼女は『川辺川ダムはいらない』という本を著したように、熊本のダム建設についても問い続けた。私は、劇団民藝に大滝秀治さん主演の戯曲を委嘱され、ダム開発の歴史を背景にした『帰還』を書いた。友人である彼女がこの問題の第一人者であることは僥倖であった。執筆のための取材は、彼女の用意してくれた克明なデータと、紹介してくれた各地のキーパーソンの手厚い協力抜きには、成り立たなかった。
思い出すのは彼女が自転車で颯爽と下北沢の街を疾走する姿である。二十三年にわたってガンと向きあい、身をもって伝えようとした終末治療当時者の真実に、胸うたれ、読み進めながら何度もページから目を離した。著者の魅力に溢れた本書は、がんに向き合う人たちのみならず、決して思い通りにはならぬ人生に向きあう、すべての人たちを励ますだろう。

※この記事は山陽新聞社さんのご厚意で特別にお許しをいただき、同紙の「あの人からの紹介状」に掲載された記事を転載したものです。
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