ユーロスペース等で公開されたばかりの『アイアム・ア・コメディアン』は、ウーマンラッシュアワーの村本大輔氏に3年間密着した、ドキュメンタリー映画である。
一日に何本もの映画を時間を変えて上映することの多いミニシアターで、一日に続けて五、六回上映されているので、一定数のお客様が駆けつけてくれているということであろう。めでたい。
作品を観る前の人に事前に内容をあまり説明しない方がいいと思うので、なるべく具体的なことを語るのは控えるが、かつて『村本大輔はなぜテレビから消えたのか?』(2021)という番組を作った日向史有監督の作品だけに、テレビに居場所を失った芸人である村本大輔が劇場やライブに活路を見出し、アメリカに渡って世界的なスタンダップコメディアンとなるべく試行する姿を、彼と共にいて、フォローしてゆくものである。村本氏が、原発、韓国、沖縄、等の問題、テレビでは取り上げにくい対象について語るのはもちろんであるが、渡米を決めたとたんにパンデミックとなり、渡米資金を稼ぐつもりだったライブ上演がほとんど全てキャンセルされてしまう苦悩など、彼が語る「反体制」の内容よりも、むしろ自然体に存在する「村本大輔本人」の姿を追いかけていく。
そう、あれだけ身体を傾斜させ、早口でシャウトするスタンダップコメディアン村本大輔が、日向監督の前では、ただただ、自然体なのだ。
冒頭のタイトルで、「I AM MEDIA」という言葉が最初に出て、文字が増えて「MEDIA」が「COMEDIAN」に変わって「I AM A COMEDIAN」と表示される。
表現とは何か。メディアとは何か。なるほど、こちらも身につまされることだらけである。
日向監督は『東京クルド』というドキュメンタリー映画(2021)で、在日シリア人の難民の生活を追った。中心的に描かれる若者がとても素敵で、本当に誰もが彼を応援したくなったと思う。その若者の日向監督への信頼が、画面に写っているのだ。
日向監督はウクライナのキーウと西部で取材した『銃は取るべきか 徴兵に揺れるウクライナの若者たち』(2016)というドキュメンタリーも撮っている。実際に戦場となってゆく国で、「兵士」という職務を強制される若者たちの現実の重さが胸に迫る。そして、徴兵を忌避して隣国ポーランドの大学に行く一人の若者の姿を、決してジャッジすることなく、伴走して描いている姿勢が、日向監督独自のものである。
『アイアム・ア・コメディアン』では、家族との関係が語られるが、個人的には、自分でもまさかと思うのだが、なんだか村本氏より父親側の立場で見てしまい、我ながら自分のことを「歳だなあ」、と思ってしまった。これはとても意外だった。
とにかく、不安定な部分を抱える被写体と伴走して、被写体が感じていることをそのまま写しとる日向監督のスタンスは、貴重である。
『アイアム・ア・コメディアン』の村本氏は、「日向監督と関わること」という出会いと共有の結果として、この姿を見せている。
観た人それぞれに感想があるだろう。ともあれ、一人の人間の「スタートライン」を描く、瑞々しさに満ちている。
村本氏に対して、苦手意識を持っている方にこそ、観ていただきたい。