今年の日本映画の話題としては、『侍タイムスリッパー』のヒットが、挙げられるだろう。
『カメラをとめるな!』以来の、自主映画の全国拡大公開なのである。最初が池袋シネマ・ロサの1館のみだったのが、既に全国100館以上に、なっているのだ。たぶんもっと増える。
ただ、『カメラをとめるな!』は、低予算の自主映画のテイストを逆に生かしていたが、『侍タイムスリッパー』は、東映京都撮影所の特別協力を得ていて、プロのスタッフも多く参入、部分的には堂々とした時代劇に見える。というか、どうして自主映画で「撮影所もの」の映画ができてしまうんだ?! つまりは、京都の映画人たちの心根に、支えられているのである。
監督の安田淳一さんの人徳と努力と才能の為せることなのだろう。主演女優が助監督も兼ねているという話も、それを知った観客の気持ちを上げてくれる。
今回多額の借金を抱えているらしい安田監督はふだん、米作りの農業をしながら撮影の仕事もしているという。我らが岡山県真庭郡のトマト農家兼業監督・山崎樹一郎さんと、どこか似ている。
内容的には「現代の時代劇撮影所にタイムスリップした幕末の侍が時代劇の斬られ役として奮闘する姿を描いた時代劇コメディ」なのだが、「タイムスリップ映画」のパロディとしてのコメディ映画にも、なっているのである。いや、よく考えてあるところはあるし、それをちゃんとそう見えるように、画にしたところが、素晴らしい。
この映画を観た先輩映画人たちが、繋がりがどうとか細かいことをいろいろ言っている場合もあるらしいが、役に立つ意見は聞くべきだけど、そりゃ、まあ、みんな、嫉妬するはずである。嫉妬していい。本当に、こんな自主映画を撮影所で撮ったということが、素晴らしい。
とにかく、主演の、山口馬木也が、いい。
これはもう、見ていただくしかない。「ぴったり」でもあるし、きちんとそう見えるように、本人が演じ、周りが作っている。この俳優抜きでは考えられない映画である、と、感じさせる、得がたい例である。
嬉しいことに、彼は岡山出身である。総社らしいので、個人的に地元の接点はないのだが。
そして、山口馬木也さんは、私も関わる〈非戦を選ぶ演劇人の会〉のピース・リーディングに、幾度か出演してくださっている。そういう人なのである。ありがたいことである。
とにかく、『侍タイムスリッパー』のヒットは、皆を幸福にする。頭が下がることである。