計画停電の時間に合わせて通し稽古。結局停電はなかったが。……近隣1都7県で測定された空気中放射線量が、近隣国の核実験時などを除き、調査開始以来の最高値。新宿区内で通常の最大21倍を示したという。事態は収拾に向かっているのか。確実に専門家は現場にいるのか。「チェルノブイリ以上」の声も聞かれる。とにかく平常心。
こんな日も稽古。花粉も猛威を奮っている。……さて、吉林勳三こと和田洽史氏著の小説『壁なしの箱』(第三書館刊・1500円)が4月頃発売されます。高度成長期の労働現場から全共闘隆盛の大学、わだつみ像破壊へ。実体験に基づいた、迫力ある和田版・青春の門。この本が出る頃にはまた国外に脱出しているはずだという。
福島はどうなっている。全世界が見ている。正直に、誠実にしてほしい。……「地震、神仏でなく天災のみが人を正しくするのだと痛感しています。」と、長く日本を離れていてこの二年間ほど帰国中である年長の知人からのメール。いや、これだけの犠牲の上で、「正しく」なるならば、まだ救われる部分もあるのかもしれない。しかしこの犠牲はあまりにも重い。……こんな日も稽古。そして打合せ。で、「計画停電」の情報。そう。そこまで脆いものだったのだ、この国の都市生活は。
明け方、姪っ子が来る。ふだん通学片道二時間超で上野に通っているのだが、関東地方も東側は復旧が遅く、先まで電車も走っていない。とうぶん帰れないだろう。いつまででもいればいい。春休みだ。……稽古は全体稽古にせず。海外から多くのお見舞いの連絡、ありがたい。でも東京は大丈夫なんですよ。ライフライン断絶、食料がないと被災地から悲鳴のメールが届く。でも宅急便さえ荷物引受停止で送れない。善後策を練る。……一連の出来事をどう受け取るか。「自分は平気だ」と言うのはいい。しかし、平気でない人もいることは忘れてはならない。昨日の大きな揺れの不吉さは、確実に「死」のにおいを伴っていたと思う。近しい人と連絡が取れず、苦しい人がいる。助け合い、弱い人の気持ちに寄り添ってゆかなければなるまい。相手は自然だ。まずは状況を受け入れるのみ。……で、某劇団員の家の猫は一匹行方不明になっていたのが、一日じゅう押入れの奥で震えていたのを発見したという。どうぶつもそれぞれだ。
地震。関係者、近親者ともなんとか無事のようだ。家に帰り着けなかった者もいる。ひっきりなしに連絡、落ち着かない。夜になってもゆらゆら揺れ、不気味である。連絡のつかなかった姪っ子は解放された新国立劇場オペラハウスで夜を過ごしているらしい。危機下にある方々の安泰を願い、失われた多くの命の冥福を祈る。そして原発は、どうなっているのか。……数日前、駅そばの繁華街の駐輪場にタヌキが出た。すぐ近くに森や林はないから不思議だったが、野性の勘のようなもので、予知して行動していたのかもしれない。
今日も自転車で吉祥寺。マスク無しではダメだ。眼がしょぼつくのでゴーグルもほしくなる。一応最後の場面まで一通り当たった。日本以外の国との文化、情緒、システムの違いが、いい意味で明瞭になってくる。稽古とは、日々の出会い直し。さて、これからだ。字幕の内容も丁寧にまとめていかないと。……メア更迭、今こそ要注意。何をしてくるかわからない。共同開発のはずのガス田は勝手に掘られ、与党議員が竹島を独島と認め、北海道の目と鼻の先にミサイル。それでも気にしない国だということはもはや全世界の知るところなのだから。……徳之島のYさんからなんとも立派な新じゃがをいただく。イノシシのいたあの畑で取れたのだという。ありがたい。
机に向かう時間。稽古場の時間。それぞれ。自転車で吉祥寺まで。これが意外と短い。駅への徒歩移動と電車待ちの間がないせいだろう。……最近、話していてその話題になり思い返してみたが、私が一日何時間寝ているかといえば、どうもここ何ヶ月か、四時間台のようだ。昨今いろいろお誘いや観にゆきたいものもあるが、申し訳ないのだが、最低限の生活維持のためと仕事以外の行動は、ここしばらく無理のようだ。……それにしても日本外交は末期的。議論以前。「主張のない国」に未来はない。
ここしばらく可能な時間はひたすら机に向かう。とはいえ『裏屋根裏』スタッフ打合せ、稽古。佳境。稽古場を出たのは十時半を過ぎている。……稽古場を出ればただひたすら時間との戦い。高江支援の東京関係者の集まりに顔を出す余裕もなく。……アメリカ国務省メア日本部長の沖縄差別発言に今さら驚いてどうする。ヤマトの表に出さない陰湿な沖縄差別者たちも同罪なのだ。この情報リークは辺野古移設不能の現状に対する「当局」のエクスキューズでしかない。
ミゾレ雪の朝。午前中まるごと杉並区との話し合い。外に出ると、湿り気が多い雪なのに積もっているところも。稽古は冒頭から当たる。ソン・ギウン君来る。韓国でいう<エアコン・ジョーク>には<ペンギンが走ってくる>という別名もあると聞く。なるほど。小雨の夜、雪はもう消えている。……前原外相辞任。しかし原因が釈然としない。是非はともかく、外国資本50%超の企業献金が認められ、外国人参政権まで議論されている昨今、これも一つの在日外国人差別。ともあれ前原氏は不人気政権から脱出。
稽古は自主稽古。覗きに行けず申し訳ない。仕事や連絡しているうちどんどん時間が経つ。それにしても平日以上に正午過ぎから、出かけようと思う時刻に矢継ぎ早に連絡が来るのは、何とかならないのか。二兎社『シングルマザーズ』観る。ソン・ギウン君も初の永井愛体験。彼は平田オリザ作品を多く翻訳しているが自身も作家・演出家である。先週に私の稽古場とオリザ稽古場をハシゴ見学した感想など聞いて苦笑。
土曜・日曜の吉祥寺、天気がいいときは私のような地方出身者にはなつかしい、田舎めいた趣き。……稽古場に差し入れた自家製チャーシューが好評。夜、進行中の仕事の参考に『英国王のスピーチ』を観るが、話としては役に立たず。この映画館バウスシアターの屋上で野外劇をしたのは、27年前。猪熊恒和の舞台デビュー作である。帰宅、とにかく少しでも進める
朝、吉祥寺の稽古場入り。場ミリ等確認し外へ出てノートパソコン開いて仕事。午後から9時半過ぎまで稽古。トニーは十一年前の『南洋くじら部隊』で出会った劇団員小室紀子と結婚したのだが、彼女もインドネシアから帰国(とはもう言わないのか?国際結婚の場合)していてなんとも愛くるしい笑顔のインドネシア語で「天使」という名を持つベイビーと共に顔を出す。久しぶりの吉祥寺だが直帰する。いろいろと時間とのたたかい。
梅ヶ丘稽古最終日。夜は下北沢であおきりみかん短編。沖縄・高江のヘリパット基地工事阻止活動から帰ってきた女優Eさんに話を聞く。……報道によれば、いよいよ分裂しそうな民主党政権は米軍に擦り寄り、辺野古のV字型滑走路案を進めかねない。最近の中国系メディアでは「『中華人民共和国琉球自治区』成立を目指す」という表現がみられるという。その土地に暮らす人間を無視した横暴が許されていいはずがない。
きょうも夜までぶっ通し稽古。稽古場移動する前、オリジナルバージョンのセットが組んである梅ヶ丘BOXにいる間に、なんとか全てのシーンを当たりたい。トニーが初めてラストまでの流れをやってみて、観ているとすんなりだが、さすがに終結する部分は演じる側にはいささか複雑なこの劇の構造に唸っている。『屋根裏』再々再演までは女教師役であった宮島千栄が幼い息子二人を連れて稽古場見学。二人ともいい子にしていて稽古を楽しんでいた様子。ユン・サンファが実家から持ち込んだ手作りキムチを皆でいただく。さすがの味わい。小ミーティング後、十時を少し過ぎて、昨日から<演出家コンクール>参加のため宿泊中の劇団あおきりみかんさんに稽古場を明け渡す。
午前中、劇作家協会理事会。社団法人になったので、制度改変で運営委員会と住み分け、理事はたった五人。渡辺えりさん欠席で、平田オリザ、横内謙介、ケラリーノ三氏のみで寂しいが、将来に向け、あれこれ戦略立てる。午後から夜十時までぶっ通し稽古。……京大入試携帯メールカンニング問題で、多くの劇場で使われている携帯電話遮断装置設置が対抗策として話題だが、『屋根裏』には初演から、いちはやくその機種の一つ「サイレントマスター」が、携帯電話ができないようにして引きこもりをいぶり出す目的で使われるという話がでてくる。時代を先取りするのも仕事のうちである。