昼のガスパール・オカブ日記

閑人オカブの日常、つらつら思ったことなど。語るもせんなき繰り言を俳句を交えて独吟。

下北沢『宮鍵』に行ってきた。

2014-12-20 20:21:49 | グルメ

『宮鍵』に行ってきた。
否、『宮鍵』という名を冠したかつての店に行ってきたというのが正しかろう。
オカブがこの店に初めて立ち寄ってからかれこれ30年が経つ。しかし、尻尾の20年は全くのご無沙汰であった。その間どのように店が変遷したか楽しみで、この機会と思い行ってみた。
店の開店は5時と食べログに書いてあったので、5時に店の前に行った。すると準備中の看板が出ていて、開店は6時だという。冷たい雨の中であった。下北沢の駅前の三省堂で時間を潰して、6時に行ってみた。まだ開いていない。オオゼキで暇をつぶして6時半に行ってみた。やっと開いていた。そこで入った。外見は昔のままの昭和レトロのたたずまいであったが、中はカウンターを改装したほか、食器の山や厨房用具がなくなりがらんとして随分と寂しくなった風情である。
初老と老人の中間くらいの店主らしい男が一人で迎えた。入り口近くの寒風漏れる席へ座れという。言われたままに席を取り、コートをかけている間に飲み物を注文しろという。初孫の燗、二合徳利を注文した。座ると煮込みを注文した。600円也の煮込みである。揚げ煎餅のような突出しが出る。飲み物も来ないのにおでんを注文しろという。玉子と豆腐とちくわぶと糸こんにゃくを注文した。そのうち自由業風の男がのっそり入ってきた。その男もオカブの隣の入り口の席に座らせられた。
あとは客はいない。がらんと寒々とした店内で二人の客が黙々と飲み食い(隣の客はスポーツ新聞を読んでいた)。店主はいらいらした様子で店内を動き回る。何を話すでもない。沈黙の時が過ぎる。異様でシュールな時空だ。お客様の飲食は二時間に限らせていただきます、という貼り紙が白々しい。
煮込みは煮込みというよりも牛肉の旨煮のような感じの物であった。おでんはちくわぶが煮崩れして、豆腐は変色していた。
もう潮時と思い初孫の最後の一滴を猪口に注ぐと勘定にした。これだけで、どのように計算したかは知らないが勘定は3,250円であった。注文したのは本当にこれだけであった。黙って払った。
あの「おかあさん」の時代の『宮鍵』は遠い過去に去った。おかあさんが忙しく立ち回り数人の店員を指図して店を切り盛りしていたあの時代はいつのことだったのか?千客万来で、満員のため入店をあきらめなければならなかったのはいつの時代のことであったのか? あの時代の奥の席に陣取っていた常連さんたちも、今はもう鬼籍に入ったであろう。
世界的フルート奏者の工藤重典氏の岳父と懇意になったのはこの店である。なによりもオカブの母とこの店のかつての「おかあさん」瑞上さんとは小学校の同級生であり、その面からも「おかあさん」には懇意にしていただいた。 老体の店主はかつて茶沢通りの踏切脇でペット・ショップをやっていた瑞上さんの長男であろうか?
そんなことを考えながら冷たい雨の下北沢の街に出て行った。 氷のような滴が頬を打った。

青春の想いははるか氷雨かな   素閑