しましましっぽ

読んだ本の簡単な粗筋と感想のブログです。

「晴子情歌」 高村薫  

2007年04月10日 | 読書
福澤晴子はこの300日、インド洋にいた息子の彰之に100通もの手紙を書き送り、息子の方はそれらを何十回も読み返す。
手紙には晴子の祖父母のことから、今にいたるまでのことが書かれていた。

晴子は東京・本郷の下宿屋の娘、岡本富子と青森から下宿して来ていた野口康夫の間の長女として生まれる。
富子がまだ若くして亡くなり、康夫は晴子と3人の弟妹を連れて生家のある筒木坂に戻り、自分は漁船に乗って働くからと晴子達を残して行ってしまう。
晴子は3人の弟妹の面倒を見ながら始めての土地で暮らし始める。
父親が帰り、また仕事を求めて北海道の土場に行く時、晴子も働き手として同行する。
晴子はそこで、巖と出会い恋をする。



晴子の手紙は、旧仮名使いで書かれているので、始めはちょっと読み進むのに時間がかかるが、それが時代の雰囲気を伝えてくれるように感じる。
それにより、晴子の手紙と彰之の語りは、色合いや時間の流れが違って感じられた。
これは、晴子の人生の物語。
それを読む、彰之にも自分の人生があり、他人の人生を読んでいくのは、結構重い。そして、東北、北海道は鉛色の感じがして、余計に重い。
晴子と彰之は親子だから、同じ場面に一緒にいることも当然、というか当たり前にあるのだが、それでも他人の人生だと思うほど、ひとりひとりは、他者には分からない孤独なものだと思う。
分からないといえば、晴子の夫、淳三の人生も。
晴子のことをどう考えて結婚したのか、復員した後どんなことを考えて、夫として父親としての立場に身を置いたのか、淳三の思いも知りたい気がする。

高村薫さんの小説は、社会派サスペンスかと思っていたが、これはそんな要素はない。
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