「すべての罪は血を流す」 S・A・コスビー ハーパーBOOKS
ALL THE SINNERS BLEED 加賀山卓朗・訳
アメリカ、ヴァージニア州チャロン郡。
白人至上主義者が建てた銅像があり、人種差別問題の残る南部の町。
タイタス・クラウンは2年前にFBIを辞め、保安官になっていた。
ある日、ハイスクールで発砲があったと連絡が入り駆け付ける。
撃たれたのは優秀な教師として人気もあった、ジェフ・スピアマン。
タイタスが駆けつけた時、学校の玄関の扉を開け、狼の鼻がついた革のマスクを左手に持ち、右手にライフルを抱えたラトレル・マクドナルドが出て来る。
ラトレルはタイタスの知人の息子だった。
ライフルを手放すように何とか説得しようとし、応じるかとも思えた。
しかし、部下が威嚇の言葉を投げ、ラトレルは叫んでタイタスの居る方へ駆け出す。
部下のロジャーとトムがラトレルを撃つ。
ラトレルの言っていた言葉から、スピアマンの携帯を調べると、そこにはおぞましい画像があった。
ラトレル、スピアマン、そしてラトレルが持っていた革の狼のマスクを被った人物が13歳から17歳の子どもたちを虐待していた。
子どもたちは例外なく黒か褐色の肌だった。
また真相を発表出来ない時、外では白人の警官が黒人の若者を射殺したとして、黒人コミュニテイの牧師ジャマル・アディソンが抗議の声を上げて警察に詰めかける。
S・A・コスビーの前2作「黒き荒野の果て」と「頬に哀しみを刻め」とは少し違う物語。
2作はどちらかと言うと反社会的な主人公。
今回の主人公タイタス・クラウンは元FBIの保安官。
黒人からは、自分たちに有利に、物事を進めてくれると期待される。
しかし、タイタスはあくまでも保安官として正しくあろうとする。
白人の部下との感情の対立もあり、有力者からの圧力もある。
そして、母親が死んだ時に父親は宗教に助けを求め、その間、実際に弟の面倒を見ていたタイタスは宗教に頼る事はなかった。
そんな父親との気持ちの対立もある。
事件よりも、気持ちの方に気が行ってしまう。
こんなにも毎日張りつめて生活していなければならないなんて。
考えると気が重くなり疲れる。
それだけ、細かくその世界に入って行けたと言う事だが、自分の住む世界との違いに啞然とするほど。
日本も何もない訳ではないが、やはり平和な国だ。
事件の方は予想した展開だが、犯人の行動が緻密なのか粗雑なのか。
今まで発見されることもなく犯行を繰り返していたのに、まるで捕まる為に動いているような。
そして最後は、アメリカは逮捕より撃ち殺してしまうので、犯人の本当の気持ちは分からずに終わるが、残念。
ラストのタイタスの行動は小気味良い。
でも、また混乱の原因にならないかと心配も。
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