散歩絵 : spazierbilder

記憶箱の中身

触手

2005-06-19 16:48:17 | 植物、平行植物
金銀花又の名を忍冬、スイカズラとも言う。
金銀花は“香の触手” を 伸ばしてそのそばを通りかかる者にやんわりと巻き付き、引き寄せ、花房に何度も鼻頭を埋めて深呼吸せずには離してくれない。音を立ててぐんぐん延びているかに思える蔓が隣に植わっている雪柳の体を締め付けてしまうので、時々解きほぐしては傍の手すりに強引に巻きつける。この生命力を見ているとこの魅惑的な香の中になにかふてぶてしさを嗅ぎつけてしまう。

咲き始めの花は白く、次第に黄色を帯びてゆくので、少し離れて眺めると花は白と黄、いや金と銀の2色が咲いているように見えるためにこの名がついた。
忍冬という別名は、冬も葉は落ちることなく、縮かみ寒中を耐え忍ぶようにみえることに所以する。

私は金銀花という名前の方が好きだ。

友人の庭にはこれが山ほど咲くので、その脇で夢心地にお茶を飲む。金と銀の花とつぼみをお酒に漬けると又、美味しい。そうだこれからその香をお酒の中に閉じ込めてみようか。

この香を嗅いでいると、記憶の箱が開いて、何が入っているのか調べようとするのだが、煩雑な箱の中のどれが源なのかはっきりとピントが合わない。影は見えるのに煙のようにつかもうとすれば逃げてゆく。何だったのかなあ。

匂いといえば思い出すのは  パトリック ズースキントの”香水-ある殺人者の話”という小説だ。18世紀フランスの街の匂い、饐えた裏町の臭い、初々しい少女の肌の匂い。
ページ毎に色々な匂いが立ち昇り臭覚に訴えかけるような文章で好きだ。

匂いは感性に直接働きかける。

スイカズラ、”吸い蔓”。
花の甘い蜜を求めて沢山の虫が集まってくるので、私も花を一つ摘んで舐めて見ると、舌の上に蜜の甘みが“点”と残った。