『のれんに腕押し』

当社の事務所は、ＪＲ山陽線と信号機にはさまれた不便な所です。
信号機が赤の時は、山陽線と信号機の間に車が３台しか止まることがで
きずに青信号になるのを待った状態で止まっています。
きのう外出から帰って事務所前に車を止めると、私のあとの車がいつも
のように信号機前まで進み３台の車が信号待ちしていました。
３台目の車は、少し大きめの工事用トラックで、職人風の男がふたり
乗っていました。私が事務所に入ろうとすると大きな声が聞こえてきま
した。「コラ～ッ∴≒＋÷∠⊿？？！」怒号を浴びせるかん高い声です。
振り返ると、トラックの運転席の横に乗っていた男が、車から降りてき
て、前に停車している車に何かをいっているようです。
その車の前は２ｍほど空いて停車しているので、トラックの後ろが線路
近くで停車して危険な状態になっているのです。先ほど怒鳴った男の声
が何をいったのか理解できました。「こら～っ、前に行かんか！」と
怒鳴ったのでした。前の車の運転手を見るとかなりの高齢者のようで、
ゆうに８０才は超えているおじいさんのようす。昔テレビでお茶の間
を賑わした、おとぼけの左ぼくぜんさんに似ているのです。おまけに
メガネの厚みが１センチはあろうかと思われる程の老眼鏡をかけていま
した。男が車につめより何かをいうと、おじいさんはポカンと口を開け
て、何か言ったかというような顔をしています。
男は、一通りの文句を言うと、そそくさとトラックに戻りました。でも
おじいさんは状況がわからないのか、車を前につめようとはしません。
『のれんに腕押し』と悟った男は、早く信号機が青に変わってくれるのを
カリカリしながら、待つしかすべがありませんでした。

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