クローバーフィールド/NAKABlSHA 先崎学vs南芳一 1991年 第40回NHK杯将棋トーナメント

2025年03月19日 | 将棋・名局

 中飛車というのは、明るい戦法である。

 ということで、前回は1991年の第40回NHK杯準決勝先崎学五段が、宿敵である羽生善治前竜王を中飛車で屠った将棋を紹介したが、続けて決勝戦の方も。

 最後に待ち受けるのは、「花の55年組南芳一棋王だが、先手になった先チャンは当然のごとく中飛車に振る。

 

 

 

 羽生戦と似たような形から、この局面。

 銀をくり出したからには、まずは▲54銀のドリブルを考えたいところだが、それには冷静に△56歩と止められていけない。

 足が止まると、△76銀成でいっぺんに押さえこまれそうだが、ここで先崎が、またパワフルなさばきを見せるのだ。

 

 

 

 

 ドーンと▲54飛と行くのが、なんともすごい突撃。

 なんだかヤケのヤンパチのようだが、これが指されてみると、振りほどくのがむずかしいのだ。

 南もビックリしただろうが、△同金しかなく、▲同銀△13角ののぞきに、▲64歩と打って、攻めがつながっている。

 

 

 大駒をぶった切ったあと、美濃の固さにまかせて、小駒でくっついていくというのは、振り飛車必勝パターンのひとつ。

 そこからも先崎は、どんどん攻め駒を倍々ゲームで増やしていき、気がつけばまで使えて、ハイ、それまでヨ。

 


 これには南も、

 


 「ずうっと攻められっぱなしで、全然面白くありませんでした」


 


 時のタイトルホルダーに、そうボヤかせるのだから、いかに先崎のパンチが重かったか、よくわかる。

 これで先崎は20歳NHK杯獲得。

 優勝カップにビールをそそいで飲んでいた写真は、今でもおぼえている。

 先チャンといえば、師匠の米長邦雄永世棋聖に、

 


 「勢いのある将棋を指せ」


 


 と教わったそうで、また稽古のときに(雨の日が多かったそうで、ゴルフが中止になるからだと先チャンは推測している)、を取られそうだから逃げたら、

 


 「バカ、銀が死ぬくらいでぐちゃぐちゃ言うんじゃない。そのくらいで何とかしろ」


 

 なんだか、メッチャ素敵なセリフで、この将棋こそ、まさにそんな内容。

 いつもこんな勝ち方できたら、さぞや楽しいだろうなあ。

 


(中飛車でうまく攻めをつなぐ将棋はこちら

(その他の将棋記事はこちら

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ネパール旅行戦記3 スワヤンブナートの猿と「ゆるキャラ」なブッダアイ

2025年03月16日 | 海外旅行

 ネパールに行ってきた。
 
 ということで、前回に続いて簡単な現地の紹介レポート。
 
 


 ★観光名所
 
 今回はカトマンズの観光名所について。
 
 といっても、前回も言ったようカトマンズはさほど観光的うまみのある街ではない。
 
 カンボジアアンコールワットやら、エジプトピラミッド的な、
 
 
 「これを見に来たんや!」
 
 
 という施設にはとぼしい。
 
 一応、郊外にポタラとか古都みたいなところはあるけど、規模は小さいしカトマンズのダルバール広場と雰囲気は同じなので、無理していかなくていいかも。
 
 とそんなカトマンズの中でも「これは見といた方が」というのをいくつか紹介しておきたい。
 
 


 ★スワヤンブナート
 
 タメル地区から西に3キロほど離れたところにあるネパール最古の仏教寺院
 
 400段くらいある階段を登っていくので、なかなかハードだが、山岳国のネパールでは「どこ行ってもトレッキング」な面もあるので、そこはしょうがない。
 
 ここはが有名で、「モンキーテンプル」と呼ばれるほど、あちこちでウロウロしており、これがたいそう、かわいらしい。
 
 ここのウリはやはりストゥーパに描かれた「ブッダアイ」。
 
 ありがたいとか以前に、アジアにおける信仰の対象は、なぜにてこんなファニーになるのかという不思議。

 

 


 ハヌマーンとか寝釈迦とか。

 だろ、ブッダアイも。なんかのゆるキャラポケモンみたいだ。

 


 

 

 これなんかもそうで、カトマンズのダルバール広場にいるカーラバイラヴ

 破壊の神シヴァの化身で恐怖の神。

 なんでもこやつの前でウソをつくと即死するという伝説があって、なにかあるとここで裁判みたいなものが行われたのだそう。

 閻魔大王とかローマの「真実の口」みたいなもんだけど、それとくらべてやはりポップで楽しそうなのがアジアの味である。

 ちなみに、ネパールは仏教施設が有名だが、国民が信仰しているのはヒンドゥーが多数派。
 
 そこでネパール人に「どっち信じてんの?」と訊いてみると、
 
 


 Both(どっちもやね)」



 
 
 え? どっちもなん? と確認すると、その人は、
 
 


 Sometimes buddha,sometimes hindu(あるときは仏教で、あるときはヒンドゥーなんや)」



 
 
 そう言いながら、道端にあるみたいなものを見つけるたびに、をそえて祈っていた。
 
 本当にどっちも信仰しているのだが、クリスチャンやムスリムではなかなか考えられないところで、そのアバウトなところは実に私好みである。
 
 台湾にある龍山寺というところは、
 
 
 「台湾関係ないけど、なんかめでたいから関羽孔子を祭っている」
 
 
 その「なんでもあり」感で惚れさせられたが、それに次ぐ感動があった。
 
 また、ここではチベット仏教マニ車なる戦車のキャタピラを取り外したような車輪の並びが設置されている。
 
 それをでまわすと「お経を一回唱えた」のと同じ効果があるらしい。
 
 そのライトな感じが
 
 
 「とりあえず、南無阿弥陀仏って言うといたらええねん」
 
 
 という丸投げショートカット感あふれる日本の仏教とも通じるところもあり、私はすっかりネパール宗教のファンになったのだった。

 

 

 
 

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目標をセンターに入れてスイッチ 先崎学vs羽生善治 1991年 第40回NHK杯将棋トーナメント

2025年03月13日 | 将棋・名局

 中飛車というのは、明るい戦法である。

 大砲を戦場の中心にそえ、5筋から戦っていくというのは発想に曇りがなく、なんとも「健全」な戦い方に見える。

 前回は子供のころ感動した「英ちゃん流中飛車」を紹介したが、今回は元気いっぱいな中飛車の将棋。

 


 

 1991年、第40期NHK杯戦の準決勝

 羽生善治前竜王と(当時は竜王や名人を失って無冠になると「竜王」「名人」と呼ぶマヌケな習慣があった)先崎学五段の一戦。

 両者とも、まだ20歳くらいというフレッシュな対決だが、それが決勝進出をかけた一番だというのだから、当時の2人がいかに勝ちまくっていたか、わかろうというもの。

 特に少年時代は両雄並び称されながらも、プロ入り後はタイトル獲得を先に果たされるなど、をつけられた先崎には期するものがあったろう。

 注目の一番となったが、その初手がまた話題を読んで▲56歩

 

 

 

 早くも、

 

 「中飛車で行きゃッス」

 

 という宣言であり、今では久保利明九段菅井竜也八段など振り飛車党の棋士なら普通に指すけど、このころはまだ、相当にめずらしい形。

 人によっては「スタンドプレイ」と取る向きもあったけど、視聴者やNHKスタッフは大盛り上がり。

 そういえば先チャンは、やはりNHK杯で谷川浩司名人相手に、

 

 「初手▲36歩

 

 を披露していたもの。

 

 

 

 ちなみに、この初手▲36歩は先チャンのオリジナルではなく、元女流棋士林葉直子さんが考案したもので、林葉さんは九州大学学生さんのアイデアからヒントを得たとか。

 戦法の出どころはむずかしくて「升田幸三賞」選考のときにも問題になりがちだけど、谷川戦の方はその後、こういう形の力戦に。

 

 

 

 結果は谷川勝ち

 この▲36歩渡辺明九段がやはりNHK杯の今度は決勝丸山忠久九段に披露して、全国放送で2度、話題になったものだった。

 
 
 

 

 話を戻して、先崎-羽生戦は出だしこそ派手だが、そこからはオーソドックスな中飛車になった。

 

 

 

 一目、▲45がつんのめってる感じで、ふつうは▲28玉から▲38銀美濃に囲いたいところだが、△35歩のような「銀ばさみ」の筋が気になる。

 といって、▲36銀みたいにかわす手は、あまりに勢いがなさ過ぎて、指す気になれない。

 なら、ロックされる前にあばれてしまえ、となるのはモノの道理であり、先崎は筋よく動いて行く。

 

 

 

 ▲75歩と突くのが、フットワークのよい仕掛け。

 将棋の攻めは、頭の丸いをねらうのが基本である。

 △同歩▲74歩でイタダキだから、△同銀と取るが、▲55飛と走るのが気持ちの良いさばき。

 △31角と金取りを受けるが、そこで▲75飛といきなりぶった切って、△同歩▲74歩

 

 

 

 流れるような手順で、先崎が手をつないでいく。

 △72飛と桂取りを受けるが、▲73歩成と取って、△同飛▲65桂できれいな両取りが決まった。

 

 

 

 先手が駒得うえに、攻め駒も目一杯使えて、実際の形勢はまだまだかもしれないが、選べるなら先手をもって指したい人が、多いのではあるまいか。

 以下、△74飛▲53桂成△同角に一回▲48銀と、自陣を整備するのが、戦いの呼吸

 △86歩の手筋に、▲65歩と突くのが、また元気いっぱいの手。

 

 

 

 

 △87歩成には▲55角と飛び出すのが、気持ち良すぎることこの上ない。

 なんかねえ、「中飛車って、こういう戦法やよなー」とうなずいてしまう、なんとも楽しい指し回しだ。

 そうして、先崎ペースでむかえた最終盤。

 

 

 

 が至近距離で、こういうところは「逆王手」みたいなカウンターに気をつけないといけないが先崎は見事に仕留めた。

 

 

 

 

 

 

 

 ▲43銀と打つのが、華麗な決め手。

 △同玉▲41飛成

 △同金▲21角が痛打になって寄り。

 本譜は△22玉とよろけるが、▲34桂と王手して、△同銀▲同銀成で先手玉が手厚くなり先崎勝勢

 以下、羽生も△44歩から必死のラッシュをかけるも、正確に対応して逃げ切って、先崎が決勝進出を果たした。

 


(続いて南芳一との決勝戦での中飛車はこちら

(中飛車の気持ちよすぎるさばきといえばこちら

(その他の将棋記事はこちら

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沢木耕太郎『深夜特急』と「野良犬の自由」 ネパール旅行戦記2

2025年03月10日 | 海外旅行

 ネパールの国である。
 
 というのは前回語ったことで、そこいらでゴロゴロして平和。

 特に肉屋とかの前にいる犬はエサが豊富なのだろうブクブク太ってさらに安気だが、たまーにだけどボロボロでやせた犬もいて、それがたぶん野良犬
 
 ということは、ふだん寝ているあの犬くんたちは「飼い犬」なのだろうか。よくわかんないけど。
 
 そういや沢木耕太郎さんの『深夜特急』で、貧相な野良犬を見てかわいそうと言うアメリカ老婦人が登場する。

 自分のペットは専用のホテルに預けているというのを聞いて沢木さんが、
 
 


 「そんなんだったら、ここで野良犬をやっている方が、どれだけ幸せかわからない」



 
 
 なんて心の中で思うシーンがあるんだけど、あれイヤだったなあ。
 
 沢木さん的には
 
 
 「ペットなんかより、野良犬にシンパシーを抱くオレ、ワイルドハードボイルド
 
 
 てことが言いたいんでしょうが、その野良犬もそう思ってるかなんて、わかんないやん。
 
 もしかしたら、
 
 
 「えーなーペットは。飼い主にされて、メシにも不自由せーへんし」

 「そりゃ、束縛もあるっちゃあるけど、飢え死にする潜在的なストレス恐怖より、そっちの方がええんちゃうかなあ」
 
 
 くらいに思ってるかもしれない。
 
 それをなんか「野良犬カッコイイ」とかいう、こう言っちゃなんだが自己陶酔的な価値観に寄せて、勝手に決めつけるってのがなー。
 
 私は『深夜特急』を最低50回は読み返して、他の作品もほぼ全部読んでる大の沢木ファンだから、あえて書いちゃいますが、めっちゃダッセーなーって感じちゃうんだよなー。
 
 野良幸せな犬もいれば、ペット幸せな犬もいるってことでねーの?

 野良だから「自由」で「幸せ」。

 飼われてるから「不自由」で「不幸」

 そんな類型的な考えこそ「不自由」のはじまりでは?

 少なくとも私が野良犬の立場なら、
 
 
 「たしかに自分は自由かもしれないッス。ペットホテル窮屈なんでしょう」

 「でも、そのどっちが幸せかは、アンタでなくてオレ自身に決めさせてもらっていいッスか?」
 
 
 きっとそう「ワイルドでハードボイルド」を気取りたくなると思うんスよ。
 
 沢木さん自身がもしの立場でも、同じように感じるんじゃないかなあ。

 そしてそれが、きっと本当に「自由」ってことだと思うのだ。
 
 

 
 
 
カトマンズ観光編に続く)
 
 
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山口英夫七段が考案「英ちゃん流中飛車」の感動

2025年03月07日 | 将棋・雑談

 中飛車というのは、明るい戦法である。

 大砲を戦場の中心にそえ、5筋から戦っていくというのは発想に曇りがなく、なんとも「健全」な戦い方に見える。

 というわけで前回はゴキゲン」や「矢倉流」「ツノ銀など中飛車について語ってみたが、中飛車で感動と言えばもうひとつあって、それがこの形。

 

 

 

 飛車が中央にいるのに、その5筋突いてないという違和感。

 

 「ま、先に突くのもで突くのも一緒か」

 

 なんておさまっている場合ではない。

 この駒組には見えない深謀遠慮があって、これまた子供のころは「へー」。

 

 

 

 たとえば、ふつうに5筋の歩を突く駒組して、こういう形になったとしよう。

 実はこれが、ここから玉を囲ってから戦いかという悠長な局面ではない。 

 ここから先手は、いきなり▲45歩と仕掛ける手が成立するのだ。

 △同歩▲33角成△同桂▲24歩

 いきなり飛車先を破られそうだが、ここで後手から△46角と打つのが、おぼえておきたいカウンター。

 

 

 

 飛車が逃げると、▲24を取られて失敗だが、ここから先手は▲23歩成(!)の強襲。

 △28角成▲33とを取って、後手はの処置に困っている。

 

 

 △32銀として差し違えるくらいしかないが、▲同と△同飛▲53桂からバリバリ攻めて先手優勢

 

 

 そこに、対抗策として出てきたのがコレ。

 

 

 飛車先不突で待機し、今度▲46歩なら堂々△72銀と締まる。

 かまわず▲45歩なら、△同歩▲33角成△同桂▲24歩△46角▲23歩成△28角成▲33とと同じように進んだとき、なんと△54銀(!)とかわせるのだ!

 

 

 これが5筋を突かない中飛車で、山口英夫七段が考案したことから「英ちゃん流中飛車」と呼ばれている。

 これまた、なにかの本で読んで「ひゃー」と加藤一二三先生のように奇声を上げたものだ。

 うまいこと、考えるもんやなー。

 私は序盤研究が苦手で、定跡本を読むとめまいがするタイプだ。
 
 そこを、こういうアイデアが思い浮かぶ頭がやわらかい人は、きっと「新手」「新戦法」とか創り出すのが楽しいんだろうなあと、なんとも、うらやましく感じるのだった。

 


(先崎学が中飛車で、羽生善治を吹っ飛ばした将棋はこちら

(その他の将棋記事はこちら

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カトマンズの犬は勘定に入れません ネパール旅行戦記1

2025年03月04日 | 海外旅行

 ネパールに行ってきた。
 
 四川航空トランジットホテルには困らされたが、そこはムダに経験値だけは高い私のこと。
 
 ピンチでも「ま、だいたい、なんとかなんねんけどな」という根拠のない自信と、
 
 
 「いざとなったら空港で寝ればええし」
 
 
 というパワープレイを保険にしてミッションをクリア。
 
 普通はこういうとき、現地からリアルタイムでレポートするとか、おいしいお店やユニークなお土産を紹介するとか。
 
 はたまた、美しいヒマラヤの映え写真をアップしたりするのだろうが、人生で「承認欲求」が「めんどくさい」を超えたことのない私が、そんなことをするわけがないのである。
 
 とは言え、せっかく久々に旅に出たのだから、ここでネタくらいにはしないとという貧乏根性もある。

 そこで、旅行記はめんどいから、軽いメモを忘備録がわりにザッと書いていきたい。
 
 
 「これからネパールを旅したい」
 
 「広い世界に飛び出して、新しい自分を発見したい」
 

 
 と思っている方にはプーみたいな内容なので、そういう方々は牛の糞でも踏んだと思って、あきらめていただきたい。

 


 ★カトマンズ
 
  
 ネパールの首都カトマンズは、かなりコンパクトな街。
 
 特に旅行者が集まるタメル地区ホテル飯屋旅行代理店ATMからコンビニにおみやげ屋その他諸々すべてがそろって、生活するだけならここだけで事足りる。
 
 その便利さと物価の安さ、ネパール人のおだやかな気質とあいまって、カトマンズは世界有数の「沈没」地で有名。
 
 「沈没」とは居心地がよすぎて、あるいは「」的なアヤシサあまねきのため、図らずもその地に長期滞在を余儀なくされること。
 
 昔はアフガニスタンカブールインドゴアと並んで「ヒッピー三大聖地」として知られたそうだが、私の世代だと他にもタイバンコクに、インドバラナシ

 エジプトカイロや、ケニアナイロビバリ島など枚挙にいとまがなく、かくいう私もヤングのころバイトしてコツコツと貯めた金で

 

 「ヨーロッパを1周するぞ!」

 

 と意気ごみながら、なぜかパリ1か月もダラダラ過ごしてしまったこともあった。

 ユースホステル(1泊1800円)に泊まって、毎日80円バゲットかじりながら、ひたすら街を歩いていただけだけど、なーんか妙に、居心地のいいところってあるんですよねえ。
 
 ただ、カトマンズはが邪魔でうるさいのと、側道が深くへこんでいるため、を取られて歩きにくいのがタマにキズ。
 
 街歩きが快適かどうかが、個人的なこだわりどころなので、そこが軽くストレスではある。
 
 なので、日中はタメルをはなれてインドラチョーク(カトマンズ有数の商業エリア)をひやかして、疲れたらダルバール広場でのんびりするというのが、黄金コース。

 


 
 ただネパールは物価と比較して、観光地の入場料などがかなり割高

 このダルバール広場も入るのに1000ルピー(約1200円)と、なかなかな額を提示され、

 

 

 

 

 

 

 などと戦慄したが、実は顔写真パスポートを持っていれば「いつでも入り放題」にしてくれるシステム。

 滞在期間に余裕があればモトは取れるわけで、毎日通ってお寺の木陰で昼寝でもするのがよい。
 
 ネパールはバリバリ観光するよりも、ボーっとしながらマイペースで楽しむのが合っている気がするのだ。
 
 あと、カトマンズはの街。昼日中からそこらじゅうで寝ている。
 
 最初は数えようと思ったけど、多すぎて30分ほどであきらめました。

 それくらい犬だらけなので、動物好きの人はどうぞ。

 ただし、ゴロゴロするだけのボンクラ犬ばかりですが。嗚呼、まったく他人とは思えなかったぞ。
 


 (続く

 

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「ゴキゲン中飛車」とか「矢倉流中飛車」とか「ツノ銀中飛車」とか

2025年03月01日 | 将棋・雑談

 中飛車というのは、明るい戦法である。

 大砲を戦場の中心にそえ、5筋から戦っていくというのは発想に曇りがなく、なんとも「健全」な戦い方に見える。

 なんて思ってしまうのは、子供のころに読んだの影響かもしれない。

 はじめて買ってもらったのが、中原誠名人の『絵とき将棋入門』と原田泰夫九段の『将棋 初段への道』だから、たぶんどっちかに載ってたと思うんだけど、こういう局面。

 

 

 

 なんてことない序盤戦だが、子供時代のシャロン少年は次からの手順に度肝を抜かれたのである。

 

 

 

 

 

 

 ▲55歩△同歩▲同飛(!)。

 なんと、いきなり中央の交換したのである。

 中飛車をドーンと活用しながら王手にもなって、それこそ当時の私のような初心者には爽快この上ないが、同時に「待てーい!」ともなったもの。

 そう、この地点には後手のが利いていて、△55同角と取られてしまうのだ。

 かろうじて、駒の動かし方をおぼえただけのガキンチョには意味不明だったが、△55同角には▲同角と取り返す手が、飛車取り▲11角成が両ねらいで、すでに先手が優勢なのだ。

 

 

 これには「ほえー」と子供ながらに感嘆して、

 

 「中飛車って、ノリがええ戦法やなー」

 

 すっかり感動してしまったのだ。

 まあ、こんな感じで、ビギナーはだいたい中飛車が好きだと思うけど、これが時代によってイメージするがちがってたりする。

 今なら中飛車といえば、基本は「ゴキゲン中飛車」。

 

 

 

 先手番なら5筋位取りの中飛車にできるから、さらにいい感じ。

 

 

 

 この▲56銀型に組めれば、まだ序盤なのに「負ける気せんね」と言いたくなる達成感。

 角道を止める振り飛車が好きな人は、矢倉規広七段考案の「矢倉流中飛車」を指すかもしれない。

 

 

ノーマル中飛車から、足早に銀を繰り出して先手に▲66銀型を、強制させるのが「矢倉流」のねらい。
後手はここから△42飛と振り直して(最初から四間飛車にすると△64銀型が作れない)、△45歩からゆさぶり、穴熊を牽制していく。

 

 

 これは余談だが、この「矢倉流」と似た名前に「矢倉中飛車」という戦法もあってややこしい。

 

振り飛車ではなく矢倉急戦模様から飛車を中央に持ってくるのが「矢倉中飛車」。
「固さが正義」だった平成将棋界では、玉がうすいので「勝ちにくい」とされたが作戦としては有力。

 

 こうした進化系もあるが、昔の中飛車といえばこれはもう「ツノ銀中飛車」で、に上がる形をよく見た。

 

 

 

 金銀の配置が美しく、上部に手厚い形で急戦にも強い。

 よく、

 


 初心者の方には四間飛車がオススメ。駒組が簡単で、すぐにおぼえられますよ」


 

 なんてプロがすすめたりするけど、あれってホントかなあと思うこともある。

 そりゃ、飛車振って美濃に囲うだけなら簡単だけど、棒銀とかで来られたときに対応するのって、結構初心者にはハードルが高い気がするのだ。

 たとえば、▲35歩△同歩と取らないところとか、手順としてはマニアックだし、△45歩のタイミングとか、「さばく」とか、ムズくね?

 実際、私の経験でも級位者の振り飛車は急戦で行けば、簡単に勝てたりしたものだ。

 その点、ツノ銀中飛車は▲78が頼もしくて、なかなかつぶれないところがポイントで、むしろ初心者はこっちではないかと。

 ただ、これが個人的には、このツノ銀中飛車には、あまり良い思い出がない。

 というのも、木村美濃がうすすぎて、互角のさばき合いになると舟囲いにすら固さで負けてしまうから。

 私は飛車を振ったら、テキトーにさばかれて(さばくとか、さばき合うではない)、あとは美濃囲いの耐久力にモノを言わせて、ねばりまくって逆転という戦い方だったので、ペラペラの陣形はつらいのだ。

 昭和のころですら居飛車穴熊相手に、あまりに勝ちにくいということで、大山康晴十五世名人大内延介九段森雞二九段あたりがたまに指す程度の「消えた戦法」になっていた。

 中飛車の復活は、その後の「ゴキゲン中飛車」の大ブレイクや、なにげに優秀な「矢倉流中飛車」登場まで待たなければいけないのだから、プロの世界はシビアである。

 

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稲垣美晴『フィンランド語は猫の言葉』で目指せ激芬家!

2025年02月26日 | 外国語

 前回の続き。
 
 私がフィンランド語という言語に、ある種のあこがれを感じているのは一冊ののせい。
 
 それが『フィンランド語は猫の言葉』。
 
 著者の稲垣美晴さんは本の中にもあるが、東京藝大在学中にフィンランドの画家であるアクセリガッレンカッレラの研究のためヘルシンキ大学に留学。
 
 その後は東海大学で北欧文学を教えたり、フィンランドの絵本などを翻訳など精力的に活動された人で、この『猫の言葉』はヘルシンキ大学時代の留学記にあたる。
 
 これがねえ、たぶん大学生くらいのときに読んだんだけど、ハマったのなんの。
 
 具体的な内容は以前に紹介したけど、もうこれはですねえ、やはりこの書を愛読していたという、ロシア語黒田龍之助先生による一言に尽きます。
 
 『世界の言語入門』という本の一節。
 
 


 高校を卒業して進路を決める頃、できることならフィンランド語の専門家になりたいと夢想していた。



 
 
 そうなのよ、この本を読むとみんなそう思うんだ。
 
 黒田先生はこうも書かれている。
 
 


 多くの人が目指さない国に留学して、一生懸命に言語を勉強する。その姿に強い憧れを持った。



 
 
 私が今でも自分のことを「チーム第二外国語」の一員だと自認しているのは、どうもこの『猫』のせいらしい。

 「激芬家」(「激しくフィンランドのことをする人」という意味)というパワーワードが心にヒットしたんですよ。
 
 もっとも、当時はフィンランド語などやろうにも、参考書もなければ辞書もなかった
 
 大学書林の『フィンランド語四週間』くらいで、しかも値段が4500円(!)。
 
 辞書なんてなくて、そういうときは「フィン辞典」を使うとかが定跡なんだけど、自分の英語力で使えるとは思えないし、そもそもどこで売ってるの?
 
 京都丸善とかにあったのかもしれないけど、探す気も起きないし、絶対にバカ高いに決まってるんや!
 
 ちなみに、今調べてみると白水社の『パスポート初級フィンランド語辞典』が定価4,950円(税込)。
 
 日本フィンランド協会の『日本語フィンランド語辞典』が27,500円(税込)
 
 大学書林の『日本語フィンランド語辞典』が定価34,000円(+税)。
 
 どれも高くて、おやつに食べていた、かっぱえびせん噴くわ!
 
 日本フィンランド協会のは1800ページもあるから、かなりオトク感はありそうだけど……。
 
 昔は第二外国語と言えば「経済的に無理」なケースも多かったなあ。 
 
 今はネットで調べればあれこれ出てくるし、各種アプリも充実。
 
 まさに「時は来た」という感じだが、あいさつに簡単な単語など学んだあと、どーんと現れたのがコイツだった。

 

 

 

 

 「talo(家)」という単純な単語が、こんなにも変化する。

 それどころか、こんなのもあったり。

 


 
 
 

 

 ちなみにこれ、「ライコネン」さんという人名の活用表。

 よく、ロシア語が人の名前変化すると言って恐れられているが(「ラスコーリニコフ」「ラスコーリニコワ」みたいな)、どんだけ変化すんねん!

 てことは、どーせ他にも名詞動詞形容詞数詞も、なんでもかんでも変化するに決まってるんや!

 トランスフォーマーか! フィンランド語の活用表。えげつなすぎる。致死量や。
 
 はあ(ため息)。なるほど、みはるちゃんも本の中で「フィンランド語むっず!」ってボヤくはずや。
 
 まあ、こういうのは千里の道も一歩から。

 ここに発動された「ウコンネミ作戦」により今日も今日とて、
 
 
 「ミナ・オレン、シナ・オレット、ハン・オン……」
 
 
 嗚呼、「激芬家」への道、果てしなく遠し。

 

 

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「激しくフィンランドのことをやる人」に憧れた日々

2025年02月25日 | 外国語

 フィンランド語を、ついに初めてみることになった。
 
 このところ私は、
 
 
 「世界のあらゆる語学をちょっとだけやる」
 
 
 ということにハマっている。
 
 ここまでフランス語ドイツ語(学生時代の復習)、スペイン語ポルトガル語
 
 アラビア語挫折したが、トルコ語イタリア語もクリアし、オランダ語も少しかじった。
 
 そして、ついには「ハイエンシェント」ことラテン語もやってと、チョコザップならぬ「チョコ語学」である。
 
 まあ学ぶと言っても、せいぜいが1か月か2か月ほどで、身に付くのも「中1レベルの文法と単語」くらいなものだが、こんなもんでも、
 
 


 Çoğu kertenkele adam solaktır.
 (リザードマンの多くは左利きです)
 
 Primogenitus larva gummi indutus apparuit.
 (長男はゴムのマスクをかぶって登場しました)

 Japanse soldaten zijn de sterkste ter wereld omdat ze misosoep drinken.
 (日本の兵隊さんが世界一強いのは、みそ汁を飲んでいるからです)


 
 
 くらいなら理解できるのだから、なかなかのものではないか。
 
 「飽きたらやめる」がルールなので、ラテン語からそろそろに移行しようと、ここでついに「あの言語」に手を出すときが来たようだ。
 
 それが、フィンランド語
 
 というと、フィンランド語はいいとして、なぜにて「ついに」などという大げさな副詞がつくのかと問うならば、これがいくつか理由がある。
 
 それはまず、フィンランド語が「インドヨーロッパ語族」ではないということ。
 
 われわれにとって、まずなじみのある外国語と言えば、これはもう英語なのである。
 
 続けて、大学に行った方ならフランス語ドイツ語といった第二外国語に苦しめられた記憶もあろうが、実はこれらは違う言語のように見えて元は同じ
 
 古くはインドサンスクリット語から、ペルシャ語とかラテン語とかロシア語とか。
 
 そういった諸々の一見関係なさそうな言語は、これすべて「インド・ヨーロッパ語族」という「大家族」に分類されるのだ。
 
 といっても、年月や地理的な分断で、流れ流れて全然別物にはなっているけど、語順とか、なんとなく似た単語が多かったり。
 
 変遷の仕方をたどっていくと共通するものがあったりと、細くともつながりがある。
 
 なので、それが多少は学習の助けになったりするのだが、これがドーンとフィンランド語は「ウラル語族フィンウゴル語派」。
 
 全然違ってて、それこそ北欧と言えばノルウェースウェーデンデンマークフィンランドと並ぶが、最後だけ他の3つとくらべて相当に異質
 
 


 ありがとう
 
 
 ノルウェー語「takk」
 
 スウェーデン語「tack」
 
 デンマーク語「tak」
 
 フィンランド語「kitos


 「
 
 
 ノルウェー語「hund」
 
 スウェーデン語「hund」
 
 デンマーク語「hund」
 
 フィンランド語「koira

 


 「
 
 
  ノルウェー語「bok」
 
 スウェーデン語「bok」
 
 デンマーク語「bog」
 
 フィンランド語「kirja



 
 
 全然ちがうやん!

 てゆうか、他の3つが似すぎというか、ほとんど三つ子なんだけど、それにしたって「四段オチ」かと疑いたくなるくらい変わってる。
 
 しかも、フィンランドではスウェーデン語公用語なのに、まったくちがう。どうなってんの?
 
 これにですねえ、私はちょっとビビってしまっていたのだ。
 
 というのも、イタリア語の前にトルコ語をやろうとしたのだけど、これに大苦戦したせい。
 
 言語というのはドイツ語オランダ語とか、スペイン語ポルトガル語のように、言語的だったり地理的だったりが「近い」と学習しやすい。
 
 それは日本人にとって、読むだけなら中国語がそんなに怖くないのとくらべて、欧米人アラビア人には漢字悪夢になるのと同じ。
 
 英語やドイツ語の知識や、経験をまるで生かせないフィンランド語やトルコ語に、いつの間にか苦手意識のようなものが宿ってしまっていたのだ。
 
 しかしだ、そんな困難を乗り越えるほどに、私は、いやおそらくは同世代から少し前くらいの「第二外国語」学習者はフィンランド語というものに、あこがれのようなものを抱いている。
 
 それは、ある一冊のの存在。
 
 タイトルは『フィンランド語は猫の言葉』。


 
 (続く

 

 

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ブリティッシュ作戦 近藤誠也vs中田宏樹 2020年 B級2組順位戦 その2

2025年02月22日 | 将棋・名局

 前回の続き。

 2020年B級2組順位戦

 他力ながら昇級に望みをつないで、最終戦で中田宏樹八段と戦うのは近藤誠也六段

 勝ったうえで、順位上位横山泰明七段が負けてくれないと上がれない立場だが、まずはとにもかくにも自分の将棋だ。

 

 


 
 


 先手の近藤誠也が相矢倉脇システムからを作ると、中田宏樹はそれにをかけていく展開。

 ただ馬を助けるような手ではつまらないと、先手は一気呵成に飛びこんでいく。


 
 
 
 
 
 

 ▲46銀△52金▲同馬△同飛▲35歩
 
 この際、はくれてやってしまうのが、この形のポイント。
 
 駒損ではあるが、後手は王様の守備隊長である△32をはがされ、横腹がすこぶる寒いのである。
 
 そこですかさずをくり出し▲35歩
 
 
 「矢倉はに攻めた方が有利」
 
 
 と言われるが、まさにその格言通りの速攻だ。
 
 中田は△32飛とまわって3筋に勢力を足す。
 
 そこで近藤は急がず、一回▲15歩と端を詰めて間合いを図る。
 
 
 
 
 
 
 後手に有効な手がないことを見越して、マイナスになりそうな手を指させてから襲いかかろうという高等戦術

 かつては羽生善治九段が得意とした緩急のつけかただが、今ではすっかり「手筋」のひとつである。
 
 もちろん、のちの端攻めも見越してのことで、次の手が△84銀なのだから、飛車の応援のない棒銀よりも端歩の方が価値が高いのは一目瞭然だ。
 
 先手は▲37桂と攻め駒を足し、後手はその手を待ってから△35歩と取る。
 
 桂頭がうすいが、かまわず▲35同銀と取って、△36歩はその瞬間に▲24歩からバリバリ攻められて持たないと見たか、中田は△59角とこちらから反撃。


 
 
 
 

 これがイヤな形で、先手は桂取りを受けるのがむずかしい。
 
 ▲27飛▲38飛は、もう1枚のを打たれていじめられそうだし、▲38歩とはとても打つ気になれない。
 
 ▲24歩と行くのも、今度は守備に利いてくるため通るかどうか微妙なところ。
 
 対処を誤ると、いっぺんに切れ筋におちいりそうなところだが、次の手が力強かった。

 

 


 
 
 
 
 
 ▲36金と打つのが意表の1手。
 
 攻めに使いたいを、ここで自陣に投資するのはもったいないようだが、これが手厚い対応だった。
 
 今度は好機に▲58飛などとされると、後手のが危ない形。
 
 そこで△39角と先に飛車をいじめに行くが、▲29飛と引いて、最悪どちらかのとの交換が保証されたのは大きい。
 
 △48角成▲34歩を一発利かし、△同金に居酒屋の店員のごとく「よろこんで!」と▲59飛と取って、△同馬▲43角


 
 
 
 
 
 
 責められそうな飛車をキレイにさばいて、そのが敵陣にクリーンヒット
 
 △31飛▲14歩と突くのが、またリズムのよい攻め。

 

 

 

 

 細い攻めをこうしてつないでいくのが近藤は得意で、本人も

 


 「自分らしい一手」


 

 と満足の展開。ここからは先手のペースだろう。

 △同歩▲同香一歩補充して、△35金▲同金△14香▲34歩が「一歩千金」の好打。

 

 


 
 △42銀▲52角成
 
 
 「固い、攻めてる、切れない」 
 
 「後手玉だけ終盤戦」
 
 
 という、いわゆる「勝ちやすい」パターンに入った。

 

 

 勝負はいよいよ最終盤。

 中田もを使ってなんとかを遠ざけ、スキを見て△38飛と反撃。

 次に△69馬△37飛成が入れば後手も相当だが、次の手が教科書通りの決め手である。

 

 


 
 
 
 
 
 ▲24歩と突くのが、「筋中の」という形。
 
 こういう第一感の手が通るということは、すでに寄り形ということだ。
 
 △同歩▲23歩とタタいて、あとはむずかしくない攻めで充分勝てる。
 
 それにしても、あの受け一方のようなが、こうなると敵玉を押しつぶす鉄球として大活躍しているのがすばらしい。
 
 近藤が快勝で、これでキャンセル待ちの権利を手に入れる。
 
 その一方で自力だった横山敗れ、近藤はデビューからたった4期B1までかけ上がったのだった。
 
 


 (近藤誠也の「ガチ」についてはこちら

 (近藤と羽生の大熱戦はこちら

 (その他の将棋記事はこちらから)
 
 
 
 
 

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昇級まであと二百時間だ 近藤誠也vs中田宏樹 2020年 B級2組順位戦

2025年02月21日 | 将棋・名局

 近藤誠也が爆発した。

 2015年19歳四段になると、初出場の王将戦でいきなりリーグ入りを決める棋士人生ロケットスタート
 
 それどころか「A級以上の難関」との誉れ高い王将リーグで残留こそできなかったものの、豊島将之七段羽生善治三冠(王位・王座・棋聖)を破る金星
 
 特に羽生戦に関しては、これで羽生は20年かぶりくらいのリーグ陥落を喫することになったのだから、かなりインパクトの強い勝利だった。
 
 その後も王位リーグに入ったり、順位戦藤井聡太七段に頭ハネを食らわせるジャイアントキリングを披露しながらハイスピードでB級1組に到達。
 
 アベマトーナメントでも無類の強さを発揮し、同門でいつも指名していた渡辺明九段から、
 
 


 「うちのエース
 
 「誠也がいれば2勝、いやワンチャン3勝も計算できる」



 
 
 とまで絶賛されるほどの大活躍ぶりだったのだ。
 
 そんな男なので、ここからはA級タイトル待ったなしかと思いきや、そこでやや足が止まる。
 
 勝率は高く、竜王戦で本戦出場や2度目王将リーグ入りを果たし4勝するなど、しっかり結果も出しているが、彼ほどの男ならやはり「もっと」と貪欲な目で見てしまうのがファン心理というものだ。
 
 ともかくも、まずはA級にというところだったが、今年のB級1組順位戦では安定して強く、最終戦前に早々と昇級を決めて停滞を5年で止める。
 
 また今期は朝日杯でも勝ち上がり、決勝で井田明宏五段を破って、ついに棋戦初優勝を果たしたのだった。
 
 A級全棋士参加棋戦の優勝となれば、これで一流への足がかりは完全にできたというもの。
 
 大きいところではNHK杯ベスト4に残っていて、ここも取れば「藤井独裁」の時代に大きな風穴を開ける候補に一気に躍り出ることになれそうだが、今回はそんな上り調子な男の将棋を。


 
 
 2020年B級2組順位戦最終局。
 
 中田宏樹八段近藤誠也六段の一戦。
 
 この期のB2は5戦目を終えて丸山忠久九段全勝で首位を走り、それを順位上位の横山泰明七段村山慈明七段1敗で追走。
 
 1期抜けをねらう近藤は順位下位ながら1敗で追い、6戦目では村山と、8戦目では横山と当たっているため自力でこそないもののチャンスは充分であった。
 
 その通り村山との直接対決を制した近藤は、他の1敗勢が敗れたことで一気に浮上
 
 ところが、自力昇級の権利を手に入れて戦う横山戦で痛恨の1敗を喫し、またも圏外に転落
 
 残り2戦連勝し、横山2連敗しなければ逆転できないという崖っぷちに追いこまれたが、続いてラス前の鈴木大介九段戦にしっかり勝ったのはさすがというところ。

 ふつうはリーグ後半で直接対決を落とし、しかも順位が下位と会っては、「試合終了」としたものだが本人からすれば、

 


 「それが良かったのかは分からないが、残りの2戦は何も気にすることもなく伸び伸びと指せたように思う」


 

 このあたりの心理的な交錯が、順位戦のアヤだ。

 逆に圧倒的優位に立った横山は田村康介七段に敗れており「もう諦めていた」という近藤だが、かろうじて望みをつないだ。

 他力ながら目を残して中田戦に挑む最終戦は、先手番で相矢倉を選択。
 
 むかえたこの局面。
 
 


 
 
 
 脇システムから近藤がを作ったが、中田は金銀でそれにプレッシャーをかけていく。
 
 このままだと虎の子の馬を殺されそうだが、もちろんそれは先手の読み筋である。

 

 (続く

 

 

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ネパール旅行戦記 四川航空の無料トランジットホテル 乗り継ぎの手荷物どうする問題 

2025年02月18日 | 海外旅行

 四川航空の無料トランジットホテルは「ロンダルキアへの洞窟」並みに苦戦した。
 
 前回はホテルにたどり着く「模範解答」だけサックリお届けしたが、それはあくまで「ダイジェスト版」で実はチェックインできるまで、迷いに迷い大変であった。
 
 マジでそこまでのトライアルエラーがハンパではなく、実際にくわしくレポートしたら、ちょっとした「サーガ」になるほどなのだ。
 
 なので、解答編をお届けできてホッとしてるのだが、もうひとつだけ補足情報を。 
 
 四川航空のカトマンズ行き便の特徴に、行きではしつこいほど
 
 


 「成都で荷物を受け取ってください。カトマンズまで持って行ってはくれません」



 
 
 と念を押される。

 よくはわからないが、カトマンズまでダイレクトでは運んでくれないのだ。

 これにはネットでも「ありえない!」「不便すぎる!」と怒っている方もおられたが、まあ安いチケットとはこういうものである。

 ところが、ややこしいことにこれが、帰りの便では成都1泊しても、カトマンズから関空までダイレクトに送ってくれる。
 
 なんで? チェックイン時に「関空までダイレクト」って言われて、そのタグをバックパックにつけられたときは、これまたあせった
 
 
 「行きは成都絶対に荷物を受け取れって言われたけど、帰りはいいの?」
 
 
 というのを英語で質問するのが大変で、これまた大汗をかくことに。
 
 もし、荷物を受け取らなかったことによって、成都でのトランジットゴチャゴチャ言われないか?
 
 実際、乗り継ぎの滞在許可を取るとき、いかにも警察軍隊かという雰囲気のスタッフに、えらいこと高圧的な態度を取られたのだ。
 
 
 「なに? 荷物は持ってない? それで1泊するっておかしくないのか? であえい曲者め!」
 
 
 なんてことになって、
 
 
 スパイ容疑で邦人拘束
 
 
 なんてことにならないのか。もうビビりまくりである。
 
 しかも、むこうは「問題ない」ことを知ってるから、こっちの英語の下手さに加えて、
 

 「関空に直接運べるのに、その当たり前のことを、なんで質問してるのか?」


 そこをわかってもらうのも時間がかかった。

 いや、だから行きは「絶対に荷物を受け取れ」ってカツアゲされたんスよ!
 
 それが伝わらない上に、なぜ行きはそうなってるのかわからないから理由も説明できず大混乱

 四川航空、めんどいことせんといてよ! それか「帰りは荷物受け取らなくていいです」って、あらかじめ言うといて!
 
 まあ、問題なかったのはよかったけど、こっちは帰りも荷物は成都で受け取るつもりだったから、着替えとかはバックパックに入れたまま。
 
 おかげで、ホテルでパンツを履き替えられなかったのは痛恨であった。でなくてよかった。
   
 こんなてこずるのは、私が抜け作なのもあるのだろうが、中国がまだ「観光国」として不慣れなところもあるのではないか。
 
 成都天府空港インフォメーションセンターでは英語が通じないし(翻訳アプリで会話はできる)、「よくわからない」ことが多い。
 
 その証拠に、成都天府空港での乗り継ぎカウンターや滞在許可書を取る事務所とか、ホテルの送迎バスの中とかで、白人旅行者がみな一様に不安そうだったことがあげられる。
 
 ヨーロピアンたちは英語が得意な人も多いし、そのせいで情報量も豊富。
 
 また、事前にかなり現地のことを調べているので、基本的には旅先であわてたりパニックになったりしているのを見ないのだが、中国では本当にバタバタしていた。
 
 そこは日本人とちがって「文字が読めない」というディスアドバンテージがあるわけだが、とにかくバタバタ走り回ったり、迷子の子どもみたいにキョロキョロしたり、めずらしいなーと思ったものだった。
 
 その意味では、日本人の私の苦戦など存外にたいしたことはなかったのかもしれないが、かくのごとく、なかなかにの多い中華系航空会社
 
 安いし、飛行機自体もなんの問題もないけど、「はじめての海外」にはオススメできないかも。
 
 ただ、成都の中国人はみんな親切で、もう寄ってたかって助けてくれたので
 
 
 「人情で限界突破」
 
 
 という手もありそうで、「悲しそうな顔」とかが得意な人にはオススメかもしれない。

 


 (カトマンズ編に続く)
 

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端歩は心の余裕 羽生善治vs米長邦雄 1992年 第33期王座戦 挑戦者決定戦

2025年02月15日 | 将棋・好手 妙手

 「端歩は心の余裕です」

 

 という言葉をかつて残したのは、島朗九段であった。

 正確には、島がまだ奨励会にいたころ、幹事だった真部一男九段が言ったそうだが、似たような格言である、

 

 「手の無いときは端歩を突け」

 

 よりは、少しばかりポジティブな感じ。

 いそがしそうな局面で、悠然に手をかけるというのは、たしかに「余裕」がないと指せないかもしれず、

 

 中原の▲96歩

 「羽生の▲96歩

 

 のように、ただなんとなく端を突いただけに見える手が、実は絶妙手だったりするケースもあるのだ。

 このように、まさに端歩は「余裕」をカマすことによって、相手のペース乱す効力もあるわけだが、時には一撃で相手を倒すという、おそろしい場合もあるわけで……。

 


 

 1992年の第40期王座戦挑戦者決定戦

 羽生善治棋王と、米長邦雄九段の一戦。

 後手番になった羽生の矢倉中飛車から、力戦調の相居飛車に。

 

 

 

 

 図は米長が、▲46歩と合わせたところ。

 △同歩▲同銀で調子がいいし、かといって放っておくと、▲45歩を取られるし、▲45桂の跳躍もある。

 なら、△65歩△86歩で攻め合いに出るのが、居飛車党の呼吸かなと見ていると、次の手が意表であった。

 
 

 

 


 △14歩と、ここで端歩を突くのが好手だった。

 と言われても、イマイチなんのこっちゃだが、どうしてどうして。

 この手には、おそろしいねらいがあるのだ。

 といっても、それが実現するのが、なんとこの30手近く後。

 それでは私のような素人が、置いてけぼりになるのも無理はないわけである。

 △14歩に、米長は▲45歩と大きな位を取るが、そこで羽生も△95歩▲同歩△86歩▲同角△65桂と華麗な反撃を見せる。

 以下、羽生の猛攻を米長が受け止める展開になるが、急所の局面がここだった。

 

 

 

 △59歩成と、と金を作ったのを、王様自らで受け止める。

 いかにも危険に見えるが、後手の攻め駒も2枚しかなく細い

 下手すると簡単に切れてしまいそうな感じだが、次の手が絶妙だった。

 

 
 

 

 

 △22角と引くのが、一撃必殺の手。

 これだけ見ればハテナだが、ここで先の△14歩が、まさかの輝きを見せることがわかる。

 そう、次に△13角とのぞけば、それが遠く▲68にいる先手の王様をスナイプして、一瞬で受けがなくなるのだ!

 

 

 

 もちろん、はるか前に着いた端歩は、この手を見越してのことで、

 

 「いやあ、端が突いてあって、ラッキーでしたわ」

 

 というレベルの話ではない。

 すべてが読み筋なのだから、恐れ入るしかないではないか。

 米長は▲76銀とはらって、△13角▲67玉と、きわどくかわすが、そこで今度は反対側から△35歩と突く。

 

 

 

 ▲同桂△34銀と攻め駒を責めて、▲46金△86歩と突いて、▲同歩△58と、と捨てるのが軽い好手。

 ▲同玉△86飛とさばいて一気呵成

 

 

 さっきまで細く見えた攻めに、飛車が参加してきたうえに、質駒まで確保できて、これは切れない形だ。

 以下▲67玉のふんばりに、△57銀成▲同玉△76飛と大暴れして後手勝勢

 五番勝負でも、福崎文吾王座ストレートで下して二冠になるのだった。

 


(その他の将棋記事はこちらから)

 

 

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ネパール旅行戦記 四川航空の無料トランジットホテルを探せ!

2025年02月12日 | 海外旅行

 ネパールに行ってきた。
 
 というわけで、まずは四川航空無料トランジットホテルへの行き方をレクチャーしてみたい。
 
 というと、おいおいちょっと待て、なんでそんなものを取り上げるんだ。
 
 ネパールに行くんなら、カトマンズ観光情報とか、トレッキング体験記とか、そういうのを書かんかいという意見はあるかもしれないが、ぶっちゃけ、そのあたりに関してはどうでもいい
 
 これはマジな話、今回の旅はこの「無料トランジットホテル」こそが最大のクライマックスであり、この情報をお届けするためだけに、この旅は存在するとすら言っていいかもしれないのだ。
 
 と書くと、中華系航空会社1泊トランジットをした人以外の全人類はポカーンだが、ここで苦戦した人には、これ以上なく力強く

 

 「そうなんよなー」

 

 うなずいていただけることだろう。

 物語は関空発で中国成都経由、カトマンズ行きのチケットを四川航空で購入したところから始まる。
 
 成都で13時間ほど待つ、価格は11万円

 本当は直行便か、東南アジアor香港経由で行きたかったが、ベストシーズンの11月ということか高くて買えなかった。

 13時間待機は一見しんどそうだが、中華系航空会社(中国国際航空厦門航空)は安いうえに、乗り継ぎ時に無料トランジットホテルを取ってくれるのが売り。
 
 私もここに釣られたのだが、実はそこまでたどり着くのが「ロンダルキアへの洞窟」くらいムリゲーということを、このときは知らなかった。

 人によってはアッサリとクリアできるみたいだけど、成都天府空港(あるいは成都双龍空港)で途方にくれた人に最短距離でのクリア方法だけ教えると、

 


 日本から、ホテル電話番号を事前に調べておく」

 
 
 

 「親切中国人空港スタッフに頼んで電話してもらい、予約の確認と送迎バス乗り場を教えてもらう」

 
 ↓
 

 「あらかじめ『このバスは〇〇ホテルに行きますか。行くなら乗せてください』と中国語でメモしてもらい(あるいは翻訳アプリで出して)、それを来るバスごとに運転手に見せれば完璧



 

 ちなみにわれわれは、四川航空から「予約は取れました」と言われたものの
 
 
 写真の場所にあるカウンターで詳細を聞いてください」
 
 
 メールで教えられたところに行ったら、なにも指示されず、「go out」と、ただ空港のに出さされ茫然

 どこだれに、何回聞いても「go out」。
 
 なんの説明もなく問答無用で追い出され、ホテルへの行き方もわからず、成都の街のこともまったく知らない。
 
 着いたのが夜の8時ごろで外は暗いし、そもそも予約が取れてないかもと疑心暗鬼になったり。
 
 いまだになにが問題で、なにが正解だったのかも不明
 
 そこであれとれと試行錯誤の末、なんとかたどり着いたのが上記の模範解答になり、旅行中、ヒマな時間にYouTubeブログnoteなどで同じ目に合った人の情報を総合して「答え合わせ」をして確認したから、たぶんこれで大丈夫

 あと気をつけたいのは、キャッシュレス社会の中国では、あらかじめalipayなどを用意しておかないと、タクシーにも乗れないし食事もできない。

 クレジットカード使えないし、ホテル近辺の食堂では一応使えるけど、3割増しの料金なうえ、店によっては使えないところも多い。

 実際あるYouTubeでも、こちらは北京でホテルにたどり着けなかった人は私と同じく、
 
 
 「クレカあるからなんとかなるやろ」
 
 
 と高をくくっていたせいで、メシも食えず飲み物も飲めず、ヒドイ目にあっていた。

 食事の必要がある人は、あらかじめ空港内セブンイレブンでお菓子やカップ麺などを用意しておくのが吉。
 
 こちらはクレカが使える。これはメッチャ重要。外に出ると、どこでも使えないのだから。
 
 食料に関しては、たぶん電気ポットがホテルにあるからラーメン類は食べられるけど、冷蔵庫はないので、ドリンク類は注意。
 
 中国は「冷やすのは良くない」という食文化なので、これはしょうがない。

 そんな激ムズなミッションだったが(ヒントも正解もないというのがダルすぎ!)、ホテル自体は最高だった。
 
 部屋は広く清潔で、各種設備にアメニティも充実し、これがタダなんて言うことなし。
 
 それで気が抜けたわけでもないが、翌朝に空港への送迎バス(1時間に1本)に乗り遅れてビビる。
 
 あやうく飛行機に乗れないところだったが、これは寝坊とかではなく、とにかくが多かったこと。
 
 中国は人口が多い国なのは知っているが、そのせいかホテルも山ほど宿泊客がいて、エレベーターがいつまでたっても来ない
 
 たまさか来ても、人がギュウギュウで乗る余地もなく見送り
 
 そのせいで、わずか数分のタッチの差で乗れなかったのだ。
 
 幸い時間に余裕を持ってたから、なんとかなったけど、なれてないとこういうときに焦るのだ(私は中国に行ったことがなかった)。

 かくのごとく、なかなかに難ミッションだったホテルクエスト。
 
 まあ最悪、空港夜明かしすればよくて、そうした人もいるそうだけど、若いときならともかく、今はしんどいなあ。

 


 (成都の空港で手荷物どうする問題編に続く)

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「村山聖を来させる一手だった」と神谷広志は言った

2025年02月09日 | 将棋・雑談

 「敵に塩を送らない」行為をどうとらえるべきなのか。
 
 先日のNHK杯で、足のケガにより椅子対局を余儀なくされた渡辺明九段に、もし対戦相手の佐藤康光九段が、
 
 
 「椅子とか、マジでないわー」
 
 
 拒否したらどうなるのかなと妄想したところから、囲碁の少し似たケースの話に飛んだ。
 
 不運な交通事故大ケガをし、車椅子に乗ってタイトル防衛戦を戦う趙治勲棋聖に、
 
 


 「規定通りに畳で打ちたい」



 
 
 そう要求した挑戦者、小林光一名人のエピソードだ。
 
 人によっては
 
 
 「小林はヒドイ男だ」
 
 「やさしさが足りない」
 
 「そこまでして勝ちたいのか」

 
 
 などと思われるかもしれないが、将棋のプロ棋士である河口俊彦八段によると、
 
 


 勝負師らしくすっきりと割り切れている」
 
 「勝負事はこういうケースで、堂々と主張したほうがたいてい勝って、不満を飲みこんでガマンしたほうが負ける



 

 
 とのことで、特に「堂々と主張」うんぬんは、実際はどうか知らないが河口のに頻出する哲学である。

 その他、囲碁将棋の本や棋士のインタビューから見るに、その多くは小林名人正直なやり方にシンパシーを抱くようだ。
 
 そこで、それ以外にも似た話があったようなと記憶を探ってみると、同じ河口八段の本にありました。
 
 『一局の将棋一回の人生』という本の中にあったエピソードだが、ある日河口が連盟に来ると、控室から大きな声が聞こえた。
 
 その内容というのが、
 
 


 「オレはなんて甘いんだ。来させる一手だった!」



 
 
 来させるとはだれのことかと問うならば、これが若き日の村山聖九段
 
 村山といえば、大崎善生さんの著書『聖の青春』や映画化された作品でご存じの方も多いと思うが、小さいころから腎臓病を患い闘病生活を送りながらの棋士人生だった。
 
 村山は不戦敗を嫌っていたから、どんなに体調が悪くてもなんとか対局場に出かけたが、それでもときには、いかんともしがたい日もある。
 
 そんな村山がC級1組時代に、やはり若手時代の神谷広志八段と対戦することとなった。
 
 平常なら後輩、あるいは格下の棋士が遠征するわけで、このときは神谷の所属する関東での対局。
 
 ただそこは、村山の事情は皆が知っているので、事務局がおもんばかって神谷に「関西で対局してくれないか」と水を向けたわけだ。
 
 やはり事情を知る神谷は、なんということもなく承知して、ここまでならよくある「いい話」だが、その後しばらくして「しまった!」とが出たわけだ。
 
 では、なぜ神谷が一度はこころよく承諾した遠征を悔やんでいるのか。

 それは別に移動が大変で不利になるとかそういうことではなく、どうも仲間から「甘い」と思われるのではないかと、怖れてのことらしい。
 
 これが、われわれの感覚だと神谷の評価上がるように見える。
 
 相手の体調を気遣って、わざわざ新幹線に乗ってアウェーの地へおもむくなどがでかいじゃないか、と。
 
 ところが勝負の世界はそうではないらしい。
 
 もしここで神谷が負けでもすると、それは「組みやすし」と判断される恐れがある。

 周りのだれかが、声をかけるかもしれない。

 
 
 「神谷さん、村山くんの体調をおもんばかって、とってもやさしいんですね」
 
 
 でもそれは神谷にとって褒め言葉として響かない
 
 そのにある「本当の意味」が理解(妄想)できるから。
 
 神谷は、やさしい。
 
 じゃあ、そんな甘っちょろいヤツに、もうオレが負けることとかねーよな、と。
 
 これは決してただの妄想ではなく、たとえば若手棋士は仲間内のお金などのやり取りに大変シビアだという。
 
 以前、佐々木勇気八段が仲間と(千田翔太八段だったかな)と食事をしたときに、定食のフライかなにかおかずがあまった事があった。

 ふつうなら、だれかに「よかったら食べていいよ」とでもなるところだが、棋士たちは頑なにそれをしない

 同席していたスタッフが、じゃあサラダとかデザートとか他の軽めの一品と交換すればと提案したが、それも却下。

 同じメニューを選んでいるのに、「フライをあげる」「サラダやデザートと交換する」では、そこにある「パワーバランス」がくずれるから。

 彼らはしつこいほど、そこに等価交換というか、「対等であること」を重視する考えを持ちこむのだ。

 細かいところは、さすがにおぼえてないが、だいたいがこういう感じのおはなし。
 
 これは一見、「個性派」佐々木勇気の「おもしろエピソード」のようだが、実は将棋界ではよく聞く「あるある」だ。
 
 彼ら彼女らは「借り」を作ることを極端に嫌い、支払いも1円単位で勘定を割っていたりする。
 
 そのことによる「余裕」あるいは「引け目」のようなものが、勝負影響すると警戒してのことだ。
 
 われわれから見れば「考えすぎ」でも、彼ら彼女らにとっては切実な問題。
 
 まさに今回は情けをかけられた側の村山聖も仲間と飲んでいたとき急性アルコール中毒で倒れたことがあったが、救急車に乗せられながら、
 
 

 「キミに借りを作りたくない」


 
 
 同乗していた(まさに救急車を呼んだその人の)先崎学九段に飲み代の自分の分を払おうとしたそうだ。
 
 これにはさすがの先チャンもドン引きしたそうだが、それでも、
 
 

 「ライバルに借りをつくりたくないという気持ちはわかるが」

 
 
 その部分では理解を示している。
 
 また、借りと言えばこんな話もある。
 
 昭和のころ、家庭の事情でどうしてもお金が必要になり、理事になんとかと頼みこんで対局料を前借した棋士がいた。
 
 理事もそういうことならと、金を工面したそうだが、なんとその後その金を借りた棋士は経理担当の棋士に、まったく勝てなくなったのだ!
 
 できすぎた話だが、なんとなく想像はつく。
 
 将棋はメンタルのゲームだ。こういう気持ちの正負が土壇場でのエンジンのかかり具合に影響がないとは言えまい。
 
 そういうキツイ光景を山ほど見てきたであろう神谷の
 
 

 「来させる一手」


 
 
 ということなのだろうが、一回は引き受けながら、それを悔やむ「甘い」神谷広志は非常に人間くさく魅力的だと言ったら本人は怒るだろうか。
 
 なんか、すごくカワイイですやん。
 
 ちなみに、気になって今調べてみたら、神谷はC1で2回対戦して、「天才村山」相手にしっかりと2連勝
 
 嗚呼、神谷広志はやさしいうえに、カッコイイ男だったか!
 
 
 
コメント
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