中飛車というのは、明るい戦法である。
ということで、前回は1991年の第40回NHK杯準決勝で先崎学五段が、宿敵である羽生善治前竜王を中飛車で屠った将棋を紹介したが、続けて決勝戦の方も。
最後に待ち受けるのは、「花の55年組」南芳一棋王だが、先手になった先チャンは当然のごとく中飛車に振る。
羽生戦と似たような形から、この局面。
銀をくり出したからには、まずは▲54銀のドリブルを考えたいところだが、それには冷静に△56歩と止められていけない。
足が止まると、△76銀成でいっぺんに押さえこまれそうだが、ここで先崎が、またパワフルなさばきを見せるのだ。
ドーンと▲54飛と行くのが、なんともすごい突撃。
なんだかヤケのヤンパチのようだが、これが指されてみると、振りほどくのがむずかしいのだ。
南もビックリしただろうが、△同金しかなく、▲同銀、△13角ののぞきに、▲64歩と打って、攻めがつながっている。
大駒をぶった切ったあと、美濃の固さにまかせて、小駒でくっついていくというのは、振り飛車必勝パターンのひとつ。
そこからも先崎は、どんどん攻め駒を倍々ゲームで増やしていき、気がつけば角まで使えて、ハイ、それまでヨ。
これには南も、
「ずうっと攻められっぱなしで、全然面白くありませんでした」
時のタイトルホルダーに、そうボヤかせるのだから、いかに先崎のパンチが重かったか、よくわかる。
これで先崎は20歳でNHK杯獲得。
優勝カップにビールをそそいで飲んでいた写真は、今でもおぼえている。
先チャンといえば、師匠の米長邦雄永世棋聖に、
「勢いのある将棋を指せ」
と教わったそうで、また稽古のときに(雨の日が多かったそうで、ゴルフが中止になるからだと先チャンは推測している)、銀を取られそうだから逃げたら、
「バカ、銀が死ぬくらいでぐちゃぐちゃ言うんじゃない。そのくらい力で何とかしろ」
なんだか、メッチャ素敵なセリフで、この将棋こそ、まさにそんな内容。
いつもこんな勝ち方できたら、さぞや楽しいだろうなあ。
(中飛車でうまく攻めをつなぐ将棋はこちら)
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