毒ヘビは急がない 屋敷伸之vs谷川浩司 2013年 第71期A級順位戦

2024年11月30日 | 将棋・好手 妙手

 「ここで1手、落ち着いた手を指せれば勝てましたね」

 

 というのは、駒落ちの指導対局で負けたときなどに、よく聞く言葉である。

 将棋というのは

 

 「優勢なところから勝ち切る

 

 というのが大変なゲームで、手こずっているうちに、いつのまにかおかしくなり、あせってあわてて、ついには逆転

 ガックリ肩を落としながら、

 

 「ここで1手、落ち着いた手を指していたら……」

 

 今回は、そういうときに参考になる将棋をご紹介。

 


 

 2013年の、第71期A級順位戦最終局。

 谷川浩司九段屋敷伸之九段の一戦は、世にいう

 

 「将棋界の一番長い日」

 

 で行われた戦いだ。

 順位戦最終局というと、それだけでも大きな戦いだが、この一番はそれにも増してドラマの要素をはらんでいた。

 それは、

 

 「谷川浩司、ついにA級から降級か」

 
 という話題でファンの注目を集めていたからだ。

  谷川といえば、十七世名人の資格を持つ大棋士だが、年を重ねるごとに常連だった挑戦権争いから、少しずつを見る戦いも経験するようになってくる。

 この期の谷川は、ここまでわずか2勝

 それでも、勝てば残留だが、負けると順位下位の2勝者2人とも負けてくれないと落ちてしまう。

 つまりは、ほとんど勝つ以外ないような状況だったが、ここで対戦相手の屋敷が見せた指しまわしが、すばらしいものだった。

 戦型は後手の谷川がゴキゲン中飛車を選ぶと、屋敷は居飛車穴熊にもぐる。

 中央でもみ合いがはじまり、むかえたこの局面。

 

 

 

 屋敷がを作っているが、谷川ものハンマーをぶん回して対抗。

 勝負はこれからに見えたが、ここから見せた屋敷の構想がうまかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ▲66歩と打つのが、気づきにくい好手。

 飛車の利きを止めてしまうため、一目は筋悪だが、これが形にとらわれない着想。

 △76金とかわしたところで、▲35歩を遮断。

 後手は△65歩と合わせるが、いかにも重い攻めで、そこを軽やかに▲28飛

 

 

 

 これでの行くところがない。

 これが▲66歩△76金の交換を入れた効果で、後手はを取られると▲85角痛打になって、とてももたないのだ。

 谷川は△66歩と攻め合いに活路を見出すが、さわやかに▲26飛タダ取り。

 それでも△67歩成と、と金を作って相当に見えるが、そこで待望の▲85角

 後手は両取り逃げるべからずで、△68とと食いつく。

 

 

 

 この局面、が取れそうな先手優勢だが、後手も穴熊のカナメである▲79をけずり、自陣も無傷で、まだ戦えそうに見える。

 ▲52角成▲76角でも先手が勝つかもしれないが、王手すらかからない穴熊からの「光速の寄せ」をねらう後手に、素直にターンを渡すのは相当に勇気がいるところ。

 だが、ここで屋敷はさすがという決め手を放つ。

 

 

 

 

 ▲29飛と引くのが、すばらしい落ち着き。

 遊び駒を活用する、まさに指がしなる手で、私もテレビで見ていて「ピッタリやなあ」と思わず声が出たものだった。

 


 「この手を発見して手応えを感じた」


 

 屋敷本人も自賛するが、それに値する局面だ。

 ここを単に▲76角△79と▲同銀△69飛成で、まだむずかしい。

 ▲29飛以下、△67飛成▲76角△同竜▲68金と局面をサッパリさせて先手勝勢

 

 

 

 

 こうなると、先手陣にイヤミがなくなって、後手の銀損だけが残る展開。

 下段飛車の守備力もすばらしく、これにはいかに谷川でも、どうしようもない。

 まさかの結果に、

 

 「谷川時代も終わりか?」

 

 騒然としたものだが、同じ2勝で順位下位高橋道雄九段と、橋本崇載八段が敗れたことによって、辛くも降級まぬがれたのであった。

 


(落ち着いた勝ち方に置いて、この巨人に勝る人はいない)

(その他の将棋記事はこちらから)

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ラテン語のココがむずかしい スペース格変化番長

2024年11月27日 | 外国語

 ラテン語をはじめてみた。
 
 というのは先日お話したが、これまでチョコザップならぬ「チョコ語学」でフランス語イタリア語をやったとなれば、今度はもう「親玉」である、これをやらぬばなるまい。
 
 このオペレーション「ファランクス」により、さっそく大西英文さんの『はじめてのラテン語』など手に取ってみたが、ここにいくつか問題が生じてきた。
 
 実はラテン語学習には、いくつかの大きな関門があるというのは語学マニア的な人からよく聞くところ。
 
 まずひとつ目が、
 
 
 「ラテン語って、チョーむずかしいんでガンス」
 
 
 ラテン語=難解
 
 
 これは
 
 
 藤井聡太=将棋の天才
 
 金鳥の夏=日本の夏

 
 
 くらいに知られた公式。
 
 では、一体ラテン語のなにが難解なのかと問うならば、これがズバリ「格変化」。
 
 「格変化多さ」に悩まされるのは、「難しい言語」と言われる言葉に共通する「あるある」であって、ここには各種の言語学習者が挙手することになる。
 
 


 

 アホイ! チェコ語には7つの格変化があるデン。すごいだろック!」
 


 「ヘイヘイ! なめてもらっちゃ困るネン、フィンランド語は格変化15個もあって、インドヨーロッパ語族どもが、泣きわめく姿が美しいッリ」
 


 「ダー! ロシア語6つの格変化だが、これらが複雑怪奇に絡み合って、キミたちを迷宮へといざなうノフ。白い地獄へようこそだスキー」

 
 「ヨーナポット! 堂々【世界一むずかしい言語】の名を冠するマジャール語を忘れるなトヴァーン! 格変化は20種類! 名詞、形容詞、数詞、動詞、どれもわけわからんベートよ」

 


 

 
 こういう
 
 
 「俺たちの言語がいかにヤバイか自慢」
 
 
 がはじまるわけだが、そこにエントリーして負けないのがラテン語という存在。
 
 


 

 「ラテン語の格変化は16種類だウム。動詞人称時制によって語尾が変化する変幻自在の魔法だウレリウス!」

 


 
 では、ラテン語の格変化が、いかにエグいかを見ていただきましょう。ドン。


 
 
 

 

 英語だと「boy」は、せいぜい複数形の「boys」か、あとは所有格の「boy's」くらいだけど、ラテン語は文章の位置によって全部が変化する。

 
 
 

 

 「愛する」という動詞も、人称変化がこれだけある。

 しかも、接続法とか、命令法とか受動態とか、別個におぼえることもたくさん。

 

 

 

 


 もちろん、形容詞もゴリゴリに変化します。

 しかも、これはほんの「さわり」で、不規則変化とか、その他諸々を入れると膨大な量の変化を暗記しなければならない。

 なんかねえ、ちょっと入門書読んだだけでも、しれっと「動詞は100種類以上に変化する」とか書いてありますからねえ。

 私はドイツ語やってたから、格変化については多少イメージできるところもあるけど(暗記できるとは言ってない)、いきなりこれを見せつけられたら、まあが折れます。

 ちなみに、聞きなれない「呼格」とは呼びかけるときに使うもの。

 なんとラテン語は「おーい」みたいに声をかけるとき、その名前変化するのだ。

 ウィリアムシェイクスピアの戯曲『ジュリアスシーザー』における、有名すぎるほど有名な、

 


 「ブルータス、お前もか!」


 

 というのはラテン語では、

 


 「Et tu, Brute?」


 

 うーむ、フランス語の元ネタがラテン語なのがよくわかるフレーズで、訳するなら、

 


 「ブルーテ、お前もなんかーい!」


 

 だれやねん、ブルーテ

 ラテン語学習者は、いちいちこれを全部マスターするんです。トンデモないぞ。
 
 『ベルサイユのばら』の作者である池田理代子先生
 
 


 「まるで暗号



 
 
 とボヤき、簡単な1文を訳すのに1時間かかって、その労力充実感(ここが偉いよなあ)を語ってましたが、さもありなん。
 
 もちろん、変化にも法則性とかあるから、1単語ずつ、まるまるこの表をおぼえないといけないわけでもない。
 
 けどねえ、名詞動詞形容詞も、こんな感じで回転木馬みたいにグルグル回っては、そら大変でっせ。
 
 なのでラテン語学習者の多くは手元に「活用表」を用意して、それを参照しながらヴェルギリウスの『アエネイス』を読んだりしている。
 
 ほとんど暗号解読だが、「失われた古代文字」という意味は、実際にそうかもしれない。
 
 そういえば『天空の城ラピュタ』で、ラピュタに到着したムスカ大佐が、手帳をめくりながら、
 
 


 「読める、読めるぞ!」



 
 
 なんてハシャぐシーンがありましたが、あの手帳にはきっと複雑怪奇な、古代ラピュタ語の「格変化」が書いてあったんだろうなあ。
 

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王とサーカス 大山康晴vs米長邦雄 1992年 第50期A級順位戦 その2

2024年11月24日 | 将棋・名局

 前回の続き。

 1992年、第50期A級順位戦の8回戦、米長邦雄九段大山康晴十五世名人の一戦は、古豪同士の期待にたがわぬ熱戦となる。

 両者とも4勝3敗

 6勝1敗で、首位を走る谷川浩司三冠(竜王・王位・棋聖)に追いつくには、ここで負けるわけにはいかないのだ。

 

 

 

 図は大山が△63桂と打ったところ。

 ここまで、後手が一直線に攻めて良くするチャンスが何度もありながら、あえてそれをスルーして戦う大山の指し方がおもしろい。

 「受けの大山」にとって、オフェンシブな戦いで有利になるよりも、多少まわりくどくに見えても、得意の「押さえこみ」に持って行った方が戦いやすいという実戦的判断だ。 

 ここまでは大山がうまく指しているが、「泥沼流」米長邦雄も負けてはいない。。

 ペースこそ握られたが、

 

 「序盤は少し不利なくらいのほうが力が出る」

 

 そう自分でも言うように、ここからが腕の見せ所で、まずは▲65桂と跳んで暴れていく。

 そこからこの桂馬で飛車を奪い、勝負形に持ちこむことに成功。

 攻め合いから▲73歩とタタいたのが、見習いたい好打。

 

 

 

 △同金▲71銀で一気に危なくなるから、怖くても△同玉だが、▲74歩と再度のビンタから、△同銀▲81銀と打ってド迫力の追いこみ。

 △82金と逃げたところで、▲29飛と引くのが、これまたぜひとも参考にしたい活用。

 

 

 

 苦しい戦いだが、ねばり強い人というのは

 

 「盤上にある駒を使う」

 

 これが、実にうまい。

 遊んでいる駒など、常にどこかで働かせてやろうと、手ぐすねをひいているのだ。見習いたいッス。 

 大山は△77香から寄せに入る。

 米長は一手空いたスキを見て、▲43飛から反撃。

 

 

 

 

 先手のラッシュもすさまじいが、後手の対応も的確で、一歩足りない感じ。

 持駒がしかなくては、これ以上寄りつきがないが、「泥沼流」はまだ終わらないのである。

 

 

 

 

 ▲77馬と取るのが、またしても遊んでいた馬を、ここで働かせる執念の勝負手。

 △同歩成▲同玉と取った形が、先手玉に詰みはなく、後手玉は▲93香からの詰めろになっている。

 すわ、逆転か! と色めき立つところだが、大山は最後まで冷静だった。

 ▲77同玉に、一回△33角王手飛車に打つのが決め手。

 

 

 

 ▲同竜竜の筋をそらせてから、△76歩▲66玉△33桂と取り返して勝ちが決まった。

 

 

 

 角桂香の持駒で、後手玉に詰みはない

 また、さりげに△76歩を利かせているのも細かいところで、△78にあるをしっかりと助けている。

 この土壇場でも、すばらしい落ち着きで、まったく強いものである。

 因縁の対決に勝利した大山は、最終戦でも谷川浩司竜王を破り、まさかのプレーオフ進出。

 大名人だった真の底力を大いに発揮し、まさに「伝説」ともいえるフィナーレを飾るのだった。

 


 (大山から「伝説の▲67金」が出たのは、この期の順位戦)

 (その他の将棋記事はこちらからどうぞ)
 

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「最初のチャンスは見送る」 大山康晴vs米長邦雄 1992年 第50期A級順位戦

2024年11月23日 | 将棋・名局

 「持ち味出とるなあ!」

 

 とワクワクするような将棋がある。

 スポーツなどの試合もそうだが、プロレベルになると自分のストロングポイントを発揮するのと同じくらいに、

 

 「相手の得意なスタイルを消しにかかる」

 

 という戦い方も重要視される。

 なので、トップクラスの戦いや絶対に負けられない大一番などでは、ときおり相手の「ワザ」を警戒しすぎて地味な展開になったりしがち。

 だが、無責任な観戦者はやはり、双方の長所をドカンとぶつけ合う熱戦が楽しいわけなのである。

 


 1992年、第50期A級順位戦の8回戦。

 米長邦雄九段大山康晴十五世名人の一戦。

 両者とも4勝3敗で、谷川浩司三冠(竜王・王位・棋聖)が6勝1敗でトップを走る中、挑戦権争いをするには、絶対負けられない一番。

 この期の大山は、一度は克服したはずのガンが再発し、まともに将棋を指せるのかも心配されたが、開幕2連敗のあと4勝1敗と持ち直していく。

 これで当初心配された降級(即引退)どころか、まさかの挑戦者の目も出てきたというのだから、69歳(!)とは思えぬ棋才と精神力である。

 将棋のほうは大山の四間飛車に、米長は玉頭位取りを選択。

 細かいゆさぶりから、角交換になって、むかえたこの局面。

 

 

 

  先手は7筋、後手は6筋が主張点だが、この次の手がいかにも「大山流」だった。

 

 

 

 

 

 

 △49角とボンヤリ打つのが、思わず「ぽいわー」と感嘆したくなる一手。

 ▲37桂と跳ねたところで、筋のいい方なら△66歩と突く手が見えるだろう。

 ▲同銀△同飛と切って、▲同金△48角が、の両取り。

 

 

 

 ▲67銀とでも金取りを受ければ、△37角成と好所にができる。

 飛車銀桂2枚替えなうえに、馬で先手の飛車をいじめる継続手もあり、これで後手が指せそうに見える。

 もちろん、プロなら0.01秒で見える筋だが、わかっていて、あえてそれをスルーするのが大山将棋。

 有名な大山語録に、

 


 「最初のチャンスは見送る」


 

 というのがあり、その真意に様々な解釈はあろうが、この△49角こそがその見本のような手であろう。

 米長は▲77桂と活用し、△38角成▲46角と攻防に打つ。

 そこで、じっと△39馬とするのが、またしても「ぽいなあ」と声が出る大山流の一着だ。

 

 

 

 

 次のねらいは今度こそ△66歩だが、なにやら手順がまわりくどいのは、おそらく大山がハナから、ここをいじくることなど考えていないからだろう。

 それだったら△49角と打つところで決行した方が話が早いわけで、攻めのするどい棋士なら素直にそう指しリードを奪って、なんの問題もない。

 だが、大山将棋はそうではない。

 △66歩で自分が指せることもわかっているうえで、

 

 「△66歩と行くぞ」

 「そうされたら困るんでしょ? さあ、攻めていらっしゃい」

 

 あえて相手に手番を渡し、無理に動いてきたところを、とがめて勝つのを好む。

 そのため、△66歩以下のような「シンプルに攻めて良し」という手順は、わかっていても選ばないのだ。

 以下、▲64歩△45歩と突いて、▲同桂△同銀▲55角△64金▲11角成△63桂と打つのが、

 

 「桂は控えて打て」

 

 の格言通りの味のいい手。

 

 

 

 

 ストレートに良くするよりも、こうして相手に無理をさせながらジワジワと、いつの間にか局面のイニシアチブを握っていく。

 これこそが、大山康晴の将棋である。

 ここまでは、大山の独擅場ともいえる展開だが、今度は米長が力を発揮し出す。

 そう、なんといっても米長邦雄といえば「泥沼流」と呼ばれた男。

 序盤でペースを握られたところから、

 

 「腕相撲しようぜ!」

 

 とばかりに、グイグイとパワーで押し戻していくのは得意中の得意なのだ。

 

 (続く

 

 

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バチカンとかローマ教皇とかカトリックとか、何も知らん私がラテン語を学ぶ

2024年11月20日 | 外国語

 「ついに禁断の言語を始めてしまったか……」
 
 
 スマホの語学アプリを検索しながら、そうひとりごちたのは、冬の近づく寒い夜のことだった。
 
 このところ私は、
 
 
 「世界のあらゆる語学をちょっとだけやる」
 
 
 ということにハマっており、ここまでフランス語ドイツ語(学生時代の復習)、スペイン語ポルトガル語
 
 そして、トルコ語イタリア語もクリアし、オランダ語も少しかじってというチョコザップならぬ「チョコ語学」である。
 
 まあ、やってもせいぜいが1か月2か月ほどで、身に付くのも「中2レベルの文法と単語」くらいなものだが、こんなもんでも、
 
 


 Mi hermana no puede ser tan linda.
 (俺の妹がこんなに可愛いわけがない)


 
 Ihre Augenbrauen sind tatsächlich Takuan.
 (彼女の眉毛は実はたくあんです) 

 

 Je vais te faire 'Mick Mick'!
 (みっくみくにしてやんよ)



 
 
 くらいなら理解できるのだから、なかなかのものではないか。
 
 「飽きたらやめる」がルールなので、オランダ語からそろそろに移行しようと、言語関係の本をあさっていたら、こんなものがでてきた。
  
 それが、Twitterで有名な「ラテン語さん」のベストセラー『世界はラテン語でできている』。
 
 これが、おもしろくて「次はラテン語や!」となったのだ。
 
 といっても、語学学習や世界史に興味のない方には「どこの言葉?」となるかもしれないが、それは正しい反応である。
 
 なんといってもラテン語とは、古代ローマ帝国公用語
 
 いわゆる『テルマエロマエ』の世界だが、そのあとは中世ヨーロッパ教会や、インテリの間での共通語として流通。

 今、使われているフランス語イタリア語は、このラテン語の口語版がベースになっている言語だ。
 
 16世紀くらいから、各地でその土地言語が確立していった(フランス語とかドイツ語とか)ため、ゆるやかに衰退し今で死語(というと、いろいろ怒られそうだけど)になっている。
 
 日本で言う「古文」「漢文」だと考えるとわかりやすいが、そういう歴史ある格調高い言葉なのである。
 
 ただ格調は高いが、これがどこかで役に立つのかと言えば、なかなかむずかしいところはある。
 
 どこの国でも使用されてなくて、かろうじて今使われているのがバチカン市国だが、かの地の思い出と言えばイタリア旅行の際に寄ったときのこと。

 なんか、日曜日の昼かなんかに教皇が窓から顔を見せて祈りを唱えるらしく、それ目当てで出かけたのだが、その感想はと問うならば、

 


 「なんか、知らんおじいちゃんが出てきた……」


 

 知性のかけらもないリアクションだが、まあカトリックでなければ、だいたいこんなもんである。

 こんな縁もゆかりもないもん、だれがやるねんだが、がやるのだ。
 
 われながら頭がおかしいが、一応これがそんな変な話でもないというのが、またおもしろいところではある。
 
 というのも、私が今やってる
 
 
 「言語的距離の近い言葉をやる」
 
 
 という意味では、かなり正しい選択ではある。
 
 ここまでフランス語スペイン語ポルトガル語イタリア語という「ロマンス語群」はもともとすべて、
 
 
 「ラテン語の方言
 
 
 なので、いわば「親玉」。
 
 『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』のファンが『ダンジョンズドラゴンズ』をプレーするようなもの。

 その意味では「流れ」としては、むしろ必然ともいえるのだ。
 
 「歴史を学ぶ」姿勢は大事であろうと、我がことながら「なヤツ」と思わなくもないが、ともかくもラテン語学習開始
 
 いい加減なのものだが、そのゆるさが案外と「続く」コツでもあり、この「ファランクス作戦」も、とりあえずやってみる所存だ。

 

 (続く
 

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「ガジガジ流」の大さばき 藤井猛vs佐藤康光 2010年 第68期A級順位戦 その2

2024年11月17日 | 将棋・名局

 前回の続き。

 2010年、第68期A級順位戦佐藤康光九段藤井猛九段の一戦は、1勝6敗2勝5敗と、星が伸びない者同士が落とし合う「の大一番」となった。

 藤井が角交換四間飛車から穴熊に組むと、佐藤はを打って飛車先の突破を図る。

 これに藤井はなんと、▲96歩▲95歩と、悠々端歩を伸ばすという意表の対応に出た。

 

 

 なんじゃいや、これはという話だが、これが実は見事な対応で、△85歩、▲同歩、△87歩、▲78飛、△85飛には▲96角と、ここに打つ筋を用意している。

 

 

 

 指されてみれば、なるほどで、△84飛には▲44銀、△同銀、▲76飛、△同歩に▲66角とバリバリ攻める。

 

 


 これは穴熊が生きる形だし、

 

 「ガジガジ流」

 「ハンマー猛」

 

 と呼ばれる藤井の力が出る展開だろう。

 佐藤は△43角と退却を余儀なくされるが、▲26角と打って▲44銀をねらう。

 △24歩から△25歩と追われても、今度は▲36歩から▲37角とスイッチバックして、このあたりは振り飛車絶好調

 

 


 6筋銀交換になり、佐藤も負けじと飛車を使って押し戻していくが、次の手が強烈だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ▲82銀と打つのが、佐藤の見落としていた痛打

 △同飛は当然▲64角

 桂取りを受けようにも、△72歩二歩だし、まさか△72銀と打つわけにはいかない。

 佐藤は△54金とかわし、▲73角成△42飛と涙の辛抱を見せる。

 

 

 

 ボロっとを取られながらを作られ、しかも手番も渡す。

 あまりにも痛々しい手順だが、負ければお終いの佐藤は耐えるしかない。

 だが、次からの構想が最後のとどめとなった。

 

 

 

 

 

 

 ▲57金と上がるのが、盤面を広く見た筋に明るい手。

 △45金▲38飛とまわるのが、気持ち良すぎる手順。

 

 

 後手のかすかな主張は、先手の飛車が働いていないことだった。

 なら、それを活用するのがいいわけで、▲57金開門しつつ、場合によっては▲46金のような活用も見せる。

 後手はせめてを使おうと△45金だが、▲38飛と列車砲を転換して一丁あがり。

 「重い振り飛車」を得意とする藤井だが、ここは軽やかなスライドを見せた。

 以下、上部からガリガリ食い破って、藤井勝ち

 佐藤はまさかの降級

 藤井はこの星が大きくものを言い、最終戦では森内俊之九段に敗れるも、競争相手の井上慶太八段が敗れたため、辛くも残留を決めたのだった。

 


 (藤井と佐藤の王座挑戦をかけた大熱戦はこちら

 (佐藤の振り飛車退治と藤井システムへの影響はこちら

 (その他の将棋記事はこちらから) 

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角交換四間飛車の名局 藤井猛vs佐藤康光 2010年 第68期A級順位戦

2024年11月16日 | 将棋・名局

 藤井猛の振り飛車は絶品である。

 平成の将棋界は、久保利明九段鈴木大介九段、そして藤井猛九段の3人が、

 

 振り飛車御三家

 

 として、A級順位戦やタイトル戦などで大活躍していた。

 その影響力はすさまじく、特に藤井システムなどはプロのみならず、アマチュアの世界でも大流行したが、久保、鈴木もまた大人気

 若手時代は振り飛車党だった中村太地八段によると、自分は「タテの攻め」が得意だったので、特に三段リーグでは藤井システムばかり指していたそう。

 中村の修業時代は、奨励会員若手棋士振り飛車党が多く、太地流の分類では、長岡裕也五段が「藤井派」と「久保派」のハイブリッド。

 戸辺誠七段はプライベートでも仲の良い「鈴木派」だけど、久保将棋っぽいところもある。

 高崎一生七段はイメージは「鈴木派」だけど、一緒に研究会をやっていたせいか実は「藤井派」。

 その他、「藤井システム」使いとして、藤倉勇樹千葉幸生横山泰明佐藤和俊佐々木慎といった面々がいて、藤井猛九段の記録係の座を必死になって取り合いしていたそう。

 居玉で戦う藤井システムは意外と勝ちにくく、藤井猛本人も、

 


 「しっかり囲うノーマルな振り飛車で、基礎を固めてからシステムを指す方がいい」


 

 アドバイスを送ることもあるが、やはりファンとしては、システムは大変でも、

 

 「藤井猛九段みたいな将棋を指したい!」

 

 と願うもので、そこで今回はシステムではないが絶品藤井将棋をお送りしたい。

 


 

 2010年、第68期A級順位戦の8回戦。

 佐藤康光九段と、藤井猛九段の一戦。

 この期の両者は不調で、藤井は6回戦まで1勝5敗

 佐藤にいたっては、なんと開幕から6連敗という、散々な有様だった。

 7回戦では、おたがいひとつ星を返してホッと一息だが、試練は続き、この直接対決で負けたほうは相当に苦しいというか、佐藤は即陥落が決まる。

 ただ、当時の感じでは、この大ピンチでも

 

 「佐藤は大丈夫」

 

 という空気感が濃厚ではあった。

 別に藤井をナメていたわけではなく、佐藤のような「名人」になったものは、そう簡単に落ちないはずという信頼感があったこと。

 また、2期前にも開幕6連敗のピンチから、奇跡の3連勝残留したという実績もあり、佐藤の「」や勝負強さに対する疑問など、浮かびようもなかったわけだ。

 ところが、この一局は藤井が冴えわたっていた。

 藤井がシステムの代案として、ひそかに磨きをかけてきた角交換四間飛車を選ぶと、そのまま一目散に穴熊にもぐる。

 を持ち合っている将棋では、駒のかたよる穴熊は打ちこみに注意が必要だが、藤井は巧みにバランスを取る。

 

 


 むかえた、この局面。

 後手が△76角と、を取ったところ。

 次のねらいは、一回△75歩ヒモをつけてから、△85歩、▲同歩、△87歩で飛車先を突破しようというもの。

 先手からすれば、それを防ぐか、またはもっとスピードのある攻めを見せたいが、後手陣もバランスが良くて、なかなか手持ちのも使う場所がない。

 穴熊は、こういうときが作りにくいんだよなーと、悩ましいところに見えたが、ここからの藤井の構想がすばらしかった。

 

 

 

 

 

 ▲96歩と突くのが、意表の一手。

 といわれても、サッパリ意味など分からないが、おどろくのはまだ早い。

 後手が△75歩としたところで、さらに▲95歩(!)

 

 

 

 なんと、佐藤が「攻めるぞ」とかまえているところに、「どうぞ、どうぞ」と、堂々端歩

 藤井システムといえば、▲15歩と端歩を突き越すのが基本だが、こっちは反対の端の位を取る。

 なんとも面妖な手順だが、なんとこれですでに先手が指しやすくなっているのだから、藤井猛の序盤戦術はまったく神がかり的なのである。

 

 (続く

  

 

 

 

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「旅に出たい病」と香水のにおい

2024年11月13日 | 海外旅行

 「旅に出たい病」は不治の病である。

 ということで、前回はヒマがないとき、この発作をまぎらわす「旅のどんぐりコーヒー」として、

 

 世界の車窓』&『ヨーロッパの車窓だけから」

 「BSなどで流れている外国語ニュース

 ぬるい炭酸水(なんだそりゃ)」
 
 

 これらを紹介したが、他にもこんなのがあって、たとえば「香水のにおい」。

 は好むが男はそうでもないものに、「セロリ」とか「アボカド」とかいろいろあるけど、香水というのもそのひとつであろう。

 特に金持ちっぽいマダムが、これでもかというくらいに振りかけて濃い匂いをまき散らしているところに出くわすと、

 

 化学兵器の使用はジュネーブ条約で禁止されとるわ!」

 

 なんて、つっこみたくなるほどである。

 ところが、これが私の場合、旅情を刺激される。

 旅好きならわかっていただけると思うが、これが空港を思い出させるから。

 特にパスポートコントロールを通過し、免税店コーナーに出入りすると、そこかしこにある香水屋と出くわす。

 飛行機の出発時間まで、なにかとこの香りを鼻腔に感じるのが長いからか、それがにすりこまれてしまい、

 

 「香水の香り=のはじまり」

 

 というロマンの方程式ができあがってしまっているのだ。

 なので、日本でも電車エレベーターの中でマダムの香水をかぐと、 

 

 「あー、旅の香りやなあ」

 

 陶然とすることになる。

 ハタから見ればアヤシイ奴だが、別に変態的というわけではなく、「旅行行きたいなあ」と思っているだけなのだが。

 これがねえ、メチャクチャに強烈な刺激なんスよ。

 人の記憶を刺激するのは視覚や聴覚よりも嗅覚というが、あれはホンマです。

 かいだ瞬間、本当に目の前に「NO TAX」の看板が浮かぶもの。あれはすごい破壊力だ。

 だから、パトリックジースキュントの傑作ミステリ『香水』を読んだとき、なんとなく腑に落ちなかったもの。
 
 いや、小説自体は池内紀先生の訳文もすばらしく、たいそうおもしろかったのだが、パリ悪臭や、死体の放つ死の香りへの詩的表現は多くあるのに、

 

 「ジャン=バティスト・グルヌイユはその香りにふれると、関空から搭乗口への無暗に長い廊下を思い出すのだ」

 

 みたいな一文がないものなあ。パトリック、わかってないぞ。

 あー、そもそもこんな話をネタにしたら、すぐ旅に出たくなっちゃったよ。

 どっかのデパートで、試供品の香水でももらってこようかしらん。

 

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「ヘボ将棋、王より飛車をかわいがり」 内藤國雄vs米長邦雄 1977年 名将戦

2024年11月10日 | 将棋・好手 妙手

 「ヘボ将棋、王より飛車をかわいがり」

 

 という格言には、苦笑とともに深くうなずかされるものである。

 これは本当で、飛車をいじめられて逃げ回っているうちに、いつの間にかがお留守になって、気がついたら寄せられてたなど、よくある話。

 どっこい、強い人というのは、そういうときの対処法も心得ており、今回はそういう将棋を。

 


 

 1977年名将戦

 内藤國雄九段と、米長邦雄八段の一戦。

 決勝3番勝負の第1局は、後手番になった内藤が三間飛車に振ると、米長は銀冠に組んで対抗。

 米長が後手の飛車を責めつつ、右辺にを作ると、内藤もその飛車を軽く転換し、玉頭戦に持ちこむ。

 むかえた、この局面。

 

 



 △85歩の玉頭攻めに、強く▲66桂と打ち返す。

 米長はこれで指せると見ていたそうで、実際、飛車の逃げ場所がむずかしそうだが、ここからの内藤の構想が見事だった。

 

 

 

 

 

   

 

 △86歩▲74桂△同金で、後手優勢。

 飛車取りにかまわず、玉頭を取りこむのが好判断。

 そもそも、後手は飛車を逃げようにも場所がないわけで、△84飛は、▲85歩、△同飛、▲86歩で受け止められるが、私みたいなヘボが指していたら、そうやってしまうかもしれない。

 そこを、「飛車? どうぞ、どうぞ」と、さわやかに、あげてしまう発想にシビれた。

 私がこの将棋を知ったのが、米長の書いた『米長の将棋』という本で、その「振り飛車編」の開口一番が、これなのだ。

 子供のころには、飛車桂交換後手優勢と言うのが、どうしても信じられず、何度も並べ直したものだ。

 たしかに今見ると、△74同金に本譜▲76銀と逃げても△87銀と打ちこむ追撃がきびしく、後手がいいんだろうけど(とはいえ私レベルじゃ勝ちきれませんが)、やっぱりすごい手だなあと感心する。

 △87銀以下、▲同金△同歩成▲同玉△86金▲78玉△48角成

 

 

 

 流れるような攻めで、まさに「自在流」内藤國雄の名調子だ。

 この局面、なんと先手が飛車丸得なのだが、安全度や駒の働きと、なにより勢いが違う。

 特に先手は▲43▲26飛車が、取り残されているのが哀しすぎ、やはり後手を持ちたいところであろう。

 米長は、なんとか逆転のタネをまこうと、とりあえず▲83歩とタタいて反撃。

 

 

 

 これまた、ぜひともおぼえておきたい手筋で、△同銀でも△同玉でも、が乱れていやらしい。

 このタタキ▲62歩とかを突き捨てるとか、とにかく苦しめのときは、で嫌がらせをするのが逆転のコツだ。

 本譜は△83同銀に、▲75歩△76金▲同金△75金▲同金△同馬

 そこで▲66金とふんばる。

 

 

 

 米長も得意の「泥沼流」でねばりにかかるが、そうはさせじと後手も△76金とへばりつく。

 ▲75金を取るのは、△67銀と先着されて、▲69玉△75金で寄せられるから、▲67金打と再度がんばる。

 後手は△66金と取って、▲同金△76金で同じ形が続く。

 

 

 

 ここでもう一回▲67金打なら千日手コースだが、そうなれば内藤は手を変えて、するどく踏みこんでくるかもしれない。

 それは危険だし、なにより勢いを重視する米長将棋では、あまり考えたくないところなのだ。

 そこで打開を検討したいわけだが、ならやはり、ここはぜひとも「あの駒」を活用したくなるものではないか。

 

 

 

 

 

 ▲36飛と取るのが、これまた寿命を半分に削ってでも、身につけておきたい感覚。

 この将棋は、ここまで後手の攻め駒が目一杯働いてるのと対照的に、先手は▲26飛車が、長らくボケたままであった。

 なので、ここはもうぜひとも、それこそ最後は負けたとしても、なんとかこれを活用したいと考えるのは、将棋を強くなるのに大事な感覚なのだ。

 実際、米長も苦戦を意識しながら、この手に関しては、

 


 「ある程度の清算」


 

 はあったので、思い切ってループを打開したのだ。

 勝負の方は、米長の気合に押されたのか、内藤が寄せを逃して逆転してしまう。

 といっても、具体的になにが悪かったのかはわからず、それだけ難解な上に、米長の勝負術が際立っていたということだろう。

 それにしても、おもしろい将棋で、米長もおどろかされた、飛車取りを放置して△86歩と取りこむ感覚に学びがある。

 最後の最後▲36飛と眠っていた獅子を活躍させようと「ねらっている」センスの良さとか。

 「強い人の将棋」って、こんなんなんやーと、目からウロコが落ちまくり。

 こんなもん一発目に見せられたら、そら『米長の将棋』に夢中になるわけで、もう暗記するほどに、むさぼり読んだものでした。カッケーわー。

 


 (米長が見せた飛車捨ての名手はこちら

 (森安秀光が米長に喰らわせた飛車捨ての珍手はこちら

 (その他の将棋記事はこちらから)

 

 

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「旅に出たい病」と、ぬるい炭酸

2024年11月07日 | 海外旅行

 「旅に出たい病」は不治の病である。

 ということで、前回はヒマがないとき、この発作をまぎらわす「旅のどんぐりコーヒー」として、

 

 世界の車窓』&『ヨーロッパの車窓だけ

 「BSなどで流れている外国語ニュース

 

 を紹介したが、他にもこんなのがあって、たとえば「海外の炭酸水」。

 ヨーロッパを旅行していたとき、ちょっと困ったことにがあった。
 
 私はガサツな体をしているのか、海外で「水が合わない」みたいなことはあまりない方だが、体調は平気でもは微妙なときがある。

 中でもヨーロッパで「ミネラルウォーター」というと、基本的には「ガス入り」であり、これがあまり口に合わなかったのだ。

 いや、炭酸自体は私も大好きなのだが、ヨーロッパのそれはだいたいが微炭酸

 それも、かなり「抜けている」感じで、またヨーロッパ人は日本のように冷やしたドリンクを好まないため、たいてい生ぬるい

 それだけでなく、コーラもぬるい。ファンタもぬるい。ビールもぬるい。

 真っ盛りで、暑さにへばっていても、奴らはぬるぬるドリンクを飲みやがるのだ。爽快感ゼロや!

 これはウマくないです。

 なんで、うっかりガス入りを買ってしまったときは、飲み切るのに苦労したものだが、その記憶があるせいか、に日本で飲むと旅の記憶がよみがえる。

 思い出すのはトルコのこと。

 トルコはイスラムの国でヨーロッパとは文化が違うはずだが、ドリンクはこれがまた生ぬるい

 イスタンブールでもカッパドキアでもイズミルでもそうで、それこそ観光を終えてスカッとしたいのに、なに飲んでも、やはり人肌

 で、「またかあ!」とガッカリしていたら、売店のオジサンが、

 

 「もしかして、冷たいのがほしいんか?」


 

 つたない英語でこう言ってきたのだ。

 うんざりしながら「そうである」と答えると、オジサンは店のから別のペットボトルを持ってきてくれた。

 で、これが飲んでみると、冬の北海道くらいキンキンに冷えていた。

 え? なんで? といぶかしんでいるとオジサンは、

 

 「ヨーロピアンはぬるい飲み物が好きやからね。それに合わせとるんやわ」


 

 おーい! 待てい! お前らのせいか!

 ヨーロッパといえば、昔は世界各地を侵略しまくっていた歴史がある。

 かくいうこのトルコも「瀕死の病人」と呼ばれるほど、メチャクチャに荒らされたけど、温度まで取りこんでいたと。

 まさに帝国主義もここに極まれりである。

 コラ! この植民地野郎どもが! オレのセブンアップをぬるくすな!

 そんなこともあったりとか、ともかく発作が起きるといつも、ふだんは飲みつけないゲロルシュタイナーサンペレグリノを買ってくるのだ。

 もちろん、ぬるいまま口をつけ、

 

 「たいして、おいしくない! 爽快感もなし! けど、外国を思い出して、いい気分!」

 

 という、なんともおかしな快哉を上げることとなるのだ。頭イカれてるな。

 

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大駒は近づけて受けよ 中原誠vs谷川浩司 1985年 第33期王座戦 第2局

2024年11月04日 | 将棋・好手 妙手

 将棋の格言というのは色々あるもの。

 

 「王手は追う手」

 「長い詰みより短い必至」

 「金底の歩、岩よりも固し」

 

 など実戦で大いに役に立つものもあれば、

 

 「55の位は天王山」

 「銀は千鳥に使え」

 「三桂あって詰まぬことなし」

 

 といった、ほとんど死語になったようなものもある。

 むずしいのは、将棋の変遷によって、かならずしも当てはまるとは限らないケースが出てくることで、

 

 「居玉は避けよ」

 「玉の囲いは金銀三枚」

 「桂馬の高跳び歩のえじき」

 

 このあたりは、

 

 「たしかにそうだけど、現代将棋ではケースバイケースだよね」

 

 くらいな感じになっているところはある。

 そんな中、地味な格言に意外と使えるものが残っているもので、今回はそういうものを。

 


 

 1985年の第33期王座戦は、中原誠王座(名人・王将)に谷川浩司前名人が挑戦した。

 この期、春の名人戦で中原は谷川から名人を奪い取り

 

 第二次中原時代の幕開き」

 

 と上げ調子であったころ。

 一方、無冠に転落した谷川からすれば、復讐に燃えての勝ち上がりで、まさに新旧頂上決戦であったのだ。

 ちなみに谷川「前名人」という聞きなれない肩書は、当時は名人を失って無冠になると、気を使って「前名人」と呼ばれるマヌケな習慣があったせい。

 谷川はこの罰ゲーム(にしか見えないよな)を嫌い、色紙などには「九段 谷川浩司」と書いていた。当然だよねえ。

 それはともかく、五番勝負は開幕局を谷川が制して、むかえた第2局

 相矢倉で後手は7筋、先手は中央から駒をぶつけていく形で、中盤戦のこの場面。

 

 

 


 大駒をさばきあって、先手がを作っているが、後手も香得して形勢はバランスが取れている。

 手番をもらった後手は、当然反撃したいところで、となればまずはここに指が行きたいところだ。

 

 

 

 

 △86歩が、まずは筋中の

 これは格言にこそなっていないが、矢倉戦ではとにもかくにも、この歩をいいタイミングで突き捨てたいところ。

 応用編として、△86桂△86香と打ちこんでいく筋もあり、ここをイジっていく形は、居飛車党なら絶対におぼえておきたい感覚だ。

 これを▲同歩と取るか、それとも▲同銀と取るかは悩ましく、これまた居飛車党の永遠のテーマだが、▲同歩△87歩のタタキがいやらしい。

 ▲同銀△84香や、場合によってはいきなり△86同飛▲同歩△87歩みたいな特攻で一気に寄せられてしまうこともあり、そう簡単には選べない2択なのだ。

 このゆさぶりに、強気の谷川はなんと、放置して▲71竜

 

 

 

 △86歩になんと手抜きという第3の選択を披露した谷川に、飛車を逃げるようでは攻めが切れてしまうと中原は△87歩成▲同金△同飛成と特攻。

 ▲同玉△86歩もまた筋で、▲同銀△85歩

 

 

 

 

 飛車を切ってしまった以上、後手は足が止まったおしまいである。

 次々パンチをくり出すにしくはないと、▲85同銀△86香とカマす。

 ▲同玉△53角王手飛車なので、▲78玉△89香成

 先手玉も相当うすめられているが、飛車持駒も超強力で頼もしいということで、すかさず▲82飛と打ちおろす。

 

 

 


 「鬼より怖い二枚飛車

 

 この格言通り、後手陣にはいきなり詰めろがかかっている。

 次に▲31角と打たれてはお陀仏だ。

 なにか受けなければいけないが、普通にやる前に、まずは一工夫しておきたいところ。

 

 

 

 

 

 


 △51歩と打つのが軽妙な一着。

 ▲同竜と取られて、一見なんのこっちゃだが、そこで△31金打とガッチリ埋めるのが継続手。

 

 

 

 単にで守るより、こうすれば次に△73角両取りがあり、がどいたことで△75桂の反撃も可能になった。

 また△31金打▲81飛成みたいな手なら、どこかで△42銀と引いて、▲71竜右に、またが入れば△51歩底歩を打つ守りができる。

 これで後手玉はほぼ無敵になるなど、わずか歩1枚でこれだけ手が広がっていくのだ。

 この△42銀を生んだ△51歩は、まさに

 

 「大駒は近づけて受けよ」

 

 であり地味ながら、かなり役に立つ格言であるのだ。

 谷川は△31金打▲81竜とするが、すかさず△75桂痛打で攻守所を変えた。

 

 

 

 

 以下、▲76角の攻防手にも△42銀と落ち着いて受け、▲55桂△64角から飛車を奪って後手が勝ち。

 これでタイに戻した中原は、第3局第4局連勝し、谷川の「前名人」という不名誉な称号の返上を阻止したのである。

 

 


 (中原が谷川から名人をうばったシリーズで見せた「近づけて」がこちら

 (中原が谷川相手の名人戦で披露した歴史的大ポカはこちら

 (その他の将棋記事はこちらから)

 

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「旅の気分を味わいたい!」と海外のニュース番組を見る

2024年11月01日 | 海外旅行

 「旅に出たい病」は不治の病である。

 人には様々な持病というものがあり、躁病とか水虫とか四十肩とか、それぞれあるだろうが、私の場合これが

 

 「海外旅行したい!」

 

 という発作なのである。

 ヤングのころから、ヒマさえあればザック背中に世界へ飛び出すバックパッカーというやつをやっていたが、ときにはコロナだったり、円安だったりで、その野望をはばまれることもあるもの。

 そういうときは、第二次大戦中のドイツ軍がコカ・コーラの代わりにファンタ作ってを飲んでいたように、代用品で欲望を沈めることになる。

 そこで今回も、そんな「旅のファンタ」を紹介してみたいが、前回の世界の車窓から』『ヨーロッパの車窓だけに続いてはこれ。

 

 「外国語のニュース

 

 海外でテレビのあるホテルに泊まると、よくそこで適当なチャンネルを流しっぱにしておくことがある。

 言葉がわからなくても見れるスポーツ中継が多いけど、あとはなんとなくニュースをつけていることもある。

 に安宿で無音だとさみしいから、ラジオ代わりに見るともなしに見るんだけど、そのせいか、日本でもBBCとかZDFのニュース番組をたまさかみると、旅情のようなものを味わえる。

 もちろん、ふだんはそんなもの見ないけど(そもそも日本語でもニュースとかめったに見ないし)、朝とか夕方になんとなしにザッピングしているとき、ちょっとそういうものが流れていたりすると、

 

 「嗚呼、いいなあ」

 

 旅の記憶が喚起されて、なんだかウットリしてしまう。

 こういうものは不思議なもので、

 

 「よし、旅の気分を疑似体験するぞ」

 

 という意図を持って録画したのを観たりすると、とてもつまらない気分になる。

 その気もないのにテレビやネットを見てたら、たまたまそういうチャンネルに合わさっていたときだと、「思い出すなあ」とステキな気分になれる。

 理由はよくわからないが、そのさりげなさが「神様からの贈り物」みたいでラッキー感が増すのだろうか。

 海外のニュースといえば思い出すのが、私がよく旅していたころの「あるある」にこんなのがあって、

 

 「みんなでニュースを見ているときアメリカ人がいると気まずい

 

 そもそもアメリカ人というのは、世界でムチャをやらかすから嫌われているものだが(個人としてみればイイ奴が多いんだけどね)、これが海外に出るとよくわかる。

 南米人はたいていそうだし、イスラム圏も当然アンチでバリバリだ。

 モロッコを旅したときは、いろんな人から、

 

 「おまえはブッシュビンラディンのどっちを支持する?」

 

 という質問をされたものだった。知らんがな

 そんなわけなので、ユースホステルなんかでいろんな国の人がワイワイやっているところに、備えつけのテレビから、

 

 「アメリカがアフガン空爆

 「ブッシュ大統領がイラク侵攻を決定」

 

 なんてニュースが流れたとたんシーンとなり、アメリカ人旅行者が暗い顔をしながら部屋に帰っていくなんて場面もあった。

 別に政府がやることと市井のアメリカ人は違うわけだし、そんな雰囲気にならなくてもいいのにとも思うけど、彼らは彼らで議論になると、

 

 「オレたちのやってることは正しいじゃん! みんなも、テロリストはゆるせないでしょ? 正義の戦争だよ」

 

 とか言っちゃう人もいるしなあ……。

 ちなみにモロッコではまた、

 

 「日本は国を焼け野原にされたうえ、原爆を2発も落とされたのに、なぜアメリカにペコペコしてるんだ?」

 

 とも聞かれて、これには「戦争に負けた罰ゲームやねん」としか答えられなかったが、果たしてニュアンスは伝わってたのかしらん。

 
 
 
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