「奇跡的」な受けの手 大山康晴vs米長邦雄 1978年 名将戦

2022年08月31日 | 将棋・好手 妙手

 大山康晴十五世名人の受けは絶品である。

 将棋の棋風は大きく分けると「攻め将棋」「受け将棋」に二分されるが、プロアマ問わず基本的には、前者の方が数が多いのではないか。

 やはり、単純に攻める方が楽しいし、受けは神経を使うし、時間がない将棋だと「勝ちやすい」という事情もあって、そうなりやすいのであろう。

 そんな中、受けの巨人として君臨する大山の存在感はかなりのもので、「受け将棋萌え」の私はリスペクトするところ大である。

 前回は羽生善治九段が若手時代に見せた、暴れ馬のようなラッシュを紹介したが、今回は米長邦雄永世棋聖がその著書『米長の将棋』で

 


 「奇跡的な受けの妙手」


 

 絶賛した大山の妙手を紹介したい。

 

 


 1978年名将戦

 大山康晴十五世名人と、米長邦雄八段の一戦。

 大山の四間飛車に米長は居飛車穴熊。玉頭戦のねじり合いがあって、この局面。

 



 後手は銀冠をはがされ横腹がすずしいが、先手の攻めも薄く、次に▲74を取られると完全に攻めが切れてしまう。

 その前になんとかしたいが、ここで妙手の前に手筋講座

 まずは▲73金と打ちこんで△同金に、初心者の方は流れで▲同歩成と取りたくなるかもしれないが、そこをこらえて▲71角成とするのが、ぜひ覚えていただきたい筋。

 

 


 ハッとする角のタダ捨てだが、「下段に落とせ」がこの際のセオリー。

 後手は2枚のなどで上部が厚く、単に▲73同歩成△同玉はそれを目一杯働かせてしまうため、そこを無力化させる意味でも有効だ。

 整理すると、▲73金△同金▲71角成△同玉▲73歩成

 

 

 これを知ってるかどうかで、かなり終盤の寄せ損ないが減るというくらい大事な手順だ。

 頭を押さえられた後手は△82金と受けるが、一回▲78飛と遊び駒を活用し、△76桂とさせ質駒を確保するのが、キメのこまかい手順。

 やるだけやってから、▲63金とへばりつく。

 

 

 

 先手の攻めもギリギリだが、後手も相当に恐い形。

 となれば、△73金▲同金△82金▲63金千日手も視野に入ってくる。

 実際、米長も優勢なのに千日手に逃げられたか、とガックリしていたそうだが、ここで意表の手が飛んできた。

 

 

 

 

 


 △74金と、から打つのが、この際の妙手

 米長と逆に、大山もまたこの将棋は自分が優勢と思っていたのだろう、「させるか!」とばかりに打開してきた。

 こうなれば、先手も行くしかない。

 ▲76飛切札を発動し、△同銀▲74と△同銀で攻め切れないから、▲83との方を取って、△同金に▲86桂

 

 

 

 これで決まったように見える。

 △73金引は▲62銀と打ちつけて、△82玉▲73金△同金にその取らず▲74歩と打つのが好手で寄り。

 

 

  ところが「平然と」放たれた次の手を、先手は見えていなかった。

 喰らった米長が「歴史に残る手」と絶賛した受けの妙手とは……。

 

 

 


 

 △73飛が「受け大山」の見せた、すばらしいしのぎ。

 ▲62銀王手飛車取りがあるため猛烈に指しづらいが、これが盤上この一手ともいえる見事な切り返しなのだ。
 
 △73飛▲同金△同金引で、▲74歩△63金▲41飛△61歩で受け切り。

 

 

 △73飛▲74桂を取るのは、△63飛を取られて攻めにならない。

 

 

 

 苦慮の末、結局▲62銀と打つしかなかったが、△82玉▲73金△同金引▲61飛△72金打▲73銀成△同金寄▲74歩△63金寄▲95歩△62銀以下後手が勝ち。

 

 


 △73飛と打った形が巧妙なのは、飛車を取れば△同金引に逃げられ、▲74桂を取れば△63飛などで飛車が取れない。

 なんとも悔しいことになっており、大山も「残念でした」と、笑いをかみ殺していたことだろう。

 正確には、この妙手2発で後手有利と言っても、穴熊も健在でまだ先は長かったそうだが、先手にねばりを欠いた手が出てしまい勝負所を失うことに。

 これには米長自身が、

 


 「こんな妙手を指されては仕方がない」


 

 認めるように、自分が読んでない手を指され「完全にを行かれた」ショックがあったわけで、評価の点数以上に勝てない流れになってしまった、ということなのだろう。

 

 


 (大山、神業的な受けで米長を粉砕

 (大山、らしくない派手な手で米長を圧倒

 (「受けの大山」を突破した米長の絶妙手

 (名人挑戦をかけた「大雪の決戦」)

 

 (その他の将棋記事はこちらからどうぞ)

 

 

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施川ユウキ『ベルナルド嬢曰く』に出てきた本、何冊読んだ? その4

2022年08月28日 | 

 施川ユウキ『バーナード嬢曰く』が好きである。

 ということで、

 「このマンガに出てきた本を何冊読んだか数えてみよう」

 との企画。前回の3巻に続いて、今回は4巻です。

 

 

 ■図書室の魔法』ジョー・ウォルトン(読了


 「本が大好き! 読書って、すばらしいことなんだよ!」

 というキラキラ系は苦手だけど(有川浩『図書館戦争』とか)、陰性なのでこっちは良い。

 リアル神林が主人公。『ファージング』三部作も超オススメ。

 


 ■ハックルベリー・フィンの冒険』マーク・トゥウェイン(読了


ハックルベリー・コールフィールド。とにかく、トム・ソーヤみたいだって言われるよりはずっといい。トム・ソーヤって、学生運動やっても、企業に入っても、絶対に人を操る側に立ちそうなやつだよね。

   ―――柴田元幸『Call Me Holden』 

 

 ■妄想銀行』星新一(読了


 古本屋に行くと、100円とかでいくらでも手に入るから、読むべし、読むべし。

 

 ■注文の多い料理店』宮沢賢治(未読)


 中学のとき演劇部がやっていて、それでストーリーを知った。構成がきれいで、たしかにお芝居向きかも。

 ただし、ミヤケン自体は苦手。リリカルって合わないのかな。

 

 ■その女アレックス』ピエール・ルメートル(読了


 前評判でかなりハードルを上げられたけど、たしかにおもしろかった。

 肩透かしを食らわされる人がいるのは、きっとこの小説がイメージと違って「ふつうに優等生のミステリ」だからだろう。

 

 ■アムリタ』『舞面真面とお面の女』『死なない生徒殺人事件』『小説家のつくり方』『パーフェクトフレンド』野崎まど(未読)

 

 『アムリタ』『小説家の作り方』はおもしろかったけど、五部作だか全部読まないといけないのか。

 こういう連作は「読まないといけない」というプレッシャーにさいなまれるので、そもそも手をつけないことが多い。

 『涼宮ハルヒ』も途中で止まってるしな。読まないと。



 ■マイブック』(未読)


 まあ、たしかに買うのは恥ずかしいッスね。

 


 ■HERE ヒア』リチャード・マグワイヤ(未読)


 未読。

 

 ■さあ、気ちがいになりなさい』フレドリック・ブラウン(読了


 表題作はまさに仰天。他の作品も粒ぞろい。読むべし。

 

 ■奇怪遺産』佐藤健寿(未読)


 旅行好きなので、興味はある。

 

 ■騎士団長殺し』村上春樹(未読)


 ド嬢の「村上春樹はあえて訳書の方を読む」は、結構いろんな作家さんなどが言ってること。

 村上春樹の鼻につく部分が、翻訳だとあまり気にならないからだそう。そうかなあ。

 

 ■電車男』中野独人(未読)


 あったなあ。読んでないっス。

 

 ■すばらしい新世界』オルダス・ハックスリー(未読)


 積読本。ディストピアものは、今の日本だと妙にリアルで「だからおもしろい」か「だから読みたくない」か微妙な選択だ。

 

 ■完本 1976年のアントニオ猪木』柳澤健(未読)


 プロレスは門外漢だが、友人のプロレスファン率は高い。

 


 ■棚橋弘至はなぜ新日本プロレスを変えることができたのか』棚橋弘至(未読)


 プロレスは門外漢だが、映画『レスラー』は大傑作。

 

 ■こころ 坊ちゃん』夏目漱石(未読)


 なぜか水島新司が描いた、マンガ版『坊ちゃん』は読んだことがある。

 

 

 ■三毛猫ホームズの傾向と対策』『三毛猫ホームズの推理』『三毛猫ホームズと心中海岸』赤川次郎(未読)


 『三姉妹探偵団』は読んだなあ。

 それにしても、こんだけ売れてるのに、ほとんど語られることのないこの作家は不思議な存在だ。

 


 ■無伴奏ソナタ』オースン・スコット・カード(読了


 「残酷で美しい」という意味で、『まどマギ』を連想してしまう。

 

 ■渚にて』ネビル・シュート(未読)


 積読。コーマック・マッカーシー『ザ・ロード』もそうだけど、終末物は体調を整えて読まないとグッタリすることがあるから、ややビビり気味。

 あ、でも映画『インターステラー』はおもしろかった。

 絵的にものすごいけど、ストーリーとか演出が結構ズッコケという「あと30センチずれたらシャマラン」感がたまらない。

 もちろん、シャマランも大好き。能天気でいいよね。

 あと、ちゃんと「本気」で作ってるところも。ここ大事ッス。

 

 (続く

 

 

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「タテ歩棒銀」のたたき合い 羽生善治vs米長邦雄 1989年 棋王戦

2022年08月25日 | 将棋・名局

 「ねじり合い」の強さは、そのまま棋力に相当する。

 将棋の強さには序盤の知識やセンス、中盤の大局観、終盤の寄せの力などあるが、中でも試されることが多いのが「接近戦」での腕力。

 特にゴチャゴチャした未知の局面で、どんな手をひねり出せるかは才能が問われるところで、先崎学九段の言うところでは、

 

 「玉頭戦が強いことは、将棋が強いということ」

 

 そこで前回は豊島将之九段が見せた「魔術」を紹介したが(こちら)今回は天才同士の「ねじり合い」の熱局を見ていただきたい。

 

 1989年の棋王戦。米長邦雄九段羽生善治六段の一戦。

 先手になった羽生が、相掛かりから「タテ歩棒銀」という今ではあまり見ない戦法をえらぶ。

 端から果敢に仕掛け、米長がそれを受ける展開に。

 19歳と若さあふれるうえに、このころ竜王戦で初のタイトル挑戦を決めていた羽生は、とにかく勢いがあり、飛車銀交換の駒損ながら、角を大きくさばいていくという強襲を見せる。

 

 

 気持ちの良い前進だったが、米長も好機に作ったが手厚く、序盤のやり取りは後手がペースを握った印象。

 羽生は▲84香から猛攻を再開し、そこから6筋から8筋にかけて、力の入った攻防が展開され、むかえたこの局面。

 

 ねじり合いのさなか、△71玉△73桂△81玉と自陣を整備するタイミングが絶妙で、玉形の差があり一目後手が優勢である。

 馬をどこに逃げていいかも、ハッキリしないところだが、ここから見せる羽生の力業が本局の見どころである。

 

 

 

 

 ▲23角とつなぐのが、意表の受け。

 ただヒモをつけただけで、角桂交換の駒損も必至とあってはただの苦しまぎれのようだが、これで容易にはつぶれない。

 △67桂成▲同角成に後手は△44角と攻防の急所に据えるが、そこで▲61銀と打つのが、米長九段も感嘆したド迫力の追いこみ。

 

 △53角と金を取ったところで、今度は▲84歩と急所に平手打ち。

 

 このあたりは、こまかい手の意味よりも、ぜひ羽生の勢いを感じてほしい。

 苦しいながらも「勝負、勝負」とせまっていく様は、実戦的で実に迫力がある。

 △84同銀に▲72銀不成と取り、△同玉に▲69香と打つのが、「下段の香に力あり」という、またいかにも雰囲気の出た手。

 

 

 米長の感想では、どうもこのあたりで、ひっくり返っているよう。

 次に▲45馬がきびしいから、△66歩とタタくが、そこで▲63銀と打つのがまた強烈。

 

 

 △同玉には▲45馬から▲55桂で寄りだから、△83玉と逃げるが、▲66馬△65銀▲84馬、△同玉、▲85歩、△同桂、▲65香、以下先手勝ち。

 

 この将棋、△55桂▲23角のところでは後手優勢で、その後も米長にさしたる悪手があったとは思えないが、いつのまにか逆転していた。

 それは具体的な善悪がどうよりも、とにかく猛獣のような羽生の噛みつきが、どこかで米長の急所に喰いこんでいたのだろう。

 固い壁を、力ずくで引っぺがしてしまうような勝ち方であり、若いころ「攻め100%」と呼ばれた塚田泰明九段の将棋を評して、

 

 「塚田が攻めれば道理が引っこむ」

 

 と言われたが、まさにそんな感じ。

 まだ荒削りだった羽生の魅力と、米長のベテランらしい円熟味がよく出た、実におもしろい一局であった。

 

 (その他の将棋記事はこちらからどうぞ)

 

 

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「地震・怪獣・ウルトラマン」 ドラコ ゲスラ マグラ- バキシム レッドジャック キングカッパー ギーゴン 登場

2022年08月22日 | おもしろ映像

 「どっちが本物日本かキミが決めてくれ!」

 先日、近所の中華屋でそれぞれ、

 

 

 「バブル時代にあったコカ・コーラのCM」

 「元祖『君の名は』とか千葉真一など古い邦画

 

 という持ち札を駆使して、議論を深めていた友人シジョウ君とナワテ君

 その審判役として派遣された私だったが、話がヒートアップしてくると、こっちにも展開してきて、

 

 「わかった、判定はいったん置いとくとして、今度はキミ自身が【これぞ本物の日本】と思うもんはなにか教えてくれ」


 
 うーん、が見た「本物の日本」ねえ。

 やっぱ、これかなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 怪獣は日本の誇るべき文化。

 世界にも、コンゴムベンベとか怪獣伝説は数あれど、ここまでハッキリとひとつの映像ジャンルになっている国はウチしかあるまい。

 特撮ファン以外の人にとって、怪獣というとゴジラのイメージが強いかもしれないが、私はそこにはあまり興味がなく、やはりウルトラ怪獣

 特に『ウルトラQ』から『ウルトラマン』と、黎明期の作品に多くの才能と、潤沢な予算が当てられた幸運に感謝したい。

 あと、日本の怪獣、特に初期のウルトラ怪獣って、怖いと同時に妙な愛嬌があるんだよなあ。パゴスとかマグラーかわいいっス。

 いわゆる「萌え」というやつかもしれないが、そんな話をしていると映画などにくわしい方から、

 

 「いやいや、怪獣と言えばキングコングとかもメジャーでねーの?」

 「リドサウルスとか、ゴジラに影響あたえたりした先輩もおるわけやし」

 

 たしかに、いわれてみればそうなのであるが、そこは日本の怪獣にはそれそれで独特の個性があり、それは先も言った「愛嬌」のようなものかもしれない。

 さらに言えば、日本にはこれこそ発展形である「超獣」という存在いて、これはフォルム的にも物語の展開的にも(異次元人みたいなのが出るところか、男女が力を合わせるヒーローとか)怪獣映画の大傑作『パシフィック・リム』にもつながっており、

 

 「海外からもリスペクトされている」

 

 という意味でも、これこそ「日本の文化」と言ってもよいのではないか。

 

 

 

 みんな大好きバキシム

 

名前はカッコいいぞレッドジャック

 

見た目のパンチ力は十分なキングカッパー

 

髪型(?)がオシャレなギーゴン。

 

 どれもこれも『パシフィック・リム』の「Kaiju」として出てきても、違和感ないものばかり。

 全体的にゴテゴテして、好き嫌いは分かれるところだが、見た目にインパクトがあるのは事実だろう。

 パシリムは映画もいいけど、連ドラにしてほしかったよなあ。死ぬほど金かかりそうだけど。

 その際はもちろん「Choju」も、たくさん出してほしいです

 ギレルモ、オレは今でも待ってるよ!

 

 

 

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コンフュージョンの呪文 豊島将之vs前田祐司 2009年 銀河戦

2022年08月19日 | 将棋・ポカ ウッカリ トン死

 王位戦第4局が延期になった。

 現在行われている、お~いお茶杯第63期王位戦七番勝負の第4局は、挑戦者の豊島将之九段が体調不良ということで、延期となってしまった。

 竜王叡王を失い、無冠になってしまった豊島だが、「九段」表記もそろそろ飽きてきたこともあって、ここは王位か王座のどっちかくらいは取るべしと、観ている方も気合を入れて待っていたのだが、そこにこの報。

 肩透かしを喰らってしまった形だが、代わりに配信された阿久津主税八段里見香奈女流五冠との棋王戦が、最後まで手に汗握る大熱戦でメチャメチャ楽しかったので結果オーライ。

 里見さん、おしかったなあ。あっくんも終盤戦では手が震えていたし、ここを勝っていれば、編入試験にも勢いがついたろうに残念だ。

 その編入試験も、第1戦ではデビューから爆発している(今期12勝1敗!)徳田拳士四段に敗れてしまったが、まあ勝負の世界は甘くないということか。まだまだ、これからッスよ。

 とりあえず、ここからしばらくは「豊島王位(もしくは王座)」と「里見四段」誕生を楽しみに過ごすということで、今回は若手時代の豊島将棋を紹介したい。 

 

 2009年銀河戦

 前田祐司八段と、豊島将之五段の一戦。

 戦型は、後手になった豊島が、このころよく指していたゴキゲン中飛車に振る。

 前田は長く順位戦B級1組で活躍し、NHK杯でも優勝経験がある実力者だが、このときはすでにベテランの域に達している。

 若手ナンバーワンともいえる豊島となれば、まあ問題はないだろうと思われたが、この将棋は大苦戦を強いられ、終盤ではこの局面。

 

 


 ▲62銀と、教科書通りの「美濃くずし」が決まって、苦戦を通り越して、ここでは必敗である。

 △同金と取るしかないが、急所中のド急所▲71角が入っては、もはやそれまで。

 ここで投げてもおかしくないくらいだが、豊島は△92玉と寄り、▲62角成△82金と入れてねばる。

 

 

 


 これがどう見ても希望のないねばりというか、先手陣は手がついてなく、詰みはないどころか、詰めろすら、かけるのは困難。

 それにくらべて、後手玉は延命のきかない形な上に、手番も渡している。

 逆転のコツには、

 「相手にプレッシャーをあたえる」

 ことが重要なのに、その要素がないというのだから、これはもう、相当に苦しいわけなのである。

 前田は▲71竜と入り、いよいよ受けがなく、後手は△38飛と打って、

 「駒が入ったら、詰ますぞ」

 せめての主張点を入れてくるが、そこで▲48金の犠打。

 

 


 このあたりは、いろいろと勝ち方がありそうだが、この金打ちも手筋で、△同とと取らせれば、飛車の横利きが消え、先手玉が「ゼット」になる。

 わかりやすい形にして、速度計算をしやすくするのがコツで、やはり先手が勝ちである。

 ▲48金以下、やむをえない△同とに、▲82竜、△同玉、▲71金と自然に押していく。

後手は△61金打と、やはり悲壮なねばりを見せるが、▲同金から駒得しながらな攻めが続いて、まったく状況は好転しない。

 そうして、とうとう最後の場面をむかえた。

 

 


 ここまで、懸命のがんばりを見せてきた豊島だったが、さすがにこれは、いかんともしがたい。

 頭金の1手詰が受けられないとなれば、今度こそ投げるしかないと思われたところだが、豊島はまだあきらめない。

 完全に受けのない、必至の局面で、一体なにを指すのか。

 次の手は、強い人ほど当てられないと思います。

 

 

 

 

 

 

 △71銀と打つのが、目を疑う1手。

 いや……だってこれ、受けになってないよ! 5手詰だよ!

 これはさすがに、私でも見つけられます。

 そう、▲72金打、△同銀左、▲同成香、△同銀、▲82銀まで。

 なんら難しいところもなく、詰んでいる。

 なんだこれ? どういうこと?

 まったく意味のない手で、人によっては「こんな手を指すのは、いかがなものか」と感じるかもしれないが、あにはからんや、これがとんでもない事件を引き起こすこととなる。

 30秒将棋の中、瀕死の状態でも、はいずって逃げようとする豊島の迫力に押されたか、なんと前田はこの簡単な5手詰を見逃してしまうのだ!

 まさか前田も、無意味な受けなどするはずがない、と思いこんだのか、▲61成香としてしまう。

 といっても、この手自体も駒を取りながらの自然な攻めで、△72金とさらなるがんばりに、▲62銀と腕ひしぎを決めれば、それでお終いだった。

 そこを▲75桂としたため、△47角と攻防手が入って、これで一気に局面がわからなくなってきた。

 

 

 

 それでもまだ、先手が勝ちなのだろうけど、前田はパニックになったのか寄せを発見できず、▲71成香、△同金、▲56銀と受けに回るが、そこで豊島は△82香

 

 を渡すと、先手玉はムチャクチャに危険な状態だが、逃げているようでは勝てない。

 そもそも、ここではすでに、後手玉に有効な攻め手も、いつの間にか見えなくなっている。

 前田は誘われるよう▲同金としてしまい、△同金、▲83香の瞬間、△69角打から詰まされてしまった。

 いかがであろうか、この大逆転劇。

 必敗の局面でも投げず、最後は相手がおかしくなって、5手詰を逃すという椿事もあったが、こういう「根性」を見せられるのが、豊島将之という男。

 とよぴーといえば、スマートな研究派というイメージが強いけど、終盤はこういう泥まみれの戦いをしていることが多く、そこが魅力でもある。

 今は藤井聡太というバケモノがいる上に、王座戦で相対する永瀬拓矢も負かすのは大変な男だが、どこかでこの△71銀のような魔術を駆使して、ふたたびはい上がってくることを期待しようではないか。

 

 (豊島と渡辺明の熱戦はこちら

 (豊島の順位戦デビュー戦の妙手はこちら

 (その他の将棋記事はこちらからどうぞ)

 

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バブル時代vs昭和レトロ コカ・コーラ 千葉真一 円谷英二 登場

2022年08月16日 | おもしろ映像

 「どっちが本物の日本か、キミが決めてくれ!」

 盆休みのある日、地元の中華屋で、そんなことを言い出したのは友人シジョウ君であった。

 ことの発端は、シジョウ君がナワテ君という友人と酢豚で一杯やっていて、

 

 「理想の我が国、本物の日本とはなにか」

 

 という、高尚かつ中2病的テーマで議論していたときのこと。

 そこで意見が対立し、激論となり、ついにはつかみ合いのケンカに発展。

 このままでは相手の顔にチャーハンをぶっかけ、鼻の穴に春巻をねじこむ泥仕合に突入しかけかねない。

 そこで、冷静な第三者にジャッジしてもらおうと、不肖この私が呼び出されたというわけだ。

 いい歳して阿呆であり、「本物の日本」といわれても、急になんやねんだが、なにやらむやみにスケールのデカイ話ではある。

 そんなもんを「オレが決める」となれば、なんだかずいぶん大物というか、本宮ひろしのマンガみたいで、気分もアガるではないか。

 ふむ、よきに計らえ。で、シジョウ君が言う「本物の日本」とはなんなのかと問うならば、

 

 「そんなもん、コカ・コーラのCM。I FEEL COKEに決まってるやないか!」

 

 コカ・コーラの宣伝。あったなあ。

 私が子供のころだから、昭和の時代。西暦でいえば80年代に、よくテレビでやってたよ。

 

 「はじめーてじゃーなーいのさぁ♪」

 

 歌ってみれば、40代以上の方は思い出すのではないか。

 なんかやたらに、さわやかで、バブルのころのイケイケ感とか、アメリカへの強い憧憬とが多分にふくまれた、時代性バリバリのシリーズだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 くわしくはYouTubeなどで見ていただくとして(こちら)、これはなつかしい。みんな、すげえいい笑顔だなあ。

 たしか、もう10年以上前にこのCMを集めたDVDが発売されて、話題になったことがあった。

 ライムスター宇多丸さんのラジオ番組『ウィークエンド・シャッフル』でも数回取り上げられ、

 

 「敵だよ、敵!」

 「あいつが憎かったんだ。名前は知らないけど、わかるだろ? 【アイツ】だよ!」

 

 イケてない青年だった宇多さんとコンバットRECさんが、大盛り上がりにもりあがっていて、メチャクチャおもしろかったもの(そのやりとりはこちら)。

 

 「このCMやってたとき、オレはランチパックの工場で夜勤のバイトしてたんだよ!」

 

 というRECさんの過去が、あまりのハイパーリアリズムに笑っていいような、胸が痛いような。

 パン工場で12時間働いた後に見る、コカ・コーラのCM。

 若き日の沢木耕太郎さんの書く、社会派ルポルタージュみたい。文学やねえ。

 私自身、宇多さんやRECさんより年齢的には下の

 「大人になったらバブル終わってた

 という世代だし、そもそもリア充とか、パリピみたいな人に対するあこがれというのが、ほとんど無いタイプなので(深夜ラジオとかSFの話の方が楽しいじゃん)、

 

 「嫌う気持ちも、わかんなくもないけど、CMとしては良く出来てるからいんでね?」

 

 くらいな感じだけど、RECさんのように、怒り嫉妬軽蔑の念で平静でいられない人もいれば、

 

 「あのころの日本は輝いていた」

 「こんな青春を送る予定だったのに」

 「この時代にもどりたい……」

 

 という、結構ガチな声もあったりして、どうも私の体感以上に、このCMは「アツイ」らしい。

 

 「な、これやろ。これこそがホンマの【あるべき】日本の姿や。【正しい】歴史やろ? これをハジけさせた無能な権力者どもこそ、万死に値する!」

 

 なるほどねえ。

 まあ、岸田秀先生いうところの、アメリカコンプレックスにとらわれた近代日本が一時期とはいえ「勝った」のは真珠湾奇襲バブル経済というから(どっちも花と散りましたが)、そこに惹かれるというのは理解できるところではある。

 じゃあ、これに反論したナワテ君が出す「本当の日本」とはなんなのかと問うならば、

 

 「それは、これを見てくれや」

 

 友が取り出したのはスマホで、そこに入っている画像を収集するアプリである。

 彼が集めたコレクションというのが、昭和映画ポスター。

 

 「これや! この泥臭さこそが日本人の感性や。【さわやかテイスティ】とか、どこの国のサバの煮つけやねん! 目ぇ噛んで死ね、このぼけなす!」

 

 論より証拠と、ナワテ君が見せてくれたのがこれら。

 

 

 

 

 たしかに「本物」の『君の名は』です(笑)。

 

 

「本当にカッコイイとはこういうことだ」という、有名なセリフが聴こえてきそうですね。

 

 「萌え」は日本固有の文化です。

 

「総天然色」というのが時代を感じさせるゴージャスさで楽しい。

 

 なるほどねえ。

 たしかに私も映画好きだし、なにかこうムダに熱いパッションを感じさせる絵面も、大いに好むところ。

 こうして並べられてみると、どっちもインパクトは充分で、どちらが「勝ち」かと言われるとむずかしい。

 ハッキリ言って、私自身は完全無欠にナワテ君側の人間だけど、これが「真の日本」かと言われれば、自信をもって「そう」というのも、ためらうところだ。

 バブルか昭和レトロか。

 これはもう、いったん持ち帰って考えます。判定はおあずけ。

 負けた方は罰ゲームで、ナワテ君はコカ・コーラとコケ・コーラの1ダース一気飲み。

 シジョウ君は映画『人間の條件』を一気観ということで。

 ここをお読みの読者諸兄も、自分が「どっち側」か考えて、彼らを応援してあげてください。

 

 (続く

 

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カーテンコール 羽生善治vs中村太地 2013年 第61期王座戦 その4

2022年08月11日 | 将棋・シリーズもの 中編 長編

 前回の続き。

 2013年の第61期王座戦は、挑戦者の中村太地六段が、羽生善治王座2勝1敗とリードし、奪取に王手をかけている。

 千日手指し直しになった第4局

 角の王手に応手は2つだが、片方はで、もう片方は

 To be or not to be. まさにシェイクスピア悲劇のごとく、頭をかかえたくなる場面だ。

 

 

 

 時間がせまる中、選択をせまられた羽生は△73玉とよろけた。

 これは正解だったのか。どっちだ。

 答えは「激戦続行」だった。

 当初の読み筋では、羽生は△72銀で詰まないと見ていたそうだが、もしそのまま銀を打っていれば、▲95桂、△73玉、▲72角成、△同玉、▲83金、△62玉。

 そこで▲51銀と捨てるのが、うまい手。

 

 

 

 単に▲82飛成△51玉で逃げられる。

 先に▲51銀と退路封鎖して、△同金、▲82飛成、△61玉、▲72竜まで、後手玉はピッタリつかまって「中村王座」誕生だった。

 いや、結果論的に言えば、そもそも後手玉はその前にとっくに詰んでいた。

 

 

 

 これは冒頭▲61角と王手した図の、少し前の局面。

 ここから、▲83銀、△同玉、▲81飛、△82銀、▲67馬、△同歩成、▲61角と進むのだが、銀を打つ前に、ここで▲64桂と捨て駒をしておけば、後手玉は詰んでいたのだ。

 △同金の一手に、そこで▲83銀から同じように進めれば、後手玉は△64の地点が埋めつぶされて逃げられず、そこでお縄だったのだ。

 とはいえ、それはそれで△63から△54と抜け出すルートを作るようにも見え、指しにくいところではある。

 ギリギリのところで「指運」の良さを見せた羽生だが、まだ後手玉は赤信号が灯ったまま。

 警告音が盤上に鳴りまくる中、△73玉に▲82飛成と追って、△64玉(ここに逃げられた!)から懸命の逃走劇に▲65歩、△54玉、▲43銀

 取れば詰みだから、△55玉

 わずか蜘蛛の糸一本でつながる驚異の空中脱出ショーだが、▲56歩△65玉で、ふたたび先手に、ハッキリとした勝ち筋が出現した。

 

 

 

 寄せにいくか、それともなにか攻防手のようなものがあるのか。

 1分将棋の中、中村太地は懸命に「王座」の王冠が入ったつづらを探すが、ここで放った▲57桂の王手が、あと指一本で届くはずだった栄光を逃す敗着だった。

 ここでは▲66歩と打てば、先手が勝ちで「中村王座」だった。

 △同と、▲同銀、△同玉、▲67歩王手しながら自玉を安全にしていくのが、玉頭戦の手筋。

 

 

 後手がどう応じても、▲58金とか▲78金とか、▲57桂とか▲68桂とか、先手先手で味方の駒を増やして詰まないようにし、最後に△52に落ちているを取れば明快だったのだ。

 ▲57桂では、後手玉が△56△47△36と右辺にスルリと逃げ出す形で、つかまらない。

 そこでついに力尽き、中村太地が投了。勝負は最終局に持ち越しとなった。

 まさに大熱戦の中の大熱戦

 シーズン終盤のA級順位戦最終局三浦弘行九段久保利明九段の一戦にまくられるが、それまでの年間「名局賞」候補は間違いなく、この将棋なのだった。

 このシリーズに惚れこんだ私は、5番勝負の特に第1局第2局、そしてこの第4局を何度盤に並べたか、わからないほどだ。

 羽生善治は強い、そして中村太地もそれに、決して負けていない。

 これで勝負はフルセットにもつれこんだ。

 ここまで、すばらしい将棋を見せてもらった以上、もう結果がどっちに転ぼうが、祝福の拍手をする準備はできている。

 泣いても笑っても、すべてが決まるこの一番で、後手になった中村は得意の横歩取りに誘導。

 中終盤の戦いもおもしろかったが、やはりこの将棋は最終図が語られるべきであろう。

 

 

 

 ▲61角まで、中村が投了。

 私は「形づくり」のようなものにさほどこだわらず、特に若手棋士は1手詰めまで、がんばる根性を見せてもいいと思っているが、ことこの将棋にかぎっては、この投了図を選んだ中村太地が「正解」であろう。

 羽生王座は強く、中村六段もまた、すばらしい将棋を見せてくれた。

 両対局者の所作は優雅で、将棋も洗練されながらも、中終盤は汗が滴るくらいに熱く、どちらもすべての力を出しつくした好局ぞろいだった。

 一言で言えばクリーンで、羽生さんたちが作ってきた「平成の将棋」って、こんなんなんだよなあ。

 そして、この流れが今の「藤井聡太」登場につながるのだ。

 まだ無頼のイメージが強かった将棋の世界を、知的でスマートなものに変えていったのが、羽生をはじめ、森内俊之佐藤康光郷田真隆といった「羽生世代」や中村太地といった棋士たちだった。

 まあ、この点は好みもあるだろうが、今の若手棋士たちが、そのレール上にいるのは、それこそ昨日順位戦の解説をやっていた、佐々木勇気佐々木大地のような人たちが、人気を集めているのを見れば一目瞭然だろう。

 そこにとどめのように現れた、藤井聡太というさわやかな存在は「正当な継承者」というイメージが強く、時代にもマッチしているように思える。

 ちなみに、このときこそ敗れはしたが、中村太地は数年後の2017年にふたたび王座戦に登場。

 今度は3勝1敗のスコアで羽生に勝利。悲願の初タイトルを手にするのだった。

 

 (その他の将棋記事はこちらからどうぞ)

 

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ブラックホール・ダイバー 羽生善治vs中村太地 2013年 第61期王座戦 その3

2022年08月10日 | 将棋・シリーズもの 中編 長編

 前回の続き。

 2013年の第61期王座戦は、挑戦者の中村太地六段羽生善治王座(王位・棋聖)に2勝1敗とリードを奪って、第4局に突入。

 カド番の羽生は中村の横歩取りを受けるも、中盤で千日手に。

 中村からすれば、勝負将棋で思わぬ先手をもらったのは、まさに千載一遇のチャンスであり、羽生の一手損角換わりに立ち向かう。

 羽生は早めに角を打ち、中央から銀をぶつける積極策を見せるが、▲56歩と突かれて、が死んでいる。

 

 

 これは困ったかと思いきや、ここから羽生が怒って、襲いかかっていく。

 

 

 

 

 △46歩、▲48金、△77角成、▲同桂、△47銀

 角を切るのはわかるとして、次の△47銀が、なんとなくではあるが「羽生らしい手」と感じたところ。
 
 この手自体は駒損なうえに、玉の反対側にいる▲48にアタックをかける、いかにも筋の悪い手に見えるのだ。

 実際、好手かどうかはわからないが、その「筋悪な手」を、あえて掘り下げて指してくるのが、羽生さんぽいなあと。

 中村は重い攻めに対して、▲49金といなしにかかる。

 これもスゴイ手で、後手は△56銀成とすれば次に、△66歩、▲同歩、△同飛や、△67成銀、▲同金、△66歩のような攻めが受けにくい。

 必然ここで攻め合いになるが、一直線のスピード勝負も怖くないと言っているわけだ。

 オレをだれやと思てるねん。中村太地やぞ、と。

 

 

 となると、ここで駒が引く手は考えられず、▲23同飛成と特攻していく。ここは感覚的に、飛車で行くのがポイントだ。

 中村太地といえば、エリート大卒で見た目も言動もしっかりした「優等生」キャラだが、盤上ではかなり我が強く、野蛮である。

 そのあたりは、佐藤康光九段と共通するところがあり、佐藤があこがれの棋士として挙げるのが米長邦雄永世棋聖

 名著『米長の将棋』はバイブルだったとよく語っているが、まさに中村の師匠こそが米長邦雄であり、そのあたりのことも関係しているのかもしれない。

 「米長流」の踏みこみに、△同歩から▲24歩とかぶせて、この攻めはまともには受からない。

 後手は△41玉から左辺にスタコラサッサと逃げだすが、そこで▲83角を入れてから、△72銀の受けに▲63歩が痛烈なビンタ。 

 

 


 △同飛タダ

 △同銀▲41金詰み

 △同金は「金はななめに誘え」の格言通りで、玉のアーマーが紙になってしまい、とても保たない形だ。

 解説の飯島栄治七段は、この手で「先手勝ち」と見たが、たしかにそう言いたくなる見事な「焦点の歩」だ。

 取る形のない羽生は目をつぶって△67歩成と踏みこむが、▲62歩成、△同玉に▲64飛が、また悩ましい王手。

 

 

 

 △63歩▲67飛△83銀▲34馬負けと見た羽生は△63金打と投入し、▲67飛△66歩とたたく。

 ▲同飛は角を取って王手飛車ねらいだから、▲69飛と引くが、△47飛▲34馬△77飛成▲78銀△65桂と猛反撃。

 

 

 

 激しい空襲で、先手陣は豪快に屋根を突き破られているが、▲34にある守備力が絶大で、まだギリ耐えている。

 このあたり、控え室で近藤正和六段が「怖いね、怖いですよ」といえば、中村修九段が「そんなこといってられないよ」と検討陣もヒートアップ。

 「中村勝ち」と見ていた飯島七段も、「後手が勝ちに見えます」になるなど、二転三転の大激闘。

 先手玉は押しつぶされる寸前だが、1手空いたスキをねらって、今度は後手玉にラッシュをかける。目まぐるしい攻防戦だ。

 クライマックスの第一幕はここだった。

 

 

 

 ▲81飛から▲61角と先手が王手王手でせまったところ。

 ここでの対応は2択である。

 合駒をするか、王様を寄るか。ふたつにひとつ。

 結論から言えば、片方は詰みで、もう片方は激戦続行だ。

 に追われている羽生は、果たしてどちらを選ぶのか……。

 

 (続く

 

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噴煙突破せよ 羽生善治vs中村太地 2013年 第61期王座戦 その2

2022年08月09日 | 将棋・シリーズもの 中編 長編

 前回の続き。
 
 2013年の第61期王座戦五番勝負。

 羽生善治王座(王位・棋聖)を相手にとって、挑戦者の中村太地六段が、まず先勝。

 「羽生有利」の声が多い中、これで勝負はおもしろくなるぞと身を乗り出すわけだが、その通り、第2戦もまた熱局になるのだ。

 力戦の相居飛車から、先手の羽生が穴熊にもぐる展開に。

 固めてドッカンの穴熊流特攻を、中村が受ける展開だが、先手の攻めも細い感じで、そう簡単には決まらなさそう。

 ……と見せかけて、実はこの将棋は早くに決着がつく可能性があった。

 

 

 

 中盤の難所だが、ここでは▲15歩と押さえる手があった。

 △39馬と取らせる間に▲33桂成として、これが▲14銀の詰めろで、なかなか受けにくい。

 

 

 △14香とムリヤリ受けても、▲26桂がピッタリ。

 △14角の非常手段も、▲16銀と重しを乗っけて、後手は困っていた。

 羽生からすれば、まさかこのむずかしそうな局面で決め手があるとは思わなかったのだろうが、そしてそれは中村太地の「信用」でもある。
 
 これが弱い棋士なら、おそらく羽生はすぐさまこの手に気づいたに違いなく、中村を強いと認めているから、

 

 「こんな簡単に終わるわけがない」

 

 という先入観をあたえることによって、ピンチを脱したのだ。

 それが「信用」であり、これは勝つこと、いい将棋で魅せることでしか得られないものでもある。

 危機を回避した中村は、ここから持ち味を発揮して、羽生にプレッシャーをかけていく。

 

 

 

 ▲17歩と、後手玉の逃走路に置き石をしたところで、△19歩成としたのが、中村太地一流の強気な手。

 ここは▲16銀と、に当てながら上部脱出を阻止するのが見え見えなだけに怖いが、それには1回△26馬と引いておいて、逆に△15歩から先手の攻め駒を全部取ってしまおうというねらい。

 まるで木村一基九段のようなパワフルさで、おいおいカッコイイのは見た目だけにしてくれよと、つっこみを入れたくなる手順ではないか。

 そこからは入玉をめぐる玉頭のもがきあいで、一度は先手の攻めが切れ模様に。

 なら、後手がトライを決めて勝ちに見えたが、先手も手を尽くして通せんぼするなど、だんだんわけがわからなくなってくる。

 この混戦の中、中村太地にミスが出た。

 

 

 

 △24の金を守って△23香と打った手が、うまい手に見えて、なんと受けになっていなかった。

 これは▲14竜、△同金、▲35銀打、△36玉、▲26金の詰み筋を△同香と取って防ぐべくセットしたもの。

 

 

 

 だが、△23香をあっさり▲同成桂と、取られてしまうのを中村はウッカリした。

 △23同金▲14竜から上記の順で詰み

 △同銀▲17竜で、やはりアウト。

 しかし、これでは香車をタダであげただけの、単なるお手伝いだ。

 ここでは△36玉▲24竜△25銀打で先手ダメと羽生は悲観していた。

 

 

 

 

 言われれば「そうか」という感じだが、中段玉は駒がゴチャゴチャして読みにくく、先手を取った受けでないのも怖いところではある。

 これで持ち直し、羽生が逆転

 最終盤に見せた、トドメの刺し方がニクイ。

 

 

 

 

 中村玉は入玉を果たしているが、先手の駒が近く、援護の駒も王様から離れていて、いかにも捕まりそう。

 次の手が、皮肉な決め手となった。

 

 

 

 

 

 ▲49香と打って、後手玉は逃げられない。

 △同玉▲59金△同銀成▲67銀からつかまっている。

 後手からすれば、ものすごくわかりやすい形でポカをとがめられたわけで、もちろん羽生だって最初からねらってたわけではないだろうが、それでも結果的には、

 

 「あなたがタダでくれた香があったから、勝つことができました」

 

 と言われているようなもんで、まるで、嫁イビリのような意地悪な手ではないか。

 私だったらくやしくて、われ泣きぬれて蟹とたわむるところだが(広瀬章人八段は初タイトルの王位を失ったとき自室で泣いたそうだ)、中村はたくましくなったか、勝てそうな将棋を落としたにもかかわらず、そこからくずれることがなかった。

 続く第3局も、すばらしい将棋を披露。やはり角換わりから、序盤で作戦勝ちになり、中盤は自然な指し手でリードを広げる。

 終盤は厚みで押し、無理攻めを誘って丁寧に面倒を見てあますという、居飛車先手番の理想的な勝ち方で、王者羽生善治相手に完勝してしまったのだ。

 

 

 

 

 強い! と感心することしきりの内容で、これで2勝1敗と初タイトルに王手をかける。

 スコアのみならず、将棋の内容でも負けてないのがすばらしく、これはふつうに

 「中村王座あるで」

 気の早い私など決め打ちしてしまうが、もちろん、あの羽生がこのまま「どうぞお通り」とゆずってくれるわけはなく、ここからの戦いがまた、とんでもなく熱いのである。

 

 (続く

 

 

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シンシナティ・キッド 羽生善治vs中村太地 2013年 第61期王座戦

2022年08月08日 | 将棋・シリーズもの 中編 長編

 前回の続き。

 挑戦者決定戦の郷田真隆九段戦で、終盤、やや不可解な勝ち方ながらも、見事に勝利をおさめた中村太地六段

 昨年度の棋聖戦に続いて、相手は羽生善治王座(王位・棋聖)。

 戦前の予想は「羽生有利」であり、それは棋聖戦のストレート決着を見ればそうなるところだが、若手棋士からすれば羽生相手に不利と言われたとて、「ま、そうですわな」くらいでろう。

 郷田戦の決め方を見れば、中村太地の気合は並ではなく、その通り、この5番勝負は初戦から大熱戦になる。

 中村先手で、羽生が一手損角換わりを選ぶ。

 羽生の駒組にスキ有りと見て、挑戦者が果敢に仕掛けていくが、これが思ったよりもうまくいかなかった。

 羽生がペースを握るが、手に乗ってを自陣に引きつけたのが幸便に見えて疑問で、中村が盛り返していく。

 

 

 

 中盤は挑戦者ペースに見えたが、この▲72馬▲83から入った手がパッとしなかった。

 ここでは▲84馬とすべきで、この歩を取ると△86歩などの反撃も怖いが、平凡に▲83成銀飛車を取っておいて、それなら先手が指せていたたのだ。

 羽生の次の手がうまかった。

 

 

 

 

 

 △95歩と、ここから突くのが好手。

 ▲同歩と取られたら、次に▲94歩で飛車が死ぬからお手伝いのようだが、▲95同歩には△97歩とたらす。

 ▲同香に△98歩から攻めていけば、飛車は成銀と交換すればいいし、最悪捨てても後手陣は固い。

 

 

 

 いわゆる「攻めてる場所がちがう」という形で、攻め合いのスピードは後手が勝つ。

 中村は▲81馬と取り、△96歩▲98歩と苦渋の辛抱だが、羽生は△95飛と軽快に浮いて、△25飛と展開。

 

 

 

 まるで「さばきのアーティスト」久保利明九段のような空中アクロバットで、取られそうだった飛車が大海に泳ぎだし、

 「さすが羽生さんやなあ」

 感心することしきりだが、中村も右辺に駒のを築いて容易には負けないぞ、とかまえている。

 若者らしい泥くさい戦い方で、勝敗にかかわらずこういう「根性見せる」ことは大事である。

 そこからゴチャゴチャやっているうちに、羽生が決め手を逃したようで、中村に勢いが出てきた。

 

 

 ▲15金と打つのが、角取りに当てながら、後手の上部をおさえる好手。

 困ったように見えるが、ここで羽生は△53角と引く。

 この角はさっき、▲99にあるをねらって△44角と打ったばかりだから、ほとんど1手パスのような指し方だが、この逆モーションが意外にねばりのある指し方で、まだむずかしい。

 

 

 

 △53角に対して、▲同竜、△同歩、▲42角としがみついたところに、この△41飛も頑強な手で、なかなか土俵を割らない羽生も、しぶといものだ。

 こういう、わけのわからない戦いは大好きである。熱い!

 先手からすれば後手玉はいかにも寄りそうで、それがなかなかという、時間がないと、あせりまくるところ。

 

 

 

 先手が持てあましているようにも見えたが、どうやら、ここで決め手があるようだ。

 後手はここで△23角の代わりに△16竜と取るべきで、それは次の手がきびしかったからだ。

 

 

 

 

 

 ▲25飛と直接打つのが、すべての体重をのせた渾身のハンマーパンチ。

 他の駒がないからとはいえ、ドーンと大駒で行くのがド迫力。

 以下、△同金、▲同金、△37とに、そのをついて▲26桂と、にしか使えなかったはずの駒を活用するのが気持ちよい手。

 

 

 

 これにはさしもの羽生も耐えられずダウン。ねじり合いを制し、これで中村が先勝

 やはり大勢について「羽生防衛」と予想していた私は、この力強い勝ち方を見て、

 「あれ? なんか太地、棋聖戦のときより頼もしくなってね?」

 と感じ、このシリーズへの期待は大いに高まったのであった。

 

 (続く

 

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決意の「不正義」 中村太地vs郷田真隆 2013年 第61期王座戦 挑戦者決定戦

2022年08月07日 | 将棋・シリーズもの 中編 長編

 若手棋士がタイトル戦に出てくると、ワクワクする。

 それはイキのいい将棋を見られるだけでなく、結果次第では

 「歴史の目撃者」

 になれる可能性があるからだ。

 かつての「羽生善治竜王」「屋敷伸之棋聖」「郷田真隆王位」「藤井猛竜王」「広瀬章人王位」「高見泰地叡王」「藤井聡太棋聖」などなど。

 正直なところ、開幕前はそこまで行くと思ってなかったり、タイトルホルダーのほうが各上で「まだかな」と思わせるような新鋭が、本番で思った以上の活躍を見せると、こちらも「おお!」と身を乗り出すわけだ。

 平成以降は「羽生世代」が席巻していてトップ棋士の層も厚く、なかなか新しい風を吹きこませるのは難しかったが、2010年代にはちょこちょこ、そういう例も見られるようになって、こちらとしても期待が高まったのである。

 

 2013年の第61期王座戦

 羽生善治王座に挑んだのは23歳の若武者、中村太地六段だった。

 中村は17歳でプロデビュー後、新人王戦で準優勝、竜王戦6組優勝など、その活躍が期待される好成績を残す。

 そんな中村が爆発したのは、早稲田大学を卒業してすぐだった。

 まず2011年に、40勝7敗の勝率8割5分1厘勝率1位賞を受賞。

 このときは中原誠十六世名人のもつ年間最高勝率を抜く勢いで、しかもそれがフロックでないことを証明したのが、翌年の棋聖戦

 佐藤康光森内俊之というヘビー級を倒した上に、挑戦者決定戦でも難敵深浦康市を破って挑戦者に。

 5番勝負こそ、ストレートで敗れたものの、随所に中村らしい強い踏みこみも見られ、次が期待できる内容であった。

 それに応えるように、翌年の王座戦でも挑戦者決定戦に勝ちあがる。

 ここでの将棋が、ちょっとした話題になったので、本題に入る前に少しばかりふれてみたい。

 この挑決で、中村と反対の山から勝ち上がってきたのは郷田真隆九段

 タイトル獲得経験も豊富な郷田は、もちろんのこと超強敵で実力を試されるところだったが、ここで中村はいい将棋を披露する。

 相居飛車の戦いから、むかえた中盤戦。

 


 盤上でよく利いている角をねらったところだが、この次の手が「郷田流」と歓声が上がった一着だった。

 

 

 

 

 


 △55角と出るのが、「スーパーあつし君」こと宮田敦史六段もうなった剛直な一手。

 ▲同銀なら△同銀で、△38銀のねらいも残り、6筋の拠点の味もあって攻めがつながると。

 この手に中村は、ひるむことなく▲71角と強気の攻め合いで、郷田も負けじと△76歩

 

 

 この2人らしい、強情ともいえるたたき合いだが、寄せ合いのさなか、▲24歩が観戦者を感心させた突き捨て。

 

 


 この形は△同銀と取られると、△13の地点に玉の逃げ道ができるから不満としたものだが、ここでは▲53角成(本譜は▲54馬から)から▲31銀と打って▲22歩の筋で、寄せ形が築ける。

 こうなると、△22への利きが減ってしまう△24同銀は指しづらい。

 かといって△同歩は玉頭に穴ぼこができ、▲43銀から▲34銀成が詰めろになって負け。

 本譜の△同金も「金はななめに誘え」で守備力が激減で、郷田も「しびれてます」と認めた。

 後手はどれでも取る形がなく、それを見越した▲24歩は、さすが中村の力を示した一着だった。
 
 その後、中村の寄せが決まって勝利は確定だが、ここでちょっとした事件が起こった。

 次の図を見てほしい。

 先手の勝ちはわかっているが、では具体的にどう指しますか?

 

 

 腕自慢の方なら「詰みっしょ」と声が出たかもしれないが、そう、後手玉は詰んでいる

 ▲22金から入って、△同銀、▲同銀成、△13玉。

 そこで▲12成銀と捨てるのが手筋。

 

 

 

 △同香▲22銀まで。

 △同玉しかないが、そこで▲13歩、△同玉、▲22銀、△12玉に、▲14香、△同金、▲13歩、△同金、▲21銀不成まで15手詰め。

 長いようだが、空間は狭いし、詰将棋や実戦でも頻出する形だから、私でも解けるくらいだ。

 そんな、アマ初段クラスの詰将棋のはずだったが、なぜか中村太地はこれを選ばなかった。

 その代わりに、▲22金、△同銀に▲同銀不成必至をかけたのだ。ここで郷田は投了

 同じ勝ちだから、どっちでもいいっちゃいいのだが、ここで興味深いのは、中村自身この詰みが、ふつうに見えていたということ。

 そらそうであろう。私なんかでもクリアできたんだから、こんなもんプロなら0、1秒である。
 
 そこをわかったうえで、なぜにてスルーしたのかと問うならば、本人が言うことには、

 


 「あえて、この手を選んだ心境を見てほしい」


 

 中村が詰みをわかっていながら詰まさなかったのは、ハッキリ言えば万に一つの見落としを警戒したわけだが、それは「フルえた」ともいえる。

 その意味では、中村の勝ち方は疑問符が付くわけだが、逆に言えばそのリスクを背負っての決断ということ。

 もしかしたら、怒られたり、笑われたりするかもしれない、という覚悟もしたで、あえて「詰まさなかった」としたら、それはたしかに勇気のいる選択だったかもしれない。

 中村太地の言っていることに、筋は通っていない。

 が、彼ほどの男が、こういう極めて非論理な主張を盤上で示したことは、逆にすこぶる興味深いとも言える。

 たしかに「フルえた」と取られるかもしれないが、それにもまして、勝ちたかった。
  
 なら、その想いは5番勝負で存分に見せてもらえるのでは、と期待したくなるではないか。

 相手は王座戦と言えばこの人の、羽生善治王座で、昨年度のリベンジの意味もこめての注目カードとなったのである。

 

 (続く

 

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施川ユウキ『ベルンハルト嬢曰く』に出てきた本、何冊読んだ? その3

2022年08月04日 | 

 施川ユウキ『バーナード嬢曰く』が好きである。

 ということで、

 「このマンガに出てきた本を何冊読んだか数えてみよう」
 
 との企画。前回の2巻に続いて、今回は3巻です。

 


 ■人間臨終図鑑』山田風太郎(未読)


 山田風太郎はホームズ・パスティーシュしか読んだことがないという偏りよう。あ、『戦後日記』シリーズも読んだかな。

 


 ■イワン・イリイチの死』トルストイ(未読)


 トルストイの『イワンの馬鹿』は、「本当にイワンがただの馬鹿」という話でコケそうになった。

 あと、この人は性欲強いことで有名で、日記にはその遍歴が綴られており、読んだ婚約者がドン引きするくらいのものだったそうな。

 トルストイ自身はマジメだったのか、そのことをずーっと悩んでいたそうだけど、別にいいじゃんねえ、エロいくらい。

 


 ■あなたのための物語』長谷敏司(読了


 大傑作。「ただ人が死ぬだけの話」(『さよなら絶望先生』より)という、ある意味ハードルの高い設定で、ここまですごい話を書けるのに感動。

 

 ■ホワイト・ノイズ』ドン・デリーロ(未読)


 読んだことないなあ。

 

 ■羅生門』芥川龍之介(読了


 私は改定前の「野暮ったい」ラストの方が好き。 

 北村薫先生の『六の宮の姫君』を読んだら、否定派の先生には申し訳ないが、よけいにそう思った。

 だれか芥川が京の町で悪逆の限りをつくす、『世紀末ドラゴン伝説』を描いてくれないだろうか、ヒャッハー!

 


 ■高い砦』デズモンド・バグリィ(未読)


 冒険小説って、あんまり読まないなあ。


 ■ゼンデギ』グレッグ・イーガン(未読)


 イーガンは機会があれば、またチャレンジします。こんだけ、すすめられたらねえ。

 

 ■ツノゼミ ありえない虫』丸山宗利(未読)


 関係ないけど、町山智浩さんの映画『虫皇帝』解説は最高だった。絶対観ないけど。


 ■火花』又吉直樹(未読)


 すごい売れてましたねえ。

 

 ■学研まんが 宇宙のひみつ』あいかわ一誠(未読)


 「忍術・手品のひみつ」「できるできないのひみつ」「化石のひみつ」が好きだった。

 「デキッコナイス」というネーミングは天才の仕事。

 

 ■ジェイン・オースティンの読書会』カレン・ジョイ・ファウラー(未読)


 ジェイン・オースティン読んでないっス。


 ■闇の左手』アーシュラ・K・ル・グィン(未読)

 ル・グィンは『ゲド戦記』の1、2巻だけ。

 最初読んだときはピンと来なかったけど、再読したらおもしろかった。

 他の作品も読みたいけど、なかなか重厚なので、体調を整えて挑まないと。

 
 ■高慢と偏見』ジェイン・オースティン(未読)


 ジェイン・オースティン読んでないっス。

 

 ■高慢と偏見とゾンビ』セス・グレアム=スミス(未読)


 タイトルの出オチ感がすごいが、読むとおもしろいらしい。でも、『高慢と偏見』読むのが、めんどいなあ……。


 ■』アンナ・カヴァン(未読)

 積読。早く読みたい。

 

 ■シンドローム』佐藤哲也(未読)


 内容紹介が超おもしろそう。滝本竜彦みたいな感じ?

 

 ■タタール人の砂漠』ディーノ・ブッツァーティ(読了


 傑作。『星の王子様』が好きな人にも勧められる寂寥感。ブッツァーティは短編も独特の味わいでオススメ。

 

 ■うろんな客』『ウェスト・ウィング』『まったき動物園』『ギャシュリークラムのちびっ子たち―または遠出のあとで』『蟲の神』『おぞましい二人』エドワード・ゴーリー(未読)


 絵本にはくわしくないけど、柴田元幸さんがかかわってるなら読んでみようかな。

 


 ■服従』ミシェル・ウェルベック(読了

 

 おもしろかったけど、イスラムへの偏見入ってない? あと主人公が村上春樹の登場人物っぽい。つまりは「ヤなやつ」


 ■地図と領土』ミシェル・ウェルベック(未読)


 電書で買って積読。読むのが楽しみ。


 ■地下室の手記』ドストエフスキー(読了

 

 主人公のこじらせぶりに大爆笑。滝本竜彦『NHKにようこそ!』が好きな人はぜひ。

 ドストエフスキーは『貧しき人々』が短いし、おもしろいのでオススメ。

 てか、『貧しき』も『地下室』もラノベに翻案できそうだ。

 

 ■堕落論』坂口安吾(読了


 安吾先生の『風博士』は読書人生オールタイムベスト候補。

 


 ■いろいろな人たち チャペック・エッセイ集』カレル・チャペック(未読)


 よく右の人から「ナチスは良いこともした」という意見を聞き、まあ言いたいこともわからんくないけど、この人を逮捕しようとしたという時点で、なに聞かされてもアウトだなあ。

 

 ■潤一郎ラビリンス7 怪奇幻想倶楽部』谷崎潤一郎(未読)


 「死んでも踏みつけられたいから、墓石足型を掘ってくれ」

 そうお願いした潤一郎はすばらしすぎる。

 トルストイも、こう生きればよかったのに。

 

 ■犬は勘定に入れません』コニー・ウィリス(読了


 大傑作。

 『最後のウィネヴェーゴ』『リメイク』『混沌ホテル』『マーブル・アーチの風』と、どれもすばらしすぎる。コニー・ウィリスにハズレなし

 

 ■ボートの三人男』ジェローム・K・ジェローム(未読)


 積読。読むのが楽しみ。

 

 ■シリウス』オラフ・ステープルトン(未読)


 未読です。


 ■畜犬談』太宰治(未読)


 太宰の本質は「ユーモア」にあるといわれるけど、ヒロシさんの自虐漫談を見ると、よくわかる。

 あれ太宰だよね。

 「オサムです。ワザフリのつもりだったのに、とうとう心中させられてしまいました……オサムです……」

 

 ■エドウィン・マルハウス』スティーブン・ミルハウザー(未読)


 『ナイフ投げ師』収録の「夜の訪問団」は傑作。


 ■C.Dステレオグラム 脅威の3D』赤瀬川源平(未読)


 未読です。


 ■読んでない本について堂々と語る方法』ピエール・バイヤール(未読)


 積読。ピエールの『アクロイドを殺したのはだれか』『シャーロック・ホームズの誤謬』はミスヲタらしい遊び心が満載で楽しい。

 

 ■火の鳥』手塚治虫(読了


 手塚治虫は『アドルフに告ぐ』派かな。

 

 ■熊嵐』吉村昭(読了

 
 山本弘さんも言ってたけど、

 「ド嬢、それでいいんだよ!」

 その熱さも、いやその熱さこそ、ビブリオバトルだ!

 てか、山本さんもなげいてたけと、読書感想文に対するアンチテーゼとして出てきたビブリオバトルに、
 
 「読書感想文で参加させようとする」
 
 っていう教師、すごいよね。
 
 「愚昧」って、こういうことを表現するためにある言葉なんでしょうね。
 
 大人がどう思うか? くだらねえや。みんな、好きな本を読んで、どんどん「間違った」感想を語ろう!
 
 

  

 

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投了の匣 脇謙二vs野本虎次 1985年 第44期B級2組順位戦

2022年08月01日 | 将棋・ポカ ウッカリ トン死

 「投了は最大の悪手」

 というのは、将棋の世界でまま聞く言葉である。

 敗勢になってもガッツでがんばる棋士や、まだねばる手があったのに、それに気づかなかったり、心が折れて卒然と投げてしまう人(こないだの神谷広志八段こちらとかこちら)やアべマトーナメント藤井猛九段みたいに)に対して使うこともあるが、要は安西先生の、

 

 「あきらめたら、そこで試合終了ですよ」

 

 ということだが、実際のところは「負け確」の将棋を投げずに指し続けるのは、相当な精神力が必要ではある。

 中にはもっとディープなケースがあって、自玉が詰んでないのに、あるいは逆に相手玉に詰みがあるのに、それを気づかず投げてしまう人もいたりする。

 文字通りの「最大の悪手」であり、今回はそういう将棋を。

 

 1985年、第44期B級2組順位戦の開幕戦。

 脇謙二六段と、野本虎次六段の一戦。

 前期、初参加で7勝3敗の好成績をおさめ、順位を5位につけた脇は25歳という若さもあって、当然昇級候補のひとりだった。

 だが、その大事な初戦を脇は落としてしまう。

 野本は前期に降級点を取っており、この期も2勝8敗と振るわず2度目降級点を食らってC1に落ちてしまうのだから、脇からすればよもやの「死に馬」に蹴られたわけだ。

 ただ、これだけなら、この世界でちょいちょい聞く話で、まあ順位戦の「あるある」ともいえること。

 実はこの将棋は結果もさることながら、その内容こそが大問題だった。

 まずはこの局面をみていただこう。

 

 

 

 先手の野本が▲74銀と打ったところで、ここで脇が投了

 以下、△同玉に▲66桂と打って、あとは金銀3枚があるから自然に追っていけば詰みということだ。

 ……とここで、

 「あれ? それちょっと、おかしくね?」

 首をひねったアナタはなかなかスルドイ。特に詰将棋が得意な人は違和感があるのではないか。

 そう、この場面をよく見ると、後手玉に詰みはない

 となれば、これは後手勝ちということになるが、その通り。

 なんと脇は、自分が勝っている局面で投了してしまったのだ!

 手順を追ってみよう。△74同玉▲66桂と打って、△84玉に▲85歩

 △同玉に▲74銀ともう一度ここに打って、△76玉▲67金△87玉▲98金まで、歩ひとつも余らないピッタリの詰みだ。

 

 

 ……に見えたが、この読み筋には、最後に信じられない大穴が開いていた。

 

 

 

 

 

 △96玉と、ここに逃げて詰んでないのだ。

 ▲88金空き王手しても、△97になにか合駒をねじこんで寄らず、後手優勢の終盤だった。

 形を見れば、脇がなにを錯覚したかは一目瞭然。

 最初の図と、見比べてほしい。

 

 

 

 この局面では、▲99にある香車の利きがまだ生きており、後手玉は△96玉逃げられなかった

 そのイメージがあったから、▲98金のとき、その金で▲99の香利きがさえぎられることをウッカリしたのだ。

 たしかに、いわれてみるとナルホドで、脇が混乱したのもわからなくもない。

 現に、私も子供のころ手順を頭の中で追って、▲98金の場面が不詰なのが一瞬わからなかったものだ。

 まさかの大錯覚で、開幕ダッシュに失敗した脇はこれに怒ったか、その後は競争相手の塚田泰明六段との1敗決戦を制しての7連勝

 2位に浮上し自力昇級の権利を得るが、ラス前の9回戦でベテラン吉田利勝七段に敗れて次点となった。

 脇はこの後、毎年のように好成績を上げるが、結局B1には上がれず、なんと22年もB2にとどまった。

 結果論的に見れば、あの野本戦の投了図が、脇の棋士人生を大きく左右したことになる。

 脇の実力からすれば、もっと上でも戦えただろうに、惜しい負け方であった。

 

 

 (脇と米長邦雄の熱戦はこちら

 (脇と中村修の順位戦はこちら

 (その他の将棋記事はこちらからどうぞ)

 

 

コメント (2)
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