「旅に出たい病」は不治の病である。
人には様々な持病というものがあり、腰痛とか胃カタルとか外反母趾とかそれぞれあるだろうが、私の場合これが、
「海外旅行したい!」
という発作なのである。
ヤングのころから、ヒマさえあればザック背中に世界へ飛び出すバックパッカーというやつだったが、ときには金がなかったり休みが取れなかったり、その野望をはばまれることもあるものだ。
そんなときは、第二次大戦中のドイツ軍がコーヒーの不足を補うために「どんぐりのコーヒー」を飲んでいたように、代用品で欲望を沈めることになる。
そこで今回は、そんな「旅のどんぐりコーヒー」を紹介してみたいが、まず最初に出てくるのが『世界の車窓から』。
旅行したい欲が吹き出すときに、ヨダレをたらしながら旅行記やガイドブックや『トーマスクック時刻表』をダラダラ拾い読みするのはよくあることだが、『世界の車窓から』もその一環。
絵面は綺麗だし、旅番組によくある「仲良し芸能人のおしゃべり」みたいなものないし、時間も短いからお手軽なところもグッド。
また、かかっている音楽も楽しみで、アフリカやオセアニア、東ヨーロッパや南米など、ふだんはなじみのない地域の曲がかかっていると、アマゾンやYouTubeなどで検索してみたり、ワールドワイドな気分が味わえるのも良い。
あと、似たようなのでBS12トゥエルビでやってた『ヨーロッパの車窓だけ』というのもある。
これはすごい番組で、なんと本当に「車窓だけ」を流すというもの。
ナレーションもなければ、観光名所もグルメ情報もなし。カメラの切り替えすらないという、車窓オンリーのノーカットノー演出映像。
つまりは、それこそ私がカメラを車窓の見える位置に置いて、そのまま無言で撮影しただけの映像と同じなのだ。
シュールというか、テレビやYouTubeなどでときどき「やらせ」が取りざたされる中、そんなもんしようのないストイックすぎる姿勢だ。企画したヤツ、気ィ狂ってるんちゃうか。
てゆうか、だれが見るの? まあ、オレが見るんやけどさ。
さすがに、ひとりでジーっと見てるのはしんどいけど、一杯やりながら友人と旅話に興じるには最高のBGV。
ただガタゴトとレール音が鳴るだけの静かな画面は、昼寝のお供にもピッタリだ。起きたらパリかプラハにでも着いてたらいいのに。
(『世界の車窓から』あえて地味なルーマニア編)
(『ヨーロッパの車窓だけ』ブダペストからザルツブルク)