一歩千金 中原誠vs大山康晴 1981年 第22期王位戦 第7局

2025年01月09日 | 将棋・好手 妙手

 「一歩千金

 とは、よく言ったものである。

 将棋において、というのは最弱の駒だが、持ってないと困るケースというのは枚挙に暇がない、という不思議な存在でもある。

 序盤仕掛けをはじめ、中盤で敵陣にアヤをつけたり、攻めとか、その用途は無限

 終盤だと玉頭戦などで、がないと選択肢がグンと狭まってしまうのだ。そう、

 

 「歩のない将棋は負け将棋」

 

 なので、プロのみならず、われわれレベルのアマチュアでも「歩切れ」というのは本当にイヤなもの。

 今回はそんな一枚が、勝負を決めた将棋を紹介したい。

 


 

 1981年の第22期王位戦

 中原誠王位と、大山康晴王将との七番勝負。

 シリーズ前半は中原がペースをつかみ、3勝1敗防衛に王手をかけるが、大山もそこからねばり腰を見せ、2番返して3勝3敗のタイに追いつく。

 決戦となった最終局

 先手の大山が三間に振ると、中原は天守閣美濃で対抗。

 タイトルの行方を決めるにふさわしい大熱戦となり、ものすごいねじり合いが展開される。

 大山有利で展開し、中原も苦戦を自覚しながらも、懸命の食いつきを見せる。

 

 

 △59角の王手に▲48銀打の受けなど、すごい形。

 △同歩成とボロっと取れるが、▲同銀引で強引に先手を取る。

 が逃げれば▲31竜で勝ちだから、後手も見捨てて△42金上と手を戻すしかなく、▲59銀に(▲21竜△22金ではじかれてしまう)△32銀と受ける。

 以下、▲75角△53桂▲31竜△22銀▲91竜△99と▲93角成でこの場面。

 

 

 


 先手も急場は脱したが、後手もその間にペタペタと自陣に駒を埋め、容易には手がつかない形に。

 中原の談話によると、先の▲48銀打では、▲48銀上のほうが良かったようだが、かなり怖い手でもある。

 なんにしろ激戦であって、先手がまとめるのも大変そうだが、後手もとにかく歩切れが痛い。

 大駒がないこともあって、よほどうまく攻めないと、切れてしまいそう。

 そうなれば、「受けの大山」が力を発揮しそうだが、ここで中原が見せたのが、ちょっと思いつかない一手だった。

 

 

 

 

 

 △98と、と引くのが、驚愕の一手。

 ねらいはもちろん、次に△97と、で歩切れを解消しようとするものだが、それにしたって、こんな橋の向こうに転がっているような、と金を使うという発想が信じられない。

 だが、この牛歩より遅そうなの歩みが、先手陣を攻略するのに、もっとも速い攻めだというのだから恐れ入る。

 次に歩を取って△36歩激痛で、こうなると後手の攻めが切れない。

 先手は▲96歩みたいな手で逃げようにも、しつこく△97と、とひっつかれて無効

 ▲93がいるから、この鬼ごっこは▲94の地点で、あわれ捕まってしまうのだ。

 

 

 

 

 まさか、弾切れ寸前の戦線の、こんなところに補給物資が埋まっていたとは、だれも思いつくまい。

 大山は▲64歩と攻め合いに活路を見出そうとするが、△33桂▲47香△97と▲63歩成

 そこで△36歩と、ノド元にチョップが入って後手勝ち

 

 

 

 以下、▲同桂△同桂▲同玉△44桂と王手で押さえる。

 ▲37玉に、△55香と退路を塞いで、▲57歩△45桂右で、あざやかに決めた。

 

 

 これが大山のディフェンス網を突破するために磨き上げた、

 

 「中原の桂」

 

 ▲45同歩△同桂▲同香と取らせると▲47の地点が開くのがポイント。

 単に△36金と打つと、▲48玉△37金打▲58玉から左辺に逃げられるが、△36金打△47金打と追えばそれができない。

 そのまま寄せ切って、中原が王位防衛を果たすのである。

 


(中原の軽やかな桂使いと言えばこれ

(その他の将棋記事はこちらから)

 

 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ありがとうサタディ・バチョ... | トップ |   
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。