「絶対王者」の分岐点 羽生善治vs谷川浩司 1993年 第18期棋王戦 その2

2020年01月31日 | 将棋・シリーズもの 中編 長編

 前回の(→こちら)続き。

羽生善治谷川浩司の立場が、入れ替わったのは、おそらく1992年から1993年度であった(第1回は→こちらから)。

 谷川三冠と羽生二冠で争われた、竜王戦棋王戦のダブルタイトル戦。

 ここで、ともに羽生が勝ったことにより、タイトルの数のみならず、谷川に苦手意識のようなものが生まれはじめた。

 それが「羽生時代」を、後押しすることになるのだ。

 ひそかなキーポイントは、竜王戦の後の棋王戦

 ここで谷川が勝っていれば、さほど「羽生時代到来」という空気にもならなかったろうが、2勝1敗とリードしながら、そこから逆転されてしまった。

第4局は終盤の、羽生の勝ち方が見事だった。

 大流行した相矢倉の「森下システム」から、激しい駒の取り合いになって、この局面。





 の利きや、△31が不安定など先手からワザがかかりそうたが、その通りカッコイイ手がある。

 

 



 ▲35桂と中空に放ったのが好手で、後手は受けにくい。

△同歩なら、もちろん▲34桂が激痛。

 谷川は△32金打と入れてねばるが、左辺がになった瞬間に▲15歩の端攻めが、見習いたい呼吸。

 

 

 金で受けるなら△41に打つべきで、羽生もそれを警戒していた。
 
 とはいえ、後手陣は△23玉頭がうすく、そこを補強したくなるのは人情だろう。

 端を△同歩とは取り切れないから、△47飛と攻め合うも、▲14歩△12歩と取りこんでから、落ち着いて▲91角成

 

 

 後手も△69銀▲77金△68成銀とせまって相当に見えるが、そこでじっと▲95歩と伸ばすのが、自玉の安全度を完全に見切った一手。

 

 

 

 これで先手陣に、一手スキがかからない。

藤井システム▲15歩や、最近の角換わり▲95歩のような、

 

「最後に突き越した端歩が生きて勝ち」

 

 という構想につながる読み切りだ。 

 後手は△67銀と打ち、▲87玉△78銀引不成▲同金△同成銀とするが、その瞬間に▲24桂で仕留めた。

 

 

 

▲12桂成詰めろで、2枚の乱舞があざやかすぎる。

 竜王戦に続いて、三冠対決はここでもフルセットに突入。

 そして、すべてが決まるこの一局、羽生は見事な終盤を披露する。

 

 

 この局面。先手玉は詰めろだが、後手玉にまだ詰みはない。

 当初は羽生も谷川も、▲67金打と読んでいたが、それは△45角でむずかしい。

 なにか好手が必要なところで、羽生も悩んだそうだが、ここでいい手を発見できた。

 

 

 

 

 

▲88玉と早逃げするのが、攻守のスピードを入れ替える妙着。

 まさに「玉の早逃げ八手の得」で、これで後手から有効な攻めがない。

 谷川は△79角と打ち、▲98玉△77竜と取る。

 これで先手玉は必至で、一見後手が勝ちのようだが、▲58飛とここで王手を取れる筋がある。

 

 

 

 まるで作ったように、すべての駒がさばけて、まさに「勝ち将棋、鬼のごとし」。

 以下、△57竜▲同飛△同角左成▲54飛で詰み。






 △53合駒しても、▲51金から自然に追っていけば、どの変化もわりと簡単だ。

 こうして頂上決戦を制した羽生は、その後七冠王になり、20年以上も続く「羽生時代」を本格的にスタートさせる。

 一方の谷川は明らかに羽生を苦手とし、1997年に羽生から「竜王名人」を奪い返すまで(その将棋は→こちら)、苦しい戦いを余儀なくされることになるのだ。
 
 
 (大山康晴の驚異的なしのぎ編に続く→こちら
 
 
 
 
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「絶対王者」の分岐点 羽生善治vs谷川浩司 1993年 第18期棋王戦

2020年01月27日 | 将棋・シリーズもの 中編 長編

 谷川浩司羽生善治に、あれだけ苦戦したきっかけは、1992年度にあった。

 谷川が竜王棋聖王将、羽生が棋王王座を保持し戦うことになった、まさに頂上決戦ともいえる、第5期竜王戦

 前回(→こちら)までのように、谷川がその第4局逆転で落としてから、2人の態勢が入れ替わった(第1回は→こちらから)。

 それは単に、谷川三冠と羽生二冠が、羽生三冠谷川二冠になっただけでなく、

 


 「見えないなにかに、おびえていたとしか思えない」


 

 そう述懐するように、谷川が羽生に対する苦手意識や、コンプレックスに悩まされるようになったことも、大きなターニングポイントだった。

 その意味では、竜王を取られたことも痛かったが、ほぼ同時進行で行われていた棋王戦でも羽生が勝ったこと。これも、ひそかに大きかった。

 こちらもフルセットの激戦だったが、ここで谷川が勝っていればタイトルが振り替わっただけで、三冠と二冠という勢力図は変わらない。

 これなら、さほど「時代が動いた」感は、なかったはず。

 そこで今回は、その棋王戦の激闘を紹介したい。

 

 1993年の第18期棋王戦

 羽生善治棋王・王座に、谷川浩司竜王・棋聖・王将が挑む。

 第1局は谷川の十八番である、角換わり腰掛銀

 羽生と谷川のみならず、谷川浩司vs佐藤康光や、丸山忠久vs郷田真隆などなど、平成の将棋ファンは山のように(それこそ今の△62金△81飛型のような)見さされた形。

 むずかしい戦いだったが、終盤戦で谷川が、▲67桂と打ったのが好手。
 
 

 

 これが、どこかで▲75桂の跳躍を見た、すばらしい構想。

 攻めだけでなく、後手が8筋から反撃してきたとき、▲75がいれば、▲83香と飛車先を止める手があるのも大きく、実戦もそれが決め手に。

 

 

 

 とにかく、谷川の先手番角換わりの破壊力はすさまじく、その威力をまざまざと見せつけられた一局だ。

 第2局、今度は先手番になった羽生が、主導権を握る。

 

 

 

 後手が△54歩と催促したところ。

 逃げるようではつまらないと、先手は特攻をかける。

 

 

 

 

 

 銀取りにかまわず、▲44歩が「前進流」のお株をうばう強手。

 △55歩なら、▲51銀と打つのが好手で、△同銀なら▲43歩成

 

 

 

 

 また、△55歩▲43歩成と単に成って、△同銀に▲44歩から▲43銀と打ちこんで、バリバリやっていくのもありそう。

 それはもたないと、後手は△44同歩と取るが、▲同銀と自ら「銀ばさみ」の形に進出する積極性を見せる。

 以下△43歩に、やはり▲51銀と打って、△同銀▲43銀成と突破。

 その後、谷川のラッシュを正確にかわし勝勢を築く。

 

 

 

 

 最終盤。次の一手が好手で、後手玉は詰みになる。

 
 

 

 

 

 

 ▲42銀と打つのが詰将棋のようなカッコイイ手。

 △同銀▲22角△同玉▲32飛

 △同玉も、▲31角△43玉▲32角と重ねて詰み。

 これで1勝1敗

 内容的にも両者先手番で快勝と、順調な結果ともいえる。

 続く第3局、今度は谷川から、お返しのパンチがまたも炸裂する。

 

 

 

 図は△33桂と打ったところ。

 先手のが進退窮まっているが、もちろん「前進流」谷川浩司なら、この一手である。

 

 

 

 

 

 ▲34銀と出るのが、なんとも胸のすく手。

 △同金と取るしかないが、▲35歩と突いて、△同金に▲同角と切って飛ばし、△同角▲34桂

 

 

 

 なんと角損の特攻だが、これで攻めになっている、というのだから恐ろしい。

 もしこの時代にネット中継などが普及し、今のような将棋ブームが起こっていたら、谷川浩司が、大人気棋士になっていたことは間違いない。
 
 なんといっても、毎局のようにこんなカッコイイ手が飛び出すんだから、視聴率はすごいことになっていたことだろう。

 ここから守備駒をガンガンはがして攻めまくり、むかえたこの局面。

 

 

 

 勢いに押されたか、後手がうまく受けられず、ここでは収拾困難になっている。

 ここでは、すでに先手が勝ちで、もちろん飛車を逃げる手はありえない。

 

 

 

 

 

 ▲27歩が当然とはいえ決め手。

 角を逃げれば、▲37飛王手で取れる。

 △38と▲26歩で自陣にいた飛車が、攻防の要のと代わったのだから大成功だ。

 以下、後手の懸命の防戦もむなしく、谷川がそのまま押し切った。

 これで2勝1敗と、先に王手。

 どうであろうか、この将棋の内容を見れば、やはり2人に、それほどのがあるとは感じられないだろう。

 それでも、ここから羽生は力を見せて逆転するのだから、あの大差で敗れた竜王戦のときより、明らかに強くなっていることは間違いなかった。

 

  (続く→こちら

 

 
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平松伸二『ブラックエンジェルズ』並みな「ド外道」を探せ! 『桐島、部活やめるってよ』の松岡茉優編

2020年01月24日 | 映画
 「この世界に足りないのは、ド外道っスよ!」
 
 
 そんなことを言ったのは、後輩ハナタグチ君であった。
 
 彼は映画やマンガが好きなのだが、最近そこで出てくる悪者に不満があり、
 
 
 「頭脳明晰な殺人者」
 
 「完全なる悪」
 
 「弱者による世界への復讐」
 
 
 のような、人生哲学感情移入を誘発するヤツはアカンと。
 
 
 「もっとシンプルに、平松伸二先生の『ブラックエンジェルズ』に出てくるような、心の底からブチ殺したくなる、わかりやすい悪がええんです」
 
 
 というのが彼の望みなのだ。
 
 
 
 
 
声に出して読みたい松田さんの名セリフ。
「いや、ネットリンチとかって、そういうノリから……」とは、とてもつっこめません。
 
 
 
 
 
 前回『シカゴ』のヒロイン(→こちら)などを紹介したが、続けて「やな女」部門から。
 
 映画版『桐島部活やめるってよ』の野崎沙奈
 
 
 
 
 
 
 
 
 もともと『桐島』は、観たあとかならず自分の青春時代を良かれ悪しかれ振り返り、そのさまざまな記憶の奔流に、
 
 
 「ああ!! あああああ!!!!」
 
 
 頭をかかえて悶絶させられるという、デヴィッドフィンチャーゴーンガール』のような、
 
 
 「絶対見るべきだが、決しておススメではない」
 
 
 といったタイプの映画だが、とにかく鑑賞中ずっとザワザワしっぱなしで、居心地が悪いのなんの。
 
 そもそもこの映画は、学校という閉鎖空間の息苦しさを見事に表現した、ある種の「収容所もの」でもあるわけだが、これはもうオープニングでの女子4人の会話から、これでもかとそれを感じさせる。
 
 なんかあの女子たちの、
 
 
 「顔がかわいいもの同士なんとなくつるんでいて、別にそこに熱いものはないけど、そこを軸に周囲を見下す態度を取ることに、やぶさかでない」
 
 
 という、イヤーな連帯感を見せられる。もうこの時点で、
 
 「あ、これはアカンやつや」
 
 という気にさせられますよねえ。
 
 部活のことで悩んでるバドミントン部の子に、
 
 
 「あたしだって、別に本気でやってるわけとかじゃないし」
 
 
 みたいなことを言わせる同調圧力とか、ヒドイなあ。
 
 監督の演出が巧みすぎて、ちょっと正視できない感じなのだ。
 
 でだ、立場的には明らかに文化系地味男子の私からすれば、あのパーマとか桐島の彼女とか言いたいことあるヤツはいっぱいいるわけだけど、中でもダントツに「仮想敵国」になるのが、松岡茉優さん演ずるところの野崎沙奈。
 
 いやもう、この女がねえ、すごく、すーんごく、やな女なんですよ。
 
 うーん、これじゃあ言い足りなあ。ちょっとここは一発いかしてください。
 
 松岡茉優ちゃん演ずるところの、野崎沙奈。これがもう、すごく、すごーくヤな女で、もう観ている間中ムカムカしまくりで、死ねこのクソ女とスクリーンに叫びまくりやあああああ!!!!
 
 ぜいぜい……ちょっと興奮してしまったけど、とにかくそういうこと。
 
 もう、無茶苦茶に、ムーッチャクチャにイヤな女なのだ。
 
 このふだんはボーっとした私が、連呼してしまったものねえ。
 
 死ね、死ねこの女、今すぐ死刑
 
 嗚呼、腹立つぜ。
 
 これは私だけでなく、映画評論家の町山智浩さんをはじめとして、この映画を観た男子が同じように、
 
 
 「やな女なんだよー(苦笑)」
 
 
 と語っているから、本当にそうなんだろう。
 
 具体的にどう嫌なのかは映画を観てもらうとして、彼女のすごいのは個々の言動とか言うよりも雰囲気というか、とにかく全身から「イヤな女子高生」オーラが噴き出ているところ。
 
 なにがどうということはないけど、わかるのだ。コイツとは絶対に仲良くなれないよ、と。
 
 いや、これねえ。もちろん、ほめ言葉なんです。
 
 つまるところ、セリフとかうんぬんじゃなくて彼女自身が
 
 「ヤな女にしか見えない」
 
 ということは、演じている松岡茉優さんが、すんごく演技上手ということなんですよ。
 
 彼女はNHKのドラマ『あまちゃん』で、
 
 「明るくがんばり屋で、それでいてちょっと抜けているところがあって、皆から慕われるリーダー」
 
 ていう、まさに正反対の役をやってるから、よけいにその達者さが際立つ。
 
 すごいなあ、この子。今の邦画やテレビドラマの大きな弱点
 
 
 「役者がそろいもそろって演技が下手すぎる」
 
 
 ということだから(なので『シンゴジラ』は「演技をさせない」ため、あんな編集になってるんですね)、よけいにそれが際立つというもの。
 
 この作品は群像劇であり、あえていえば神木隆之介君と東出昌大君が主人公になるんだろうけど、物語の芯を支えている裏MVPは、間違いなく松岡茉優さんであろう。
 
 もう、出てくるたびに、
 
 「この女、オレ様が成敗してくれる!」
 
 て気になるのだ。まあ、どう「成敗」するかは、ご想像におまかせしますが(←絶対エロいこと考えてるだろ)。
 
 いやあ、いいなあ松岡さん。最高ですやん、この子。
 
 というと、なんだかさんざ語っておいて「最高」とはどういうことだとつっこまれそうだけど、前回も言ったように、
 
 「女のド外道は魅力的でもなければならない」
 
 わけで、その定義からいっても、松岡茉優さん演じるあの女は、もう腹立って、ぶん殴りたくなって、「でも……」という気分にさせられる、「最高にいいクソ女」なのである。
 
 つまるところ、結論としては、
 
 
 「ゴミみたいなあつかい受けてもいいから、死ぬほど根性の曲がった松岡茉優さんとつきあいたい」
 
 
 ということであり、マジで惚れますわホンマ。
 
 
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「絶対王者」の分岐点 羽生善治vs谷川浩司 1992年 第5期竜王戦 その2

2020年01月20日 | 将棋・シリーズもの 中編 長編

 前回(→こちら)の続き。

 1992年、第5期竜王戦は、谷川浩司竜王棋聖王将が、羽生善治王座棋王を、2勝1敗とリードして第4局をむかえた(第1回は→こちらから)。

 全体的に、谷川が押し気味の前半戦だったが、この将棋も中盤で優勢になる。

 

 



 ここで△45桂と跳ぶのが好手で、そうやれば順当に後手が、押し切っていた可能性が高かった。

 ところが谷川は、なぜかこれが見えなかった。

 代わりに選んだのが、この後長く後悔を生むことになる手で、△57と、と捨てたのが疑問手。

 ▲同金△75歩と、薄くなった角頭を攻めていく。

 きびしいようだが、▲同歩△28飛▲76銀と埋められると、これが好形で、先手玉が引き締まってしまった。

 

 


 これには控室でも、


 「谷川が変調ではないか」


 首をかしげたらしいが、たしかにこれは優位を自らフイにする、おかしな手順。

 その後、谷川が羽生にやられるパターンに、こういう不可解な流れというのが頻出する。

 急がずとも、落ち着いて指せば勝てるところを、あせって踏みこんで、おかしくしてしまう。

 ならばと丁寧に辛く指せば、それが緩手になり、逆襲をゆるしてしまう。

 そういう、なんともちぐはぐな戦いで、自滅のような、くずれ方をしてしまう。
 
 谷川の強さを知ってる者は皆、もちろん羽生が化け物であることは承知ながら、それでも「光速の寄せ」がそれに劣るとも、どうしても思えないところがある。

 なにか実力以外のところで、差がついてしまっている気がして、ならないのだ。

 こういったことは谷川も自覚的で、この「△57と」をはじめとする乱れを、


 


 「見えないなにかに、おびえていたとしか思えない」


 


 そういった表現で語っておられたが、その「なにか」が羽生の本当の恐ろしさか。

 この将棋も、まだむずかしそうだったが、後手に飛車を捨てる自爆のような手が出て、ついに形勢逆転。

 体が入れ替わったあとは、羽生が冷静に事を進め、終盤は▲24桂と打つカッコイイ決め手が出る。


 

 

 △同歩▲23歩とたたいて、▲35桂の筋があるから寄り。

 この天王山ともいえる第4局を、らしくない手で落とした谷川は第5局も敗れて、先に王手をかけられてしまう。

 カド番の第6局では、


 「これぞ谷川浩司の終盤!」


 という、すごい踏みこみを見せて快勝しフルセットまで持ちこむが(→こちらの2局目参照)、最終局では難解な戦いを羽生が制して、ついに竜王を奪われてしまった。


 


 第7局の終盤戦。

 攻防の角に谷川は△59飛▲88玉を利かしてから、△54桂と受ける。

 角道を遮断しながら、△66桂を見せて良さそうに見えたが、これが敗着で、△43角と合わせれば後手が優勢だった。

 以下、羽生は角を▲67に転換し、▲23銀からラッシュして勝ちを決めた。


 

 


 これで羽生と谷川のタイトル数が入れ替わった。

 三冠と二冠が、二冠三冠に。

 さらに同時進行だった棋王戦でも、これまたフルセットの末、羽生が谷川の挑戦をしりぞけて防衛に成功。

 これを谷川が制していれば、タイトルが振り替わっただけで、棋界勢力図はそうは変わらなかったろう。

 そこを防衛戦と挑戦の両方で「往復ビンタ」を食らったのは、イメージ的にも痛かった。

 これ以降、谷川は羽生を明らかに苦手とし、タイトル戦でシリーズ7連敗

 ついには七冠制覇を目の前で、ゆるしてしまうという屈辱も味わうことになり、そこから長い長い「羽生時代」が続いていくことになるのだ。  

  

 (続く→こちら

 

 

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「絶対王者」の分岐点 羽生善治vs谷川浩司 1992年 第5期竜王戦 

2020年01月18日 | 将棋・シリーズもの 中編 長編

 谷川浩司と、羽生善治の分岐点は、1990年代初頭にあった。

 1990年第3期竜王戦は、次の将棋界を牽引する「王者」を決定する対戦と言われていた。

 結果は前回(→こちら)までのように、谷川浩司王位・王座が、羽生善治竜王4勝1敗と、スコア的にも内容的にも圧倒し終了した。

 いつか羽生時代が来るのは間違いないが、そこに立ちはだかるのは、やはり谷川浩司。

 その意味では、緒戦で「一発カマした」のは見事なものだが、羽生もやられっぱなしというわけにはいかず、すぐに態勢を立て直しはじめる。

 まず手はじめに、棋王戦で勝ち上がって挑戦者になり、南芳一棋王から3勝1敗で奪取。

 竜王以外のタイトルを初めて獲得し、無冠の時期をわずか4か月で終わらせる。

 あっという間の復活劇で、棋王はここから12連覇することになるのだから、「羽生時代」は早くも、ここから始まったといっていいだろう。

 一方、谷川浩司のほうも充実しており、王座こそ福崎文吾に奪われたものの、王位戦中田宏樹竜王戦では森下卓という、手強いところを押さえて防衛

 さらには棋聖戦王将戦では、ともに「花の55年組」南芳一を破って、これで竜王棋聖王位王将四冠王に。

 特に羽生と森下という、「次世代王者候補」をしりぞけての四冠だから、印象もより強かった。

 その後、郷田真隆王位を奪われるが(郷田は四段でのタイトル獲得で話題になった)、それでも時代は谷川浩司がリードしていたことは、疑いがないところだったのだ。

 そんな谷川と羽生は、またも竜王戦で激突することとなる。

 前回は、まだ実績と経験で谷川が上回っており、羽生も初めての防衛戦ということで「があるさ」ですむところもあったが、ここはそうもいくまい。

 谷川は三冠王、羽生は福崎文吾から、王座を奪っての二冠王で、真の頂上決戦。

 今度こそ「勝った方が最強」の称号を得る戦いで、今でいえば、まさに豊島将之渡辺明と、藤井聡太がタイトル戦で戦うような大決戦なのだ。
 
 このシリーズが、少し重なって行われた棋王戦と合わせて、あとあとから見れば両者の明暗を分けることとなった。

 七番勝負の前半は谷川がリードした。

 第1局では「△57桂」「△68銀」という、羽生も気づかなかった絶妙手2発で挑戦者を沈める(→こちらの1局目参照)。

 続く第2局も、千日手で後手番になりながらも、またも、あざやかなラッシュを見せる。

 


 

 


 6筋から仕掛けた後手だが、駒損なうえに先手のも強力で、攻めもギリギリに見える。

 こういう場面こそ、谷川浩司のの見せ所。

 ここから一気の攻撃で、羽生陣を攻略してしまう。

 

 

 

 

 


 △66飛、▲同銀、△65銀が「前進流」の強烈なパンチ。

 一見強引なようだが、「玉飛接近すべからず」の先手はこれで受けが難しい。

 ▲同銀左△同桂に、▲同銀△67銀△77歩といった、わかりやすい攻めでまいってしまうから▲69香とふんばる。

 そこで△77歩とたたいて、▲同銀△同桂成▲同飛△95角

 


 


 まさに蝶のように舞い、蜂のように刺す華麗な攻撃で、先手はサンドバッグ状態。

 その後、羽生も必死にねばり(ギリギリまで手を探してのことだろう「▲41飛不成」という手を指したりしている)、最後は逆転のチャンスさえあったようだが、残念ながら、モノにできなかった。

 これで谷川が2連勝するが、羽生も2シリーズ連続で3連敗スタートはゆるされないと、第3局は力を見せる。

 相矢倉から、今度は谷川の攻めをしっかりと受け止めた羽生が、反撃に出る。

 


 

 最終盤、後手の攻めが2枚のみで、

 

 「3枚の攻めは切れるが、4枚の攻めは切れない」

 

 この格言でいくと後手が苦戦のようだが、ここに見事な決め手がある。

 

 

 

 


 △57金が「光速の寄せ」のお株を奪う、とどめの一撃。

 ▲同飛は△67歩成で、▲同銀△57角成

 ▲67同飛△66歩で、どちらも飛車を取られて寄り。

 本譜の▲57同銀△67歩成と食い破って、後手陣は飛車の横利きが、値千金の守備力を誇っており明確な一手勝ち。

 押され気味だった流れをいったんはせき止めて、なんとか踏んばった。

 谷川の2勝1敗で、次は第4局

 この将棋が、後に谷川本人が認めるほどに大きな一番となる。

 タイトル獲得が羽生の99期に谷川の27期と、大きく開いてしまう原因となるのだが、途中までは、そんなことを思わせない好調ぶりを見せつける。

 またも相矢倉から、先手の羽生が「▲46銀▲37桂」型に組むが、後手はそれを見事に受け止めて、攻めを頓挫させる。

 むかえたこの局面。

 



 形勢は後手の谷川が有利

 先手は少し駒得だが、桂香が9筋で変な形だし、飛車を持たれて△47と金も大きい。

 次の一手が問題だった。

 ここで後手に指したい手があり、△45桂と跳ねるのが好感触。

 

 

 ▲34歩と責められそうな桂を逃げながら、攻撃に参加できる、一石二鳥のなんとも味のいい手である。

 具体的には、▲81馬なら△57桂成として、▲72馬△67成桂▲同金△69飛で勝ち。 

 他の手でも似たりよったりで、後手は優位を持続でき、おそらくは谷川が押し切ったであろう。

 それで3勝1敗

 まだ決まっていないとはいえ、このキレッキレの谷川相手に3連勝というのは、いかな羽生といえどもキツイのは間違いない。

 かなり迫ってはいるものの、まだ羽生も届かないかと思わされたが、ここで谷川はまさかという失着を指してしまう。

 そのことで完勝ペースだった将棋を、いやさその後長く続く、羽生善治との戦いの歯車すら狂わせてしまうのだ。

 


 (続く→こちら

 

 

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平松伸二『ブラックエンジェルズ』並みな「ド外道」を探せ! 『シカゴ』のロキシー・ハート編

2020年01月15日 | 映画
「この世界に足りないのは、ド外道っスよ!」
 
 
 前回(→こちら)そんなことを言ったのは、後輩ハナタグチ君であった。
 
 彼は映画やマンガが好きなのだが、最近そこで出てくる悪者に不満があり、
 
 
 「頭脳明晰な殺人者」
 
 「完全なる悪」
 
 「弱者による世界への復讐」
 
 
 のような、人生哲学感情移入を誘発するヤツはアカンと。
 
 
「もっとシンプルに、平松伸二先生の『ブラックエンジェルズ』に出てくるような、心の底からブチ殺したくなる、わかりやすい悪がええんです」
 
 
 というのが彼の望みなのだ。
 
 
 
 
 
 ハナタグチ君の望むカタルシスはこれです
 
 
 
 
 
 
 そこで今回もステキなド外道についてだが、悪党は暴力的な男だけではなく、もちろんのことにもいる。
 
 西部劇のように拳銃を振りかざしたり、マフィアのように密輸や暗殺したりもしないが、知恵色気で周囲を惑わす悪女というのは存在感抜群だ。
 
 たとえば『シカゴ』に出てきたロキシーハート
 
 『シカゴ』といえば、ブロードウェイでも大ヒットしたミュージカルの映画版。
 
 ストーリーはスターを夢見るロキシーが、彼女をだまして、もて遊んだ男をカッとなって殺害するところからはじまる。
 当初は正当防衛を主張して罪を逃れようとしたロキシーだが、浮気の事実が夫にバレたことから断念。
 
 そこでリチャードギア演じる敏腕弁護士のビリーに助けを求め、彼と二人三脚。
 
 ロキシーを極刑にしようと奔走する検事や、一筋縄ではいかない刑務所長女囚相手に、あの手この手で無罪を勝ち取ろうとするが……。
 
 といったあらすじを見ればおわかりのように、この映画は登場人物が悪役ばかりで、彼ら彼女らがそのエゴをむき出しに、走り回るさまが楽しいコメディーだ。
 
 そんなナイスな小悪党たちの中でも、ひときわ光るのがロキシーの「やな女」ぶり。
 
 もともと、「そこそこにはかわいい」程度の容姿なうえに、歌もダンスも十人並みの彼女がスターうんぬんというのもドあつかましいが、それ以上に性根が腐りまくっているのがステキだ。
 
 
 
 
 
 
いい顔してます。
 
 
 
 
 そもそも殺人の動機も、「芸能界にコネがある」と男にだまされたことによる自業自得とも言えるものだし(「枕営業」ってやつですね)、旦那がお人好しで自分にべた惚れなのをいいことに、ふだんからバカにしまくっている。
 
 ビリーの策略によって、刑務所内で「悲劇のヒロイン」になれば、それにひたりきって、周囲の人間をアゴで使う。
 
 世間の同情をひくため「子供ができた」とウソを言い、反省どころか、
 
 
 「これを利用してスターになれる!」
 
 
 とか、ぬかりなく考える。
 
 あまつさえ、裁判でいい印象をあたえるため用意された衣装を、
 
 
 「こんなダサい服で写真に撮られたくない」
 
 
 そう拒否したうえ、「おい! オレは弁護のために、知恵しぼってこの服も選んどるねん!」とキレるビリーに、
 
 
 「ウチはスターなんやで? もっと態度をわきまえなあかんのとちゃう?」
 
 
 などと言い放って解雇するなど、もうやりたい放題。
 
殺人の重み? の意識? への贖罪?
 
知るかいな! そんなもん、どこの国のケチャップぬったアメリカンドッグやねん! と。
 
 もう、見ていてメチャクチャに腹が立つというか、上映中の2時間ずっと、
 
 「この女を高く吊るせ!」
 
 という気分にさせられるのだ。
 
 で、この映画のすごいのは、そうやってさんざん
 
 「このクソ女がいつ死刑になるか」
 
 という興味で引っ張っておきながら(←いや、とかダンスとかもあるだろ!)、最後の最後は彼女がハッピーになったことで、思わず祝福の拍手を送ってしまうこと。
 
 いやホント、その演出はすばらしいものがあった。途中、あんだけ
 
 「法が裁けないなら、オレが踏みこんで討つ!」
 
 な義憤に駆られていたのに、見事な大団円。
 
 マジで、最後のナンバーのあと、「やったぜロキシー!」って気分になるのだ。あれはやられました。 
 
 最初の1時間50分は、
 
 
 「この女、ぶっ殺す!」
 
 
 残りの3分が、
 
 
「ロキシー最高! アンタに心底惚れましたわ!」
 
 
 このギャップがたまらない。
 
 ふつうは、こんなヤな女が成功したら、モヤモヤしてカタルシスもなさそうなもんなのに。レネーゼルウィガー、すごいなあ。
 
 やはり男とちがって、女の悪役は魅力的でもないとあきません。
 
 だまされて、裏切られて、それでも懲りないわれわれ男子。
 
 バカで安っぽく、それでもたくましいロキシー・ハート嬢こそ、まさに最高のド外道女ですねえ。
 
 
 
 
 
 (松岡茉優編に続く→こちら
 
 
 
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「前進流」と「光速の寄せ」 谷川浩司vs羽生善治 1990年 第3期竜王戦 その4

2020年01月12日 | 将棋・シリーズもの 中編 長編

 前回(→こちら)の続き。

 1990年、第3期竜王戦谷川浩司王位王座3連勝した後、羽生善治竜王がひとつ返して、第5局に突入(第1回は→こちらから)。

 第4局の結果は、のちに両者とも「大きかった」というものとなる。

 ここで、4タテ4勝1敗かで、歴史は大きく分かれることとなったかもしれないというのだ。

 もっとも、それはあくまで

 

 「長い目で見れば」

 

 という10年20年単位くらいの話。

 勝った谷川本人も認めるように、このころはまだ、実力的にがあったのだから、

 

 「そこまでしなくても」

 

 という気持ちになるのも自然だろう。

 それは将棋を観れば一目瞭然で、谷川の強さは際立っていた。

 むかえた第5局

 後手番になった羽生は意表の四間飛車で挑み、前局とは打って変わって、中盤から激しいなぐり合いに突入。

 羽生はこの将棋、勢いで負けてはいけないと決めていたのだろう、かなり積極的な手が目立った。

 中盤の局面。先手が、▲67金と飛車に当てたところ。

 

 

 自然に指すなら、△36飛と軽く回って、まったり戦う。

 それが振り飛車らしい呼吸か、と思われたが、羽生はここが勝負どころと、牙をむくのである。

 

 

 

 

 
 △67同飛成、▲同銀、△56歩、▲同銀、△75歩

 飛車をバッサリと斬り落として、玉頭から一気におそいかかる。

 駒損の攻めで強引に見えるが、天守閣美濃の最急所を突いており、先手も相当に怖い形。

 谷川も恐れず、▲64桂と打って攻め合いに突入。

 おたがいが最強の攻撃手を連発する、まさにケンカ上等の応酬だ。

 難解な形勢ながら、中盤以降は谷川リードを奪っていたよう。

 羽生も必死に食いつくが、正しく指せば先手が勝てそうな流れだ。

 むかえた最終盤。

 

 

 

 先手の谷川が▲64角を取り、羽生が△同角と取り返した局面。

 先手陣はかなりせまられているが、まだ後手に戦力が足りない感じ。

 ここでラッシュをかけられれば、先手が勝つが、▲52竜と取るのは△25角が激烈な返し技。

 どうやって攻めるか注目だったが、ここでまさに「前進流」「光速の寄せ」の権化のような手が飛び出す。

 
 

 

 

 

 ▲52竜と、それでも取るのが、谷川浩司の将棋。

 思わず、

 

 「いやだから、角打たれるゆーてるやん!」

 

 なんて関西のファンなら頭をかかえそうなところ。

 だが、必殺のはずの△25角は、これがなんと先手玉の詰めろになっておらず不許可なのだ。

 

 

 

 本譜はここで▲71銀と打って、△93玉▲72竜必至をかける。

  そこで、△69角成と飛びこんでも、▲98玉で大丈夫。

 

 

 

 ▲71銀△93玉▲72竜から単に△69角成ではなく△76金、▲同玉、△75銀、▲67玉、△66銀上、▲78玉、△69角成。

 手順を尽くして追っても、取ってくれれば頭金だが、▲89玉と落ちて不詰

 

 

 

 ここで羽生が投了

 先手玉は危険ではあるが、丁寧に読めば詰まないことはハッキリしているので、見た目より差がついている局面なのだ。

 とはいえ、こんな角を打たせて勝つ、というのが信じられない。

 

 「踏みこんで勝ちですけど、わざわざこんなことする必要もないから、もうちょっと安全な順を選びたいですね」

 

 テレビやネットの中継なら間違いなく解説者が、こんなことを言うであろう場面なのだ。

 それをこの見切り。谷川はまさに「あえて、こんな角を打たせて勝つ」男なのだ。

 強すぎる。もう「どや」感がすごい。なにかもう、

 

 「浩司、抱いてくれよ……」

 

 なんて、つぶやきたくなる、鮮烈さではないか。

 この将棋の谷川について、若き日の先崎学九段が書いている(改行引用者)。

 


 さて、肝心の将棋の内容だが、これは、一言でまとめると谷川浩司の名局だった。

 谷川さんの指し手には淀みがなく、全体を通して勢いと”気”に満ちあふれていた。

 見ていて、惚れ惚れするような、それでいて狂暴さにあふれているような物凄い強さだった。


 

 それともうひとつ、当時話題になったのは羽生が△25角と打ったこと。

 いや、この手自体は自然であり、負けを認めた「形作り」ともいえるわけだが(すごい形作りだけどネ……)、素直にこの手を選んだのが、らしくないというのだ。

 控室の検討では、△74角と打って、ねばる順を選ぶのではと言われていた。

 

 

 

 

 そうやっても後手負けどころか、下手するともっと差が開いて、ボロボロにされるだろう。

 ハッキリ言って、形も作れない、なぶり殺しにあう可能性が高い。

 だが、それこそが、当時の羽生将棋の持ち味だったのだ。

 敗勢の局面で、ただキレイに斬られることをせず、むしろより局面を悪化させるような手を放ってくる。

 その「クソねばり」としか言いようのない、カオスな手と局面を駆使し、ワケのわからない領域に相手を引きずりこんで、ついには信じられないような、逆転勝ちにたどり着く。

 それが、若手時代の羽生善治だったはずなのだ。

 だからこそ、「美しく散る」△25角を選んだのが、意外といわれた。

 これは華麗だが、勝機がまったくない手だからである。

 「羽生四段」なら、絶対にこの手は指さなかったろうし、また相手が格下、あるいはまだ読み切れてなかったり、フルえたりしているのがわかったら、やはり△74角など

 

 「正着ではないが、局面を混沌とさせる手」

 

 を指したにちがいない。

 それで批判されることもあったが、こういう手で勝ちまくったから「20歳羽生竜王」があるのも事実だ。

 つまり△25角を打ったのは、相手から間違える雰囲気がなかったから。

 「シャッポを脱いだ」手であり、谷川の

 

 「形を作らせてあげるから、角を打ちなさい」

 

 という導きに、素直に従ったことになる。

 そのことからも、

 「このころは谷川のほうが強かった

 ことを明確にあらわしている。

 羽生に観念させた。

 その意味でも、やはりこのシリーズは、谷川浩司の圧勝だった。

 この勝ちっぷりを見れば、谷川浩司の

 「タイトル獲得27期」

 というのに違和感を感じる、私の気持ちが、わかっていただけるのではないか。

 谷川と羽生、そのどちらもが手の流れからもはっきりと

 「谷川のほうが強い

 と認めている。少なくとも、このころは。

 「羽生時代」が来るのを疑う者はいないが、谷川のこの強さを見ると、もう少し時間がかかるかな……。

 そう思わされたものだが、その予想はものの見事にハズれた。

 羽生の爆発は周囲が思うよりも早く、そしてその威力もすさまじかった。

 それを誘発したのは、やはり谷川浩司とのタイトル戦。

 舞台は同じく竜王戦で、この2年後のことだった。

 

  (続く→こちら

 

  

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「4連勝」と「4勝1敗」 谷川浩司vs羽生善治 1990年 第3期竜王戦 その3

2020年01月10日 | 将棋・シリーズもの 中編 長編

 前回(→こちら)の続き。

 1990年、第3期竜王戦は、谷川浩司王位・王座羽生善治竜王3連勝と圧倒し、奪取をほぼ確実なものとしている(第1回は→こちらから)。

 スコアでも内容でも、ここまでかたよってしまったことに

 

 「羽生が変調なのでは」

 

 という声が多かったが、続く4局は両者とも、力のこもった熱戦となった。

 この将棋は棋士やファンの間で「名局」といわれているだけでなく、指した羽生本人も

 

 「印象に残る将棋を教えてください」

 

 という質問に、答えとして出してくることが多いのだ。

 


 「長手数の将棋だが、入玉形や泥仕合にならず最後まできれいな形で収束した」


 

 ということらしく、その洗練度の高さに満足しておられるようだ。

 並べてみると、双方細かい手順で、押したり引いたりの神経戦

 正直、私のような素人は難解すぎてサッパリというか、解説を読んでもどこが重要なのか、全然ピンとこないハイレベルすぎる将棋なのだ。

 唯一語れるところは、ねじり合いの末、たどり着いた193手目

 後手の谷川が△58と、とせまったところ。

 

  

 

 

 一時期は谷川が必勝態勢だったが、決め手を逃してしまい、ここではすでに混戦。

 次の一手が、当時話題になった、いやさ今でも充分語られるべき妙手だ。

 

 

 

 

 


 7分残っていた持ち時間から、残り2分まで考えて▲22角と打ったのが、見事な着眼点。

 形は▲34歩が確実な攻めだが、この瞬間が甘い。

 そこで先に▲22角と捨てて、△同玉と的を近づけてから▲34歩とすれば、これが詰めろになるという、スピードアップの仕掛け。

 羽生も秒読みの中、完全には読み切れていなかったらしいが、それでもいいところへ指が行くのは、さすがである。

 谷川は△48飛と打つが、▲33歩成から△同金▲同角成△同玉▲25桂△32玉

 決めるだけ決めて、▲58銀と手を戻す。

 谷川の△48飛が攻防に利く

 

 「詰めろのがれの詰めろ」

 

 なら、▲58銀は自玉の詰めろを解除しながら、一歩補充して▲33歩以下の詰めろになっている、

 

 「詰めろのがれの詰めろのがれの詰めろ

 

 という、スペシャルな手になっているのだ。

 ここで谷川は投了

 

 

 

 

 

 名局の最後を飾るにふさわしい、とてもきれいな投了図である。

 ……とおさめたいところだが、そうではなかった。

 この将棋を谷川はきっと、ここで投げるべきではなかったのだ。

 理由はふたつあり、ひとつは羽生が、まだ勝ちを完全に確信していなかったこと。

 ▲22角の絶妙手で流れは勝ちだろうが、読み切りではなかったし、1分将棋では、なにが起こるかわからない。

 だから羽生も

 


 「投了は意外だった


 

 もうひとつは、羽生が後のインタビューなどでよく、

 


 「このとき、1勝できたのが大きかった」


 

 と語り、それを受け谷川も、

 


 「今さらこんなことを言ってもしょうがないが、あのとき4連勝しておかなければならなかった」


 

 そう悔やんだからだ。

 結果から言えば、このシリーズは次の第5局を谷川がものにして、竜王獲得する。

 だが、スコアが4勝0敗か、4勝1敗かが大きかったというのだ。

 これはタイトル戦を語るのに、よく出てくるアヤ。

 仮に敗れるにしても、0-4とか0-3と一番も入らずで負かされると、その精神的ダメージは、こちらが想像する以上に大きいという。

 佐藤康光九段の有名な言葉に、こういうものがある。

 


 「タイトル戦に出ると香一本強くなる。ただし、ストレート負けすると格が落ちてしまう」


 

 この「格落ち」感に、棋士は耐えられないのだ。

 そう考えれば、4-0か4-1かは、スコア以上に意味があることになる。

 谷川は下から突き上げてくる羽生を、完膚なきまで、たたきのめしてしまわなければならなかった。

 「負け下」に追いこんで、徹底的に、そのをつぶしてしまうべきだったのだ。

 

 「だめだ、この人には勝てない」と。
 

 かつては大山康晴十五世名人が、そしてだれあろう羽生善治その人が、その後、谷川をはじめとする、多くのライバルたちに喰らわせたようにだ。

 だから、谷川はその美学通り「美しい投了図」を、残すべきではなかった。

 勝敗はともかく、相手が勝ちを読み切ってないのだから、ねばって「嫌がらせ」をするべきだったのだ。

 ただそれは、あくまで結果論にすぎない。

 この当時は、もちろん羽生が天下を取ることは確信していたが、七冠王をはじめ、あそこまで独走するとは予想してなかった。

 なにより第5局の内容を見れば、どう考えても、それは「杞憂」としか思えなかったからだ。

 

 (続く→こちら

 

 

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「絶対王者」の分岐点 谷川浩司vs羽生善治 1990年 第3期竜王戦 その2

2020年01月08日 | 将棋・シリーズもの 中編 長編

 前回(→こちら)の続き。

 1990年、第3期竜王戦は、20歳羽生善治竜王と、28歳谷川浩司王位・王座の間で争われた。

 これは棋界最高のゴールデンカードであると同時に、これからの将棋界をリードしていくのはどちらかを決める戦い。

 ちょっと古い表現でいえば、天下分け目の関ケ原という決戦だったのだ。

 谷川も好調だが、対戦成績では羽生がリード

 でもそれは、早指し棋戦が中心だから参考程度だね、とか。

 いやいや、谷川は意識しすぎて、年下相手に力が出せないことが多いぞ、とか。

 ファンの意見も様々で、まさに

 

 「どっちが強いか、とっとと盤上で決めたらええねん!」

 

 その注目度も、マックスにふくれあがったのである。

 ところが、そんな期待をよそに、七番勝負は予想外の展開を見せることになる。

 その原因は、羽生にあった。

 羽生は前年に竜王を獲得してから、少し元気のない印象があったのだ。

 不調というほどではないが、他のタイトル戦にからんだりできず、将棋も不利になるとあっさり投げてしまったり。

 そういった、ちょっとばかし、違和感を感じさせた時期だったのだ。

 将棋の世界(にかぎらないだろうが)では初タイトルを獲得した直後など、環境の変化になかなかなれなかったり、

 

 「第一人者にふさわしい将棋を指さなくては」

 

 その想いが強くなりすぎて、力が入りすぎたり、フォームをくずしたりしてしまいがち。

 羽生の前に竜王だった島朗九段も、後輩の先崎学九段が、

 


 「竜王になって、アニキだった人が《上司》になってしまった。もっと、のびのび戦ってほしい」


 

 心配していたけど、羽生もまた、同じ罠にからめとられたのであろうか。

 その空気感は、すでに第1局で観られた。

 力戦風相矢倉で、先手の谷川が中央から、後手の羽生が端からの攻め合いになり、一手違いの競り合いに突入。

 

 

 

 図は羽生が△88銀と打ったところ。

 これが敗着となり、今シリーズ「羽生変調」と噂されたきっかけとなった。

 次に△79竜と取る手が受けにくく、部分的にはきびしい銀だが、よく見ればこれが詰めろでないことは、わりとすぐわかること。

 △79竜としても、王様を右にどんどん逃げて、▲27の地点でマンホールのフタが開いているから安全なのだ。

 ここではまず△78香と捨てて、▲同玉△88銀なら、これが一手スキになっていて、むしろ後手が有望。

 

 

 そもそも単に△88銀が、なんでもないのだから、意地でも他の手段を探しそうなもの。

 その意味でも、羽生がこれを逃したのはおかしいと、いぶかしむ記事も多かった。

 「光速の寄せ」相手に、こんなわかりやすい形で、手番をゆずってはいけない。

 以下、▲25桂から▲54銀と、どんどん踏みこんで、先手が一手勝ちとなった。

 七番勝負、まず谷川が先勝。

 一方の羽生はやはり調子が上がらず、第2局でも谷川の急戦矢倉に敗れ、先手番を落としての2連敗

 続いて第3局

 当時の将棋界では、3連敗の後4連勝というケースは一度もなく、羽生がここを落とせば、雰囲気的に言ってシリーズは実質終了である。

 剣が峰に立たされた羽生は、谷川得意の角換わり腰掛け銀を受けて立つ。

 先手が快調に攻めてを作ることに成功するが、羽生もタダ捨てする勝負手を2度も放ち、懸命の食いつきを見せる。

 むかえたこの局面

 

 

 

 谷川が、▲56銀と手厚く打って、後手の攻め駒に圧力をかけたところ。

 を逃げると、△54が取られてしまう。

 勢いは△77馬など切ってせまりたいが、やはり▲54竜と取られる形が、飛車当たりになるのが泣き所。

 この将棋も、また谷川かと思わせたが、羽生が空気を変える、すごい手を見せてくれた。

 

 

 

 

 △65飛と出たのが、これまで2局の閉塞感を打破する、豪快な勝負手

 ▲同銀なら△同銀と進出して、負担になっていた銀が、一転攻めの主役になれる。

 それはまずいと、谷川は▲67歩と低く受けるが、かまわず△66歩とこじ開けに行く。

 ▲同歩に△同飛(!)と飛びこんで相当だ。

 

 

 

 ▲55銀と取るが、そこで△68金が打てては、先手陣はにわかに危険に。

 すばらしい踏みこみだ。

 これだよ、これ!。こういうのが見たかったんである。

 結果はともかく、羽生と谷川が戦って一方的にシリーズが終わっては、興ざめも、はなはだしいではないか。

 以下、▲88玉△79角

 ▲98玉△97歩▲同桂と、決めるだけ決めてから、△55銀と銀を補充。

 次、△88銀と打たれると必至だから、先手は▲89銀と受けるしかない。

 

 

 

 さあ、ここである。

 羽生の必死の食いつきに、谷川は防戦一方

 実際の形勢はまだ難しいのかもしれないが、勢いは明らかに後手にある。ここでもう一伸びあれば、そのまま行けそうだ。

 控室の検討では、ここで△67金と引き、▲66金△同銀としておけば、後手にも勝機ありと見ていたそうだ。

 

 

 

 ところが、ここで羽生が指したのは△67飛成という手だった。

 これが、ここまでの追いこみを、一瞬で無にした敗着となった。

 ▲同金△同金に、▲61飛と進んだ、この局面を見てほしい。

 

 

 

 ボンヤリした飛車打ちのようだが、なんとこれが一手スキになっている。

 後手陣は金2枚の守備力で、単に▲34桂の筋には△12玉が瞬間的に「ゼット」に近い形で耐えられる。

 だが、飛車打ちから、▲31飛成と取られると、△同金は今度こそ▲34桂

 ▲31飛成に、△同玉▲53角から▲35角成とする筋があり、どちらも▲49にあるの利きが絶大で捕まっている。

 かといって、詰めろを受けても今度は▲67飛成と、このを取られてしまう。

 △67飛成△67金として、△66に進めておけば、この筋はなかった。

 ▲44角と王手されるのが気になるが、△12玉▲66角△同金で熱戦は続いていた。

 ▲67飛成と取られるのは、投げ場をなくすから、羽生は△88銀と首を差し出して、▲31飛成以下すぐに投了

 これで、谷川王位・王座の3連勝

 頂上決戦のはずが、あっという間の出来事で、拍子抜けもはなはだしい。

 谷川が強いのは知っていたが、それ以上に羽生の「一手バッタリ」のような負け方も心配してしまう。

 やはり、なにかおかしいのだろうか。

 こうして第3期竜王戦は、最初の3局にして、ほぼ結果は見えてしまった。

 スコア的にも内容的にも、谷川が圧倒しており、奪取は9割がた決定的である。

 正直、観ている方はこの時点で興味半減だったのだが、続く第4局がターニングポイントとなる重要な一局だったことに、まだだれも気づいていなかった。

 それは単に、この一局が歴史に残る名局になったという内容だけでなく、その後の2人の人生を、大きく分けることとなる一番になってしまうからなのだ。

 

 (続く→こちら

 

 

 

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「絶対王者」の分岐点 谷川浩司vs羽生善治 1990年 第3期竜王戦

2020年01月06日 | 将棋・シリーズもの 中編 長編

 勝負の世界を盛り上げるのに、ライバルの存在というのは必須である。

 前回は羽生善治王座藤井猛竜王に喰らわせた「驚異の一手パス」を紹介したが(→こちら)、今回もまた羽生と宿敵の歴史を。

 

 谷川浩司九段のタイトル27期というのは、ちょっとありえない数字だ。

 将棋の世界でタイトルというのは、1期でも取れれば十分一流だが、その上のレベルだと、さらにどれだけ上乗せできるかが、実力の証となる。

 羽生善治九段99期を頂点に、大山康晴十五世名人80期。

 中原誠十六世名人64期と来て、次が27期の谷川浩司九段。

 3位と4位の間が、ずいぶん空いていている。

 これが個人的感覚では、ものすごい違和感のある差で、谷川の力をもってすれば最低50期

 いや、場合によっては中原の数字を追い抜いても、おかしくないはずなのである。

 これに関しては、

 

 「まあ、羽生さんがいた時代だからなあ」

 

 というのは、皆さまも感じるところであろう。

 テニス界の「ビッグ4」が、君臨する時代を見ればわかるが、

 

 「最強の選手(とその同世代)と時代が重なる」

 

 これは、アスリートの悲劇のひとつなのだ。

 ただ「それにしても……」と感じてしまうのは、谷川と羽生の、最初タイトル戦の印象が強かったから。

 このとき谷川が披露した将棋を見れば、少しは私の違和感に、賛同していただけるかもしれない。
 
 
 1990年、第3期竜王戦は、羽生善治竜王と、谷川浩司王位・王座の対戦となった。

 羽生は前期、島朗竜王を破って初タイトルを獲得。

 いよいよ「羽生時代」到来かと期待させたが、そのために倒さなければならないのは、谷川浩司である。

 今でこそ、羽生こそが「将棋の神様に愛された男」というあつかいだが、デビュー前から破格の存在とされ、

 「21歳で名人獲得」

 という、羽生もなしえなかった偉業を達成。

 「選ばれし者」の華を振りまきまくっていた谷川も、また「神の子」のひとりだった。

 私の予想では互角か、やや谷川有利と見ていた。

 このころの谷川は好調で、その勢いは相当ではないかと思ったからだ。

 たとえば、挑戦者決定戦の将棋を観てみよう。

 相手は悲願のタイトル戦出場をかけた、石田和雄八段

 石田九段といえば、今では高見泰地七段佐々木勇気七段のお師匠さんで有名だが、若いころは「岡崎の天才」と呼ばれ、その筋のよさで知られていた。

 その将棋はまさに「正統派」「本格派」であり、将棋ファンの友人と綺麗な将棋を指したければ、

 

 「矢倉なら石田和雄、四間飛車は阿部隆」

 

 この2人の棋譜を並べるのが、一番ではと言いあっていたものだが、そんな石田を谷川は寄せつけなかった。

 谷川先勝でむかえた、3番勝負の第2局

 相矢倉から先攻した石田に、後手の谷川は金銀の厚みで対抗。

 

 

 

 

  後手は香得しているが、歩切れで玉形にも差があり、むずかしいところ。

 手が広く、なにがプラスになるか見えにくい局面のようだが、ここで後手の指した手が印象的だった。

 

 

 


 △45香と、ボンヤリこんなところに打つのが、面妖な手。

 意味としては盤上に自分の駒を増やし、先手になにもなければボチボチ成香でも作って、飛車を押さえて模様勝ちをねらおう、ということか。

 「前進流」「光速の寄せ」を看板にする谷川浩司らしからぬ手で、なんだか丸山忠久九段の将棋みたいだが、

 

 「華麗な終盤力に目をうばわれがちだが、谷川将棋の本質は、意外と地味な好手にある」

 

 というのは、よくいわれることで、これもまた谷川の一面なのだろうか。

 こんな手を間に合わされてはバカバカしいと、石田は2枚の桂を駆使して攻めかかり、むかえたこの局面。

 

 

 

 △64角の桂取りに、▲73角と合わせたところ。

 ▲46桂馬ヒモをつけつつ、△同角なら▲同と、で手順にと金が活用できるが、これが「一手バッタリ」に近い疑問手だった。

 先の香打ちと違って、今度こそ谷川「光速の寄せ」が炸裂する。

 

 

 


 △72飛とまわるのが、さすがの切れ味。

 ▲64角成△78飛成詰み

 まるで、エースパイロットの操縦する戦闘機のようで、△42から△78へあざやかすぎるアフターバーナーだ。

 この手が見えてなかった石田は泣きの涙で▲74歩とつなぐが、よろこんで△73飛と取ってしまう。

 ▲同歩成に、△76歩と逃げ道をふさぎながら、拠点を作って後手勝勢

 

 

 

 遊んでいた飛車が、手持ちのと換わるのだから、先手もやる気が失せるというもの。

 以下、石田の反撃をしっかりと面倒見て、谷川勝ちとなった。

 この将棋を観れば「谷川有利」と言いたくなる気持ちも、わかっていただけると思うが、もちろん相手は天下の羽生善治。

 そんな素人の予想通りに、いくわけもないのは当然だろう。

 どちらにしろ、皆が望んでいたカードであることは間違いなく、

 

 「勝った方が、ここから棋界をひっぱっていく存在になる」

 

 という将棋界の分岐点に、なるやもしれない大勝負で、熱戦が期待されたが、あにはからんや。

 七番勝負の序盤は、こちらの思いもかけない展開を見せるのである。

 

 (続く→こちら

 

 

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『シン・ウルトラマン』のデザインは成田亨に敬意を表して『シン・レッドマン』で

2020年01月03日 | オタク・サブカル

 「今回のウルトラマンのデザインは、ぜひレッドマンで行くべきではないか」。

 庵野秀明監督による『シン・ウルトラマン』のデザイン案を見たとき、そんなことを思ったものであった。

 レッドマンといっても、もちろんあの「赤い通り魔」のことではなく、本来の成田亨先生が描いたオリジナルな方の話。

 といっても、コアな怪獣ファン以外なんのこっちゃだろうから、ここに説明すると、1966年に『ウルトラQ』『ウルトラマン』がテレビで放映開始。

 ここに日本文化史に残る怪獣番組「ウルトラシリーズ」が開幕したわけだが、そのさらに元になる企画というのがあって、それが「Wоо」というものだった。

 故郷を失い、地球に漂着してきた宇宙の不定形生命体Wооと、仲良くなった地球人のチームが、様々な怪事件に挑むという内容だ。

 後年、マンガ『寄生獣』を読んだとき、

 「あー、Wооって、ミギーが正義の味方みたいになってるような話なんかもなあ」

 なんて思ったことをおぼえているが、残念ながら「Wоо」は絵的に地味なのがわざわいしたのかボツになってしまう。

 このあたりでは有名な「オックスベリーオプチカルプリンター事件」とか『ウルトラQ』の原点である企画『UNBALANCE』とかいろいろあって、そのうち浮上したのが、「正義の怪獣」を主人公にした『科学特捜隊ベムラー』。

 これがいわゆる『ウルトラマン』のプロトタイプになるのだが、デザインは全然違う。

 

 

 

 

 カラス天狗がモチーフになっているようで、まあこれはこれで雰囲気は出てる気はするけど、のちの『ウルトラマン』とくらべると、ヒーロー性では劣るところはありそうだ。

 そこで、この『ベムラー』もボツになり(言うまでもなく『ウルトラ作戦第一号』におけるベムラーはこの企画の名残り)、その発展形ともいえる企画が『科学特捜隊レッドマン』。

 ここまでくると、もうイメージはぐっとウルトラマンに近くなってくるのだが、やはりデザインは相当に違う。

 それがこれ。

 

 

 

 

 
 

 これがですねえ、子供のころは不気味に思えたんですが、今見るとそんなに悪くない気もする。

 「シン・ウルトラマン」の特徴はカラータイマーがないことだっていうし、やはりここは原点に戻って成田亨リスペクトのこれでしょう。

 特撮、なべても円谷怪獣のファンとしては、今回の企画には期待大であって、もし『シン・ウルトラマン』が当たれば、そこから『ウルトラQ』もリメイクされて(前のリメイク版はどうでもいい)、『シン・マイティジャック』とかもあってと波が続くやもしれぬ。

 いや、『グリッドマン』がアニメになってヒットするんだから、ありえない話ではない。あと、これは結構ガチで『ウルトラマン ジャイアント作戦』は撮ってほしいです。

  ということで、世間が新年のあいさつや、初詣の報告でアクセスを稼ぐ中、当ページは平常営業で「レッドマン」推し。

 さすが常に攻めの姿勢をくずさない私であり、また今年も女性ファン獲得は夢物語に終わるだろう。
 
 まあ、それもまたよしということで、本年もよろしくお願いいたしますというか、やっぱ2020年といえば、お約束だけどこの人ですよね。
 
 
 
 
 

 

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