いろいろ大変なときは「バカ映像」にかぎる。
昨今のコロナ危機で、不便な思いを強いられているが、私のストレス解消法はマヌケな動画を観ること。
前回オススメしたのが「奥崎謙三の政見放送」と、氏が主演のカルトドキュメンタリー映画『ゆきゆきて、神軍』だが(→こちら)、今回はすぐれた破壊シーンを。
「モノを壊す」というのは妙にカタルシスがあるもので、ゴジラやウルトラマンなど「特撮」が人気なのは、やはりこの破壊シーンにウットリできるから。
こういうご時世だからこそ、むしろあえて世界が崩壊するような映像を見るのが、「逆療法」的いやしになるのではと考え、そういったものをあれこれ探してみることにする。
まずは『ウルトラマンレオ』の第1話(→こちら)。
レオの故郷であるL77星を滅亡させたマグマ星人は、今度は地球にねらいをさだめ、凶悪な双子怪獣レッドギラスとブラックギラスを送りこんでくる。
強烈な嵐を起こして、津波で日本を沈没させようとするのだが、この特撮がド迫力。
当時はウルトラシリーズもマンネリ化し、オイルショックなどで予算的にも苦しい時期だったそうだが、それにしてもこれは出色の出来だ。
ビルがバンバン飲みこまれていくところとか、本当に怖いくらい。
マジすごいッス。イカも飛んでくるし。
続けては海外から。
時代はずいぶん下って、1933年の特撮(→こちら)。
『Deluge』という映画。日本では『世界大洪水』というタイトルで公開されたそうな。
戦前のそれと言えば、セットとかもショボショボなんでねえの? と思われるかもしれないが、さにあらず。
ニューヨークが壊滅するシーンなんだけど、これがもうこれでもかという破壊でビビる。
SF作家である山本弘さんの『あなたの知らないマイナー特撮の世界』という同人誌で紹介されていたもので、メイキングの写真とかも載ってたんだけど、今押し入れあさっても見つからないでやんの。
たぶん、特撮ファンの友人に貸して、そのままになってるんだろう。そこで紹介されてた、『江戸に現れたキングコング』とか、すごく観たいぞ!
山本先生のブログによると詳細は不明だそうだが、メチャおもしろそうやん!
面白い映画
怖ろしい映画
話の種に是非一度は見て頂き度い映画!
無敵全勝黄金篇
ポスターの宣伝文句もすばらしい!
(プロレス&アイドル編に続く→こちら)
前回(→こちら)の続き。
1983年の新人王戦準決勝。
中村修六段と鈴木輝彦六段の一戦。
鈴木の筋のよい攻めに、中村は受け一方に立たされる。
横からは銀と、と金が、タテからは飛車と桂馬がせまっており、先手玉はいかにも危なく見える。
なにか後手からいい手がありそうだが、その通り、この局面で鈴木は決め手を放つ。
△79銀と打つのが、寄せのお手本のような手。
△69銀や△67銀打は「王手は追う手」の見本で、絶対やってはいけないが、この銀こそは、
「玉はつつむように寄せよ」
という見事な形。
次、放置すれば△67銀成と飛びこんで、▲同玉は、△68銀成までの詰み。
かといって、△67銀成に▲87玉と逃げるようでは、△88銀成と金を取ってから△66成銀くらいで受けなし。
▲78金くらいしかないが、△66成銀と銀を取っておくくらいでも、次の△77歩が激痛で試合終了。
鈴木輝彦も「間違いなく勝ち」と確信していたが、さもあろう。
どう見たって、先手に受けがない。
とりあえず▲75銀と出て、一回はしのぐが、これがいかにも力がない手というか、△67銀成からの詰みを、▲66に逃げられる形にして防いだだけ。
策のない、ただの延命のように見える。鈴木は△67銀成と捨てて、▲同玉に△88銀成と取る。
△57金の詰みを防いで、▲58飛と、と金を払うが、そこで△47歩成として、きれいな飛車角両取り。
▲88飛しかなく、△37と、と角を取られて、これまたしょうがないと▲85金と桂をはずしてがんばる。
この局面が、クライマックス。
後手の鈴木が先行し、その間中村は、しょうがないしょうがないの連続で、ただただ受け続けただけだ。
その間、鈴木にきらめくような妙手も飛び出し、中村はサンドバッグ状態。
特に頑強な受けや、相手を惑わせる魔術めいた手もなかった。
ところがなんと、この局面はすでに先手の勝ちなのである。
はえ? そんなことあるの?
と信じられないところだが、これが本当に、中村勝ちは動かないのだ。
後手からは、様々な攻め筋がある。
本譜の△57金からはじまって、△56角、△87歩、△79角、△66歩、△56銀などなど。
しかも、どれを選んでも勝てそうなのに、実際のところはどれを選んでも負け。
そう、中村は中盤から攻められまくって「しょうがない」という手を指さされていると見えたのは錯覚だった。
それどころか、中村は
「この攻めは受け切り勝ち」
完全に見切っていたからこそ、あのサンドバッグ状態でも平気な顔をしていたのだ。
とはいえ、それにしても、信じられないではないか。
こんなもん寄らないはずはないと、控室ではあれこれ手をつくして攻めまくるが、すべてしのがれている。
メンバーは当時、順位戦でノンストップ昇級を続けていた田中寅彦七段(この年A級にもあがる)や、あの佐藤康光九段にも大きな影響をあたえ、「控室の主」として君臨していた、室岡克彦四段など。
今でいえば、近藤誠也や青嶋未来のような、将来有望な若手ばかりだ。それがよってたかってつぶしにかかって、どうにもならない。
みなムキになって、2時間以上つついたが、やはり先手がどうやっても勝つ。
ついには、この将棋を取材していた河口俊彦八段が音をあげて、
「将棋とはこんなにも受けが利くものかと、驚くより呆れてしまった」
これには感嘆することしきり。
これぞ、中村修の将棋だ。
「変な手をやってくる」
と思っていたら、それが深い読みの入った手。
「どう見ても寄ってる」
という局面が、実はそうではない。
では、どこが良くて、どこが悪かったのかといえば、これまたよくわからない。
でも、最後はちゃんと中村が勝っている。
なんという将棋の作りか。これこそが、「不思議流」「受ける青春」の真骨頂である。
とはいえ、やっぱりこれは不思議な将棋である。
攻められっぱなしの上、鈴木に悪手がないどころか、△79銀のような鋭手をくらい、反撃のターンすら一度も回ってこないのに、気がついたら必勝。
中村九段は「不思議流」というキャッチフレーズに、
「思いついた普通の手を、指してるだけなんですけどねえ」
納得いってないようだったが、なにかこういう将棋を見せられると、
「問答無用で不思議」
と言わざるを得ないではないか。
(「マキ割り流」佐藤大五郎の悪力編に続く→こちら)
(中村修の喰らった大トン死編は→こちら)
中村修の強さは、まさに「不思議」である。
前回は先崎学九段による居飛車穴熊の戦い方を見たが(→こちら)、今回は真逆の「薄い」将棋を。
中村修九段といえば高橋道雄九段や南芳一九段、塚田泰明九段に島朗九段など、タイトルホルダーやA級棋士を多く輩出した「花の55年組」の一員で、若かりしころは、
「不思議流」
「受ける青春」
と呼ばれる、独特のディフェンシブな将棋で、王将のタイトルを獲得したこともある。
私が将棋をおぼえたころ、ちょうど中村王将は中原誠名人との防衛戦を戦っているころで、そのさわやかな風貌と、それに似合わぬ曲線的な指しまわしに、一気にファンになってしまったのだ。
ただ中村修の将棋は、その強さと個性にもかかわらず、妙に説明しにくいところがあった。
受けが強く、終盤力に定評があったことは事実だが、じゃあ具体的にどうすごいのか。
そういわれると、ハテと首をかしげるところがある。
終盤は強いが、藤井聡太七段のような、切れ味鋭い寄せという感じでもない。
受けといっても木村一基王位のように力強いわけでも、デビュー時の永瀬拓矢叡王・王座のように「受けつぶし」をねらうわけでもない。
全体的にフワッとしてて、なんだかよくわからない手を指し、そのままメッタ打ちを食らって負けそうに見えるとこから、気がついたら勝っていたりする。
で、なぜそうなったかわからず、みなが「なんで?」と首をかしげる。
そのつかみどころのなさが「不思議流」のルーツになったが、その相手に急所をつかませないところこそ、中村将棋の強みだった。
その様子をわかってもらうには、この将棋がいいかもしれない。
1983年、新人王戦の準決勝という大きな一番。
相手は実力者である鈴木輝彦六段。
矢倉模様の戦いから鈴木が仕掛け、中村は手にのって中央から盛り上がり反撃するが、ここで手筋がある。
△88歩と打つのが、筋中の筋。
居飛車党の攻め将棋なら、もう自然に指がここに行くというものだろう。
▲同角は△46歩だから、▲同金だが、金が壁になって▲88への脱出路をふさいでいるうえに、▲67の金も浮き駒になってしまった。
さすが、筋のよさで鳴らす本格派の鈴木だ。
以下、△46歩、▲同角に、△44銀と進出。
▲64銀と角道を遮断するも、無視して△45銀。
▲37角に△46歩と押さえ、▲73銀成と角を取って、△同桂に▲54歩と取りこんだところで、△56銀打と浴びせ倒し。
先手陣はバラバラで、飛車と角も使えておらず、攻め合いにもならない。
なにか、後手が好きなように指しているようだが、これが中村は涼しい顔をしているというのだから、よくわからない。
▲77金寄とよろけ、△57歩にはヒョイと▲78玉と早逃げ。
△58歩成と、「マムシのと金」ができて、ますますピンチに見えるが、すっと▲86歩と逃げ道を開けて耐える。
右から追うと、玉を▲87から▲98に収納してがんばれるという読み。
こうなると、手筋の△88歩が、逆に先手玉を固める手になって、逆用できる、と。
そうはさせじと、後手は△85歩として、今度は上部から手をつける。
▲同歩、△同桂と桂馬もさばけて、ますます好調に見えるが、中村は平気の平左で▲86金とあがる。
むかえた、この局面。
先手は攻めこまれているようで、なんなりと手をつくして受けまくる。
なんとか一手空けば、▲64角とか▲42歩の反撃もあるが、鈴木はここで必殺の一手を用意していた。
(続く→こちら)
いろいろ大変なときは「バカ映像」にかぎる。
昨今のコロナ危機で、みな不便な思いを強いられているが、こういう不安やストレスの解消法は人それぞれ。
「甘いものを食べる」
「おしゃべりをする」
「ネットで悪口を書く」
などあるだろうが、私の場合はマヌケな動画を観ることである。
まず、オススメしたのがコレで「奥崎謙三の政見放送」(→こちら)。
これはガチな話、「最近、元気がない」「悩みがある」という人に、もれなくこの動画を勧めている。
開口一番から、
「殺人、暴行、猥褻図画頒布、前科三犯」
「独房生活13年8か月」
などなどパワーワードが連発。
これを、NHKの優等生アナウンサーが、淡々と読み上げるのだからシビれる。
政権演説開始後も、
「落選確実のわたくしが」
「政治家、国家、国法をなくすべく」
「重症の気ちがいで、無知蒙昧な野蛮人」
「天皇裕仁と田中角栄を殺したい」
「ニューギニアから生きて帰れたのは、上官を多くなぐったから」
地上波どころか、今のご時世YouTubeでもムリであろう、ハードパンチを連発。
稀代の奇人である奥崎健三の強烈な「人間力」に圧倒され、悩みなど吹っ飛ばされること間違いなし。
これで、「奥崎さん、クール!」と感じたアナタは、ぜひとも氏が主演を務めた『ゆきゆきて、神軍』も観ましょう(→こちら)。
かつて後輩にオススメして、何の因果かそれを彼が恋人と見たら、それ以降しばらく口をきいてくれなくなったという、いわくつきの物件だ(その顛末とストーリーの概略は→こちら)。
奥崎さんの営むバッテリー工場。こんなのが近所にあったら、常連になるか引っ越すかの2択しかない。
奥崎さんの乗る文字通りの「痛車」。プラモかガレージキットで出ないかな。
この後輩にかぎらず、まあ一般ウケはせんですわなというカルト作品。
以前、週末に友人と食事をする約束があって、土曜の夜はリア充系の友たちと(女の子もたくさん)鍋パーティになった。
会話の内容も、
「『ショーシャンクの空に』観たよ。すごく感動しちゃった」
みたいなもので、続く日曜日は別の友人たちと、安居酒屋の個室で『ゆきゆきて、神軍』の話で盛り上がって(もちろん女人禁制)、
「これは、同じ地球の出来事なのか?」
なんて不思議な気分になったものだ。日本なのに、なんだか「多民族国家」に住んでる気分。
そんな、「ふつうではない」魅力を持つ奥崎謙三氏と『ゆきゆきて、神軍』。
自粛のモヤモヤを吹っ飛ばすには、一番のパワーを持っていると思うのですが、いかがなものでしょうか。
もし奥崎さんが今でも生きてたら、絶対YouTuberになってるだろうなあ。すぐbanされそうだけど。
(大江戸コングと『世界大洪水』編に続く→こちら)
「穴熊の暴力」という言葉がある。
前回、「終盤の魔術師」こと森雞二九段の泥臭い逆転劇を紹介したが(→こちら)、今回はそんな森将棋にリスペクトをかくさない棋士について。
穴熊という囲いはくずすのに時間がかかるため、通常ではゆるしてくれないような、無理攻めや細い攻めが通ったりする。
特に居飛車穴熊でそれが顕著で、振り飛車側が序中盤で多少ポイントを稼いでも、囲いのアドバンテージを使って、力まかせにひっくり返されたりするのだ。
とにかく、
「トン死筋がない」
「王手すらかからないから、終盤の競り合いで自陣を見なくていい」
というのは、盤上のみならず、精神的にも安心でミスも減りやすい。
好き嫌いはあるし、バランス重視の将棋が評価される最近では、以前ほどの脅威はないそうだが、それでもうまく使えば実戦的に「勝ちやすい」のは事実だろう。
1990年、C級2組順位戦の3回戦。
先崎学五段と依田有司五段の一戦。
依田の三間飛車に、先崎はすかさず得意の穴熊にもぐり、華麗なさばき合いから、両者とも敵陣に飛車を打ち合って寄せ合いに突入。
図は先手の依田が、▲44歩と筋よく突いたところ。
△同歩なら、▲43歩と打って、△24角に▲53角成。
歩の代わりに、直接▲43銀打とたたきこんでも相当だ。
この筋に歩が立つようになれば、どこかで▲49歩の底歩を使って、一手かせぐこともできるかもしれない。
攻めのお手本のような歩突きで、先手の調子がよさそうだが、ここは先崎がねらっていた局面だった。
△39竜と、ここでバッサリ切るのが、穴熊流のするどい大刀さばき。
▲同玉で、一見それ以上の攻めがないように見えるが、取った金を△51金と、ここに打ちつけるのが継続手。
飛車がせまい先手は▲63飛成と逃げるも、△62香の田楽刺しを決めて、▲72竜に4筋の傷はかまわず、△64香と角を取る。
手番をもらった先手は待望の▲43歩成だが、これには△同金(!)と取ってしまって、▲同銀成に△46歩のタタキが、強烈極まりない一撃。
この局面を見ていただきたい。
後手は金を一枚ボロっと取られたが、自陣に駒の数が多く、ほとんどダメージを受けていない。
一方、先手陣は美濃囲いの要である▲49の金がいなくなり、と金と△46歩の位置が玉に近すぎて風前の灯火。
自玉を補強する手段もないし、攻め合うにも一手違いどころか、3手くらい遅れている印象。
▲42成銀と角を取っても、△同金右で、なにも起こらない。
若手時代の先崎の切れ味と、穴熊の強みがこれでもかと発揮された展開だ。
以下、▲46同金に△57角と打って、後手だけが攻める展開で圧倒。
この一連の手順にはおどろかされるとともに、なんともいえない不条理も感じたものだ。
というのも、先手が指した▲44歩というのが、非常に感触がいいというか、「将棋の本筋」ともいえる手だからだ。
これが穴熊には通用しない。
この、ふつうの将棋における文法なら、明らかにいい手のものが、「悪手」や「緩手」になってしまうところに、穴熊の持つ「不条理」がある。
この一局は、居飛車の攻めがかなりスマートなため、あまり「暴力」感はないが、それでもこの▲44歩がまったく通らないところなど、負かされた方は全力で納得がいかないだろう。
たしか、ここでの最善は▲44歩のところで、▲81と、と駒を補充しながら飛車を楽にするところだったそう。
とはいえ、あの堅陣を見れば、こんな堂々とした手は、さすがに指せない。
後手からは△57桂のような、地味だが着実な攻めがあり、それなら、なんとか1枚でも、穴熊の装甲をけずりたいとなるのも人情だろう。
それが通らないのだから、振り飛車側も困惑するしかない。
いわば、華麗な剣舞を披露する騎士が、戦車やマシンガンの前にはまったくの無力であるような無常感がある。
振り飛車党の逆襲は、この5年後の「藤井システム」誕生まで待たなくてはならない。
「ゲーム好きは、たしかにこの状況には強いかもしれへんねえ」。
テレビ電話越しに、そんなことを言ったのは友人トネヤマ君であった。
昨今、コロナの影響で外出が制限されており、家での過ごし方は人それぞれであるがトネヤマ君は、
「オレはゲーム好きやからなあ。まあ、家出るなと言われても、そんなに困ることはないかもね」。
『将棋世界』で連載を持っていたこともある編集者の山岸浩史さんは、かつて、
「牢の中でネット将棋が指し放題なら、終身刑を宣告されてもかまわない」
という名言(?)を残し、将棋関係者をあきれ……感動させたものだが、そういやトネヤマ君も昔、
「24時間ゲームだけして、他のことせんと過ごせるんやったら、家から一生出られへん、死ぬまで誰とも会われへんって言われても平気やな」
山岸さんと、ほとんど同じことを言っているわけで、デジタル・アナログ問わず、「ゲーム」というのはそれだけ人を惹きつけるのだろう。
私自身、今ではほとんどやらないが周囲にゲーマーは多く、なかなかの「インシテミル」ぶり。
友人ジョウナン君はRPGが好きすぎて『クロノ・トリガー』『グランディア』『ヴァルキリープロファイル』といったお気に入りのゲームを、ふつうにクリアするだけは物足りず、
「主人公だけ操作してクリア」
「魔法なしでクリア」
など「縛りプレイ」をやりつくし、ついにはネタ切れになり、「目をつぶりながらクリア」などという神業に挑戦してた。
友人ハタ君は一時期オンラインゲームに、ずっぱまりしたことが。
『ウルティマオンライン』が楽しすぎて盆休みの一週間、近所のコンビニに食料を買いに行く以外ずーっと、それこそ寝るのもその姿勢だから、1日23時間半パソコンの前にすわっていたら、休みの最終日に鏡を見て卒倒しそうになったそう。
その様は本人いわく「生ける屍」「遭難13日目」「クトゥルフ神話に出てくる邪神を見て発狂した人」というもので、どんだけやってたんや、と。
そんな彼も、一歩外へ出れば結構優秀な技術者なんだから、人生とはわからんもんです。「ゲームはよくない」という大人はいまだに多いけど、まあみんな、そこそこ普通の社会人になってますよ。
そんな話を、別口で後輩アサヒガオカ君にしてみると、
「わかりますわあ。自分も、就職するまでは平日学校帰りに6時間、土日は11時間ゲームやってたッス」
すごいもんだと言いたいけれど、まあゲームジャンキーでなくとも『ダービースタリオン』とかなら、ずーっとやってる人とかいたね。
「自分、だいぶ前っスけど先輩からケン・グリムウッドの『リプレイ』って小説、借りたやないですか?」
はいはい。主人公が人生を何回もやり直せるっていう「リプレイもの」の元祖になった大傑作ね。
「あれ、メッチャおもろかったんスけど、やっぱ考えてまいますよね。自分やったら、どうするやろう、て」
考えるねえ。あの本でも、人生やり直せてラッキーやけど、よかれと思ったことが裏目に出たり、子供とか慈しんだ存在がリセットされる切なさがあるんよね。
「あれは泣くッス。で、自分ならどうするか真剣に考えて出た結論がですね」
はいはい。気になるね。
「わかりやすく5回《リプレイ》できるとしたら、3回目くらいの人生は、丸々『ポケモン』に使い切りますね」。
そっかー、ポケモンはハマるらしいもんねえ……て、主人公が30年くらいゲームばっかやってる『リプレイ』じゃあ感動できないって!
将棋の世界には「クソねばり」という言葉がある。
形勢が不利になると、逆転をねらって「ねばる」というのは、当たり前の行為だが、中には
「もうムリっしょ」
「早く投げろよ」
という声が多勢をしめるような局面にもかかわらず、それでも根性(もしくは投げきれなくて)で指し続ける場合があって、こういうのを少々下品な言葉だが「クソねばり」というのだ。
前回は若手時代の羽生善治が、名人戦で森内俊之に見せた、神業的読みの深さを紹介したが(→こちら)、今回は実戦的で、泥臭い将棋を見ていただきたい。
1982年、第40期棋聖戦の第1局。
二上達也棋聖と、森雞二八段との一戦。
先手の森が向かい飛車にして、▲86歩と飛車交換をせまる仕掛けを見せるが、これが少々無理気味だったよう。
二上のあざやかなカウンターを食らい、形勢を損ねてしまう。
△88歩が痛打で、先手がシビれている。
▲同金は△67歩成が、金銀両取りで終了。
本譜▲77桂にも、△89歩成として、次に△88と、▲同金に△68飛が金取りと、△67歩成が同時に受からず負け。
△89歩成に、森は▲69歩と打ってねばる。
いかにも、つらい手だが森いわく、
「この手が一番長持ちするでしょ」
たしかにそうかもしれないが、ただ長引かせるだけでジリ貧になる可能性も高い手だ。
そこからあれこれあって、この局面。
駒得のうえに、馬が手厚い後手とくらべ、先手の陣形は駒をベタベタと打ちつけて、いかにも「クソねばり」な雰囲気を醸し出している。
当時の観戦記でも、一時よりマシになったが、それでもまだ後手が、かなり有利と衆目が一致。
先手は1筋から攻められると、左辺の金銀が壁になって逃げられないし、そもそもここで次に指す手すら、まったく見えない状況だ。
だが、森はあきらめていなかった。
圧敗必至のこの場面で、ふたたび驚愕の一手を指すのだ。
▲83歩と打ったのが、すごい手。
ねらいとしては、もちろん、次に歩を成るということはわかるんだけど、こんな王様と反対の真空地帯に、と金を作って一体どうしようというのか。
そもそも、ここで1手パスして▲82歩成としても、後手からすれば、なんのこともないではないか。
ところがこれが、ここまで精緻をきわめた、二上棋聖の思考を乱すのだから、勝負というのはわからないもの。
よく解説を担当するプロが、
「中盤で差がつきすぎると、かえって指す手がむずかしい」
「どうやっても勝ちという場面ほど、迷ってしまって結構あぶない」
なんて言うものだが、これは本当で、この後の展開がまさにそうだった。
また観戦してた米長邦雄棋王や芹沢博文九段が、
「二上さんは怒っている」
1筋こそ突破されたものの、森もそこからなんやかやとアヤをつけ、さらにはその間隙をぬって、と金を右側に寄せていく。
▲83歩、▲82歩成、▲91と、▲81と、▲71と、▲61と……。
書き写しているだけでもイライラする亀の歩みだが、これが
「マムシのと金」
「と金のおそはや」
意外なほど、後手にプレッシャーをかけているようだ。
二上が攻めあぐんでいるうちに、先手はいつの間にか、後手の飛車を召し上げてしまう。
さらには、と金が▲51と、と後手の守りの要である「底香」をさらい、ついに▲41と、と銀までうばってしまうのだ!
先手はいいタイミングで、▲59玉と早逃げしたのが好手で、ここにきて将棋は完全に逆転。
ここで先手に、カッコイイ決め手がある。
▲15香と打つのが、玉の逃げ道をふさぎながら、▲31飛から詰めろという妙手。
△同馬は▲12飛で、王手馬取りが決まる。
二上は△41玉とするが、そこで▲81竜と、遊び駒だった竜を使うのが気持ちのいい手。
以下、森が、あざやかな寄せを見せて勝ちきった。
その独特の雰囲気を持った逆転術を武器とし、森は「終盤の魔術師」と恐れられたが、その見本のような勝ち方。
森はこれで勢いにのり、3連勝で棋聖獲得。
二上は勝てば「永世棋聖」の称号を得られたが、それはかなわなかった。
森といえば、対局中に控室にあらわれ、検討用のモニターに映る対戦相手の姿に
「間違えろ!」
「悪手を指せ!」
そう叫んでいたというが、まさにこの▲83歩からも、それが聞こえるようだ。
名局とは言えないかもしれないが、「おもしろい将棋」とはこういう一局のことをいうのであろう。
(先崎学の「穴熊の暴力」編に続く→こちら)
コロナで世界が大変である。
友人などに連絡を取ってみると、ため息をつく人もいれば、昨今流行りのZOOM飲み会をやっている人など様々。
で、こういう話をしていると、かならずと言っていいほど
「外に出えへんで、どうやって1日すごしてんの?」
という話題というか情報交換になるので、今回も日記形式で自宅待機大型連休をレポートしてみたい。
■5月のある休日
朝10時起床。起き抜けにポン・ジュースとインスタント・コーヒー。飲みながらスマホをいじる。
天気予報とニュース。この状況がいつまで続くかわからないが、ケンカと薄汚ねえ火事場泥棒だけはやめてほしいなあと思う。
クールジャパンのこととかね。
朝食は紅茶、バナナ、クロワッサンにゆでたまご。BGMは古いフランスの曲。『巴里祭』『巴里の屋根の下』。
午前中はDVDを観る。中古屋で買ったり、昔ダビングしたものが山ほどある。
こういうのは「手元にあると、いつまでも観ない」という罠というか「あるある」があるので、いい機会だからあさってみる。
当然、昔観たものが多くなる。今日はビリー・ワイルダーの『熱砂の秘密』。
ドイツ軍のエルヴィン・ロンメル役をエーリヒ・フォン・シュトロハイムが演じてるんだけど、こんな似ても似つかない配役というのもめずらしい(笑)。
ただやはり、シュトロハイムは雰囲気ありまくりの役者なんで、ある意味ハマり役でもある。
手に持ってるハエたたきが、妙にキャラとマッチしている。いい映画。
なんとなく本棚の整理をして、昼食。
うどんをゆでて、卵、ネギ、ワカメ、コロッケ、豆腐など冷蔵庫のあまりものを全部つっこんで、ヒガシマルのダシと熱々の湯をそそぐ。
雑すぎる鍋焼きうどんだが、「男のメシ」という感じもして悪くない。
食べながら、BS世界のドキュメンタリー「ヒトラーユーゲント ナチス青少年団の全貌」を見る。
「NSDAP(ナチスの正式名称)あるある」に、
「当時のドイツ人の写真を見ると、ものすごく幸せそうな笑顔を見せているものが多い」
というのがあるんだけど、大人もそうだろうけど「ヒトラーユーゲント」にハマる子供たちがいることも、なんとなしに理解はできる。
そら、みんなでキャンプしてハイキングしてスポーツ大会やって、勉強は重視されず、しっかりしたタテ関係にカッケー制服。
カリスマ的指導者もいて、そんなもん男子の役満そろってますもんね。
少年マンガが描く、理想の運動部みたいな世界。文化系の私は絶対イヤですが。こいつら、本焼くし。
食後は少し昼寝。寝つくまで、シーツにくるまりながらブログのネタを考える。
私はこのページをバズらせようとか、フォロワーを増やそうとか、そういったことはほぼ考えていないので、内容は思いつきで本当に一貫性がない。
SNSで人気のある友人からは、よく「テーマをしぼったほうがいいよ」とかアドバイスされるけど、それだと飽きるからなあ。
最近、将棋ネタを多くしているが、そもそも、藤井聡太七段のフィーバーがすさまじく、それだったらちょっとと「羽生世代を中心としたトッププロの大ポカ集」を書いてみたら、少し反応があって、ならばと「絶妙手編」もやってみて、そこで終わるはずだった。
それが、こんなに続くとは思わなかった。
まあ、将棋ブームが終わるかネタが切れたらやめるだろうけど、発表するというよりは、これを機会に古い資料を読んだりするのが楽しいのかもしれない。
こんなことなら古い『将棋世界』とか、『週刊将棋』のスクラップとか処分しなきゃよかった。
こと文化系人間は「断捨離」ブームなんかに乗せられてはいけません。
午後からはコーヒーを飲みながら、ひたすら読書。
私は本さえあれば無限に時間をつぶせる人間なので、こういうときありがたい。
今日は飯塚英一『旅行記作家マーク・トウェイン 知られざる旅と投機の日々』。
『トム・ソーヤーの冒険』や『ハックルベリー・フィンの冒険』の作者であるトウェインは一般的には
「ミシシッピ川を愛する、愉快で楽しいおじさん」
というイメージだが、それはあくまでトウェインの一部にすぎず、すぐれた旅行記をものし、また「文学的名声より、一発当てて金持ちになりたい!」という、かなり俗っぽいアメリカン・ドリーマーでもある。そもそもミシシッピ川の近くには、若いころの数年しか住んでいない。
また、なかなかアクの強い人だったようで、本の中で実在の人物をイジりまくったら激怒され、訴訟を起こされたり、死後に新聞の投書で反論されたり。
変な発明品で一発当てることに血道をあげていたら、大失敗して破産しかけるとか、『自伝』は自慢話と罵詈雑言しか書いていないという「老害」丸出しな内容で、トムやハックを愛するマジメな研究者を困らせているとか、飯塚氏のすばらしくリーダビリティの高い文章もあって、メチャクチャにおもしろい!
夕食。ご飯を炊いて、豚モヤシとキャベツのサラダ、卵豆腐。
こういうとき、辺境作家の高野秀行さんをはじめ、「メシだけ炊いておけばいい」という人もいるが、たくさん炊くと「ラップして冷凍」という手間がめんどくさくて、やらなくなってしまうことも多い。
そこで一時期「レンジでチン」のご飯を食べていたこともあって、最強なのは東海林さだおさんの本を参考に、
「ご飯をチンして、かつおぶしと醤油をかけて食べる猫まんま」
手間のコスパはすばらしいものがある。味つけノリをのせてもよし。おかずは納豆をパックのまま。
そういえば『OL進化論』の秋月りす先生は、「パックご飯にスライスチーズとキムチをのせてチン」をおススメしていた。とにかく、なんでものせればいいのだな。
食後はパソコンを開く。お茶しながら、YouTubeやラジオなど。古いテニスの動画。アンリ・ルコントの芸術的なプレーに、しばし酔いしれる。フェデラーとナルバンディアンのローラン・ギャロスでの打ち合いとか。
寝る前に少し読書。SFが読みたくなって、ロバート・A・ハインライン『人形つかい』を読み返す。
本好きやってると、よく「どんな本読んだら役に立つ?」とか訊かれるけど、SFはおもしろいうえに「相対的視点からの思考力と想像力」が鍛えられるから、強いんじゃないかなあとか、そんなことを考えながら眠りに落ちる。
コロナで世界が大変である。
友人などに連絡を取ってみると、やはり色々と混乱もあるが、落ちこんでてもしょうがないと開き直って、あえて呑気にやっている人など様々。
もちろん私も不安だが、こういうとき独身貴族というのは比較的ではあるが気楽ともいえ、根がインドア派だし、お金を使わなくても楽しめるタイプだし、「出られないフラストレーション」は少ない方かもしれない。
で、こういう話をしていると、かならずと言っていいほど
「外に出えへんで、どうやって1日すごしてんの?」
という話題というか情報交換になるので、今回は日記形式で自宅待機大型連休をレポートしてみたい。
■4月のある休日
朝10時起床。シャワーを浴びて、とりあえず野菜ジュースを一杯とインスタントのコーヒー。寝起きは苦手。飲みながらスマホをチェック。
見るのはニュースと天気予報。あとはテニスと将棋関係のを適当に。蔵前仁一さんのツイッターとか。
将棋は名人戦と叡王戦がストップして、とよぴーは大変だ。
それとも、タイトなスケジュールから解放されて一息ついているのだろうか。藤井聡太七段の「史上最年少タイトル」がほとんど消えてしまったのも残念。
朝食に紅茶、りんご4分の1、ミニくるみパン2個。テレビはすっかり見なくなったので、代わりに音楽をかける。
今日は映画音楽をランダムで。ジョージ・ガーシュイン『ラプソディー・イン・ブルー』『巴里のアメリカ人』などなど。
これだけ見ると優雅だが、実際は本だらけの部屋に万年床なので、絵面はしっかり男やもめである。死んでも、だれにも気づかれないな。
午前中はDVDを観る。中古屋で買ったり、昔ダビングしたものが山ほどある。
こういうのは「手元にあると、いつまでも観ない」という罠というか「あるある」があるので、いい機会だからあさってみる。
当然、昔観たものが多くなる。今日は『シャレード』。オシャンティーな作品。
なんとなく部屋の掃除をして、昼食。
おそばをゆでて、納豆と、すった山芋とゆでたオクラに、生卵、ワサビ、きざみ海苔に冷たい出汁を投入。
ぐりぐりかき回して、ずるずるすすりこむ。簡単で、美味いうえに栄養満点。
BGM代わりに、NHK-BSでやっている『ヨーロッパ トラムの旅』。路面電車の車掌さん目線で、ひたすら都市をレールに乗ってぐるぐる回るだけの番組。
メチャクチャ地味だが、これがまったりしてハマる。嗚呼、プラハとアムステルダムに行きたいぜ。
食後は少し昼寝。私は寝つきが悪いくせに、一度寝ると意地汚く眠ってしまうので注意が必要。
床の上とか、あえて寝心地の悪いところをチョイスして、1時間ほど。
午後からはコーヒーを飲みながら、ひたすら読書。私は本さえあれば無限に時間をつぶせる人間なので、こういうときありがたい。
せっかくヒマなので、多少ボリュームのある本を選ぶべしと、「南米文学強化週間」とする。ガブリエル・ガルシア=マルケス『わが悲しき娼婦たちの思い出』。マリオ・バルガス=リョサなど『悪い娘の悪戯』など。
『わが悲しき』は90歳になったおじいちゃんが、色々あったけど若い娘さんに出会ったら精力回復してワシ超ハッピーですわ!
『悪い娘』は、したたかなクソ女に惚れて振り回されてヒドイ目にあったけど、結局、恋はそういう自分のもんにならん女を、死ぬまで追いかけ続けるのがええんですね! そういう内容。
結論としては、地味なエリートと「歳とって、最近、元気ないわー」とボヤく老紳士は、キャバクラに行くか、清純キャラの内実ビッチなアイドルの追っかけをすればいいということ。ラテンアメリカの芸術はステキだ。
南米文学は読みやすいけど、なぜかやたらとカロリーを使うので、『バーナード嬢曰く。』でときどき箸休めしながら、ひたすら読みふける。
気がつけば夕方。散歩がてら、マスクをして近所のスーパーへ。
この辺では買いだめ騒動などもなかったので平和。あまりにいい天気なせいか、この光景と人類社会の大混乱が、どうしても結びつかない。
パパとママがレジで精算しているのを待つ子供たちを見て、「オレたち大人が、なんとかしなきゃな」などとガラにもないことを考える。
暖かい日だったので、「アイスの実」を買う。マスカット味がうまくて、いくつか買いだめする。ダメな大人だ。
夕食。ご飯を炊いて、大根をおろして、レバニラ炒めを作る。サイドにキムチ。
こういうとき、カレーを大量に作っておくという人が多いが、ナベを洗うのがめんどくさいので、あまりやらない。ひとり身だが、カップ麺やお弁当もあまり食べない。袋めんは野菜や肉を大量に放りこんで、鍋感覚でいただく。
食後はパソコンを開く。お茶しながら、YouTubeやラジオなど。
『マヂカルラブリーのオールナイトニッポン0』が激烈におもしろくて悶絶。流れで、ラップのコントも久しぶりに見直しちゃったよ。
高校時代「天才」と尊敬していた友人が、ビジュアルはいいのにアングラなセンスが爆発して女子から敬遠されてて、今思うと野田氏みたいな人だった。
彼の書くコントやマンガはいつか世に出したいけど、もう音信不通なんだよなあ。
寝る前に少し読書。猿谷要先生の『アトランタ』。読みやすく知的で、ともすれば軽視されがちなアメリカ南部の歴史や問題点がサクサク学べる、とってもステキな一冊。
よく男が男の価値をはかるのに「ケンカが強い」とか「仕事ができる」とか「女にモテる」とか出てくるけど、私の場合は断然「知性と教養」だよな。とか、そんなことを考えながら眠りに落ちる。