ベルギーのトイレで女子にドアを開けられたら

2013年06月22日 | 海外旅行
 トイレにいきなり踏みこまれるとパニックである。
 
 ましてやそれが、見も知らぬ若い女性だったらなおさら。事件の場はブリュッセルでのことであった。
 
 ベルギーを旅行していたときのこと。トイレに行きたくなった私は駅の公衆トイレに入ったのだが、そこの鍵がこわれていた。
 
 これは困ったが、他の個室はすべてふさがっていた上に、こちらの腹具合もかなりの緊急事態である。気を抜くと今にも「堤防決壊」ということになりかねない。
 
 ええい、ままよ。やむを得ず、私は鍵をかけないまま腰を下ろした。
 
 首尾良く用を足し、ズボンを上げようとしたところで、そう、お約束通りドアが勢いよく開いた。
 
 まあ、そこまではいい、いや、よくはないが、まだ想定内だ。
 
 予想できなかったのは、ドアを開けたのは女の子だったことである。
 
 一瞬阿呆みたいに見つめ合った我々だが、すぐさま、
 
 「きゃああああああああ!」
 
 「どわあああああああ!」
 
 それぞれに叫び声を上げた。なんで男子トイレに女の子が入ってくるんやああああああああ!
 
 こっちは完全にパニックになっていたが、女の子の方は悲鳴こそ大きいものの、なんだか顔が笑っている。
 
 顔を手で押さえキャアキャア言いながらも、指の隙間からちらちらとこちらを見ている。
 
 その視線は、まだ出しっぱなしである私の股間の「ゴールデンボーイ」に向けられていた。
 
 そうやってひとしきりキャアキャア言ってから、女の子はトイレから出た。
 
 しかし、叫声は止むどころかかえって大きくなっている。どうやら、外に彼女の友達がいるらしい。
 
 嫌な予感がした。そしてそれは当たった。
 
 さっきとは別の女の子が、おそるおそるドアを開けてこちらをのぞきこんだのできたのだ。
 
 もちろん視線の先は股間の「ゴールデンボーイ」。ついでにキャアキャア。
 
 3人目もいて、やはりチラリと見てキャアキャア。完全に珍獣あつかいというか、もうええっちゅうねん!
 
 ようやっとズボンをはいて外に出ると、ベルギー女子3人は楽しそうにあれこれ、うるさくさえずっていた。
 
 時折こちらをチラチラ見ながら。おそらく私のアレを「品定め」をしているのだろう。
 
 いや、ちょっと待ってくれ、あれは私の本当の実力ではないのだ。
 
 そりゃ、今は油断していたからあんなもんかもしれないが、ひとたび「本気」を出せば、これがなかなかのものなのだ。
 
 本当なんだ。ここでズボンを脱ぐからもう一回勝負させてくれ!
 
 こちらも必死にうったえたかったが、私の持つ「ベルギー旅の指さし会話集」には、
 
 「本当はもっとグレイトなので、もう一度私のイチモツを見てください」
 
 といった文例は載っていないようだし、そもそも載っていたからといって、ベルギー警察において釈明に役立つとも思えない。
 
 だが、こちらとしては納得がいかないではないか。
 
 誤解されるのは仕方がないにしても、仮に武運つたなく敗れるにしろ、せめて全力で戦った上で散りたい。とにかく悔いの残る夏にしたくないんだ。
 
 などと訴えかけたが、私の存在に気づいた彼女らは、また楽しそうな悲鳴をあげながら逃げていったのであった。絶対に、
 
 「見た、見た?」
 
 「日本人って、あんな程度なんだ」
 
 「マジ、ヤバイ。チョー笑える」
 
 とかいってやがるのだ。ぬがあ! 納得いかんぞ!
 
 なんでこんなことになったのかといえば、トイレの入口にある注意書きによると、その男子トイレはなぜか午後5時以降は女子も使用可能になるというのだ。
 
 たしかブリュッセル南駅のトイレだったはずだけど、なぜそんなシステムになっているのかはイマイチ理解不能だ。
 
 えらい恥をかいた上に、私の実力を文字通り「過小評価」までされてしまい、まったく釈然としないのであった。
 
 
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行方尚史ジャンキーズ その2

2013年06月02日 | 将棋・雑談

 前回(→こちら)の続き。

 行方尚史八段王位戦の挑戦者に決まった。

 ナメちゃんといえば、ポルノ作家で将棋気ちがいの団鬼六先生が、ことさらかわいがっていたことは有名な話。

 19歳でプロデビューしたときは、団先生の連載に対局者として登場する、という大抜擢にあずかることになった。

 が、ナメちゃんには悪いけど、メンバーを見た感じ、まだなんの実績もない新人が出るには、ちと早い印象も受ける。

 なんたって、メンツはほとんどが羽生善治三冠王郷田真隆王位(いずれも当時)といったタイトルホルダーか、女流の人気棋士だ。

 そこにまだぺーぺーのの若造は、申し訳ないが、いかにも浮いているではないか。

 これはもちろん団先生の意向。

 先生がいうには、まだナメちゃんが奨励会の二段のときに、『将棋ジャーナル』に登板させ、

 「東北の桃太郎vs鬼の指し込み五番勝負

 なる対決を掲載したことがあると。

 指し込みとは、一番負けるごとに、勝った方が駒を落としていくというもので、要するに負けると、

 「テメー、マジ弱いな。かわいそうだから、ハンディやるよ」

 とばかりに、サッカーでいえば次から10人とか9人に人数を減らした相手と、試合をさせられるようなもの。

 敗者には屈辱きわまりない、過酷なシステムなのだ。

 団先生のもくろみとしては、もし初戦で勝てば、プロの卵でデビュー後大活躍間違いなしの行方に、香を落としてハンディ戦を戦うことになると。

 よしんばそうなって、将来行方が名人にでもなったりすれば、これはもう升田幸三のような、



 「名人に香を引いた男」



 を名乗れるわけで、もう自慢してまわるから覚悟しとけよ。

 開戦前からふかしまくっていたら、まずはそのノーハンディの平手戦負けてしまった。

 まあ、奨励会二段といえばほとんどプロと変わらない実力はあるから(将棋は四段からプロ)、それはしょうがない。

 とはいえ、なんとそこから団先生は香落飛車落飛車香落角落と、怒濤の5連敗

 そりゃ行方が強いとはいえ、団先生も一応はアマ六段の強豪。いくらなんでも、こりゃあんまりな負けっぷりである。

 ふつうは、アマトップクラスなら、飛車落くらいならもうちょっと入るものだ。

 この大惨敗に目が見えなくなった団先生は、やけくそになって二枚落という、さすがに負けるわけのない手合いで挑むがこれも「憤兵は散る」を地で行ってしまい圧敗

 これには、あまりのショックに


 「今にして思えばあの時で将棋ジャーナルは店仕舞いにするべきだったと反省している」


 すっかりしょげて、しかもかわいがっている奨励会三段陣からも、

 

 「二枚落ちで負けるのはヒドすぎる」

 

 笑われて、ダブルパンチ。

 今回はそのリベンジをというのが、この鬼の五番勝負に羽生や中原と並んでの登場の経緯なわけだが、まあここまでお読みの方にはもうおわかりであろうけど、つまるところは、



 「ワシのかわいい行方を、専門誌で大々的に取り上げたってくれえな」



 という、親バカというか年齢的には孫バカというか、目に入れても痛くない行方少年が、プロになれたことがうれしくてしかたなかったんであろう。

 まったく、かわいすぎる団先生である。

 結局、この決戦はナメちゃんがぜん息の発作を起こしてしまい、代打として真田圭一四段が登板することに。

 これに惜敗した団先生は、お見舞いの電話をナメちゃんにかけると、病院にかつぎこまれた彼は、そのことをなぐさめるどころか、駄目っすよと言うと、


 「羽生先生に勝てても、真田さんや僕には先生、絶対勝てっこ、ねえっすよ」



 かような「何とも憎たらしい事」を言ったそうである。仲良しか!

 そんな先生のかわいがりっぷりは、先崎学八段も『週刊文春』のエッセイで描いておられる。

 若手時代、まさにこの『鬼の五番勝負』に出場して、かなり厳しいことを書かれた先崎八段は、そのことがおもしろくなかったのか、



 「行方のことも私のように手厳しく評論してくださいよ」



 からんだところ、団先生は苦笑いをして、


 「あれのことになると、客観的には書けんのや」


 困ったように言ったという。これには先崎八段も



 「ちょっぴりこれには嫉妬したものである」



 そんな将棋と若手棋士、奨励会員を愛した団先生は、2年前にお亡くなりになった。

 晩年は人工透析を受けながらも、王位時代の深浦康市九段など、旧知の棋士たちがタイトル戦で戦うのを、応援しにをするというのが楽しみだったそうだ。

 そんな先生なれば、大舞台で戦う行方の姿を、きっと熱望したはずである。

 それが、ほんの少しだけ遅くなってしまったのは、私のようなファンはもとより、ナメちゃん自身こそがきっと残念に思ったことだろう。

 こうなった以上、先生の想いに報いるには、このチャンスを絶対にものにするしかあるまい。

 もちろん、相手は「勝て」というにはあまりにきびしい最強の男だが、今の行方は違うというオーラは感じられる。

 今のキミは強い。行方王位、いい響きではないか。ナメちゃん、ガンバ!


 (続く→こちら
 


 ※おまけ 行方尚史のもっとくわしい話については→コチラと→コチラから。


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