「藤井システム」の居玉はつらいよ 渡辺明vs谷川浩司 2004年 第17期竜王戦 決勝トーナメント

2021年05月30日 | 将棋・好手 妙手

 「《居玉は避けよ》という格言が、最近は通じなくて困るんですよ」

 というのは、将棋中継の解説でプロ棋士が、ときおり発するボヤキである。

 将棋において、一番大事な駒はもちろん玉。

 ルールをおぼえたら、まずはそれをしっかり囲うという感覚を、身につけるのが大事なのだ。

 それが平成になったころから「藤井システム」や、山崎隆之八段の魅力的な力将棋。

 また、近年どんどん将棋が激しくなっていき、相掛かりや横歩取りなどでも、居玉のまま最後まで突っ走るなんてケースも、そうめずらしいものではなくなってきた。

 ただそれは、藤井九段の研究や、山崎八段の腕力、またAIによる精密な検証があるから指しこなせるわけで、いざ実戦だとプロでも「勝ちにくい」のはたしかなのだ。

 前回は羽生善治九段が見せた、巧妙な金作りを紹介したが(→こちら)、今回は、そんな「居玉は大変」なバトルを見ていただこう。

 


 2004年、第17期竜王戦の決勝トーナメント。

 1組優勝の谷川浩司王位・棋王と、4組優勝の渡辺明五段との一戦は、ベスト4をかけて戦う大きな一番だ。

 先手の谷川が四間飛車から「藤井システム」に組むと、渡辺も得意の穴熊を目指す。

 むかえた、この局面。

 

 先手は大駒が目一杯使えて、が取れるうえに、1筋と3筋にが立つから攻めにも困らなそう。

 これで振り飛車の玉が、美濃穴熊にガッチリ囲ってあれば先手を持ちたいが、いかんせん居玉である。

 いつ流れ弾が当たるかコワイ形で、△78にいると金の威力もすさまじい。

 事実、ここから渡辺は、その弱点を巧妙につく攻撃を見せる。

 先手の次の手は簡単だが、その応手が谷川の意表をついた。

 

 

 

 

 ▲35銀を取った手に、逆モーションで△53銀と引くのが、おもしろい手。

 ▲61飛成には△62飛とぶつける。

 

 

 

 飛車交換になれば、先手陣は△69飛の一発でおしまいで、これは先手玉のうすさがモロに出てしまう。

 かといって受けるにしても、居玉なうえに、も上ずっている先手陣は飛車に弱く、とても、まとめ切れるものではないだろう。

 くやしいが▲65飛と引くしかなく、そこで△35歩と取り返して、▲13歩、△同香、▲25桂△44歩

 

 

 角道を止めて、激戦だが穴熊の深さが生きる形に。

 △62飛も残って、先手は依然、飛車を成ることができない。

 以下、十数手進んでこの局面。

 

 駒の損得こそないが、玉形の差で後手持ちのように見える。

 ただ先手も、▲78銀と、と金をはずせば玉が広くなり、もうひとねばりできそうだ。

 後手はそれを阻止しつつ、先手玉にせまりたいところだが、その通り、いい手があるのである。

 

 

 

 

 △66桂とタダで捨てるのが、さわやかな軽妙手。

 △78のと金にヒモをつけながら、▲58の金取り。

 本譜のように▲同銀なら、△78と金が取られなくなるうえに、空いたスペースに△74角と打って絶好調。

 

 

 これが飛車取りと同時に、先手陣の右辺に利かす左右挟撃の一打になっていて、これはまいっている。

 ▲87飛と逃げるしかないが△65銀とぶつけ、▲同銀、△同角、▲67銀△69銀とからんで後手勝勢

 

 

 どうしても取り切れない、△78のが強力すぎる。

 以下、後手は△86歩、▲同飛、△95銀から、強引に飛車を奪い取って、谷川玉を居玉のまま仕留めてしまった。
 
 この将棋はまさに、居玉の「勝ちにくさ」がモロに出てしまった形。

 当時、二冠を保持していた谷川でも、なかなか指しこなすのが難しいのだ。

 あこがれだった谷川浩司に勝利し、

 

 「信じられない気持ちだった」

 

 という、まだ初々しかった渡辺明。

 その後も勢いは止まらず、森内俊之竜王から初タイトルを奪い、一気にトップの座にかけあがるのだった。

 

 (鈴木大介のすごい勝負手編に続く→こちら

 (竜王になった渡辺明の、佐藤康光との激戦は→こちら

 

 

  

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3か月で5キロ減量! スイーツもスナック菓子もいただきながらの、ゆるゆるダイエット その2

2021年05月27日 | モテ活

 前回(→こちら)の続き。

 ざっくり、ゆるーくカロリー計算をして、ボチボチとやせていく。

 その名も「体重レインボー作戦」により、3か月で5キロの減量に成功した私。

 そんな、のんびりダイエットにおいて、唯一「禁止」するのが、油物のお惣菜。

 そもそも私が太るのが、近所のスーパーの総菜コーナーで

 「からあげ、天ぷら全品40%引!」

 「コロッケ類半額!」

 このシールがうれしすぎて、つい買いこんでしまうことと、ストレスがたまるとジャンクフードが食べたくなるせいなのだ。

 特にストレスが大敵で、悪い油で揚げたフライやハンバーガーを、これでもかと胃にねじこみたくなる。

 「やけ食い」とは一種の自己破壊願望だと思うが、そんな「緩慢な自殺」は心にも体にも悪いので、できるだけ止めたほうがいいのは自明であり(たまにならいいんですけどねえ)、ここだけは、しっかりストップをかける。

 代わりに、お刺身を食べることにした。

 これは半額になっても、まりまり食べまくって問題ない。

 カツオのたたきに、にんにくを載せて、春キャベツで巻くと絶品。

 スープの類もいい。

 コンソメやうどんダシに、魚とか野菜とかキノコとか豆腐でも放りこんで、グツグツ煮る。

 私は実家から、レンジでチンできる蒸し器を借りてきました。

 温かい汁物は、満足感を生みます。

 あと、インスタントラーメンも、意外といい。

 カロリー計算が簡単なので、一回を半分に分けて、野菜など、具でかさ増しする。

 ちなみに、店のラーメンとちがって、インスタントのカロリーはほぼメンだから(油で揚げてあるせい)、こっちを少なめに。

 スープはガッツリで大丈夫。白いゴハンが好きな人も、お茶漬けとか雑炊だと、お腹が張っていい。

 お酒を飲む人は、これまたそんな神経質に、ならなくていいと思う。

 今はやめてしまったが、のん兵衛だったころは、ダイエット中もビールやワインなどガンガン飲んでたけど、肴を軽めにすると、ふつうに体重は落ちます。

 やっぱ、アルコールの大敵は

 「うまいおつまみ」

 であって、フライドポテトとか、からあげとか、露骨に太りそうなものは避ければ、アルコール自体のカロリーは「誤差」で大丈夫。

 あと、シメのラーメンとかね。結局、食うからいかんのですよ。

 その証拠に、おつまみ無しで飲む「欧米人スタイル」の呑み助は、だいたいやせてます。

 でも、これはこれで、体には悪いケド。

 メインはそれで、400程度しかいかないわけで、残りはうれしいおやつタイム。

 これで1300程度なんだから、残りの700ポイントはご自由にどうぞ。

 私はしょっぱい系では、おせんべいが好きなので、一袋500として、半分くらい。小分けタイプだと、計算しやすくてベター。

 ポテチなども、量をしぼって食べればOK(残りは「明日食べる」から「楽しみが残る」と考える)。

 残りでケーキなり、菓子パンなり、おまんじゅうなりをガッツリ言っても、2000さえ越えなければ、静かに痩せていきます。

 あと、どうしても、お腹が空いて夜寝られないときとかは、夜食に湯豆腐や、冷ややっこを食べていた。

 あるいは納豆とかフルーツ。

 こういうときのコツは、

 「ちょっといいもの」

 を買ってみること。

 ふつうなら、豆腐やオレンジなんかは、1個100円前後のものだけど、そこを軽く上乗せしてみるのだ。

 その「ちょっと贅沢感」が、満足感をアップさせる。

 ふだん食なら食べない、いい食材を試してみるチャンスと、とらえるわけだ。

 ここまでのプロセスで私の経験上、若いころは速攻で結果が出たけど、年齢を重ねると、スタートダッシュがむずかしくなる。

 今回も、最初の3週間ほどは、体重計の針がピクリとも動かなかったので、

 「もうダメかあ」

 めんどくさくなったこともあったが、そこはハードルを低くして、おやつなんかも、管理しつつしっかり食べてたから、心が折れることはなかった。

 だって、カロリー制限すれば、「絶対に」痩せるんだから。

 ダイエットや筋トレのいいところは、やればだれでも成果が出ること。

 勉強とか、スポーツもね。だから、大人は子供に、これらをやらせたがるのだ。

 地味な結論だけど(人生で大事なことはいつもそうだから困りモノだ)、 大事なのは、コツコツ続けるモチベーションなのだなあ。

 で、1か月目くらいから、本当にちょっとずつ体重が落ち始めて、それでやる気も再燃し、静かに続けてたら、3か月で5キロ。

 周囲からも

 「やせたねえ」

 「顔が、ひきしまったんじゃない?」

 「怠惰に見えたけど、やるときはやるんだね」

 ダイエットの話題は、とにかく女子の大好物。

 「プチ・モテ期」の到来で、これも、なかなかに気持ちもいいもの。

 ポイントなのは、とにかく「カロリー管理」の範囲内なら、おやつやアルコールも、コーラとかも全然アリ。

 そのカロリー計算はあくまで「ざっくり」。食材にあるカロリー表を四捨五入して、

 「素うどん275なら、朝に飲んだ紅茶と足して300」

 みたいな程度でOK。「寝る前に食べたら太りやすい」とか、糖質がどうとか、こまかいこともカット。

 それより、カロリーさえそこそこ管理していれば、問題なく結果は出ます。

 怖いのはリバウンドだから、絶対に無理はしない。

 「1週間で3キロやせる」

 みたいなのは、体にも悪いし、ほぼ確実にリバウンドします。

 気長に、のんびり(これが待てないのだな)やりましょう。

 ウッカリ、食べ放題の焼肉など食べてしまったら、とりあえず次の日の昼くらいまで落ちこんでから、

 「なかったこと」

 にして、しれっと、また続ければよいのです。

 最悪、カロリー計算でやせなくても、

 「太るのを止められたのだから勝ち」

 くらいの志が大事。

 いや実際、まず

 「体重が増加する日常生活」

 これに待ったをかけるのは、それだけで大進歩。

 あとは、この過程で手に入れた、
  
 「あー、自分はこれだけ食べたら満足するんだ。これを押さえておけば(私の場合、揚げ物のお惣菜)すれば、体重は減るんだ」

 という経験値を生かせば、その体を「キープ」する基準もわかるため、リバウンド対策にも役立つというものです。
 

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3か月で5キロ減量! スイーツもスナック菓子もいただきながらの、ゆるゆるダイエット

2021年05月26日 | モテ活

 ダイエットに成功した。

 3か月ほどかけて、5キロほど落としたのだが、それほど無理はしてないし、健康的な減量ができて、まずは満足である。

 私は身長173センチで、体重は大人になってからは65キロから68キロくらいを推移していた。

 10代のころは50キロ台だったが、大人になってお酒を飲むようになったことと、なにより、

 「満腹感はストレス解消に効く」

 という、知ってはいけない事実を知ってしまったせいで、気がつけば、少しばかり、ふくらんでしまったのだ。

 まあ60キロ台は、まだいいとしても、70キロに手が届くと、さすがに周囲から、

 「顔がむくんでるよ」

 「お腹、出てるんじゃない?」

 指摘されるようになり、ベルトが苦しくなるのも、さりげないフラストレーション。

 なにより、ただでさえ暑がりの汗っかきなのに、体にアブラがのることで、それがさらに倍加するのが耐えられない。

 そこで、だいたい70キロの壁を基準として、少しばかり食事に気をつけるのだが、やることは単純で、

 「接種カロリーを減らして、消費カロリーを増やす」

 皆が知っているけど、知りたくない。

 それが、できりゃあ世話ねえよ。アンタなに言ってんの、バカじゃないの?

 結構な確率でに逆ギレを誘発する、でもこれしかないという、冷徹すぎる「冷たい方程式」なのだ。

 まあ、私の場合、ガマンは嫌いなので、そこはゆるく採っている。

 なんといっても、この数か月、お菓子や甘物はしっかりといただきながら、それでもなんとかなったのだから、そのハードルの低さは、おわかりいただけるだろう。

 ここに発動された「レインボー作戦」でやることといえば、

 「超ざっくりカロリー計算で、ちょっと朝昼軽めダイエット」

 成人男性の一日に必要な摂取カロリーは、だいたい2500キロカロリーだと言われている。

 なら、これよりも摂取カロリーを少なくすれば、徐々に痩せるわけで、ここまでは簡単な話だ。

 で、ネットなどにもある「カロリー計算」サイトみたいなところで調べると、

 身長173センチ

 体重73キロ

 という40代男子が、3か月で5キロ落とすとなると、1日に2000キロカロリーが推奨らしい。

 2000と言われると、意外と食べられるような気がする。

 ダイエットはだいたい

 「バランスよく食事を取りましょう」
 
 そうアドバイスされるから、軽く自炊でもすれば、結構満足いくものも食べられそうだ。

 和文和訳すれば「2000ポイント」分の買い物ができると、考えてもよさそうではないか。

 そこで具体的なカロリー計算に入る。

 まず、朝は近所のパン屋さんで売ってる、ロールパンが2個。

 包みの表記によると、だいたい1個150(以下、めんどうなのでキロカロリー表記は省略)なので、2個食べて300ポイント。

 ちょっと物足りなければ、チーズでもつけて400ポイント弱を消費。

 お昼は、素うどんやかけそばで、軽く済ませる。

 私の場合、家と職場の両方に、徒歩で行ける立ち食いうどんがあって便利。

 うどんで270。かけそばは意外と高くて、360くらいある。

 調べておどろいたのは、お揚げさんのカロリー。

 1枚で120くらいあって、つまり「きつねそば」は500くらい行ってしまう!

 昔、ダイエットに「きざみそば」をよく食べていたのだが、これだったら、「月見うどん」(420)のほうが、栄養面でのコスパがいい。

 これにはガックリで、最近はこういう

 「イメージより重い」

 ものが、すぐわかるようになったから、便利ではある。

 これで、朝昼合わせて、約700ポイント消費。

 実際は、インスタントのコーヒーとか飲むから、もう少し行くのかもしれないけど、そういうのは「ざっくり」なので、ノーカウントで良し。

 岡田斗司夫さんの「レコーディング・ダイエット」もそうだけど、カロリー計算は、

 「いちいちメモを取るのが大変」

 というハードルがあるので、そこを「ざっくり」でカバーするのだ。

 がぶ飲みバカ食いさえしなければ、コーヒー紅茶や、ガムにアメなんかは、

 「誤差の範囲内」

 でいいと思う。

 とにかく、ハードルを低くして、微妙なストレスを蓄積させないことが、この作戦のキモなのだ。
 
 で、メインの夜は、しっかり食べる。

 ここは1300ポイントも使えるのだから、なかなかなパラダイスである。

 大盛チキン南蛮弁当もいけるのだから、なんてステキな晩餐会ではないか。

 

 (続く→こちら

 

 

 

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あるいはと金でいっぱいの海 羽生善治vs渡辺明 2011年 第70期A級順位戦 大山康晴vs山田道美 1965年 第24期名人戦

2021年05月23日 | 将棋・好手 妙手

 「と金」というのは、メチャクチャに強力な駒である。

 「成金」の語源にもなったもので、最弱の駒である「」が、「」に成りあがるのだから、その痛快さといったらない。

 しかも、敵に取られると、それが「」に戻るというのだから、ほとんどタヌキにもらった葉っぱのお札である。

 この「と金」をあつかった格言も多く、

 

 「まむしのと金」

 「と金のおそはや」

 「と金は金と同じで金以上」

 「53のと金に負けなし」

 

 モテモテであって、前回は行方尚史九段が、盟友藤井猛九段におみまいした「友達をなくす手」を紹介したが(→こちら)、今回はおそろしい歩の錬金術のお話をしたい。

 

 2011年の第70期A級順位戦

 羽生善治王位・棋聖と、渡辺明竜王の一戦。

 羽生のゴキゲン中飛車に、渡辺は攻めの銀を早目にくり出す、星野良生五段発案の「超速▲46銀」で対抗。

 先手はを作るが、後手も二歩得が主張点で、難解な中盤戦。

 

 

 

 渡辺が▲45馬と出て、後手玉のコビンをうかがいながら、△36除去しようとしたことろ。

 ここで羽生が、おもしろい手を見せる。

 

 

 

 

 △25角と打ったのが、ちょっと思いつかない手。

 先手の飛車を押さえながら、△36を守り、放っておけば△37歩成と成って、▲同桂(▲同銀)に△47角成

 という、ねらいはわかるが、これはなんとも、打ちにくい角でもある。

 先手のに対して、後手は手持ちにしているのが売りのはず。

 なのに、それを手放すだけでなく、働くかどうかわからない「筋違い角」に置く。

 こんな生角を盤上に放って、本当に使えるのか疑問だし、そもそも取られそうでね?

 事実、本譜もすぐに▲17桂から▲25桂と、この角はアッサリ取られてしまうのだが、それで局面の均衡は保てているというのだから、すごい大局観ではないか。

 さすが羽生さんや、ようこんな手思いつくなあ。

 感心することしきりだったが、ここでフト思いついたのは、これには「元ネタ」が、あるのではなかろうかということだ。

 なんか、似たような手を見たことあるよなあと、ちょっと脳内検索してみたら、ありました。

 1965年、第24期名人戦第5局

 大山康晴名人と、山田道美八段の一戦。

 先手大山の四間飛車に、山田は急戦策を取る。

 

 

 

 後手の山田が△22角と打ったのに、▲85角と打ち返したのが「受けの大山」の見せた異筋の角。

 なんと、これで先手優勢なのだが、昔なにかで、この局面を見たとき、

 

 「これって△86銀、▲同銀、△99角成で居飛車優勢じゃね?」

 

 なんて生意気にも指摘してみたところ、それには▲84歩、△同飛、▲97桂(!)と、こちらに跳ねるのが好手。

 

 

 

 

 ▲77桂には、△76歩があるから、逆モーションで端に跳んでおく。

 これで次に、▲75銀から押し返して行く手があって、振り飛車優勢なのだ。

 なるほどー、ええ手ですなあ。さすが大山先生や。

 これらの手が、研究手なのか、それともその場でひねり出したのかはわからないが、こういう「シンクロニシティ」を感じると、今も昔も、トッププロの発想の豊かさは、変わらないんだなあとワクワクする。

 ちなみに、この将棋は羽生の快勝で終わるのだが、その優位の広げ方がうまかった。

 

 

 

 図は△55金のぶつけに、▲77馬と引いたところ。

 後手が駒得なうえに、厚みでも押しているように見えるが、先手もの守りに、飛車の横利きもあって、決めるとなると、なかなか具体的には見えない。

 こういう

 

 「ちょっと指せそうだけど、それを優勢に拡大するための、明快な手が見えにくい局面」

 

 というのはむずかしく、あせりを誘うところだが、羽生はいつものごとく、その課題を見事にクリアしてしまう。

 

 

 

 

 △48歩成、▲同飛、△46歩で後手優勢。

 この場面では、と金を作りに行くのが好着想だった。

 といっても、△37歩△36歩のような手では、なかなかうまくいかず、△21飛が浮いてしまって、▲55馬と取られてしまう。

 とあっては、そう簡単ではなさそうだが、一回△48歩成と成り捨てて、位置を下げるのがうまい着想。

 感覚的には、△47こそが「と金のタネ」に見えるだけに、それを捨てるというのが、なるほどというところだ。

 指されてみれば簡単だが、実戦では思いつきにくい(将棋の好手はだいたいそうなのだ)。

 実際、解説のプロも「いい手です」と、感心していたくらいで、次に△37桂成から△47歩成とされたら完封される。

 渡辺は泣く泣く▲38歩と受けるが、今度は△58歩成とこっちを成って、▲同歩に△57歩と、こじ開けにかかる。

 

 

 ▲88玉の早逃げに、△58歩成、▲同飛、△56歩と、またもやバックのタレ歩

 これでとうとう、と金作りが防げない。

 

 古い歌ではないが、まさに三歩進んで二歩下がる。

 こうなると、もう先手は無限増殖してくると金で、自陣の金銀ボロボロはがされる未来しか見えないわけで、力も抜けるというものだ。

 以下、後手は2枚の「まむしのと金」を使って、一気に先手陣を攻略。

 これで勢いにのった羽生は、なんとこの期、9戦全勝の偉業でもって、名人挑戦権を獲得するのである。

  

 (渡辺明の妙手編に続く→こちら

 

 

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「日本タイトルだけ大賞」をうちの本棚でやってみた その2

2021年05月20日 | 
 「日本タイトルだけ大賞」という賞がある。
 
 文字通り、本を中身や売れ行きや著者の知名度などまったく度外視して、「タイトルだけ」で選ぼうというもの。
 
 過去には
 
 
 『ストラディヴァリウスを上手に盗む方法』

 『本当に美味しいカラス料理の本』

  『愛と憎しみを込めた旦那への猟奇的弁当』
 
 
 などといった、おもしろそうなタイトルがノミネートされているが、あるとき思いついたことは、
 
 「あれ? これウチの本棚でもできんじゃね?」
 
 私も子供のころから部屋の紙含有率が異様に高い、怒涛の読書野郎である。
 
 なので、本棚をながめると、題名だけでもインパクトある作品というのがけっこうあるようなのだ。
 
 そこで今回は、中からいくつかチョイスして、ここに並べてみたい。「おもしろそうじゃん」と手に取ってみる1冊があれば幸いである。
 
 では、ドン。
 
 
 『ハブテトル、ハブテトラン』

 『花咲く乙女たちのキンピラゴボウ』

 『イタリアでうっかりプロ野球選手になっちゃいました』

 『犬は勘定に入れません』

 『さようなら、コタツ』

 『わけいってもわけいってもインド』

 『四次元温泉日記』

 『満員電車は観光地?』

 『時間衝突』

 『ビッグマックプリーズ!!』

 『○○○○○○○○殺人事件』

 『暗黒太陽の浮気娘』

 『ら抜きの殺意』

 『くたばれ健康法!』

 『郵便配達夫はいつも二度ベルを鳴らす』

 『銀河ヒッチハイク・ガイド』

 『拙者は食えん! サムライ洋食事始』

 『女は帯も謎もとく』

 『もっとコロッケな日本語を』
 
 
 どれもちょっと変なタイトルですが、中身はおススメのものばかり。気になった作品があれば、ぜひご一読を。
 
 
 
 
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リアル「友達をなくす手」 行方尚史vs藤井猛 2012年 第70期B級1組順位戦

2021年05月17日 | 将棋・好手 妙手

 「これは辛い手ですねえ」

 解説者が感嘆したり苦笑したりするのは、将棋の終盤戦でよく見る光景である。

 将棋というゲームは王様を詰ませれば勝ちだが、局面によっては一気に攻めかかるよりも、「辛い手」を出した方が、結果的に早く勝てるというケースが結構ある。

 前回は若き日の森内俊之九段と、佐藤康光九段の熱戦を紹介したが(→こちら)、今回は手だけでなくシチュエーションも「辛い」将棋を紹介したい。

 

 2012年、第70期B級1組順位戦で、藤井猛九段は試練にさらされていた。

 前期、10年定着していたA級から陥落し、出直しとなったB1でも、開幕6連敗という絶不調に見舞われていたのだ。

 陥落の憂き目にあったとはいえ、

 

 「藤井なら、1期ですぐ戻るだろう」

 

 そう予想されていただけに、まさかといったところだが、そこはさすが、トップ棋士の底力。

 急ブレーキをかけて、そこから3連勝と星を戻していく。

 だが悪い流れは完全には止まりきらず、そこからさらに2つ黒星を食らって3勝8敗で最終戦に。

 これに負けると即陥落で、仮に勝っても、競争相手の鈴木大介八段に勝たれると、やはり落ちてしまう。

 そうなれば、悪夢の2期連続降級

 A級棋士が、たった2年でB2まで落ちてしまうのだから、不調の波というのはおそろしいものである。

 剣が峰の藤井は、最終戦で行方尚史八段と戦うことに。

 これがまた組み合わせの妙というか、藤井と行方とは、ふだんは仲の良い間柄で、最近では文春のインタビュー記事にもなっている(→こちら)。

 行方といえば、その鋭い終盤力や、ねばり強さとともに語られるのが

 「振り飛車破りの達人」

 であることだが、それは藤井相手に山ほど、対抗形のスパーリングを積んだから、といわれているのだ。

 

 

 2002年の銀河戦における、行方-藤井戦。

 ▲45桂の「富沢キック」(かつて富沢幹雄八段が得意とした「飛び蹴り」とも言われる奇襲)を、藤井は軽視していた。

 以下、△同歩に▲33角成、△同桂、▲24歩から飛車先を破って、難解ながら先手ペース。

 

 

 また、この2人の順位戦には因縁があり、数年前に行方はA級に昇級するも、2勝7敗という成績で「日帰り」を余儀なくされた。

 このとき、8回戦で行方に引導を渡したのが、藤井猛の振り飛車穴熊であったが、数年後には立場逆転しての勝負。

 

 2012年のA級順位戦。

 行方は負ければ即降級で、藤井も勝たないと、わずかながら落ちる目がある大一番。

 ▲85桂と跳んだのが疑問で、ここは▲94歩、△同歩を入れてから、▲85桂打なら熱戦が続いていた。

 単に▲85桂だと後手陣にアヤがついていないし、▲77の桂がいなくなることで、先手陣がうすくなりすぎている。

 以下、△58角成、▲同金、△48竜、▲同銀、△49角、▲57金、△67香成と猛攻をかけて、後手勝ち。 

 

 

 まさに「血涙の一戦」で、戦型は藤井が角交換振り飛車から、ふたたび穴熊にもぐると、行方もまた「あのとき」と同じく銀冠に組む。

 途中、藤井は指せると見ていたようだが、実際は難解だったようで、行方がリードを奪って終盤戦へ。

 

 2枚飛車が強力で行方が優勢。

 ただ後手もを引きつけ、金底もあって、まだ攻略に時間がかかるかもしれない。

 一目は▲71銀のような手だが、△76桂と打たれるのも怖い形。

 それでも勝ちだが、ここで行方が選んだ手が、まさに「激辛」だった。

 

 

 

 

 

 

 ▲77歩と、急がず自陣に手を入れる。

 これで後手から速い攻めがなく、あとは、敵陣のと金を活用していけば、自然に勝ちが転がりこんでくる。

 困った藤井は、△72金右と割打ちを防ぐが、次の手がまたエグイ。

 

 

 

 

 

 ▲87銀と、さらに補強するのが、激辛を超えたデスソース。

 絶対に負けませんという手で、行方の強い意志を感じる。

 そういえば行方の師匠は、大山康晴十五世名人だったなあとか、そんなことを思い起こさせる、トドメの一撃だ。

 最後に残された、望みの綱ともいえる△76桂を消すだけでなく、強靭な銀冠まで再生して、これで後手に指す手がない。

 力なく△74桂と打つが、▲44飛成△64銀▲42と△65銀▲64香で藤井投了。

 文字通りの

 

 「友だちをなくす手」

 

 で地獄に落とされた藤井だが、

 

 「落ちたら、何度でも上がればいい」

 

 力強く宣言して、翌年のB2順位戦では、昇級候補の筆頭だった豊島将之に快勝するなど、9勝1敗で、見事に1期での復帰を達成する。

 また、このころB1に定着してしまった感のあった行方も、なにかが吹っ切れたのか、翌年には11勝1敗のぶっちぎりで、A級カムバック。

 それどころか、A級2期目には名人挑戦を果たすなど、大爆発を見せてくれたのだった。

 

 (羽生善治と大山康晴の異筋の角編に続く→こちら

 (藤井猛がA級から叩き落とされた将棋は→こちら

 

 

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『将棋2』で、野田クリスタルにモノ申す! マヂカルラブリーのオールナイトニッポン0と、インドのチャトランガ

2021年05月14日 | 将棋・雑談

 「いわば【将棋2】ですよ」

 深夜のラジオ番組で、そんなことを言ったのは、マヂカルラブリー野田クリスタルさんであった。

 きっかけはM-1優勝後から、各メディアでブイブイ言わしている野田さんが出しているゲームの話題から。

 その名も「スーパー野田ゲーPARTY」。通称「野田ゲー」。

 M-1優勝の原動力となった「つり革」や、かわいい(?)動物を使った「干支レース」など、おもしろそうなゲームが目白押しだが、当ページ的に気になるのは、当然これであろう。

 「将棋2

 いわゆる本将棋をベースにしたものだが(正確にはローマ数字の【Ⅱ】表記)、玉がどれかプレーヤーにもわからないわ、駒が200種類もあるわ、場外にも動かせるわと、かなり横紙破りな内容。

 さっそく、「これは将棋ではない」論争が起こりそうだが、実際、お二人のやられている「オールナイトニッポン0」でも、

 

 野田「これはすごいぞ。なんたって、将棋の続編だからな」

 村上「いや、将棋はドラクエみたいなシリーズものじゃないから」

 野田「その名も【将棋2】。【将棋1】を、よりおもしろくしてるから」

 村上「え? 野田さんは将棋のことを【将棋1】って呼んでるの? いつか、日本将棋連盟に怒られるよ!」

 

 なんてやりとりがあるわけだが、その通り。

 私はこの『将棋2』に、非常なる違和感をおぼえる一人だ。

 指摘したいのは、そもそもの『将棋1』というネーミングのこと。

 たしかに「将棋2」という響きはおもしろく、氏のワードセンスが光っているが、残念なことに「将棋」自体が、そもそも「1」ではない

 将棋というと、日本古来の伝統文化のようであるが、実はわが国オリジナルの遊戯ではなく、世界にはそれ以外にも、チェスをはじめ、中国将棋の象棋シャンチー)や朝鮮将棋のチャンギ。

 またタイのマークルックなど、様々な形の「将棋」が存在する。

 で、実はこれら世界の将棋には、さらなる元ネタというのが存在し、それが将棋の起源とされており、それこそが

 「チャトランガ」。

 古代インドのボードゲームで、を使って盤上で戦うという、まさに「将棋」。

 好戦的な王様に戦争をやめさせるため、ある高僧が「代用品」として制作したという説があるが、真偽のほどは不明。

 2人制と4人制のルールがあるそうで、ペルシャアラビアでは、サイコロを使って遊ぶこともあったとか……。

 ……なんて、こまかいことは増川宏一さん著書の『将棋の起源』(平凡社ライブラリー)などを読んでいただきたいが、ざっくりいえば、

 

 1・インドで生まれたチャトランガが、シルクロードなどを通って、東西に広がった。

 

 2・西へ行ったチームはアラビアペルシャで「シャトランジ」になり、ヨーロッパでは「チェス」に。

 

 3・一方、東方遠征組は、お約束のように中国に渡って「シャンチー」に。

 

 4・その後、朝鮮半島で「チャンギ」。東南アジアでは「マークルック」などになって遊ばれることに。

 

 5・最後に極東の日本が、それをキャッチし「将棋」になった。

 

 つまり、まとめれば将棋自体が「1」ではなく、さかのぼればインドのチャトランガ自体が

 「チャトランガ1

 あるいは、

 

 「初代チャトランガ」

 「ファースト・チャトランガ」

 「無印チャトランガ」

 

 などなど、呼ばれるべきなのだ。

 そこからカウントすれば、西方組は「シャトランジ」が「チャトランガ2 見知らぬ国のトリッパー」。

 「知の象徴」とされるチェスは「チャトランガ3 モーフィー時計の午前零時」ということになる。

 これでいけば、インドから中国に行って成立した「象棋」も「チャトランガ2 恋姫†無双」。

 西と東のどちらが「正統な2か」は議論があるだろうが、ここは東の話にしぼれば日本将棋連盟のホームページによれば、そこから朝鮮半島経由か、あるいは東南アジアから伝えられ「将棋」が生まれた。

 どちらにしても、ワンクッションあるということは、「チャンギ」か「マークルック」が「チャトランガ3 漢江の怪物」あるいは「チャトランガ3 ハヌマーンと仏像泥棒」。

 そして、日本の将棋は「チャトランガ4 武将風雲録」ということになるわけだ。

 以上のようなことを丁寧に見ていけば、野田氏の意見に違和感を感じたことは、容易に想像できるだろう。

 将棋をシリーズ化するなら「将棋1」より、やはりここは「チャトランガ4」と呼称すべきなのである。

 必然、野田氏の作ったゲームは、その続編だから、「チャトランガ5」。

 あるいは「インド将棋5」と、名づけるべきではないか。

 このままでは世界中に散らばる「チャトランガ警察」が黙っていないだろう。

 

 「パクリ疑惑」

 「インド起源の遊戯を、あたかも自国の伝統文化のよう吹聴する歴史修正主義」

 「取った駒を使えるよう勝手に改変するなど、オリジナルにリスペクトがない」

 

 などなど彼らに見つかれば炎上必至であり、野田氏の今後のキャリアにも関わってくるやもしれぬ。

 なので、一刻も早く「将棋2」を「チャトランガ5」あるいは「インド」呼称では、また「国名原語主義警察」に捕まるおそれもあるため、

 「バーラト将棋5

 と改めることをオススメする。

 

 

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「天衣無縫」と「鋼鉄の受け」 森内俊之vs佐藤康光 1997年 A級順位戦

2021年05月11日 | 将棋・好手 妙手

 佐藤康光と森内俊之は「アイドル」である。

 前回(→こちら)まで、数度にわたって、ライムスター宇多丸さんのラジオなどでおなじみ、映像コレクターであるコンバットRECさんによる

 

 「アイドルほつれ」理論

 

 を参考に、そう喝破した私。

 これには、かつてロベルトシューマンショパンを評したように、

 

 「諸君、脱帽したまえ。天才があらわれた!」

 

 との称賛を浴びるはずと、ワクワクしながらファンレターや、女子からのDMなどをお待ちしていたのだが、現在のところ、おしかりのコメントか、

 「バカ爆誕

 という、あきれられた反応しか返ってこない。

 これは一体どういうことか。この濃密な理論が理解できないとは、実に大衆は愚昧である。

 おそらく、私の才能を恐れる米軍か、フリーメーソンの陰謀であると考えられよう。

 なんて阿呆なことばかりやっていると、本当に将棋ファンから怒られそうだから、今回はまじめにというか、まあ「アイドル論」も全然まじめなんだけど、お二人の将棋の方を紹介してみたい。

 先日は郷田真隆九段が見せた、まさかの大ポカを紹介したが(→こちら)今回はレジェンドがまだ「若き獅子たち」だったころの熱戦と絶妙手を。

 

 きれいな手で終局すると、とてもさわやかな気分になる。

 将棋というのは終盤に行くほどカオスになるゲームで、特に熱戦のときなどはなにが正解かわからない難解な場面が続くが、それでも最後の最後に、

 「あーなるほどー、ええ手やなあ」

 納得の決め手が飛び出すと、一服の清涼剤というか、「ええもん見た」という気分で帰れるもので、そのひとつが、1997年A級順位戦

 森内俊之八段と、佐藤康光八段の一戦。

 相矢倉になって、力戦模様から、まずはこの局面。

 

 

 

 先手の森内が、▲88角とのぞいたところ。

 △44銀取りになって、とりあえずは、これを受けなくてはならない。

 ふつうは△43金右と、形よく上がるものだが、銀で圧を受けている6筋7筋が薄くなるのも気になるところ。

 そもそも「平凡」ほど、佐藤康光に似合わない言葉はないのだ。

 

 

 

 

 

 △43金左と、こちらを上がるのが力強い構想。

 今の「天衣無縫」を知るわれわれからすれば、

 

 「ま、佐藤康光なら、こうだよね」

 

 なんて通ぶりたくなるが、当時の佐藤はまだ「本格派」の雰囲気を色濃く残しており、こういう手のイメージはそんなになかったのだ。

 そう考えると、すでにこのころから、その萌芽があったのかもしれないが、さらにすごいのがこの後。

 

 金銀を盛り上げ通路を作り、飛車を一気の大転換。

 なるほど、この形に持っていきたかったから、金左なのかと納得だが、なんにしても、すごい構想。

 本格派どころか、やりたいことを全部やって、ワガママきわまりない。

 なんともロマン派な手順で、ヘルダーリンか! とでも、つっこみたくなるが、敵の左辺からの盛り上がりを相手にしないという意味では、理にかなってもいる。

 うーん、やはり佐藤康光の将棋はおもしろい。

 一方の「リアリスト」代表である森内は、敵がこれみよがしに振りかぶる姿を尻目に、▲84銀を取っておいて、△51角▲75銀と手を渡す。

 

 悠々と一歩得を主張して、

 

 「好きに、やってきなさい」

 

 なんともフトコロの深い将棋で、森内もまた、若いときからその泰然としたところは変わらないのだった。

 どんだけ堂々としてるんやと、あきれるしかない落ち着きだ。大人か!

 こうなると、後手は

 「じゃあ、やったろやないか!」

 ケンカしたくもなるわけで、△38歩と投げ銭を放って、▲同飛△25歩と開戦。

 そこから双方、フルパワーでのねじり合いにたたき合いで、Aクラスにふさわしい大熱戦に。

 正直、激しすぎで手の意味はわからないところも多いが、並べていてそのド迫力には圧倒されることしきりで、メチャクチャにおもしろい。

 そうして、むかえた最終盤。

 後手の佐藤が、△88桂成と王手をかけたところ。

 

 

 パッと見、この局面をどう見るでしょう。

 王手の受け方は山ほどあるが、▲36金と取るのは△87成桂、▲同玉に△77金で詰み。

 ▲76歩の合駒も△同飛、▲同玉、△77金

 ▲66銀打とこちらに受けるのも、△76金と打って▲同玉、△77金、▲86玉に△87成桂と引いて詰み。

 後手は王様が6筋に逃げても、△56金と打てるのが大きく、どう逃げてもピッタリ詰まされているように見える。

 私なら頭をかかえながら、59秒まで考えて「あかんかー」と投了してしまいそうだが、実はここで、さわやかな手があり不詰なのだ。

 

 

 

 

 ▲66銀と、屋根裏の窓を開けながら受けるのが絶妙手

 △同飛なら、▲75玉とかわして勝ち。

 他にもいろいろありそうだが、先手玉はどうせまっても▲75から▲64と、上部が抜けているのだ。

 これを見て、佐藤が投了

 この図を最後に残した感性もすばらしい。

 大混戦から、最後は見目麗しい妙手で収束。

 ライバル同士の熱戦にふさわしい、なんとも美しい最終図ではありませんか。

 

 (行方尚史と藤井猛の「血涙の一戦」編に続く→こちら

 

 

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将棋連盟会長アイドル論 先崎学なくして「イジられキャラ」佐藤モテ光……康光なし

2021年05月08日 | 将棋・雑談

 佐藤康光はアイドルである。

 ということで、前回(→こちら)はコンバットRECさんの提唱する「ほつれ」理論から、そんな意見を投じてみた。

 佐藤康光九段といえば、永世棋聖の称号を持ち、名人獲得の経験もある大棋士だが、その独特ともいえる戦型選択や、そこをつっこまれると、

 

 「自分は破天荒でなく、論理的である」

 

 などと大反論するなど、大変ゆかい……信念の強い人なのである。

 その部分が「ほつれ」として魅力を感じるわけだが、そこにもうひとつ、RECさんによると、アイドルには、

 

 「やらされてる感」

 

 これが大事だと。

 その点でも、佐藤九段は本人的には不本意ながら、どこか

 

 「イジられキャラ」

 

 としても人気であり、そこが「やらされている」雰囲気が濃厚なのである。

 そこを、裏でを引いているのが、先崎学九段。

 先チャンと会長といえば、もともとプライベートでも仲がいいが(だからこそ負けられない熱戦は→こちら)、そもそも佐藤康光を、最初ににあつかったA級戦犯こそが、この人なのだ。

 『将棋世界』や『週刊文春』のエッセイで、本当によく登場しては、その天然、かつムキになりやすいキャラで、楽しい話題を振りまく。

 麻雀やチンチロリンをやれば、大負けして頭をかかえ、インタビューでモテていることを聞かれて、

 


 「まあ、先崎よりは、という程度で、郷田さんとか森内さんにはとても及ばないです」

 「先チャンも、このお腹を、もう少しお引っ込めになられると、おモテになると思いますよ」


 

 逆襲すると、しっかりエッセイでネタにされたうえに(「書かないでください!」と懇願されたそう。かわいすぎる)、

 「モテ光君」

 なるニックネームをつけられ倍返し。

 一番ゆかいなのは、名人戦でのエピソード。

 谷川浩司九段が「十七世名人」になったシリーズの第1局で、ちょっとした事件が起こったのだが(その詳細は→こちら)、その帰り道。

 釈然としないまま、先チャンを連れてで帰宅途中、運の悪いことに交通違反でキップを切られてしまう。

 そこでふるっているのが、パトカーに呼び止められたとき、免許の点数を心配するモテ……佐藤八段は、

 


 「えっ免停って24点じゃないんですか」


 

 それは持将棋や!

 これにはさすがの先チャンも、

 


 「なんで車乗らん俺が教えなければいけないのだろうか」


 

 あきれまくりで、もう大爆笑

 さらに、みっくん……佐藤八段は書類にサインを書かされるも、それが色紙の字のような達筆ゆえ、警官に、

 


 「お宅の字、康光ってどうしても読めないんだけど、もう一度書いてくれない」


 

 当然、助手席で悪友は腹をかかえている。

 果ては、

 


 「だいたいだな、先崎が連盟に居るからいけないんだ。君の顔を見たのが敗着だ」

 「いやもっといけないのは、名人戦だ。羽生君が金を取ってくれれば、俺は連盟になんてこないですんだんだ」

 「谷川さんも谷川さんだ、なんで銀を打ったんだ。お陰でヒドイ目にあった」


 

 捕まったことを、メチャクチャにボヤきまくりで、とどめには

 


 「それに、酒も飲めない。これでまた捕まったら阿呆すぎます」


 

 それだけキレまくりながらも、ちゃんと冷静な判断ができているところが、またおかしいのだ。マジメか!

 やはりこれこそが、「萌え」なのである。の関係だ。

 会長が、イジられていることに、ずっと釈然としてないところが、たまらない。

 やはりこういうのは、「取りに行く」と冷めるのだ。

 この不本意なのに「やらされてる」感じ。

 まさにRECさんの言う「アイドル」ではないか。

 これは決しておチャラけているのではなく、RECさんはこの定義から、格闘家と戦う(戦わされる)人食い熊すら「アイドル」と位置付けている。

 なら、プロ棋士がアイドルでもおかしくないわけで、私はここに堂々と、

 

 「佐藤康光はアイドルである」

 

 と宣言したい。

 テレビやネットの解説で、

 


 「あれ? おかしいなあ。私の予想手は、いつも全然当たらないんですよ」


 

 首をかしげる会長は、ただの萌えキャラです。

 

 


 ★おまけ コンバットRECさんによる「アイドルとしての王貞治」は→こちら


 ☆若手時代の佐藤と羽生善治の熱戦は→こちら

 

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将棋連盟会長アイドル論 コンバットREC的視点による、佐藤康光九段の「天衣無縫」

2021年05月07日 | 将棋・雑談

 佐藤康光はアイドルである。

 と始めてみると、大半の読者は、

 

 「ええ? 佐藤康光はたしかに人気棋士だけど、どっちかってと硬派なイメージじゃね?」

 

 中には、

 

 「日本将棋連盟の会長をつかまえて、そんなチャラチャラしたあつかいとは、永世棋聖をバカにしているのか!」

 

 なんて、おしかりの声を受けるかもしれないが、これがガチアイドルヲタによる定義と照らし合わせると、さほどおかしな声でもないのだ。

 それが、ライムスター宇多丸さんのラジオ番組などでおなじみの、映像コレクターであるコンバットRECさんによる説で、アイドルに大事なのは、

 

 「完璧さの中に見える《ほつれ》」

 

 「ただ」かわいいとか、ダンスがうまい「だけ」では、アイドルの資格の一部をクリアしているに過ぎない。

 そういう、端から見ているとプラスの要素にくわえて、なにか《ほつれ》がないと、真のアイドルではない。

 たとえば、

 

 「メチャクチャかわいいけど、メチャクチャ演技が下手」

 

 とか、

 

 「髪型が変」

 「家族が気ちがい」

 「趣味がマニアックすぎ」

 

 などなどといった、ほつれた部分。わかりやすく言えば

 「つっこみどころ」「スキ

 これこそが、そのキャラクターの仕上げとなるのだという。

 「残念美女

 など、まさにその最たるである。

 そこで前回は、森内俊之九段をアイドルとして語る論を展開したが(→こちら)、ここからもうひとつ、思い当たるところがあるのでは。

 それが、佐藤康光九段

 佐藤康光といえば、将棋の永世棋聖の称号を持ちであり、タイトル獲得は名人棋王など13期を数える。

 棋戦優勝も、NHK杯銀河戦日本シリーズなど12勝。

 いわゆる「羽生世代」の一員であり、日本将棋連盟会長。文句なしで将棋界の第一人者である。

 その佐藤康光九段の、なにがほつれているのかと問うならば、まず将棋が

 独創的が過ぎる駒組とか、ほとんど暴力ともいえる、力強すぎる駒さばきとか。

 

 

 

2009年、森内俊之九段とのNHK杯。

右では銀冠が完成しているのに、なぜか居玉で、なぜか右四間飛車。

▲65の銀も変だし、角まで打ちこまれて、まったくの意味不明だが、おそらく「論理的」なシステム。

以下、▲95角、△62金、▲47飛、△84角成、▲同角、△同歩、▲45歩で激戦。

 

 

2005年、羽生善治四冠との棋聖防衛戦。

図から▲38同飛と取ったのが、佐藤らしい強気の手で、△22玉に▲65銀(!)と桂馬を取る。

△47角の王手飛車が見え見えだが、▲49玉、△38角成、▲同玉、△59飛に、▲35桂と打って一手勝ち。

佐藤流の、なにも恐れない王者の指しまわしで、羽生の挑戦を退けた。

 

 

 しかも、会長のすごいところは、それをちっとも変と思っていないところ。

 それどころか、そこを指摘されると、

 

 「いかに自分の戦術や作戦選択が、論理的帰結により生まれたものか」

 

 これを、論文レベルの内容で専門誌に投稿。

 そのタイトルが、

 

 「我が将棋感覚は可笑しいのか?」

 

 なのだから爆笑……もとい感動的である。

 そういえば、佐藤の盟友である森内俊之九段もよく、

 

 「佐藤さんは、まあ、またちょっと独特ですから」

 

 私は昔から、

 「ヘンな人は論理的である」

 という説を提唱しているが(「論理的」な森下卓九段など→こちら)、まさにその最たるではないか。

 アベマトーナメントのドラフトでも、若手有利とされるルールの中、谷川浩司九段と森内俊之九段を選択。

 見ているこっちとしては、

 

 「さすが会長、盛り上げ方をわかっていらっしゃる」

 

 なんて「空気を読んだ」ことに快哉だが、当の本人は、

 


 「勝つためには、当然の選択でしょ?」

 「なぜみんなが取らないのか不思議で」

 「優勝には、この1択だと思うんですが……」


 

 鼻ピン食らったウサギみたいに、キョトンとしてたから、サービス精神でもなんでもなく、

 「論理的にガチ

 ということなのだろう。

 それでベスト4なんやから、カッコよすぎますわ。

 


 「なんで、フィッシャールールで勝てるの?」


 

 高見泰地七段が頭をかかえたシーンは、第3回大会、名場面のひとつだろう。

 そもそも会長は、今でこそこういうキャラだが、若いころは全然違うというか、むしろ真逆な雰囲気だった。

 育ちがいい、学生服の似合うマジメな優等生

 気骨のあるところこそ、今と共通しているが、将棋も相矢倉を得意とするバリバリの居飛車本格派

 個性派というより、どちらかといえば、

 

 「しっかりしすぎていて、少々おもしろみに欠けるのではないか」

 

 という評価に近かったのだ。

 

 

     デビュー当時のヤング会長

 

 それがなぜ、こうなってしまったのか(←「しまった」とか言うな!)

 答えは

 

 「羽生善治を倒すため」

 

 ライバルに勝つため、過去の自分を脱ぎ去って、自らに改造手術を施す。

 まさに、仮面ライダー島村ジョー

 すべてを捨てて戦う男。昭和のヒーローのようで、シビれるではないか。

 また、RECさんによると、アイドルにもうひとつ大事なのが、

 

 「やらされてる感」

 

 「恋愛禁止」ルールや、お笑い芸人による下ネタなどのムチャ振り。

 長時間の握手会や、労働基準法など無視した過酷スケジュール

 その「プロデューサーを、アイドルを」とする嗜虐志向。

 それもまた、アイドルに必要な要素で、先述の森内俊之九段には、ちょっとそこが足りないのではと苦言を呈したが、会長の場合はそこもクリアしているっぽい。

 そのフィクサーともいえるのが、先崎学九段の存在だ。

 

 (続く→こちら

 

 

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十八世名人アイドル論 コンバットREC的視点による、森内俊之九段と森内チャンネルの魅力

2021年05月04日 | 将棋・雑談

 森内俊之はアイドルである。

 と始めてみると、大半の読者は、

 「はあ? 森内はたしかに人気棋士だけど、ファン層はワーキャーではないっしょ」

 中には、

 「天下の永世名人をつかまえて、そんなチャラチャラしたあつかいとは、森内をバカにしているのか!」

 なんて、おしかりを受けるかもしれないが、これがガチのアイドルヲタによる定義と照らし合わせると、さほどおかしな声でもないのだ。

 それが、音楽家である小西康陽さんの提唱する、

 「アイドルの魅力は、完成されたものの中に見える《ほつれ》」

 「ただ」かわいいとか、ダンスがうまい「だけ」では、アイドルの資格の一部をクリアしているに過ぎない。

 そういう、端から見ているとプラスの要素にくわえて、なにか《ほつれ》がないと、真のアイドルではない。

 たとえば、

 「メチャクチャかわいいのに、メチャクチャ歌が下手」

 とか、

 「活舌が悪い」

 「歩き方が変」

 「私服のセンスが微妙」

 などなどといった、ほつれた部分。わかりやすく言えば

 「つっこみどころ」「スキ」

 これこそが、そのキャラクターの仕上げとなるのだという。

 「ドジっ子」

 など、まさにその最たるであろう。

 私はアイドルにはくわしくないが、なんとなく理解できるところはある。

 ただ、それに対して「それだけかな?」と意義をはさむ人もいて、それこそがライムスター宇多丸さんのラジオ番組などでおなじみの、映像コレクターであるコンバットRECさん。

 RECさんによると、

 

 「小西さんの意見では、アイドルの50パーセントをカバーしているに過ぎない」

 

 なぜ半分なのかと問うならば、

 

 「小西さんは、アイドルに大事なのは《かわいい女の子のほつれ》とおっしゃっているが、《かわいい男の子のほつれ》が抜けているのでは」

 

 そういわれて、私はハタとヒザを打ったのである。

 それこそ、森内俊之九段ではないのか。

 森内俊之といえば、将棋の永世名人であり、タイトル獲得は名人以外にも、竜王や王将など12期

 棋戦優勝も、NHK杯や銀河戦、全日本プロトーナメントなど13勝。

 いわゆる「羽生世代」の一員であり、文句なしといっていい、将棋界の第一人者である。

 そのレジェンド森内こそが、まさに「ほつれたアイドル」ではあるまいか。

 十八世名人の、一体なにがほつれているのかと問うならば、やはりあのYouTubeチャンネルのオープニング。

 「森内俊之の、もりうちィ~チャンネルゥ~」

 あのときの、森内九段の《ほつれ》は、ただごとではない。

 最初に見たときは、衝撃を受けたものだった。

 メチャメチャに不自然。

 でもって、メチャメチャに「かわいい」んである。

 あの十八世名人による、『シベリア超特急』マイク水野のごときセリフ回し。

 「萌え」である。

 もちろんそれは、チャンネルの内容がすばらしいからという土台があってこそで、将棋の解説や、過去の思い出話、ボードゲームで見せる圧倒的な才能とセンス。

 また、アシスタントの鈴木環那女流三段を指導して、連勝街道まで導いたところなど、

 「やっぱ森内って、すごいんやなあ」

 ため息の連続で、ついつい再生ボタンをクリックしてしまうのである。

 そこにあのオープニング。

 このギャップがいい。

 まさにRECさんの言う「アイドル」ではないか。

 RECさんはこの定義から、プロ野球の王貞治さんや、田淵幸一さんも「アイドル」と位置付けている。

 なら、プロ棋士がアイドルでもおかしくないわけで、私はここに堂々と、

 「森内俊之はアイドルである」

 と宣言したい。

 私は他にも、藤森哲也五段の「将棋放浪記」や、中村太地七段の「将棋はじめch」なども見ているが、《ほつれ》という意味では、まだまだ物足りない。

 また、森内俊之九段と多くの名勝負を残した、羽生善治九段や谷川浩司九段も、その自然体な姿からして《ほつれ》がなく、アイドル性に欠ける。

 そもそも将棋界から、一般の世界に飛び出してブレイクした「ひふみん」こと、加藤一二三九段の魅力こそ、

 「神武以来の天才なのに、あんな感じ

 という、メガトン級の《ほつれ》が、あってこそではないか。

 ちなみに、RECさんによると、アイドルにもうひとつ大事なのが、

 「やらされてる感」

 セクハラのような歌詞の歌や、やりたくないバラエティーに出さされたり。

 奇抜な衣装に「売れなかったら解散」のような試練。

 その「プロデューサーをS、アイドルをM」とする嗜虐志向。

 それもまた、アイドルに必要な要素なのだが、残念なことに(?)森内九段は、YouTubeに関しては、結構楽しそうにやっておられるのである。

 むしろ、あのオープニングに盛り上がっているわれわれを見て、実はおもしろがっているのではないか。

 「ここが、絶対ウケると読んでたんですよ。将棋ファンって、わりと簡単なんですね」

 みたいな。

 すべてが、森内俊之の手の平の上。

 そんな邪推をしたくなるくらい、あのチャンネルの森内九段はリラックスしているのだ。

 あれがもし、アシスタントの鈴木環那女流三段が主体で進んで、様々なムチャ振りを、そう、たとえば、

 「森内俊之の【踊ってみた】」

 「現役プロ棋士、熱湯風呂に何分耐えれるか」

 「永世名人、あつあつおでんに挑戦」

 みたいなことをやって、困惑する森内九段の姿が見られれば、

 「完璧なアイドル」

 ということになるはずなのだ。

 その意味では、激辛カレーの企画は悪くなかったが、やはりあのチャンネルは環那さんが、すごくちゃんと仕事をしているのと、

 「森内九段を尊敬しすぎている」

 というところがネックであろう。

 ぜひ次は、バンジージャンプか「吉木りさに怒られたい」あたりに挑戦してほしいものだ。

 なんだか、今回はマジメな将棋ファンに怒られそうなことを書いている気もするが、RECさん視点だとこうなるわけで、論理的に考えれば、私に一切の責任はないことになる。

 森内チャンネルの可能性は、まだまだ伸びしろがあると見るが、いかがであろうか。

 構成作家、マジでやらせてくれへんかなあ。

 

 (佐藤康光アイドル編に続く→こちら

 

 

 ☆おまけ 森内俊之九段のゲームセンスと勝負術が炸裂した動画は→こちら

 ★おまけ 何度聞いても爆笑&納得できる、コンバットRECさんのアイドルソング論は→こちら

 ☆羽生善治を2度倒した、若手時代の森内俊之は→こちら

 

 

 

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プリンスの苦悩 郷田真隆vs中村修 2001年 第59期B級1組順位戦

2021年05月01日 | 将棋・ポカ ウッカリ トン死

 郷田真隆の成績は、何度見ても「誤植」と勘違いしてしまう。

 前回は羽生善治九段が、タイトル戦で見せた一手バッタリを紹介したが(→こちら)今回もまた大きなポカの話。

 今週、アベマトーナメントにも登場する郷田真隆九段といえば、王位棋聖などタイトル7期

 NHK杯日本シリーズなど、棋戦優勝6回はまごうことなき「一流棋士」の証明だが、やっぱりどうしても、首をかしげてしまうのだ。

 

 「え? それ数字、間違ってない?」

 

 郷田といえばプロデビューした1年目に、いきなり2期連続棋聖戦挑戦者決定戦に進出(当時の棋聖戦は年2回開催だった)。

 新四段としては破格の大活躍だったが、これはまぐれではなく、2年後には棋聖戦で、2度タイトル挑戦

 それに王位戦も続けて檜舞台に登場と、年3回のタイトル戦に出場したどころか、当時四冠王(竜王・棋聖・王位・王将)だった谷川浩司から王位を奪取

 その後も順位戦昇級、トップ棋士選抜のJT杯日本シリーズ3連覇

 また王位戦でも、敗れたとはいえ3年連続で羽生善治と戦うなど、その突出したビジュアルもふくめ、まさに「スター誕生」ともいえる勝ちっぷりを見せていた。

 そんな男なのだから、今の成績を見ると、

 

 「タイトル7期? おいおい、《17》の間違いやろ。いや、《27》かな。ウィキペディア、ちゃんと直しとけよ!」 

 

 なんてことを、ウッカリ言ってしまいたくもなるのである。

 そんな郷田が実績的に歯がゆいのは、同世代に羽生善治という怪物がいたことと、もうひとつは「ここ一番」で、なかなか勝てなかったこと。

 特に、タイトル戦の挑戦者決定戦での勝率の低さは有名。

 適当な棋戦の成績表を見てほしいが、「挑決敗退者」のところに、とにかく郷田の名前が並んでいる。

 私もここで将棋ネタを書くとき、一応、昔の資料とか参照するんだけど、

 

 「挑戦者決定戦で郷田を破り」

 

 というフレーズが、テンプレートのように頻出するのだ。どんだけ負けてるねん。

 ただ裏を返せば、毎回のように、そこまで勝ち上がる郷田の強さも相当なわけで、それで評価が下がる、というわけでもないのが「信用」というもの。

 事実、郷田のことをあまり「勝負弱い」という人はいないし、いてもそれは苦言というよりは「なぜ?」という疑問符つきのものだ。

 こういう人が言われがちな「メンタルが弱い」という言葉も、まず聞くことがなく、つまりは郷田が「ここ一番」で負ける理由を、みなが

 

 「よくわからない」

 

 ずーっと首をひねっているわけなのだ。

 そんな郷田の痛い敗戦といえば、これが印象的。

 

 2001年、第59期B級1組順位戦

 郷田真隆八段と、中村修八段の一戦。

 昨年度の郷田は、念願のA級まで登り詰めながら、最終戦で残留をかけた一番を丸山忠久八段に敗れて、まさかの1期降級。

 しかも、丸山はその勝利で名人挑戦を決めるという、二重の屈辱を味わった。

 巻き返しをはかる郷田は、復帰を目指して、出直しのリーグを首位で独走

 そもそもがB1のではないのは、皆わかっているわけで、最後に残った2局のうち、ひとつを勝てば昇級となったところでは、

 

 「1枠は、もう決まり」

 

 だれもが思ったはずなのだ。

 ところが、ラス前の井上慶太八段との一番に敗れ、3敗目を喫すると、にわかに雰囲気があやしくなる。

 順位下位で他力ながら、藤井猛竜王がしぶとく3敗をキープしていることもあって(1位は2敗の三浦弘行七段)、決戦は最終局にもつれこんだ。

 むかえた中村戦。四間飛車を相手に、郷田は穴熊を選択。

 中盤で中村が桂をタダで捨てるという、勝負手めいた奇手からさばいていくが、郷田は手に乗って優位に事を進める。

 むかえたこの局面。

 

 

 

 形勢は、郷田が勝ちになっている。

 先手陣は相当駒を渡しても詰まず、あとはどう仕上げるか、というところ。

 ただ後手玉の寄せ方もむずかしく、どの駒を何枚渡したら危ないといった計算もしなければならず、一筋縄でいかない局面ではある。

 強く踏みこむか、一回自陣に手を入れるか。

 次の手が注目だが、ここで郷田は、信じられないすっぽ抜けをやらかしてしまう。

 

 

 

 

 

 ▲69金と寄ったのが、まさかの大悪手

 郷田の意図はわかる。

 これを△同成桂と取らせれば、先手は△88になにを王手されても▲同銀と取れるから、「ゼット」の形になる。

 そうしておいてから、後手陣にせまれば、駒を何枚渡してもいいから安全勝ち

 終盤の手筋で、ふつうならこれが、決め手になるはずだった。
 
 だがよく見てほしい、先手のねらいが

 「王手すらかからないゼット」

 にするはずなのに、ここで王手をかける手がある。

 そう、△89成桂と、こちらを取る筋があった

 なんと郷田は、これをウッカリしたのだ。
 
 ▲同玉に、△77桂と打たれて大事件である。

 

 

 

 ▲88玉△69桂成で、先手玉はほとんど受けがない。

 郷田は▲83金、△同金、▲61銀とせまるが、△89金▲77玉△65桂▲67玉△66金。

 

 

 ▲同玉にはなんと△84角と、あの働いていないが、一気に飛び出してきて詰み。

 まさに「勝ち将棋、鬼のごとし」で、郷田はここで投げるしかなかった。

 ▲69金では自陣を見ず、▲63銀と打ちこんで勝ちだった。

 △93香▲同歩成△55飛▲83と、と必至をかけて、ギリギリ先手玉に詰みはなかったのだ。

 また安全勝ちを目指すなら、金は▲69ではなく▲68金と、こちらに上がればよかった。

 

 

 これなら、△89成桂にも▲同玉で、が利いていて△77桂が打てない。

 藤井が最終戦に勝ったため、これで郷田は昇級を逃すこととなる。

 地力があるから、次の年にはすぐ上がるのだが、2度目のA級でも4勝5敗の成績で降級など運にも恵まれず、ファンをヤキモキさせる時期が続くのだ。

 

 (森内俊之と佐藤康光の激闘編に続く→こちら
 

 

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