前回(→こちら)に続き、『元アイドル!』を読む。
吉田豪さんの文体のせいか一見軽く読めるが、あらためて内容を抽出してみると、
「そんなん、全然笑えませ~ん」
なエピソードばっかり。
とにかく、アイドルというお仕事の大変さが、よくわかります。
胡桃沢ひろこさんは、お父さんがかなり激しい人だったらしく、彼女がちょっと男の子と仲良くしたのに激高し、強烈な回し蹴りを食らわせてきたとか。
親父、娘に問答無用のスピンキック!
平手打ちならまだわかるが、足技とはガチである。
それも、これが見事、腹部にクリティカルヒット。
アバラをへし折り、彼女は激痛に耐えながら番組出演するはめに。
胡桃沢さん笑いながら、
「コルセット巻いて、大変でしたよ」
……って、それで済む問題ではない気がするが、どうか。
この胡桃沢パパのすごいところは、その後なんの前触れもなくいきなり蒸発。
音信不通になるが、一度だけ葉書が送られてきて、そこには一言、
「裏切り者は殺せ」。
ひとり芸能界でがんばる娘に、まさかの殺人指令。
どんなパパからの手紙だ。もはや、アイドルとか全然関係ない修羅場である。竜牙会か。
そんなハードな本書だが、中には妙に笑えたり、ほのぼのするいいエピソードもなくはない。
あるとき、宍戸留美さんに「一緒に、舞台やろうよ」と誘ってきたのが、声優であり『新世紀エヴァンゲリオン』のアスカ役で有名な宮村優子さん。
仕事自体はうれしいのだが、ひどいことに、当時の宍戸さんはドラマの撮影でセクハラを受け、それがトラウマになって仕事ができない状態だった。
やむを得ず、事情を話して断ろうとすると、そこでみやむーはドーンと胸を叩いて、こう言い放ったという。
「私が守るから大丈夫!」
くわー、みやむーカッコええー!
そういえばどこかで、
「宮村は女として見たら、顔は並やけど、もし自分が女で、みやむーが男やったら絶対ほれるわ」
という意見を聞いたことがあるが、なるほどたしかに男前やなあ。空手の達人だし。
ちなみにそのトラウマというのが、16歳のころ撮影現場で大物俳優K・Nにさわられたというもので、
吉田豪「あれ、あの人ってホモなんじゃないんですか?」
宍戸「とりあえず、カツラをかぶっていることはたしかですね(笑)」
って、この会話も因果がすぎるというものだが。
前回紹介したような、笑顔もこわばるキツイ人もいるようだが、やはりファンあってのアイドルである。その愛は邪険にはできまい。
ふたたび、胡桃沢ひろこさんの場合、熱心なファンがいきなり彼女の前に土下座。
あわてて、「なぜ?」と問うならばファン氏は
「胡桃沢という名前は運勢が悪いので、本名に戻してください! それまで僕は土下座し続けます!」。
といわれても、リンダならぬ、ひろこ困っちゃうであろう。
そのファン氏が、本当に心から誠実な想いでもって、やっているのは痛いほどわかるが、まあ本当に痛いのもわかる。
「し続ける」ってところが熱い。もう、どないせえというのか。
まあ、アイドルファンといえば、たしかに業の深い人もいるし、アイドル自身に迷惑をかける人もいるが、実際のところはこういう純な人たちに支えられている一面も、あるのであろう。
大変な仕事だが、日本のアイドルとは「宗教なき国の神」であるため、その仕事が過酷なのは、ある程度は仕方がないのかもしれない。
人の罪を背負って十字架にかけられたイエス・キリストのように、男子のリビドーを一身に背負って、満身創痍で走るのがアイドルである。
死なない程度に、がんばってほしいものだ。