映画『乾物くん 能天気の子と人類創世記』を観る。
マンガ家の桜玉吉さんが、原作を手掛けた映像作品といえば、まず山崎タカシ監督がメガホンを取った、SF特撮映画である
『宇宙戦艦スコプ』。
また、セガ非公認のゲームアクション大作
『ソニック・ザ・グッホジッヘ』。
この2つがあるが、ここに名作『乾物くん』も、ついにスクリーンデビューを果たした。
どちらも、初出時から非常に評価も高く、『スコプ』は、あのライムすター宇多丸さんが、
「あの伝説のSF映画『スポーツマン山田』を超えたかもしれない……」
と大絶賛。
また外伝的内容ながら『ソニック・ザ・ヒッチコック』でハリウッド進出も果たしたソニッくなどとくらべて、この『乾物くん』は玉吉さん本人も言うように、
「キャラが立ってない」
ということで映像化は不可能と言われていたが、これでついに「玉吉三部作」が完成することになり、ファミ通で連載していた『しあわせのかたち』時代からのファンである身には、これはなかなかに、感慨深いものがあった。
ストーリーとしては、おなじみ
「乾物ランド」
の王子である乾物くんが、家来である
「するめ」「ほししいたけ」「のり」
で結成された「乾物三人組」とともに、人間界で大活躍する乾物アクションコメディーだ。
今回の劇場版は話のスケールも大きく、乾物くんが世界の破滅を阻止するために戦うというもの。
とある事情で家出することになった、主人公の「乾物くん」こと乾物太郎は、フェリーに乗って東京へとやってくる。
船内では、荷物の中にカナダ映画の傑作『ザ・キャッチャー』のビデオテープが入ってるところなど、さりげなく今後の波乱を予感させて、早くもドキドキするが、物語はまず、乾物くんが一人の少女と出会うところから、動きはじめる。
このころの日本は異常気象により、「マコンド村か!」と、乾物くんも空にツッコミを入れるほど、もう何年も雨がやまない天候が続いていた。
そこで世間では、祈りによって晴天を呼び起こす「天晴女」の都市伝説が流布するが、まさに主人公が出会った女の子ヒナこそがそうだったのだ。
晴天と乾物は相性がいいと、太郎とヒナは意気投合するが、2人の間にはいくつかの壁が存在した。
なんといっても、彼女ときたら夜はガールズバーで働き、その疲れはスチームサウナで癒やし、立て板に水とよくしゃべるも、その内容はやや我田引水がすぎる。
そこは魚心あれば水心だと思うわけだが、なにを言っても焼け石に水、蛙の面に小便で、ついにはケンカになり覆水盆に返らず。
あまつされ、野球の話になれば、
「よく打つチームが好き」
と言ってはばからないのだから、「乾物」くんは頭をかかえるしかない。
中盤以降の展開は、ネタバレになるので避けるが、最後は結局、世界は大雨の末に水没し、人類は滅亡してしまう。
もちろん、ヒナの「天晴能力」を使えば、それは防げたかもしれないが、これは使えば使うほど彼女を消耗させ、「人柱」として世界の安定と引き換えに犠牲になってしまうのだ。
「それはムリっしょ」
「自分を犠牲に世界を救うとか、マジ昭和の発想だよねー」
現代人であるこのカップルはアッサリそう決意し、チキンラーメンなど食べているうちに、いつの間にやら世界は海に沈む。
だが、それはさすがに後味も悪く、そのことはダシにこだわる「乾物」には少々おさまりが悪いのか、
「人間はいなくなった。でも、世界は終わらない」
乾物くんはそう宣言すると、
「この海の中にボクが溶けこんで、人類創世、いや再生のための新しい《海》になろう」。
なんと乾物くんは、絶滅した人類をふたたび地球によみがえらせるべく、自らがダシとして、その「素」になろうという収束。
最後の場面、無人となった地球の夜で、乾物たちが溶けこんだ《海》をかきまぜる、ヒナの後ろ姿で物語は終わる。
それはまさに、
「生命のスープ」
の世話をやく、すべての生みの親である「大地母神」であり、カレル・チャペックの古典『R.U.R.』のような深い余韻を残す。
なかなかに感動的なラストだが、このあたりについて乾物くんは、
「大衆って、結局こういうお涙頂戴がすきなんでしょ?」
主人公らしくない、ドライなことをインタビューなどで語っており、ヒナも、
「ま、世界滅んだけど、映画はもうかってよかったよね!」
こちらもメチャメチャにカラッとしていて、さすがは「晴れ女」の頭に「天」がつくだけある。
桜玉吉さんのマンガ原作ということで、ポップで楽しいギャグ作品だが、ずいぶんと壮大で神話的なところもあり、まさに「三部作」の完結編に、ふさわしい内容と言えるだろう。
『妻が干し椎茸だったころ』の中島キョウコさんも大絶賛の『乾物くん』。
世知辛い世の中で、心が渇いたアナタにも、おススメです。
記念すべき連載第1回作品
「乾物三人組」初登場の回。
感動の最終回。