端歩は心の余裕 羽生善治vs米長邦雄 1992年 第33期王座戦 挑戦者決定戦

2025年02月15日 | 将棋・好手 妙手

 「端歩は心の余裕です」

 

 という言葉をかつて残したのは、島朗九段であった。

 正確には、島がまだ奨励会にいたころ、幹事だった真部一男九段が言ったそうだが、似たような格言である、

 

 「手の無いときは端歩を突け」

 

 よりは、少しばかりポジティブな感じ。

 いそがしそうな局面で、悠然に手をかけるというのは、たしかに「余裕」がないと指せないかもしれず、

 

 中原の▲96歩

 「羽生の▲96歩

 

 のように、ただなんとなく端を突いただけに見える手が、実は絶妙手だったりするケースもあるのだ。

 このように、まさに端歩は「余裕」をカマすことによって、相手のペース乱す効力もあるわけだが、時には一撃で相手を倒すという、おそろしい場合もあるわけで……。

 


 

 1992年の第40期王座戦挑戦者決定戦

 羽生善治棋王と、米長邦雄九段の一戦。

 後手番になった羽生の矢倉中飛車から、力戦調の相居飛車に。

 

 

 

 

 図は米長が、▲46歩と合わせたところ。

 △同歩▲同銀で調子がいいし、かといって放っておくと、▲45歩を取られるし、▲45桂の跳躍もある。

 なら、△65歩△86歩で攻め合いに出るのが、居飛車党の呼吸かなと見ていると、次の手が意表であった。

 
 

 

 


 △14歩と、ここで端歩を突くのが好手だった。

 と言われても、イマイチなんのこっちゃだが、どうしてどうして。

 この手には、おそろしいねらいがあるのだ。

 といっても、それが実現するのが、なんとこの30手近く後。

 それでは私のような素人が、置いてけぼりになるのも無理はないわけである。

 △14歩に、米長は▲45歩と大きな位を取るが、そこで羽生も△95歩▲同歩△86歩▲同角△65桂と華麗な反撃を見せる。

 以下、羽生の猛攻を米長が受け止める展開になるが、急所の局面がここだった。

 

 

 

 △59歩成と、と金を作ったのを、王様自らで受け止める。

 いかにも危険に見えるが、後手の攻め駒も2枚しかなく細い

 下手すると簡単に切れてしまいそうな感じだが、次の手が絶妙だった。

 

 
 

 

 

 △22角と引くのが、一撃必殺の手。

 これだけ見ればハテナだが、ここで先の△14歩が、まさかの輝きを見せることがわかる。

 そう、次に△13角とのぞけば、それが遠く▲68にいる先手の王様をスナイプして、一瞬で受けがなくなるのだ!

 

 

 

 もちろん、はるか前に着いた端歩は、この手を見越してのことで、

 

 「いやあ、端が突いてあって、ラッキーでしたわ」

 

 というレベルの話ではない。

 すべてが読み筋なのだから、恐れ入るしかないではないか。

 米長は▲76銀とはらって、△13角▲67玉と、きわどくかわすが、そこで今度は反対側から△35歩と突く。

 

 

 

 ▲同桂△34銀と攻め駒を責めて、▲46金△86歩と突いて、▲同歩△58と、と捨てるのが軽い好手。

 ▲同玉△86飛とさばいて一気呵成

 

 

 さっきまで細く見えた攻めに、飛車が参加してきたうえに、質駒まで確保できて、これは切れない形だ。

 以下▲67玉のふんばりに、△57銀成▲同玉△76飛と大暴れして後手勝勢

 五番勝負でも、福崎文吾王座ストレートで下して二冠になるのだった。

 


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