人はときおり、とんでもない読み間違いや聞きまちがいをすることがあるもの。
たとえば、筋肉少女帯に『戦え! 何を! 人生を!』という曲がある。
ボーカルの大槻ケンヂさんが心の病に悩まされている自分と、若さゆえの無力感や蹉跌に悶々とする彼の支持者たる若者たちの想いをシンクロさせ、
「人生を戦え!」
そうリフレインする悲壮な曲であるが、ファンの女性から、
「今度のアルバムの『戦え! ラジオ DJ王』という曲ですが……」
そう間違えられて、コケそうになったそうだ。
たしかにオーケンはオールナイトニッポンのパーソナリティをつとめていたが、「DJ王」という響きがいいではないか。
どんなキングなのか。ヒロ寺平とか?
読み間違えの方では、中島らもさんが、
「ひょうごけんはなぞのようちえん」
これを、
「兵庫県は謎の幼稚園」
と読んでしまい、「あれ?」となったとエッセイに書いておられた。
もちろん正しくは「兵庫県 花園幼稚園」だけど、「謎の幼稚園」とは怪しすぎる。ショッカーの前進基地かもしれない。
漫画家である坂田靖子さんには『叔父様は死の迷惑』というタイトルの作品がある。
意味不明だが、なにやらずいぶんと剣呑な感じ。
こりゃいったい、どういうことなのかと問うならば、これは坂田さんが新聞だったか電車の中吊り広告だったかに書いてあった、
「秩父路は死の迷宮」
というドラマを
「《叔父様は死の迷惑》? すごいタイトルだなあ」
と読み間違えたもの。
これが自分でもおかしくて、ぜんぜん関係ない自作品にそのまま使用したそうな。
「論理的思考」からは絶対に出てこないけど、私はこのインパクトからジャケ買いしたから、結果的には大成功と言えよう。一度聞いたら忘れられない名タイトルだ。
ちなみに、今思いつきで「秩父路は死の迷宮」を検索してみたけど、なにもひっかからなかった。
よっぽどマイナーなドラマなのか。もしかしたら、もともとこんな作品は存在せず、坂田先生一流のお遊びなフェイクなのかもしれない。
かように、聞き間違いの面白いところは、ふつうに読んだらごくごく散文的な言葉にすぎにモノが、一気にミステリアスになる、だまし絵的妙がある。
価値が一転するという意味では、「日本SF作家協会」が、慰安旅行で田舎の温泉旅館に泊まることになったときのこと。
「ご予約済み」の看板に書かれてあった、あるものが白眉であろうか。
そこには丁寧な字でどーんと、
「歓迎・日本SFサッカー協会様」。
このトラウマで、年配のSF作家にはサッカーが嫌いな人が多いという。
ホンマかいなという話だが、それにしても「SFサッカー」という言葉にはシビれるものがある。
きっとそこには「シュレディンガー」とか「タキオン」「ブルーバックス」「ヴァリス」「メトセラ」とかいう選手が活躍しているのだ。
マスコットキャラが電気羊だったり、ラプラスの魔で次の試合展開を読んだり、ゴールマウスが時の門だったり。
すぐれたボールさばきは、ほとんど魔法と区別がつかなかったり、でも試合内容の80%はクズなのかもしれない。
そんな想像力も広がるSFサッカー。
ウィリアム・ハリソンあたりが、ひそかに小説にしてたりして。
(続く→こちら)
★おまけ 筋肉少女帯の『戦え! 何を! 人生を!』は→こちらから