死はジュネーヴから来た名手 佐々木勇気vs藤井聡太 2016年 岡崎将棋まつり その2

2024年10月05日 | 将棋・名局

 前回の続き。

 2016年岡崎将棋まつりで、佐々木勇気五段と、まだ奨励会員藤井聡太三段が熱戦を戦う。

 席上対局とはいえ、将棋界の将来を担う2人とあっては、お祭り気分ではいられないだろう。

 

 

 

 

 図は▲35銀と、藤井が詰めろをかけてきたところに、佐々木勇気が△96歩▲同銀△76角成と「詰めろ逃れの詰めろ」で切り返したところ。

 最終盤でこんな「必殺技」が決まれば、ふつうは後手の勝ちとしたものだが、もちろん藤井三段はそんなことで、あきらめるタマではない。

 この美技が、あくまで「つかみ」というあつかいなのだから、この将棋はシビれる。

 まずは▲34銀打と王手し、△22玉▲23金△76△32の地点を守っていて詰まないから、▲23歩成とする。
 
 △同金▲同銀成△同玉に、▲24歩▲41角であぶなすぎるから、取らずに△31玉と落ちる。
 
 ▲32と△同馬で、を引き上げさせたが、これで先手玉の一手スキ解除されているかは、正直よくわからない。
 
 そこで、▲43歩
 
 
 
 
 
 
 馬筋を止めて、自陣の脅威を緩和しつつの攻めだが、これが詰めろになっているかは、これまたきわどいところ。
 
 なってなければ、ここで後手一手スキをかければ勝ち
 
 難解だが、後手は仮にここで一手パスしても、▲42歩成には△同馬王手になる。

 

 

 これが、逆王手の切り返しみたいな形になるため、どうも詰まないようだ。
 
 ただ、先手玉にどう詰めろをかけるのかは、これまた激ムズ

 しかも詰将棋の名手相手に(藤井は将棋よりもに詰将棋で「天才少年あらわる」と紹介された)、ここで自陣を放置するのは、それもそれで怖すぎる

 そこで、佐々木はとりあえず、△27飛とおろす。

 

 


 
 この手自体は詰めろではなさそうだが、攻防に利かして、きびしそう。
 
 手番先手なので、チャンスが来たようだが、やはり急がされていることには変わりない。
 
 ここで詰めろ級の手がないと△95香くらいで負けそう。

 といっても▲42歩成は、相変わらず△同馬逆王手でシビれる。

 △27飛車守備力もあって、いよいよ手がないかと思いきや、ここで必殺手が飛んでくるのだから、才能のあるヤツというのは、たまったものではない。

 私はこの将棋を昔見て、2手だけおぼえていた。

 ひとつは佐々木の△76角成

 で、もうひとつが藤井のの手。
 
 こういう将棋にはコツがあるのだ。

 つまり、アレをしながら、盤上にあるコレとかソレとかを、全部ナニしてしまえばいいのである。

 

 

 


 
 
 
 
 ▲22金が、今度は先手から絶妙手のお返し。
 
 △同馬なら、王手がなくなるから、▲42歩成から先手勝ち

 


 

 ▲22金△同飛成なら先手陣が安全になるうえに、そこで▲23歩とタタく手がある。

 

 

 △同馬には▲42歩成
 
 △同竜▲同銀成△同馬▲42歩成で、やはり勝ち。
 
 なので△22同玉しかないが、やはり▲23歩の張り手で、後手玉はにわかに危ない
 
 
 
 
 
 
 このは、でもでも取れない。
 
 △31玉しかないが▲22金から、強引にバラしていく。

 △同馬▲同歩成△41玉▲32角の攻防手。
 
 
 
 
  

 完全に攻守所を変えた感じだ。
 
 そう、こういう終盤戦でねらいたいのは、王手をして手番をキープしたまま、相手の要駒(この場合は後手の)を取ってしまい、攻めながら自陣を安全にしていくこと。

 が消えたうえに、今度は先手がの後ろ足で自陣を守っており、さっきとはだいぶ景色が変わった感じだ。

 ただ、佐々木としても、かろうじて後手玉に詰みがないのは助かった。
 
 △52玉▲42歩成に、△61玉で、まだ激戦続行

 

 

 

 

 さて、局面はどうなっているのか。
  
 先手玉はの利きや、後手にナナメ駒がないなどもあって、△86金▲同歩△78となどの筋で追っても詰みはない
 
 なら、ここで後手玉に詰めろがかかれば勝ちだが、下手なせまり方では、△85桂▲同銀△同飛で、飛車8筋に利かす手が、また「詰めろ逃れの詰めろ」になるかもしれない。
 
 そこで藤井は▲85桂と、「敵の打ちたいところに打て」で置いておく。

 

 


 

 

 △85桂を消しながら、▲43角成からの詰めろ
 
 △53金とか、ただ詰めろを受けるだけの手は、▲73銀から一手一手。
 
 今度こそ、今度こそ決まったようだが、佐々木勇気はあきらめない。
 
 たとえ席上対局とはいえ、「未来名人」候補としてキラキラしている後輩に、「どうぞお通り」などゆるせるはずもないのだ。


 (続く)
 


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