前回の続き。
2010年、第68期A級順位戦の佐藤康光九段と藤井猛九段の一戦は、1勝6敗に2勝5敗と、星が伸びない者同士が落とし合う「裏の大一番」となった。
藤井が角交換四間飛車から穴熊に組むと、佐藤は角を打って飛車先の突破を図る。
これに藤井はなんと、▲96歩、▲95歩と、悠々端歩を伸ばすという意表の対応に出た。
なんじゃいや、これはという話だが、これが実は見事な対応で、△85歩、▲同歩、△87歩、▲78飛、△85飛には▲96角と、ここに打つ筋を用意している。
指されてみれば、なるほどで、△84飛には▲44銀、△同銀、▲76飛、△同歩に▲66角とバリバリ攻める。
これは穴熊が生きる形だし、
「ガジガジ流」
「ハンマー猛」
と呼ばれる藤井の力が出る展開だろう。
佐藤は△43角と退却を余儀なくされるが、▲26角と打って▲44銀をねらう。
△24歩から△25歩と追われても、今度は▲36歩から▲37角とスイッチバックして、このあたりは振り飛車絶好調。
6筋で銀交換になり、佐藤も負けじと飛車を使って押し戻していくが、次の手が強烈だった。
▲82銀と打つのが、佐藤の見落としていた痛打。
△同飛は当然▲64角。
桂取りを受けようにも、△72歩は二歩だし、まさか△72銀と打つわけにはいかない。
佐藤は△54金とかわし、▲73角成に△42飛と涙の辛抱を見せる。
ボロっと桂を取られながら馬を作られ、しかも手番も渡す。
あまりにも痛々しい手順だが、負ければお終いの佐藤は耐えるしかない。
だが、次からの構想が最後のとどめとなった。
▲57金と上がるのが、盤面を広く見た筋に明るい手。
△45金に▲38飛とまわるのが、気持ち良すぎる手順。
後手のかすかな主張は、先手の飛車が働いていないことだった。
なら、それを活用するのがいいわけで、▲57金と開門しつつ、場合によっては▲46金のような活用も見せる。
後手はせめて角を使おうと△45金だが、▲38飛と列車砲を転換して一丁あがり。
「重い振り飛車」を得意とする藤井だが、ここは軽やかなスライドを見せた。
以下、上部からガリガリ食い破って、藤井勝ち。
佐藤はまさかの降級。
藤井はこの星が大きくものを言い、最終戦では森内俊之九段に敗れるも、競争相手の井上慶太八段が敗れたため、辛くも残留を決めたのだった。
(藤井と佐藤の王座挑戦をかけた大熱戦はこちら)
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