「芸能人だからって、失礼な態度をとらないでください!」
というのは、テレビやネットなどでよく、タレントさんが訴えかけることである。
たしかに、人気商売というのは大変だと聞く。
われわれ一般人よりも華やかな生活をしているイメージはあるが、顔や名前を知られているその分、めんどくさいことも多いだろう。
「許可なく写真を取られた」
「箸袋やレシートにサインを書かされた」
「ナメた接し方をしてきたことを注意したら、逆ギレされた」
などなどトーク番組などで、よく出てくる話。
現代ではネットによって、さらに負の感情が可視化されるおそろしさもあったりして、それでも愛想よく「神対応」を求められるのが、有名人のツライとこだ。
私だったら絶対ブチ切れている。ましてやそれを、
「有名税だろ!」
なんて開き直るヤカラには、本当にガマンがならないところがあり、ちょっと信じられない反応だ。
そんなことをする連中を軽蔑するし、自分ももちろん、そんなことは決して一度もしたことがないかといえば、これが普通にやったことはあるので、今回はそういうお話。
大学生だったころのこと。
友人数人と、大阪の繁華街である難波の居酒屋で飲み明かしたわれわれは、始発まで街をぶらついて時間をつぶしていた。
とそこに、エサカ君という男が、突然すっとんきょうな声で、
「おい、あそこに芸能人おるぞ!」
指さした先には2人連れの男性がいて、そのひとりが、お笑い芸人のぜんじろうさんだったのだ(もう一人の方はおそらくマネージャー)。
ぜんじろうさんといえば、今ではアメリカで活動し、爆笑問題の太田さんと論争になったなどで知っている方も多いと思うが、当時は関西の若手人気タレント。
特にМCを務める深夜番組『テレビのツボ』は大人気で、今でいえば霜降り明星やかまいたちのような、勢いに乗りまくっていた存在だったのだ。
そんなもんが目の前に現れたら、底が抜けていて、しかも泥酔している学生からすればヨダレが出るような状況。
すかさずロックオンした友人センヨウ君が、
「おい、ラッキーぜんじろう! なにしてんねん!」
続いて私も、
「ABCお笑いグランプリ最優秀新人賞、おめでとうな!」
エサカ君もかぶせて、
「太平かなめは、どないしてん! 売れたら相方は捨てるんやな」
なんて、若さと酔いにまかせてチャチャを入れたわけである。
今思い出しても赤面モノというか、
「有名人に迷惑をかける愚かな若者」
とか動画を上げられ、炎上してもおかしくない流れである。
弁解するわけではないが、私自身は有名人を見ても、あまりテンションが上がらないタイプである。
街で見かけても声をかけたり、ましてや、ヤカラを入れたりすることはまず無い、と言っていい。
実際にこれも昔、難波の隣にある日本橋(関西のオタク街)で将棋の某棋士を見かけたときも、将棋ファンにもかかわらず、変にからんだりはしなかった。
もっともそれは、その某棋士がメチャクチャに挙動不審で、ちょっと怖かったからだけど。
いやマジで、サインとか握手より、声をかけるなら、
「こら、今あわてて隠した、女性の下着をポケットから出しなさい」
て感じになってしまうくらい、変な感じだったのだ。
それはともかく、私は「酔っていたから」という言い訳は嫌いなので、もうストレートに反省するしかない。
そんなわけで、私もこのように謝っているのだから、ぜんじろうさんも寛大な心を見せてしっかりと、前途ある若者のことはゆるすようにしては、いかがですかな(←本当に反省してるのだろうか)。