この世界には、ニ派に分裂して起る争いというのがある。
東ドイツと西ドイツ、スンニ派とシーア派、フラマンとワロン、大乗仏教と上座部仏教。
レアルとバルサ、コークとペプシ、「はし攻め」と「はじ攻め」、から「じてんしゃ」と「じでんしゃ」。
といった面々が、今でも各地で血で血を洗う抗争をくり広げているのだ。
かくして今回、私もこの党派争いに奇しくも巻きこまれることになるのだが、事の発端はネットの質問箱だ。
これからの日本は外国から人たちと付き合う機会も増えようが、そうなると文化的な「はて?」も増えることとなる。
「ブラック企業とかブラック部活とか、なぜみんなガマンして続けるのか」
「あの地獄の満員電車に耐えられるのは、サラリーマンが忍者の修行をしてるからなのだ」
とか、ちなみに後者は80年代か90年代にアメリカで大流行した「忍者道場」の広告に実際に載っていた文言。
そんな中、外国人から見た「神秘の国ニッポン」の謎に、こんなものがあるという。
「ネットの質問コーナーの回答が、質問者にキビシすぎるのではないか」
ヤフーやgooなどネット上には様々なところで「質問箱」というのが存在する。
そこでは
「ネットのつなぎ方がわかりません」
「先生から若いときには読書をしろと言われました。どんな本を読めばいいのでしょうか」
みたいな正統派なものから、恋愛相談とか人間関係の悩みとか、果ては
「なぜあのタレントが売れているのかわからない」
みたいな「知らんがな」なものまで百花繚乱である。
余談だが私の好きなこの手の質問に、宝島社の『VOW』に載っていた新聞の投書で、
「相撲取りのことを《お相撲さん》と言いますが、テニス選手のことを《おテニスさん》と呼ばないのはなぜでしょう」
そういや、なんでだろ。オレはたまに呼んでるけどなあ。
で、そういう質問に、もちろん多くは普通に答えているのだが、ときおり
「そんな、くだらない質問してんじゃねーよ、このぼけなす!」
みたいな罵倒が、返っていることがあったりすることがあるのだ。
異人さんはそれが謎で、
「質問者が困って助けを求めているのに、なんでそんなヒドイことを言うのだろう」
特に日本人はマジメでおとなしいイメージがあるため、よけいにビックリするのだそう。
といったようなことを友人ウンジャクガオカ君に酒席でしたところ、
「わかるわー。オレもコワいなーって思うもん」
友によると、以前YouTubeをはじめようとしたとき、大手知恵袋に音響や照明のことを質問しようとしてみたところ、その回答がそろいもそろって、
「自分で調べろ」
「この程度のことを人の頼るレベルなら、YouTubeなんてやめたら?」
「マジでコイツみたいなのがいるから、日本はダメになったんだよなー。足引っ張んなや。生きる価値とか、ねーよ、アンタ」
みたいなのがズラズラッと並んでおり、もうその時点で逃げ出したと。
私はネット上の罵詈雑言を目にしたり、ましてやレスバを展開することほど人生のムダ遣いはないと思っているので、こういうところは「なかったこと」にして「そっ閉じ」だが、実際ウンジャクガオカ君も、
「地獄の窯でも開けたのかと思うたで」
苦笑いしながら話していた。
そら、こんなん返ってきたら、質問者さん泣きまっせ。
私の偏見でも、知恵袋系はだいたいこんな感じだと思ってたけど、これに反論するのが同席していた友人ハナヤシキ君。
彼はパソコンが好きで、わからないことがあったら、やはりネットで質問するそうだが、そこでの反応はそんなに悪くはないというのだ。
ちょっと違うのは、彼は知恵袋ではなく「2ちゃんねる」時代の5ちゃんねるの話だが、そこではたしかに、
「これくらい、自分で調べられそうだけどな」
なんて軽くイヤミを言われたりするものの、おおむね親切で、かつ情報も正確だというのだ。
うーん、これはこれでわからなくもない。
2ちゃん(5ちゃん)と言えば、治安の悪いところも多いが、技術系の質問に関しては結構ちゃんと答えてくれるという話は聞く。
まあ、わが身に照らし合わせても、自分の得意ジャンルに興味をもって、質問してくれるのはうれしいものだから、そういうことなのだろう。
そこから2人は
「ネット民はコワい」
「いやいや、案外そうでもないって」
議論に入ったが、でもなんであの知恵袋って、あんなにキビシイ人が多いのかは、よくわからないまま。
昔読んだ、植田まさしさんの4コマ漫画で、
「アルバイト募集、恋人にフラれたばかりの人優遇」
という謎の張り紙があり、行ってみたら「廃屋を解体するバイト」だった。
捨てられた怒りとストレスで、壁や柱をガンガン壊す学生を見て親方が、
「なにかを壊す作業は、こういう連中に頼むに限る」
うなずいているというオチだが、もしかしたら知恵袋もそういう人を集めているのかもしれない。
あるいは、
「こちらのメンタルを鍛えようとしてくれている、とても親切な人」
「日本語には悪口の語彙が少ないことを心配し、それを改善しようとしている人」
「元海兵隊の教官」
「そういうプレイ」
などが考えられるが、実際のところはどうであろう、謎は深まるばかりである。