
今回ご紹介するのは「真綿荘の住人たち」(著:島本理生)です。
-----内容-----
大学進学のため、北海道から上京した大和君。
彼を待ち受けていたのは奇妙な下宿の住人たちだった。
クールな椿、気だての良いぽっちゃり女子の鯨ちゃん、恋愛小説家でもある大家の綿貫さん。
そして、彼女の内縁の夫で画家の晴雨(せう)さん……。
いびつで切ない、下宿物語。
-----感想-----
久しぶりに島本理生さんの作品を読みました。
帯に「三浦しをん氏絶賛」とあり、それも気になってこの本を手に取りました。
真綿荘という、木造二階建てのレトロなアパートを舞台に物語は進んでいきます。
構成としては誰か1人がずっと語るのではなく、各話ごとに語り手が変わっていきます。
真綿荘の住人は上京してきた大和君を入れて全部で5人で、この5人にはそれぞれ悩みがあったり、恋模様があったりします。
それらが物語が進むにつれて一つ一つ明らかになっていきます。
島本理生さんはやはり人の心の揺れ動きを書くのが上手いなと思います。
ここ何ヶ月かで読んだ小説の中でも郡を抜いていました

また、読者にその人物が何を思っているのか考えさせる描写があるのも特徴です。
例えば、
”私はちょっとだけ笑って、ちょっとだけ泣きそうになった”という文章があります。
このとき私は、なぜこの人物が泣きそうになったのか気になりました。
そこでこの文章をもう一度最初から読み返してみました。
すると分かるような分からないような微妙な感じではありますが、何かしら見えてくるものはあります。
たぶん島本理生さんは意図的に文章に明確な意味を持たせないようにしているのだと思います。
この辺りは他の作品でもよく見られ、恋愛小説らしい書き方だなと思います

他には”夏が終わったばかりの風のような笑顔に、変に心が動きそうになるのを、大和君は無意識のうちに止めた”というのがあります。
これは「無意識のうちに止めた」が重要で、大和君はこの女性の笑顔に惹かれそうになりながらも、無意識の中ではある程度距離を取ろうとしているということです。
つまりこの二人が恋人になることはないのだろうなということが伝わってきました。
もう一つ例を挙げると、今度は大家の綿貫さんの心境が分かる文章で、以下のものがありあました。
”なぜ綿貫さんが彼をあんなふうに紹介したのか、少し後になってから察した。私が、彼女とはほとんど年の差のない女だったからだ。”
綿貫さんが晴雨さんを「内縁の夫」として椿さんに紹介する場面があったのですが、このとき綿貫さんは、椿さんを同じ女性として意識していたようです。
椿さんに晴雨さんを取られることを心配し、先手を打って内縁の夫として紹介し、防衛線を張ったようなのですが、この考え方はなかなか嫉妬深いです。。。

これはこの場面の描き方自体が印象に残りました。
やはり島本さんはこういった感情の繊細な部分を鋭く描けてすごいと思います。
全体的には、淡々と流れていく中に色々な人間模様が見られ、読み応えのある作品でした。
久しぶりに人と人との感情が絡み合う作品を読んだので新鮮に感じたりもしました。
ちょっと分からない部分もあったので、いずれ読み返してみようかなと思います。
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