読書日和

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「聖夜」佐藤多佳子

2011-01-23 23:33:51 | 小説
今年最初の小説レビューとなります。
今回ご紹介するのは「聖夜」(著:佐藤多佳子)です。

-----内容-----
少し早い、俺たちだけの聖夜。
そのオルガンは、特別な音で鳴った。
18歳の少年が奏でる、感動の音楽青春小説。

-----感想-----
※「聖夜」の再読感想記事をご覧になる方はこちらをどうぞ。

この作品は「音楽小説」です
高校三年生の主人公・鳴海一哉がオルガン部で活動していく中でぶつかる困難や両親との心のわだかまりなどを描いています。
一般に漫画では、「音楽漫画は成功しずらい」と言われています。
理由は単純で、「音が聞こえないから」。
なので、そういった意味でこの作品はどうなのだろうと思って読み始めたところ。。。これが予想以上に面白く、サクサクと読めました^^
音楽用語は分からなくても、物語は十分楽しめました。
文体がさっぱりしているのも作品タイトルに合っている気がして良かったです

鳴海の母親は鳴海が小学5年のときにドイツ人と駆け落ちして家を出ていってしまい、それがトラウマとなって鳴海はひねくれてしまいました。
オルガン部に所属している鳴海は部長を務めているのですが、後輩から何か聞かれたときにも素直ではない言動が目立っていました。
そのオルガン部、文化祭で部員それぞれが何か曲を弾こうということになります。
鳴海が選んだのはオリヴィエ・メシアンの『「主の降誕」から「神はわれらのうちに」』という曲。
ここが音楽小説の特徴的なところで、こういった曲の名前が出てきます。
しかし私はその方面は素人なので、どんな曲なのかは見当がつきません。
それでもその辺は分からなくても問題はなく、きっとすごい曲なんだろうと思いながら読んでいきました。
Youtubeで探してもそれらしいのが見つからなかったですし、「神はわれらのうちに」がどんな曲なのかは謎のままです。

鳴海は文化祭での演奏に向けてこの曲と向き合っていくのですが、この曲を理解しようとすると母親のトラウマが脳裏をよぎり、なかなか上手くいきません。
「神はわれらのうちに」は、かつて母親が弾いていた曲でもあったのです。
結局文化祭には、真に曲と向き合ってはいないものの表面上は弾ける状態で望むことになるのですが…
ここでまさかの事態がおきます。
たしかに鳴海はひねくれた性格ではあるのですが、あの展開は予想外でしたね。
意図的に周りを困らせるようなことをするのは、心の寂しさから来るのかなと思いました。

そんなこともあり、文化祭におけるオルガン部は散々な結果になりましたが、ここから鳴海の心にも変化が起きます。
深井という音楽の趣味の合う友達も出来て、それまでずっとひねくれていた鳴海が少し素直になった気がします。
「神はわれらのうちに」も、もっと深く向き合おうと決心し、そしてタイトルにある「聖夜」へと向かっていきます
鳴海が万感の思いを込めた演奏が、最後は物語を優しく彩ってくれたかなと思います


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