今回ご紹介するのは「ひらいて」(著:綿矢りさ)です。
-----内容-----
ひらくことは、生きてるあかし―。
怖れを知らない女子高生が、哀しい目の男子に恋をした。
やみくもに、自分本位に、あたりをなぎ倒しながら疾走する、女子高生の初めての恋。
熱い思いは勢いあまり、彼の恋人に向けられて……。
人間の根源的な愛を問う最新長編。
大江健三郎賞受賞後第一作!
-----感想-----
綿矢さんの文章は、一文一文大事に読みたくなる、そんな文章です。
「おおかみこどもの雨と雪」、「サマーウォーズ」という表現力よりスピード感と爽快感重視の小説を読んだ後だけに、繊細な表現力を用いる綿矢さんの文章はまさに「文学」といった感じ。
一気に王道文学路線に引き戻されました^^
今回は高校が舞台だけに冒頭の何ページか、爽やかさを感じました
序盤はどこか「蹴りたい背中」を思わせるものがありました。
ただしそれは序盤だけの話で、途中からは「蹴りたい背中」とは全く違う雰囲気の物語になっていきました。
意中の彼「西村たとえ」の心をどうしても自分に開かせたい主人公「愛」の、非常に濃くてわがままな物語です。
「たとえ」が東京の最難関大学に行ってしまうと知った愛。
「じゃあ、たとえの彼女になればいい。そう、欲しければ掴むまで」
こんな感じで何としても彼を手に入れようとしていて、これはちょっと怖いなと思いました
『私の笑顔はちょうど、いま穿いているソックスの刺繍。表側の真白い生地には、四つ葉のクローバーの刺繍が施されているが、裏返せば緑色の糸がなんの形も成さず、めちゃくちゃに行き交い、ひきつれているだけ』
これは綿矢さんらしい表現だなと思います。
高校生くらいの年代の、特に意味もなくみんなで笑いあったりするときの心境がうまく表現されています。
今回は序盤は綿矢さんらしい小説でしたが、途中から思いもよらぬ展開になりました。
何というか、三浦しをんさんの「月魚」であった展開の女子バージョンといった感じです。
「たとえ」には「美雪」という彼女がいるのですが、愛の激しい嫉妬がこの美雪に向けられます。
そして思いも寄らぬ行動に。。。
自分が好きになった男に彼女がいたからといって、まさかあんな手段に打って出るとは…
今までの綿矢さん作品とは違う展開に衝撃でした。
しかしあの手この手で「たとえ」と「美雪」の中を引き裂こうとするが上手くいかない愛。
やがてそんな醜い自分自身にもうんざりしていきます。
また、あまりに強引に「たとえ」と「美雪」の仲を引き裂こうとした結果、結局二人両方から心を閉ざされてしまう愛。
自業自得とはいえ、このとき愛も「私にむかってあんなにも開かれていた、信頼を寄せていた心が、閉じてしまったのが、悲しい」と、一度は仲良くなった美雪から完全に心を閉ざされたことをひどく悲しんでいました。
ボートから落とした手鏡のコンパクトが、湖の底へゆっくりと沈んでゆく。
鎖をきらめかせ、小さなあぶくを吐きだしながら、底に近づくにつれ薄暗くなる水中を、落ちてゆく。
音もなく底にぶつかると、白い砂が舞い上がり、その拍子に銀色の蓋の留め金が開く。
内側の鏡が水中に差す陽を一瞬とらえて反射し、なにかの合図みたいにきらりと光ったあと、横向きになり、砂にうもれる。
舞い上がった砂も沈み、水は澄み、しずかで、永遠にそのまま。
この文章は秀逸。
綿矢さんらしさが凝縮されている気がします。
自身の暴走により何もかも終わってしまった愛の、絶望的な心境が湖の底に沈んでゆくコンパクトとして描き出されていました。
中盤から後半にかけての主人公の暴走と転落ぶりはどこか「夢を与える」の夕子に通じるものがありました。
ただし、転落したままでは終わらないのが今回の作品。
終盤は再び生気を取り戻した愛の違う意味での暴走によってクライマックスへと突っ走っていきます。
内容紹介の欄にもあるように、「あたりをなぎ倒しながら疾走する」感じですね。
怖れを知らない、10代の女子高生の疾走は凄まじい、そんなことを感じる最後の終わり方でした。
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-----内容-----
ひらくことは、生きてるあかし―。
怖れを知らない女子高生が、哀しい目の男子に恋をした。
やみくもに、自分本位に、あたりをなぎ倒しながら疾走する、女子高生の初めての恋。
熱い思いは勢いあまり、彼の恋人に向けられて……。
人間の根源的な愛を問う最新長編。
大江健三郎賞受賞後第一作!
-----感想-----
綿矢さんの文章は、一文一文大事に読みたくなる、そんな文章です。
「おおかみこどもの雨と雪」、「サマーウォーズ」という表現力よりスピード感と爽快感重視の小説を読んだ後だけに、繊細な表現力を用いる綿矢さんの文章はまさに「文学」といった感じ。
一気に王道文学路線に引き戻されました^^
今回は高校が舞台だけに冒頭の何ページか、爽やかさを感じました
序盤はどこか「蹴りたい背中」を思わせるものがありました。
ただしそれは序盤だけの話で、途中からは「蹴りたい背中」とは全く違う雰囲気の物語になっていきました。
意中の彼「西村たとえ」の心をどうしても自分に開かせたい主人公「愛」の、非常に濃くてわがままな物語です。
「たとえ」が東京の最難関大学に行ってしまうと知った愛。
「じゃあ、たとえの彼女になればいい。そう、欲しければ掴むまで」
こんな感じで何としても彼を手に入れようとしていて、これはちょっと怖いなと思いました
『私の笑顔はちょうど、いま穿いているソックスの刺繍。表側の真白い生地には、四つ葉のクローバーの刺繍が施されているが、裏返せば緑色の糸がなんの形も成さず、めちゃくちゃに行き交い、ひきつれているだけ』
これは綿矢さんらしい表現だなと思います。
高校生くらいの年代の、特に意味もなくみんなで笑いあったりするときの心境がうまく表現されています。
今回は序盤は綿矢さんらしい小説でしたが、途中から思いもよらぬ展開になりました。
何というか、三浦しをんさんの「月魚」であった展開の女子バージョンといった感じです。
「たとえ」には「美雪」という彼女がいるのですが、愛の激しい嫉妬がこの美雪に向けられます。
そして思いも寄らぬ行動に。。。
自分が好きになった男に彼女がいたからといって、まさかあんな手段に打って出るとは…
今までの綿矢さん作品とは違う展開に衝撃でした。
しかしあの手この手で「たとえ」と「美雪」の中を引き裂こうとするが上手くいかない愛。
やがてそんな醜い自分自身にもうんざりしていきます。
また、あまりに強引に「たとえ」と「美雪」の仲を引き裂こうとした結果、結局二人両方から心を閉ざされてしまう愛。
自業自得とはいえ、このとき愛も「私にむかってあんなにも開かれていた、信頼を寄せていた心が、閉じてしまったのが、悲しい」と、一度は仲良くなった美雪から完全に心を閉ざされたことをひどく悲しんでいました。
ボートから落とした手鏡のコンパクトが、湖の底へゆっくりと沈んでゆく。
鎖をきらめかせ、小さなあぶくを吐きだしながら、底に近づくにつれ薄暗くなる水中を、落ちてゆく。
音もなく底にぶつかると、白い砂が舞い上がり、その拍子に銀色の蓋の留め金が開く。
内側の鏡が水中に差す陽を一瞬とらえて反射し、なにかの合図みたいにきらりと光ったあと、横向きになり、砂にうもれる。
舞い上がった砂も沈み、水は澄み、しずかで、永遠にそのまま。
この文章は秀逸。
綿矢さんらしさが凝縮されている気がします。
自身の暴走により何もかも終わってしまった愛の、絶望的な心境が湖の底に沈んでゆくコンパクトとして描き出されていました。
中盤から後半にかけての主人公の暴走と転落ぶりはどこか「夢を与える」の夕子に通じるものがありました。
ただし、転落したままでは終わらないのが今回の作品。
終盤は再び生気を取り戻した愛の違う意味での暴走によってクライマックスへと突っ走っていきます。
内容紹介の欄にもあるように、「あたりをなぎ倒しながら疾走する」感じですね。
怖れを知らない、10代の女子高生の疾走は凄まじい、そんなことを感じる最後の終わり方でした。
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