「ロボット大国」の名が泣く 原発作業は米欧頼み
人型のロボットが階段を上り下りし、ヴァイオリンを演奏してみせる。世界に冠たるロボット技術を持つ日本だが、福島第一原発での作業は米欧頼みというから、「ロボット大国」の名が泣こうというものだ。
例えば人型ロボット「アシモ」は、放射能汚染の現場で人間に代わって作業をできないのだろうか。
「そもそもアシモは、原発事故のために開発されたロボットではありません」 と語るのは日本ロボット工業会の関係者だ。
「器用にダンスまで踊ってみせますが、原発内では動かなくなる恐れがある。カンマ線を一定量以上浴びると、回路がショートしてしまう。仮に中に入っていけたとしても、人間に代わって危険な作業をできるわけではないのです」
米国はイラク戦争で爆弾処理などに当たった「タロン」なるロボットの日本への提供を決定。ブルドーザーの駆動部分を小型化したような形状で、上部には作業用のアームやカメラ、放射線や赤外線の測定機器が装備されている。
独仏も開発したロボットの提供を申し出た。いずれも高濃度の放射線を浴びる苛酷な環境下でも耐えられる仕様だという。
実は日本でも1999年に茨城県東海村の核燃料加工会社JCOで臨界事故が起きた後、原発災害用のロボットが作られていた。
三菱重工業が02年に開発したロボット「MARSII」は幅40センチ、高さ55センチ、長さ160センチで4輪の無限軌道(キャタピラー)付き。段差25センチ、傾斜45度までの階段の上り下りが可能で、PHS回線を通じて遠隔操作ができる。
プロジェクトに携わった東工大大学院の広瀬茂男教授はこう言う。
「原発は安全、事故は絶対に起きないという国の方針によって、開発から1年後の03年に全て廃棄されることになったのです。私は、これは大変なことだと考え、何とか保管できるようにしましたが、その後、予算も全くなく、メンテナンスできていないので、すぐに使える状態ではありません」
防災ロボットの権威である東北大大学院の田所諭教授も、「JCOの事故の後に作ったロボットを使ってちやんと訓練していたら、こんなひどい事態は避けられたでしょう。人が入ると危険な場所に、もっと早くロボットを投入していれば、中の様子も分ったはずです」
学生は器用に操るが
田所教授が続ける。
「フランスでは電力会社が拠出して、原発災害時用の部隊を組織しています。原発廃止を決めたドイツでは、多くの原発が廃炉になっていますが、廃炉にも対応できる体制をとっています」 世界に冠たるロボット技術を宝の持ち腐れにしてきた日本。だが、嘆いてばかりもいられない。
「ロボット学者有志が水面下で集まり、英知を結集して福島原発の事態を打開しようとしています。使えそうなロボットを徹夜で改造し、少しでも今の危機的な状況の改善に役立てようとしているんです」(同)
それで誰がロボットを操縦するのか。さるロボット研究機関の職員は、
「
大学でロボット工学を学ぶ学生の中には、器用に操る人もいます。しかし彼らを意に反して現場に連れて行くことはできない。操縦は簡単なので、東電職員や自衛隊員、消防隊員に憶えてもらうことになります」 と語るのだが、運用の一翼を担うであろう自衛隊関係者は楽観的ではない。
「これまで原発災害用のロボットをろくに作らず、操縦者の訓練も満足にしてこなかった。ロボットも長時間被曝したら、高圧水流で除洗しないといけない。機材も人員も足りず、結局は欧米に頼らざるを得ないのではないのか」
原発の安全神話にあぐらをかき、万一の備えを怠ってきたツケである。
人型のロボットが階段を上り下りし、ヴァイオリンを演奏してみせる。世界に冠たるロボット技術を持つ日本だが、福島第一原発での作業は米欧頼みというから、「ロボット大国」の名が泣こうというものだ。
例えば人型ロボット「アシモ」は、放射能汚染の現場で人間に代わって作業をできないのだろうか。
「そもそもアシモは、原発事故のために開発されたロボットではありません」 と語るのは日本ロボット工業会の関係者だ。
「器用にダンスまで踊ってみせますが、原発内では動かなくなる恐れがある。カンマ線を一定量以上浴びると、回路がショートしてしまう。仮に中に入っていけたとしても、人間に代わって危険な作業をできるわけではないのです」
米国はイラク戦争で爆弾処理などに当たった「タロン」なるロボットの日本への提供を決定。ブルドーザーの駆動部分を小型化したような形状で、上部には作業用のアームやカメラ、放射線や赤外線の測定機器が装備されている。
独仏も開発したロボットの提供を申し出た。いずれも高濃度の放射線を浴びる苛酷な環境下でも耐えられる仕様だという。
実は日本でも1999年に茨城県東海村の核燃料加工会社JCOで臨界事故が起きた後、原発災害用のロボットが作られていた。
三菱重工業が02年に開発したロボット「MARSII」は幅40センチ、高さ55センチ、長さ160センチで4輪の無限軌道(キャタピラー)付き。段差25センチ、傾斜45度までの階段の上り下りが可能で、PHS回線を通じて遠隔操作ができる。
プロジェクトに携わった東工大大学院の広瀬茂男教授はこう言う。
「原発は安全、事故は絶対に起きないという国の方針によって、開発から1年後の03年に全て廃棄されることになったのです。私は、これは大変なことだと考え、何とか保管できるようにしましたが、その後、予算も全くなく、メンテナンスできていないので、すぐに使える状態ではありません」
防災ロボットの権威である東北大大学院の田所諭教授も、「JCOの事故の後に作ったロボットを使ってちやんと訓練していたら、こんなひどい事態は避けられたでしょう。人が入ると危険な場所に、もっと早くロボットを投入していれば、中の様子も分ったはずです」
学生は器用に操るが
田所教授が続ける。
「フランスでは電力会社が拠出して、原発災害時用の部隊を組織しています。原発廃止を決めたドイツでは、多くの原発が廃炉になっていますが、廃炉にも対応できる体制をとっています」 世界に冠たるロボット技術を宝の持ち腐れにしてきた日本。だが、嘆いてばかりもいられない。
「ロボット学者有志が水面下で集まり、英知を結集して福島原発の事態を打開しようとしています。使えそうなロボットを徹夜で改造し、少しでも今の危機的な状況の改善に役立てようとしているんです」(同)
それで誰がロボットを操縦するのか。さるロボット研究機関の職員は、
「
大学でロボット工学を学ぶ学生の中には、器用に操る人もいます。しかし彼らを意に反して現場に連れて行くことはできない。操縦は簡単なので、東電職員や自衛隊員、消防隊員に憶えてもらうことになります」 と語るのだが、運用の一翼を担うであろう自衛隊関係者は楽観的ではない。
「これまで原発災害用のロボットをろくに作らず、操縦者の訓練も満足にしてこなかった。ロボットも長時間被曝したら、高圧水流で除洗しないといけない。機材も人員も足りず、結局は欧米に頼らざるを得ないのではないのか」
原発の安全神話にあぐらをかき、万一の備えを怠ってきたツケである。