ITと再生エネ技術融合
日立製作所と三菱重工業が将来の経営統合を視野に、社会インフラなど主力事業の統合に向けた協議を始める。両社が狙うのは、新興国を中心に急拡大する社会インフラ市場。日本を代表する製造業といえども、単独では勝ち抜けないとの危機感がある。
米欧大手が先行して市場を開拓するほか、中国・韓国勢も急成長が続く。研究開発力では有数の実力を持つ2社だが、世界で戦うには総合力に一段の磨きをかける必要がある。(1面参照)
日立製作所と三菱重工が今後の成長領域と見定めるのは、世界のインフラ市場だ。
例えば発電分野。経済協力開発機構(OECD)によると世界の発電量は2035年に30兆キロワット時を超え、08年実績より8割増える。10~35年の発電インフラ投資は1300兆円に及ぶ見通しで、その4分の1は中国(約320兆円)が占める。
だが、現実の商談では欧米大手に競り負けることが多い。
今年3月。三菱重工業は東南アジア最大規模のマレーシアにおける石炭火力発電所の受注合戦で、仏アルストムに敗れた。
この案件には日立製作所も初期段階で参加していた。10年9月には日立製作所がブラジル・サンパウロ市のモノレール建設で、カナダ・ボンバルディアを中心とする企業グループに敗れた。
海外大手は基盤とする欧州や米国市場が成熟し始めると、いち早く新興国に進出。日立や三菱重工は出遅れた。
例えばガスタービン分野では米ゼネラル・エレクトリック(GE)が世界シェアの44%、独シーメンスが28%を占める。3位の三菱重工のシェアは8%と大差をつけられている。
鉄道分野でもボンバルディア、仏アルストム、独シーメンスの「ビッグ3」で世界シェア5割を超える。3社は世界各地に製造・保守の拠点を持つ体制を構築。日立のシェアは5%に満たない。
日立は09年3月期に製造業最大の連結最終赤字を計上して以降、収益が安定している社会インフラ事業に経営資源をシフト。11年3月期には20年ぶりに過去最高純利益を更新するV字回復を果たした三菱重工は発電所を中心とした原動機事業で全体の7割を稼ぐ構造。
両社の11年3月期の連結売上高を単純に合計すると、12兆2千億円と米GE(金融部門含む)に規模で並ぶが、最終利益では見劣りする。日立と三菱重工が手を組むことで強みが発揮できる分野も多い。日立は社会インフラとIT(情報技術)システムの両方を手がける。
三菱重工は風力や地熱など再生エネルギーで世界有数の技術を持つ。風力や太陽光などを中心に使いながら、ITを駆使してエネルギーを効率的に利用する「スマートシティ」事業などでの成長が見込める。
両社の技術や得意分野を早期に結集できれば、GEやシーメンスにない強みにつながる可能性もある。
業種の枠超え結束
電機と重工業の国内最大手が、業種の枠を超えて手を組む。日立製作所と三菱重工業は2013年春に、社会インフラ、環境、エネルギー、IT (情報技術)の4分野を中心とした事業の統合を目指し、協議に入る。
統合形態や統合する分野の詳細は今後詰める。三菱重工が持つ防衛部門の扱いなども課題になる。将来の経営統合も視野に入れる。今後の協議では調整に時間がかかることも想定される。
三菱グループ企業の首脳は4日、「両社の社長に、日本のためになるのでぜひ頑張ってほしいと伝えた」と語った。
日立と三菱重工のグループ従業員数は単純合計で43万人。両社は金融から素材まで幅広い事業を抱える巨大グループの中核企業だ。統合すればグループ会社や取引先などに幅広い影響が及ぶ。
例えば三菱電機は原子力発電、鉄道車両などで三菱重工と緊密な関係にあり、日立とも事業ごとに競合や協力関係がある。「三菱電機全体が合流することはありえない」(同社幹部)と話す。
公正取引委員会など各国規制当局の判断も焦点となる。
日立と三菱重工が統合すれば、国内で発電用の蒸気タービンやボイラーなどで5割前後のシェアになるとみられるが、世界でのシェアは10%以下にとどまる。