文明のターンテーブルThe Turntable of Civilization

日本の時間、世界の時間。
The time of Japan, the time of the world

「レヴィ=ストロース 夜と音楽」今福 龍太著…日経新聞8月14日20面より

2011年08月14日 16時03分49秒 | 日記

生命のざわめき聞きとる試み 立命館大学教授 渡辺 公三

文中黒字化は私。

現代思想を根底から問い直し、2009年に101歳の誕生日まで1月ほど残して亡くなったレヴィ=ストロースの達成した仕事の深さと広がりは、何度も測りなおされてゆくだろう。

南北アメリカの神話研究、その方法序説ともいえる『野生の思考』、そして何よりも、民族誌と旅の省察の詩的総合としての『悲しき熱帯』。

そうした作品が私たちに伝えようとするものの核心を、著者は、南北アメリカの先住民の思考との対話で研ぎ澄まされたレヴィ=ストロースの感性の源泉を見極めることで確かめようとする。

「見極める」というのは不正確だ。
表題が示すとおり、夜の帳とともに後景に退く視覚を包みこむ夜の響き、世界を満たす生命のざわめきを聞きとることが問われるのだ。
本書はその試みの見事な達成だ。

著者は、レヴィ=ストロースがインディオから学び、同時代人との交流のなかで持続した、「見る」ことよりも、耳を澄ますことの、ある受動性を孕んだ世界への謙虚な対し方と人間の奢りへの苛烈な批判を、作品のささやかな細部や、交友の小さなエピソードをきっかけとして読み解いてゆく。

「彼・・・が・・・隠し置いていった、知の贈り物としての『種子』を…拾い、それを新たな未来という大地に蒔こうとした」
本書の試みのなかでも、思想家シモーヌ・ヴェイユ、画家エルンストや、アニタ・アルブスとの交流の叙述は、著者ならではの発見の喜びに満ちている。

とりわけ『悲しき熱帯』が記念すべき第1巻となった「人間の大地」叢書を手がかりに探求されたレヴィ=ストロースにおける「大地性」の考察は、スプートニクとアポロ計画の時代に書かれた『悲しき熱帯』の根源的批判の射程をとらえて説得力がある。
その末尾でレヴィ=ストロースが訪れたベンガルの仏教寺院で靴を脱いで登った小山の「水に濡れた、肌理細かな粘土」の感触にふれながら、著者は「地上的なるものへのこの深い身体的愛惜」こそ、この思想家の大地的感性の源泉だったという。
今、それはまさに、汚染土の現実に直面して私たちが問い直すべきものではないか。



「国際人のすすめ」松浦 晃一朗著…日経新聞8月14日20面より

2011年08月14日 15時27分07秒 | 日記

長い海外経験から導いた教訓

日本人が持つ謙虚さや奥ゆかしさは、外国人と渡り合う上ではしばしば「弱み」として作用する。
しかし自分の立場を声高に主張し、相手を論破する欧米スタイルが常に有利だとも限らない。

著者は長い外交官生活を経て、1999年から国連教育科学文化機関(ユネスコ)の事務局長を約10年間務めた。
ユネスコは約190力国が参加し、パリの本部に2千人、在外事務所や研究所に1千人の職員を抱える大所帯だ。
就任当時は主要国から非効率な運営への批判を浴び、深刻な財政難に直面していた。

肥大化した組織のリストラ、公正な人事制度の導入、財政規律の確保-ー。
本書は山積する課題に、国際機関のトップとしてどう対処したかを詳述する。
改革は内部からも反発を招くが、自由な討議などを通じて幹部間の認識は徐々に共有されていく。
2003年の米国のユネスコ復帰に至る周到な根回しや各国の深刻な利害対立を調整していく経過は、一般の企業活動にも通じる多くの教訓を含んでいる。
著者は記憶力や決断力、数カ国語を操る語学力の重要性を強調し、語られる多くの成功体験は自画自賛の色彩を帯びる部分もある。
ただ全体の記述からは貴重な外交経験を伝え、内向き思考に警鐘を鳴らし、日本の国際社会での地位低下に歯止めをかけたいとの思いが伝わってくる。


「世界一大きな問題のシンプルな解き方」ポール・ポラック著

2011年08月14日 15時10分48秒 | 日記
日経新聞8月14日21面より

小さな技術で貧困なくす方法  同志社大学教授 峯陽 一

貧困層を巻き込む「BOPビジネスの指南書である。平易なマニュアルのように読めて、著者の人生観まで伝わってくる良書。

世界の貧民の大部分は農民である。その圧倒的多数は、狭い土地を耕す零細農家である。貧困をなくすための努力は、農村の現場に行って、農民たちの話しを聞くところから始まる。

どんな努力が必要になるのか。著者によれば、貧しい人たちが自分でお金を稼げる仕組みを考えることが何よりも大切だ。農民たち自身が起業家となり、お金を稼ぐようになったら、教育や健康にも投資し始めるだろう。こうして脱貧困の好循環が生まれる。

では、どうやったらお金を稼けるのか。筆者によれば、技術革新が鍵である。ただし、必要なのは大規模で高価な技術ではなく、超小型で、低価格で、無限に拡張できる技術だ。水がしたたるドリップ灌漑に、足踏みポンプ。農民は乾期にも多種多様な野菜を栽培し、市場に出すことができる。

国富の前提は農村を豊かにすること、そして現場で付加価値をつけることである。安価な労働を利用する適正技術の具体例が、ネパールを中心に詳しく紹介される。イノベーションが細部に宿ることを実感する。

農村やスラムの数億人の貧民が金を稼ぎ始めたら、巨大な市場が成立する。しかし、世界の有力企業や研究機関は、相変わらず一握りの先進国の高所得者を念頭に置いて、商品をデザインしている。未来はそこにあるのか。

著者の家族はホロコーストの生き残り。国家統制への嫌悪感には亡命ユダヤ人的な背景が感じられる。著者自身は、もともと精神科医たった。貧困削減のシンプルな処方箋に到達するまでには、多くの試行錯誤あっただろう。

昨今の日本では、国策としての電力インフラの議論が盛んである。今は必要な議論であるにせよ、かなり息苦しい。苦難から脱出するには一人一人の民の創意工夫が大切であり、社会と企業の分権的なデザインが必要である。

こうした本書のメッセージが、あらためて胸に響く時代になってきた。


「イカの心を探る」池田譲著…日経新聞8月14日21面より

2011年08月14日 14時29分47秒 | 日記

「海の霊長類」の異色の解説  評・生物学者 長野敬

文中黒字化は私。

副題に「知の世界に生きる海の霊長類」とある。一瞬、なにごとかと思う。クジラ、イルカは知能が高いらしいが、霊長類とは聞いてないぞ。まさか人魚姫のことでは…。じつはこれ、深海探検家のJ・クストーがイカを指していった比喩を応用したせりふなのだ。

軟体動物の仲間には二枚貝や巻き貝、さらに貝殻のないナメクジやウミウシもいるが、どれもあまりぱっとした存在には見えない。そこにあってタコとイカの「知性」はひときわ目立つ。

われわれと酷似したカメラ眼で環境情報をさぐり、大きな中枢神経系(脳)で処理する。ヤリイカでは10本の腕のつけ根にある脳から、頭部の外套の裏に隠れた噴水孔まで信号を急送する神経細胞の枝が、ものすごく太い(直経O・5ミリほどの巨大軸索)。

これを使って神経興奮の伝導の仕組みを提唱したホジキンとハクスレーは1963年にノーベル賞を得た。
生物物理学の創設期に故・松本元はイカの水槽内飼育に取り組み、成功した。

エソロジー(動物行動学)の開祖ローレンツは、わざわざ飼育槽の現場を見学に訪れた。
他方、巨大軸索の発見者でもあるイギリスのJ・Z・ヤングは、タコの条件づけ実験もやった。タコに好物のカニと条件づけ用の白い板が並べて提示されている写真を見たのは何十年か前だが、今も印象に残っている。

本書はこうした代表的な業績にもそつなく触れつつ、しかしそこに深入りせず、新しいべつの展開--それが著者の研究主題――を中心とすることで、異色の解説書になった。

タコの隠者ふうの賢さに比べて、イカは社会(泳ぎまわる仲間、とらえにくる敵、さらに自分が育ち・行動する周囲環境)をより多く反映した「心の世界に生き」ているようだ。

「陸の高等動物」をそうした見方で見るのがエソロジーの立場だったが、なんと「海の霊長類」のイカにもこの理解は通用するらしい。

サル学、小鳥の歌、社会生物学、さらにはマキャベリの『君主論』や「赤ちゃん学」などの引用も、どれも単なる飾りでなく、議論の本筋と咬み合っている。鏡を見せられたアオリイカの「自己認識」の考察なども、こうした流れのもとでは空論どころか、説得力がある。


「中国が読んだ現代思想」王前著…日経新聞8月14日20面より

2011年08月14日 14時25分30秒 | 日記
「自由」得た人々の切実な受容史

1979年4月、中国で創刊された書評誌「読書」は。
「読書無禁区」 (読書に禁止エリアなし)という文章を掲げ、読書の自由をうたい上げた。これが画期的だったのは、76年まで続いた文化大革命の渦中では、西洋の書物ばかりか、自国の古典さえ手に取ることが難しかったからだ。

本書は、それから30年あまり、「自由」を手にした中国の知識人がどのような切実さで外国の思想を受容してきたかを丹念に跡づけている。

80年代初め、まず熱狂的に受け入れられたのはヒューマニズムだ。革命の名の下に人間の尊厳が傷つけられた過酷な10年への反省は、敗戦後の日本の知識人の問題意識と共通する。

サルトルの実存主義が、そしてハイデガーの存在論が貪欲に求められた。

日本の思想が明治以来向きあってきた「近代化」「東洋と西洋」といった問題への関心からは、ウェーバー、レヴィ=ストロースから福沢諭吉や丸山眞男までが参照された。

天安門事件以降の「思想の冬」を経て、急速な経済成長のひずみも見えてきた近年では、シュミットの自申王義批判もブームになったという。

著者はこうした受容を経て生まれた新しい思想が、中国社会を「普遍的な価値観を導入しつつ」「より開かれた世界」にすることを期待する。この言葉は閉塞感漂う今の日本社会にもそのまま当てはまる。

日本にもまた、思想が必要だ。(講談社・1600円)

多くの改革を阻止してきた構造…週刊朝日8月12日

2011年08月14日 13時50分28秒 | 日記
「日本中枢の崩壊」古賀茂明著  評・長薗 安浩

今回の東京電力福島第一原発の事故は、いざ事がおきれば手のほどこしようのない原子力の怖さをまざま
ざと見せつけた。と同時に、私たちが思い知ったのは、この国のエネルギー行政における政官業プラス関連学界の癒着ぶりだった。

現役官僚である古賀茂明が書いた『日本中枢の崩壊』を読むと、この実態こそが〈「日本中枢の崩壊」の縮図〉と明記されている。それは、長らく日本の権力中枢にはびこってきた構造問題でもある。

多くの改革案がこの構造によって阻止されてきたことは、すでに歴史が証明している。だからこそ、渡辺喜美は自民党員時代に公務員制度改革法案のために涙を流した。古賀はそれを支えた。民主党も「官僚主導」から「政治主導」へと主張して、政権についたはずだった。

しかし、渡辺の奮闘もあって安倍政権下でもう一歩のところまでいった公務員制度改革は、民主党政権下であきらかに後退した。

今年一月に元資源エネルギー庁長官が東電に天下りしたケースには、民主党支持者ですら唖然、呆然。また大震災後も、被災地の復興計画案が固まる前に増税案が出てくるという、いかにも財務省主導の政治がまかりとおっている。

これまでもずいぶん批判を浴びてきたはずなのに、それでもなぜ、もともと優秀だった官僚が省益確保のために暗躍するようになるのか。古賀はそんな疑問にも応じ、自分の三十余年の体験をまじえながら解説する。おそらく読者はその実態を知れば知るほど、ますます意気消沈するだろう。

産学官の癒着構造に乗っかった日本政治。このままでは、これほどの大震災と原発事故を経験しながらも、財政破綻に陥ってIMFに裁断、指導されるまで改革は実現しないかもしれない。

国の中枢に根深く巣くったこの構造を打破するためにも、古賀にはすぱっと経産省を辞めてもらい、次の総選挙、みんなの党公認で東京一区から立候補して海江田万里と戦ってほしいと、私は強く願っている。

どうだろう?

中国の食品・外食 外資、相次ぎM&A…日経新聞8月14日4面より

2011年08月14日 11時47分43秒 | 日記
個人消費狙う 当局の認可焦点

中国の食品・外食市場で外資によるM&A(合併・買収)が活発化している。スイス食品大平ネスレは7月、製菓大手の徐福記国際集団の買収で同社と合意した。

5月には米外食大手ヤム・ブランズが中国式鍋専門店大手、小肥羊集団の買収計画を公表。いずれも人口大国・中国の旺盛な個人消費を狙った動きで、中国当局が買収を認可するか否かが今後の焦点だ。

ネスレはシンガポール上場の徐福記の発行済み株式60%を17億ドル(約1300億円)で取得する。徐福記は中国風の菓子などを手掛ける。2010年6月期決算は売上高が前期比14%増の43億元(約510億円)で、純利益は同31%増の6億元だった。

「ケンタッキーフライドチキン(KFC)」や「ピザハット」を展開するヤム・ブランズは、香港上場の小肥羊に27%強出資する第2位株主だが、93%強に引き上げる。買収額は最大で45億5700万香港ドル(約440億円)。

小肥羊は「火鍋」と呼ばれる中国式鍋料理の老舗チェーン。約350店を構え、10年の売上高は約19億元たった。

中国ではネスレはコーヒーなど西洋風の飲食料で実績があり、ヤム・ブランズはすでにKFCを3200店以上構える。両社の動きは地元の食文化に根ざしたメーカーやチェーン店を傘下に加え、中国市場をさらに開拓する点で共通する。

注目は、外資による大型買収への審査制度を設けている中国政府の対応だ。中国の食品・外食業界では09年、米コカ・コーラによる果汁最大手、中国匯源果汁集団への買収提案が独占禁止法に抵触するとして却下された経緯がある。

一方で、中国政府は6月、英酒類大手ディアジオが中国の上場企業で老舗白酒メーカーの四川水井坊を実質的に傘下に収める案件を認可。ディアジオが水井坊の親会社、四川成都全興集団の過半数の株式を取得し、経営を間接支配することになった。

ディアジオはウイスキー「ジョニーウォーカー」などで知られる。ネスレ自身、小規模ながら中国企業を相次ぎ買収している。2月に飲料水製造の雲南大山飲水、5月には清涼飲料の銀鷺集団を傘下に収めた。

匯源果汁と違い、徐福記や小肥羊の市場シェアは小さい。業界の推計では、徐福記は中国の菓子市場で2位ながらシェアは7%。水井坊と似た状況で、富士通総研経済研究所の金堅敏主席研究員は「公正取引上の問題がなければ、買収は認められる」との見方を示す。

(大連=進藤英樹)

NY株乱高下 高速取引も一因?…日経新聞8月14日4面より

2011年08月14日 11時43分02秒 | 日記
一般投資家離れの懸念

文中黒字化は芥川。

【ニューヨーク=川上穣】歴史的な乱高下に揺れる米国の株式市場で、コンピューターを使った株式の高速取引の台頭が不安定な値動きの一因だとの指摘が出ている。情報技術(IT)の進歩が生んだ構造変化だが、損失拡大のリスクを恐れる個人など一般投資家の株離れを招きかねない。

●値幅連日400ドル超 
8月の米株式市場は異常値ばかりだ。ダウエ業株30種平均の日中の値幅 (高値と安値の差)は、11日まで6日連続で400ドルを超えた。世界金融危機直後の2008年10月以来の記録となった。ニューヨーク証券取引所の売買高は12日を除き連日20億株前後と、7月の2倍以上に膨らんでいる。

乱高下の底流にあるのは米欧の財政や世界景気への不安だ。ただ同時に、米国で顕著な高速取引の普及が株価の振れ幅を大きくしているとの見方も広かっている。

「足元の株価の急落局面で高速取引業者の売買高は3倍に増えた」。高速取引の精算業務などを手がける米ウェットブッシュ証券の幹部が米メデイアに語った。

高速取引はコンピューターによる瞬時の自動売買で薄い利ざやを積み重ねる投資手法だ。相場の振れ幅が大きくなるほど、収益の機会は増える。米調査会社タブーグループのラリー・タブ最高経営責任者(CEO)も「8月は高速取引業者にとって記録的な1ヵ月になるだろう」と予測する。


07年に取引の電子化を促す本格的な規制緩和が行われ、高速取引の普及に弾みがついた。米国株の取引全体に占める比率は06年には約2割たったが、今年は5割を超える水準で推移。

ウェットブッシュ証券は、相場の不安定さが増した8月には「全体の75%に高まった」と推計する。
高速取引は市場の値動きに追随して売買を執行する特徴がある。

このため、相場は局面ごとに一方向に傾きやすくなる。高速取引の台頭が従来は考えられなかった値動きの荒さを招いている可能性は否定はできない。

●自動売買が市場席巻 
さらに、ヘッジファンドや大手機関投資家の損失確定の売り(ロスカット)も株価の値動きを不安定にしているようだ。こうした投資家は保有株の含み損が一定の水準を超えたら、自動的に売却するルールを設けている例が多い。

その瞬間の投資判断に基づくわけではない自動売買が市場を席巻し、下値不安を生んでいる面がある。
市場には危機感が募る。米証券業金融市場協会(SIFMA)は11日に「市場は正常に機能している」としつつも、「注意深く金融市場を監視していく」とするコメントを発表した。

明確な外交戦略を持て…日経新聞8月14日1面より

2011年08月14日 11時19分57秒 | 日記
イアン・ブレマー氏 米ユーラシア・グループ社長

世界の政治リスクを分析、助言する会社を設立。顧客は各国の政府系機関や企業。主導国が不在の「Gゼロ」時代を主張した。41歳。

文中黒字化は芥川。

--日本のリスクとして、政治の「無党状況」を指摘し続けてきた。

「世界は東日本大震災後の日本人の姿に感銘を受けた。甚大な被害にもかかわらず、わずか数力月で復興に動き出した。夏場の電力不足を市民みんなが我慢し、静かに慎み深く解決に当たる姿は他の国はまねできない」 

 「しかし落胆させるのは、政治の混迷と無策ぶりだ。未曽有の危機にも政治は変わることなく、内紛を繰り返す。日本の未来へ向けた決断ができない。日本のリーダー不在は深刻だ。政治への絶望感が極まっている」


--日本が取り組むべき経済的な課題とは。

「日本で最も強力な経済主体はグローバル企業だ。それが日本を去ろうとしている。国内市場は縮小、労働コストもエネルギーも高い。民主党政権で産業界や官僚とのパイプも途切れ、有効な産業政策も打てない」

「日本は『成長』への投資をあまりに怠ってきた。人口減少は深刻だ。移民はともかく、まず女性が労働参加しやすい環境を整えた方がいい」

脱原発マイナス 

ーー震災後の脱原発論議をどう見るか。

「脱原発は日本経済にマイナスだ。中国やインドはこれから原発利用を加速する。新たな安全技術、適正な規制と透明性の高い運営で対応すべきだ。脱原発では産業空洞化は止まらず、産油国には足元を見られ、国内消費者に負担をかける」

--中国企業の台頭など、企業の競争環境は激しくなるばかりだ。

「世界は西側の自由市場の資本主義と、中国など国家資本主義がぶつかりあう時代に入った。西側から得た技術を使って低コストの資本と労働力でシェアを奪う。ルールの全く違う国家が運営する企業との競争になる」

「世界の石油企業は大手15社のうち13社が国営だ。民間は2社しか残ってない。ただ、その2社の経営は極めて効率的で高い技術を持つ。西側が勝つには研究開発でりードし続けるしかない。

高速鉄道など一度、技術が渡ったら次はコスト競争で勝てない。これに適応できない企業は、競争から撤退すべきだ」

極なき時代到来 

ーー彼らが内包する弱さもあるのでは。

「国家利益のために資本を配分する手法はどこかで効率性を欠く。中国の鉄道事故は運営の不透明さ、安全基準の問題を示した。彼らはカイゼンを続ける組織ではない。カイゼンと起業家精神こそ西側が勝てる道だ」

--世界は主役なき「Gゼロ」時代だと指摘している。日本の進路は。

「米国が覇権を握り、同一の価値判断へ向かうグローバル化の流れに日本がついて行く時代は終わった。自由市場の資本主義と国家資本主義が激しく火花を散らす、極なき時代の中で日本も対応を迫られる」

日本には本物の外交戦略が要る。貿易や通貨など多様な場面で利害が衝突し、安全保障のあり方も変わる。黙っていてはだめだ。

国益や判断基準を明確に主張していかねばならない。国家のトップが外交を主導し、それを支える強力な安全保障の評議会や専門シンクタンクも欠かせない
」 

-―世界の求める日本の役割とは。

「例えば危機に直面する欧州の財政問題。ここで日本の姿が見えない。強い欧州のために何か重要で、何かできるのか。欧州の将来に発言しなければならない。核拡散問題やアラブの民主化などもっと主張すべきだ」  

「日本は思慮深く、善意の国であり、長期的な関係を築くことを重視する。震災では持続性や安定性を世界に見せた。かたや世界は成長を追い求め、環境や食糧問題などひずみを生み、危うい次元に踏み込みつつある。日本が国際舞台で果たす役目はとても大きい」

(聞き手は米州総局編集委員 藤田和明)

イサム・ノグチに秘術施す…日経新聞8月14日23面より

2011年08月14日 10時31分56秒 | 日記
奇縁まんだら 瀬戸内 寂聴 

世界的に著名な芸術家のイサム・ノグチは、多種多芸な点でも天才的だった。
岐阜提灯をモチーフにした白い笠の「あかり」シリーズの電灯器はロングセラーで、今も売れ続けているし、広島の平和大橋は彼のデザインによる。

彫刻家としての作品は本命だし、ノグチ・テーブルなどもデザインしてインテリアデザイナーの面もある。またアメリカや日本で彼の造った庭園も処所に見られ、造園家としても一流である。

父は日本の詩人野口米次郎、母はアメリカ人の作家で教育家のレオニー・ギルモア。ロサンゼルス生れの混血児である。母の考えで教育はアメリカで受けている。コロンビア大学の名誉博士号も授与された日系アメリカ人である。

こんな複雑な才能の天才と、この世で親しくなろうとは、夢にも予想したことがなかった。
ところが、ひょんなことから、知遇を得ることになる。私の小説「京まんだら」でモデルになってもらった祇園のお茶屋「みの家」の女将、吉村千万子さんが、ある時。

「イサム先生はうちのお客さんどすけど、それはいいお方どっせ。ハンサムで、上品で、インテリで、何より思いやりがあってやさしいて……」と絶讃する。生来、男に惚れっぽい性格の人だが、イサム・ノグチとはあくまで、客と女将の清い関係だという。

「イサム先生は李香蘭さんと離婚しはってからは、ずっとお独りどす。お淋しいし御不自由どっしゃろと思いますけど、一つ屋根の下に芸術家は二人は暮せない。李香蘭さんもれっきとした芸術家やったし、結婚生活はお互い無理やったとおっしやってはりました」

そういえば、一九五一年頃、二人の結婚がマスコミに派手に報道されていた。美男美女の大スターの並んだ、幸福そうな写真が、方々に出廻っていた。
イサム・ノグチ四七歳、李香蘭の山口淑子三一歳頃で、わけ知りの大人どうしの結婚として、華やかな話題をふりまいていた。

ところがその結婚はわずか四年しか保たなかった。
「うちでも、あんまり芸妓や舞妓呼ぶでもなし、私相手にあれこれお話するだけです。まあ、お喋りは私の方が受けもって、先生はお酒をひとりで召し上ってるだけで……」
それじゃお金にならない客じやないかというと、

「へえ、お客というより、気の合うお友だもというところどっしやろか」
と笑っている。女将が信奉しているハリ治療に京都に来る度案内するのが、唯一の役目だという。

女将の紹介を待つまでもなく、ある夏、イサム・ノグチが徳島へ阿波踊りに来て、私の阿波寂庵へ、新聞社の人に案内されてきた。お取り巻きが数人いたが、みんな浴衣の踊り姿だった。一踊りした後で、イサムさんだけがひどく疲れきっていた。

お互い、みの家の女将さんから話を聞いているので、初対面の気がしない。七十歳前後になっていたイサムさんは、その頃は香川県庵治町・牟礼町(現在高松市)で産出する庵治石をユネスコ庭園の作品素材に使ったことが縁になり、その町がすっかり気に入った。

そこに古風な日本家屋のアトリエを構え、日本での製作場所としていたのだった。当時の香川県知事の金子正則氏が芸術に造詣が深く、喜んでイサム・ノグチのアトリエ設営に便宜をはかったと聞く。

疲れきっているイサムさんに、私は得意のマッサージをほどこすことになった。人々がぐるりと取り巻いている輪の中に、イサムさんがうつ伏せになって伸び、私か秘術を公開した。

四十分もしたら、蒼白だったイサムさんの顔に血の気が上り、目に活力がもどってきた。
「すごい!大した腕だ。みの家の女将に報告しなきや、女将がつれていってくれるハリより、ずっと効いたよ」

元気になったイサムさんを、みんなでワッショイワッショイかつぎだすようにして、私も一緒にまた踊りに出かけた。桟敷は晴れがましいので、町のすみにある踊り場で、のんびり踊った。

イサムさんの阿波踊りは、身のこなしは軽かったが、手足が長く、蛸が踊っているようで、何だかおかしかった。

せっかくの奇縁で結ばれたが、お互い忙しく、みの家からよく電話で声を聞いたが、酒をくみ交す閑もないまま、ニューヨークでのイサムさんの死を突然聞いたのは、一九八八年の年の瀬であった。
享年八四。

「女優は男だ」とはよく言われることだが…週刊朝日8月12日号

2011年08月14日 10時18分43秒 | 日記

自己目的としてのサッカーと喜びの現象学
お代は見てのお帰りに 小倉 千加子

おぐら・ちかこ 1952年、大阪府生まれ。心理学者。芸能にも造詣が深い。最新刊は「結婚の才能」(朝日新聞出版)

*何度も言うように、小倉千加子さんは、当代きっての、本当の、一流の知性である。
文中黒字化は私。

「女優は男だ」とはよく言われることだが、女優というのは女装した女子のことなのであろう。
普通の女子は男装するが、それは単にその方が活動的だからである。

プロのビーチバレー選手である女子がビキニを着るのは、スポーツをする時にも女装を忘れないという女優ルールを適用されているからである。彼女らは競技をしながら観賞もされなければならない。

純然たるアスリートでもなく女優でもない中途半端な有り様は女子アナにも当てはまるだろう。女子アナは日本ではまだアナウンサーという仕事の喜びだけに生きることができない。

元女子アナで結婚してから自殺する人が少なくないのは、この女子としての苦しみを引きずったままでいることと無関係ではないと思う。


そういう時に「なでしこジャパン」は出てきた。サッカーをするのにスーパーで働き、仕事を終えてから自費で練習に行く。

人が金銭や地位といった世俗的な報酬を一切生まない活動に没頭するのは、その活動をしたいという動機が自分の中にあるためである。誰かに命じられたり支配されたりしてやっているわけではない。

「なでしこジャパン」にとってサッカーをすることは自己目的的活動である。この活動は次のような報酬をもたらす。
「サッカーをすることの楽しさ」
「サッカー活動が生み出す世界」
「個人的技能の発達」
「友情・交友」
「競争」

報酬の中にある「個人的技能の発達」は、サッカーに限らず作曲でもダンスでも囲碁でもそうなのだが、伝統的な女性役割によって依然として広い世界で技能を習得する機会の少ない女性がエキスパートになって経験するものである。

その技能は「競争」という枠組みの中で試されると、より多くの楽しさを生み出すのである。
人から言われて生活のために選ぶ仕事で人は純粋に楽しみを見つけることは難しい。元々仕事は世俗的報酬のためなので、人は仕事そのものよりも世俗的な報酬によって周囲から評価されるようになるからである。


当初は外科手術の仕事に没頭していた医師が、病院内で出世するうちに手術という仕事から純粋な喜びを見いだすのが難しくなる。自分が周囲からどう思われるかを気にしないといけない地位にあるので、意識は仕事という行為から分離していく。

意識と行為が融合する忘我体験(フロー体験)は自分を意識しないでいられる時にしか訪れない。世界の外側にいる子どもと女子と高齢者に多く見られる理由である。

澤穂希選手が「負ける気がしなかった」のは、自分を外から眺めなくていい状態にいたからである。ゲームに集中して、外の世界は意識から締め出されていた。まさに「フロー体験」にあったということになる。


世俗的報酬によって動く成人男性は、「フロー体験」から疎外されている。だから女子に世俗的報酬が要らないということではない。

「社会における女性としての役割の準備は非常に早くから始まる。従って、それが何歳の時であろうと、女性がゲームをし、それが好きだとわかっても、女性の役割を果たすのに必要なことを強く教えこまれているので、真に強いプレイヤーになるのに必要な時間をさくことはとてもできない。

例えば、ホビー・フィッシャーは全生涯を自分のゲームの完成に捧げた。同じことを試みる女性は、すべて精神病院に入れられるだろう」(『楽しみの社会学』M・チクセントミハイ著)



Hさんへ。

2011年08月14日 09時54分42秒 | 日記

gooにおける昨日のアクセス数は、以下の数字でした。

8月13日のアクセス数 閲覧数:5,661PV 訪問者数:547IP
順位: 1,033位 / 1,619,414ブログ中 (前日比 ↓)

一方昨日のアメーバは 閲覧数:819 訪問者数:546

gooの、ページごとの閲覧数ベスト20は以下の通りです。


1トップページ 112 PV
2韓国、ウォン安路線貫く 李政権、輸出後押.. 57 PV
3ヤマダ電機 エス・バイ・エルを買収…日経新聞... 46 PV
4空売り禁止 流動性低下の副作用…日経新聞8... 45 PV
5船場の顔サヨナラ…朝日新聞8月13日5面より 44 PV
6世界需要、3700兆円規模…日経新聞8月13日5... 43 PV
7近鉄、遊休地使い農業 傘下のスーパーで販... 43 PV
8消費増税をするのに戦う相手は一番弱い庶民.. 42 PV
9ブラタモリのテーマソング、当然といえば当... 41 PV
10グリー、震災後安値の2.3倍…日経新聞8月13... 39 PV
11首脳が動く仏韓 首相と政府矛盾…日経新聞8... 38 PV
12♪ Like A Rolling Stone ♪ :Bob Dylan ... 38 PV
13 目を覚ました私が、事の次第を悟った時...   37 PV
14東レ 繊維成熟超え世界へ…日経新聞8月13日... 37 PV
15全米プロゴルフ選手権中継を見た後に、その... 36 PV
16新しい日本へ 成長こそ唯一の解…日経新聞8... 36 PV
17コンビニ、自治体と新モデル探る…日経新聞8... 36 PV
18メキシコ新工場 ホンダ、年産20万台…日経... 35 PV
19造船・車部品に恩恵 日本勢、危機感強く…... 32 PV
20中国 BRICS周辺国に接近…日経新聞8月... 30 PV

昨日の結果も私の本望であり本懐でした。

Hさん、「文明のターンテーブル」は本来ならば、25年前に登場していなければならなかったのですよ。
だからこそ、出来るだけ急ぎましょう。