…前章からの続き。
-政府の構想に異を唱えて、圧力をかけられませんか。
「私は中央政府に反対しているんじゃない。そこに意見を出している人々に反対しているんだ。原発の急拡大を決めた数年前から言い始めたが政府からの圧力はないよ」
ー共産党や政府系研究機関といった「体制内」での議論だからこそ、許されるのでしょうね。
「ムラの人からは『おまえは科学者ではない、NGO(非政府組織)だ』と言われている。私は組織じゃないから『NG』かい、と言い返しているよ。でも、事故後は共感してくれる人が増えたと信じている」
ー何先生は大学で物理学を専攻し、卒業後は原子力爆弾の研究にも一時、携わりましたね。
「私か物理学を学び始めたのは1947年。中国共産党の地下党にも参加していた。その2年前に私たちが戦ってなかなか打ち破れない相手だった日本が、米国が落とした二つの原爆であっけなくポツダム宣言を受諾し、敗戦を受け入れた。
このことは中国という国にとって実に大きな出来事だったんだ。私だけでなく、あれをきっかけに『核を学ぼう、原爆が必要だ』と考えた若者は多かった。それで専攻を化学から物理に変えた。その後、原爆から離れ、理論物理学に転じた」
-中国の核は、軍事利用から始まり、電力へ広げました。
「毛沢東や周恩来が当時、中国の発展には原子力兵器が必要だと判断した。原子力は当時も今もとても政治的なものだ」
-原発を抑制した分、何で補っていけばよいと思いますか。
「中国でも、太陽光や風力や水力による発電だ。風力はすでに装備は世界一。送電網の問題などを解決しながら使える電力量を高めていけばいい。
太陽光はとりわけ余地が大きい。世界の半分の設備を製造しているが、輸出ばかり。コストの問題から国内では普及していない。政府は普及を促すよう財政的な支援をすべきだ。太陽光はいま、火力や原発の2倍ぐらいかかるが、規模が拡大すればコストも下がる」
「日本はこの分野で高い技術力を持っている。太陽光の普及に日中で、ぜひ協力して取り組みたいと思っている」
▼何祚麻(ホーツオシウ)さん
27年生まれ。中国科学院理論物理研究所研究員。清華大物理学部卒。北京大教授や全国政治協商会議委員も務めた。
取材を終えて
何先生は、64年前から中国共産党員。大学時代の恩師だった銭三強氏は、フランスでキュリー夫妻の娘夫妻に師事、中国の原爆実験を成功に導いた立役者の一人だ。
だからこそ 「原発大躍進」に大きな声で異を唱えられるのだろう。「老同志」は巧みに間接的な批判の形をとりながら、発展を急ぐ政府に苦言を呈しているように感じた。
(吉岡桂子)