資源高で好業績が続く総合商社。その中で、2011年4~6月期に業界トップの連結純利益を計上した三井物産が「非資源」への積極投資に乗り出した。
化学品、医療、農業--。純利益の8割を資源で稼ぐ体質を見直し、資源価格の下振れリスクに備える狙いだ。収益基盤の長期安定に向け、病院経営など未知の領域に踏み込む。
突破口を探る①
「互いの強みを生かしてぜひ成功させましょう」。8月3日夜。三井物産の飯島彰己社長は東日本大震災の被災地訪問のために急きよ来日した米化学大手ダウ・ケミカルのアンドリユー・リバリス会長兼最高経営責任者(CEO)と都内で固い握手を交わした。
両社は7月、ブラジルでの大型合弁事業で合意した。サトウキビ農園の運営から世界最大の植物樹脂工場建設までを一貫して手掛ける。15年までの総事業費は推定で20億ドル(1540億円)規模。
成功すれば環境負荷の低いバイオ化学品の巨大市場で先行できる。ダウとは昨年夏、化学品原料を生産する電解事業の米合弁で合意しており、今回が第2弾。世界の有力企業との提携をテコに非資源分野に攻め込む。
こんな戦略が化学品に限らず広がる。
「中国のどの都市で病院を開設すべきか」。三井物産が今、社内でこんな検討を進めている。パートナーはマレーシア政府系投資会社が保有するアジア最大の病院グループ「IHH」だ。
収益基盤に偏り
三井物産は4月、IHHに3割、約900億円を出資した。一度の投資では資源・インフラ以外で最大級だが、財務担当の岡田譲治常務執行役員は「十分に収益貢献が見込める」とそろばんをはじく。
人口増を背景にアジアの医療ビジネスは年率15~20%の伸びが見込まれる。中国などでの病院運営に加え、給食や電子カルテなど幅広い周辺事業も展開できる。
三井物産の11年4~6月期の連結純利益は1327億円。前年同期を3割上回り、四半期とはいえ長らく業界首位を走る三菱商事を抜いた。
ただ、稼ぐ中身を見ると分野ごとの偏りが浮き彫りになる。鉄鉱石、銅など金属資源で700億円弱、原油や天然ガスなどエネルギーで400億円を稼ぎ出す一方で、非資源は2割にすぎない。
「資源投資も続けるが、権益取得費用が高騰し高値づかみのリスクもある。非資源分野の強化は欠かせない」。経営企画担当の木下雅之常務執行役員は強調する。今期に7千億円を予定する投資のうち3分の2を非資源に振り向ける計画だ。
黒字化には時間
とはいえ収益源への育成は容易ではない。例えば農業。今年5月までに220億円を投じてブラジルの農業生産・穀物物流会社「マルチグレイン」を完全子会社化したものの、現状では赤字が続く。人員を今後投入しテコ入れを図る。
三井物産は今期の純利益見通し4300億円のうち、非資源分野で918億円を稼ぐ考え。これを1500億~2000億円に引き上げるのが当面の目標だ
。資源高で収益が積み上がる構図に社内に緩みはないか。その資源価格自体も世界景気の悪化懸念の中で不透明感はぬぐえない。飯島社長は「好業績に安住せず、成長の芽を世界中から探せ」と訴えている。
円高・株安に電力不足。法人減税や貿易自由化も進まず、企業への逆風は強まるばかり。次の成長には何か必要なのか。独自の事業モデルで突破口を開こうとする企業の戦略を追う。
出遅れた新分野カギは提携戦略
「非資源」の強化は商社共通の課題だが、事業の中身や実力は様々だ。三菱商事は非資源でも収益力トップ。機械や化学品、食料などで満遍なく稼ぐ。
住友商事は鉄鋼製品やCATVなど、自ら「切れ目のない打線」(幹部)と表現するほどバランスに優れる。伊藤忠商事は繊維など生活産業に強く、丸紅は穀物取引や電力事業に定評がある。
三井物産は資源で三菱商事と並ぶ二強だが、非資源の稼ぐ力では大手5社の中でも見劣りする。「ポスト資源高」時代を見据え、出遅れた新規分野の開拓は待つたなしの課題だ。
カギは提携戦略。三井物産はかつて1千億円を投じてブラジル資源大手ヴァーレの持ち株会社に出資。鉄鉱石のほか、物流インフラ、リン鉱石開発など幅広い事業展開につなげた。非資源でも有力パートナーとの事業シナジーを広く深く早く引き出す狙いがある。
野村証券の成田康浩シニアアナリストは非資源への集中投資について「方向性は間違っていない。あとはいかに早く結果を出せるかだ」と指摘する。戦略の成否は具体策と実現のスピードにかかっている。
(宮東治彦)