以下は4/26に発売された月刊誌Willに掲載されている三橋貴明氏の連載コラム「反撃の経済学」今月号は、「ヒト」を安く買い叩きたい勢力、である。
実に奇妙な話だが「経済学」の世界では常に完全雇用が成立している。
すなわち、失業者(厳密には「非自発的失業者」)は存在しないことになっているのだ。
理由は、そもそも経済学が「セイの法則」という、総需要が「常に」供給能力を上回るファンタジーの世界の学問であるためだ。
セイの法則(実際には法則ではなく、ただの「仮説」だが)が成立しているとなると、人々が働こうとした際に「常に仕事はある」ことになる。
それにもかかわらず失業状態に陥っている人々は「賃金が安い」といったわがままな理由で働かない「自発的失業者」に過ぎない。
つまり、雇用環境は常に「完全雇用」なのである。
よって、財政政策による雇用対策に意味はない。
雇用対策を打つならば、労働者の解雇を容易にする雇用の流動性強化こそが正しい。
とまあ、これらが雇用に対する経済学の「考え方」なのだが、なぜこのように歪んだ発想になっているのだろうか。
現実には、日本が経験したデフレ期など、労働者が職に就こうとしても、そもそも「仕事がない」状況は存在しうる。
賃金の問題ではなく「需要=仕事」そのものが不足するのが、デフレーションである。
日本の有効求人倍率は、リーマンショック後に、何と0.5を割った。
求職者一人に対し、求人が0.5もなかったわけだ。
賃金が高い安い云々ではなく、単純に仕事そのものが足りなかったからこそ、失業率は上昇した。
当時、仕事に就けなかった人々は、間違いなく非自発的失業者である。
現実世界において「常に完全雇用」などということはあり得ない。
それにもかかわらず、経済学が非自発的失業者の存在を認めず、財政政策による雇用対策に反対するのは、背後にいる“黒幕”グローバリストが、高い失業率を望んでいるためだ。
なぜ、グローバリズムが「高失業率」を好むのか。
もちろん、その方が「ヒト」を安く買い叩けるためである。
「賃金=所得水準」が下がっていくと、中長期的にその国の経済力は落ちていかざるをえないが、そんなことはどうでもいい。
グローバリズムの目的は「短期の利益最大化」であり、国民の豊かさとやらは、知ったことではない。
グロ-バリストにとって、国家も国民経済も、行動を制約するものではないのだ。
それでは、失業率が低下した時期は、どうなるのだろうか。
当たり前だが、低失業率になれば賃金水準は上昇する。
グローバリズムにとって耐え難い状況だ。
だからこその「移民受入」なのである。
低賃金で働く移民を大量に流入させれば、再び「ヒト」を安く買い叩くことが可能になる。
失業率が高いときは「今は完全雇用」と失業対策を防止し、ヒトを安く買い叩く。
失業率が低いときは「人手不足だから移民を受け入れざるを得ない」と、これまたヒトを安く買い叩こうとする。
日本の移民問題の本質は「賃金の上昇防止」なのだ。
現在の日本は、少子高齢化に端を発する生産年齢人口比率の低下を受け、人手不足が深刻化し、失業率が下かっていっている。
「ヒトが大事にされる社会」が近づいているわけだが、そこに低賃金でも喜んで働く移民が大量に流入すれば、日本人の賃金水準も下がらざるをえない。
単に「ヒト」を安く買い叩きたい勢力が、移民受入を望んでいるという現実を、いい加減に日本国民は理解する必要がある。
問題は「ヒト」を買い叩き、自分の利益を最大化したいという、自己中心的な勢力が「政治力」あるいは「情報発信力」を持っていることなのである。
みつはし たかあき 1969年生まれ。東京都立大学(現首都大学東京)経済学部卒業。08年に三橋賁明診断士事務所を設立。現在、経世論研究所・代表取締役社長。最新刊に『財務省が日本を滅ぼす』(小学館)。