せかいでいちばんおいしいでしょう?
「アキちゃんにはまだ無理だって!」
娘のアキコが料理をしたいと言い出した。彼女はまだ4歳。
大好きなヨウタ先生にお弁当を作ってあげたいのだという。
「何を作りたいの?」
「すてぇき!」
「まあステーキ」
「カンタンカンタン」
アキコの背はコンロに置いたフライパンの取っ手にようやく手の届く高さだ。
包丁持たせるなんてとんでもない!
結局アキコには諦めさせることにした。
「ゼッタイお料理作るもん」
「アキちゃん、ほら、これ」
おままごとセットを勧めようとする。
「イヤ!」
エサには釣られない。先生への愛だろうか。それともたんなる意地?
「もう寝るからぁ。入ってこないで!」
部屋のドアをバタムと閉めた。しかし閉まり切らないで少し開いている。
娘は何をやらかすつもりだろうか。
今は見守るしかない、か。
少なくとも危ない事にならないように気を配ろう。私ができるのはそれくらい。
翌朝。
「これアキちゃんのお弁当ね。ほんとに先生に作ったお菓子持って行かなくていいの?」
「ウン。いらない!」
娘は元気だ。
今日も幼稚園へと出発。
*
お昼の時間になった。
いつもと同じように弁当を頬張るアキちゃん。
「今日もアキちゃんのお母さんが作ってくれたお弁当、美味しそうだね」
ヨウタ先生が食事中のアキコに話しかける。
そして、お昼寝の時間も終わり、帰りの時間が近づいた。
アキコがヨウタ先生にテケテケテケと近付く。
「せんせいお腹すいた?」
「そうだなぁ……少し」
大好きなヨウタ先生の笑顔。これでアキコも上機嫌。
「これっ!」
アキコは先生に何やら差し出す。
「?」
どうやらスケッチブックのようだ。
何か描いてある。
「これはなに?アンパンマン?」
アキコのほっぺがプウと脹れる。
「はんばぁぐ!」
「あぁ、ハンバーグかぁ」
「だよ。せんせい食べて」
先生は食べるふり。
「ん。モグモグモグ……おいしかった!」
「なくなってなぁいぃ!」
「え?じゃあ……」
先生はハンバーグの描いてある所だけ切り取ろうとする。
「モグモ……」
「やぶっちゃだめぇっ!」
「えっ」
ヨウタ先生は、期待を込めた熱い眼差しで、ジッとアキコに見詰められているのだった